2015/11/07(土) - 15:03
冬が顔を覗かせつつあった10月31日(土)に、茅ヶ崎市中央公園を舞台に「ちがさきVELO FESTIVAL」が開催された。茅ヶ崎生まれのロードレーサー別府史之も参加するイベントを、多くの自転車ファンやキッズたちが楽しんだ。
神奈川県湘南をイメージさせる代表的なアーティスト加山雄三や桑田佳祐が出身地として知られている茅ヶ崎市。マリンスポーツが盛んな地であると同時に、神奈川県内でも自転車を利用する人口の割合が最も高い地でもある。そして、国道一号線や134号線など湘南を肌で感じることができる場所として多くのサイクリストが訪れる場所だ。
そんな茅ヶ崎市は「人と環境にやさしい自転車の街」として、自転車の利用ルールの周知や利用環境の整備に力を入れており、その一環として「ちがさきVELO FESTIVAL」を開催している。イベント中はサイクリストだけではなく通りがかりの市民や子どもたちが気軽に参加できる、和気あいあいとした雰囲気が漂う、地元のお祭りというようなイベントである。
ちがさきVELO FESTIVALのメインイベントはプロ選手たちによるクリテリウム。茅ヶ崎出身のプロロードレーサー、フミこと別府史之(トレックファクトリーレーシング)は開催初年度より4年連続で参加。これまで3連覇しており、今年も優勝候補筆頭だ。
そしてフミの兄、別府匠が率いる愛三工業レーシングの早川朋宏と中根英登、レモネード・ベルマーレの宮澤崇史、大村寛、加地邦彦、神奈川県出身の若手レーサー面手利輝、石上優大らがスタートラインに並んだ。
レースは昨年に引き続き公道1車線を使用しており、茅ヶ崎市が自転車をフレンドリーな姿勢で迎え入れてくれていることを感じる。そして、沿道の観客たちも自転車ファンだけではなく、通行人、中央公園向かいの市民文化会館に用事があった人なども足をとめてレースを見ており、市民全体も自転車を受け入れてくれているかのようだった。
エキシビションながらレースはアタック、エスケープが繰り広げられる熱戦に。「スプリントの牽制になった時に不意をついて飛び出しました」と最終周回で抜けだしたフミが独走で最初にゴールに飛び込んでくる。さいたまクリテリウムのTTで優勝した愛三工業レーシングの中根英登が2位争いのスプリントを制し、「あわよくば別府選手の前でゴールして孫の代まで語り継ごうと考えていました」というレモネード・ベルマーレの大村寛が3位となった。
レース終了直後、各選手たちの周りにあっという間に来場者が集まる。フミの周りには何重もの人だかりができる。「普段のレースでは近くにお客さんが来ることがないので、このイベントはみなさんと話せていい機会ですね」と早川選手が言うように、プロ選手たちもフレンドリーに集まったファンの方たちと交流を図っていたのが印象的だ。
クリテリウムが終了すると、会場では閉会する16時までひっきりなしにイベントが行われていく。地元のチアグループCloversとCREEKSによるダンスの披露や、サービスが始まったばかりのZwiftを使用したサイクリストGP、元競輪選手コジマユウタさんによる「サイクリストのためのヨガ」講座など、見て参加して盛り上がる内容ばかり。
そのなかでもやはりキッズレースの注目度は高いようだ。キッズレースというと親御さんたちの熱い応援が目立ちがちだが、ヴェロフェスは参加するキッズたちの熱量の高さが親御さん以上にある。参加者の多くが昨年に引き続いての参加で、昨年は勝てなかったとか。補助輪が外れましたとか。1年前の自分やライバルたちに打ち勝とうというやる気が満ち溢れているのだ。
イベントを見ていればあっという間に時間が過ぎてしまうが、屋台村もちがさきVELO FESTIVALには欠かせない。茅ヶ崎のお店が幾つも屋台をだしており、イベントに訪れれば茅ヶ崎の街を食べ歩きしているかのよう。
インドカレーを提供していたGARA中海岸は、移動式の石窯を使用してナンやチキンティッカを焼いていたという手の込みよう。イベントではチキンカレーを頂いたが、茅ヶ崎に行く機会があるならばぜひ店舗の方で様々なカレーを試したくなった。
そして自転車イベントには欠かせない企業の出展ブースには茅ヶ崎に縁があるミヤタサイクルが、自社のハイエンドバイクとメリダのバイクを試乗車として用意していた。そして、トレックブースはジャパンカップやさいたまクリテリウムでも大人気であったトレックファクトリーレーシングバルーンを配っていたりと子どもたちから大人気。
日も暮れ始めると仮装した子どもたちが会場を埋めはじめる。夕方からはハロウィンイベントが始まるのだった。昼間に自転車イベントがやっていたとは知らないだろう子たちも、ロードレーサーやパンプトラックを見て目をキラキラと光らせていた。
このように自転車に触れる機会が身近にあるということが、「自転車のまち」茅ヶ崎をより一層自転車にフレンドリーな空気を盛り上げるのではないだろうかと感じる。また、ちがさきVELO FESTIVALでフミの姿を見て育った子どもたちの中から、日本を代表する選手が生まれるのではないかと期待させられるイベントだった。
神奈川県出身のロードレーサーが強いわけ。それは絆だった。
ちがさきVELO FESTIVALの舞台となった茅ヶ崎市、ひいては神奈川県は、数多くのプロ選手が生まれた土地でもある。近年はフミをはじめ、鈴木真理や山本雅道、綾部勇成、伊藤雅和、福田真平、平井栄一などなど。そして、U23カテゴリーの面手利輝やジュニアの石上優大まで、どの世代も満遍なく日本を代表するレーサーが育っている。
なぜ湘南から強い選手が生まれてくるのか。筆者がまず思い浮かんだのは、練習場所に事欠かないということだった。山に登りたいと思ったら県西の箱根、足柄、丹沢、ヤビツ峠、宮ヶ瀬方面へと足を運べば、選り取りみどりである。平地を走りたいと思えば湘南地域の海岸線がある。交通量などが多く環境はベストとはいえないが、バリエーションに富んだ土地こそがレーサーを生み出している理由なのではないかそう考えていた。
フミと面手、石上の3選手に、神奈川県からなぜ強い選手が生まれるのか?他の県と違うところは?と疑問を投げかけてみた。
すると3人から帰ってきた答えは一様に「選手同士の絆の強さ」だった。特に先輩後輩とのつながりが強く、後輩は先輩の姿を見て学び、先輩は後輩に教えていくというのだという。強くなるために先輩から多くのことを吸収しようという姿勢が強いからこそ、先輩も後輩たちに惜しみなく指導してくれる。そして、多くのことを学んだ選手が奈川県を飛び出し、日本を代表する選手へと成長していく。これが神奈川県の特徴だと3人は言う。
この世代間の交流は、古くは日本のロードレース界を牽引してきた森幸春、高橋松吉、三浦恭資らが所属した宮田工業のロードレースチームが活躍した時代からあるのだという。地域の実業団チームの選手と繋がりができたことで、若手の選手たちは外の世界が垣間見ることができ成長できた。そこで学んだことが次の世代へ脈々と受け継がれているのだろう。
先輩から後輩へ。その「絆」がグランツールで活躍する別府史之を生んだ。フミの姿を見て育った、面手や石上がまた世界へ進出しようとしている。そして、彼らの姿を間近に見ることができ、交流も図れる。なによりも自転車を笑顔で楽しめるちがさきVELO FESTIVALのようなイベントが開かれる神奈川県の未来は明るいだろう。
text&photo:Gakuto.Fujiwara
神奈川県湘南をイメージさせる代表的なアーティスト加山雄三や桑田佳祐が出身地として知られている茅ヶ崎市。マリンスポーツが盛んな地であると同時に、神奈川県内でも自転車を利用する人口の割合が最も高い地でもある。そして、国道一号線や134号線など湘南を肌で感じることができる場所として多くのサイクリストが訪れる場所だ。
そんな茅ヶ崎市は「人と環境にやさしい自転車の街」として、自転車の利用ルールの周知や利用環境の整備に力を入れており、その一環として「ちがさきVELO FESTIVAL」を開催している。イベント中はサイクリストだけではなく通りがかりの市民や子どもたちが気軽に参加できる、和気あいあいとした雰囲気が漂う、地元のお祭りというようなイベントである。
ちがさきVELO FESTIVALのメインイベントはプロ選手たちによるクリテリウム。茅ヶ崎出身のプロロードレーサー、フミこと別府史之(トレックファクトリーレーシング)は開催初年度より4年連続で参加。これまで3連覇しており、今年も優勝候補筆頭だ。
そしてフミの兄、別府匠が率いる愛三工業レーシングの早川朋宏と中根英登、レモネード・ベルマーレの宮澤崇史、大村寛、加地邦彦、神奈川県出身の若手レーサー面手利輝、石上優大らがスタートラインに並んだ。
レースは昨年に引き続き公道1車線を使用しており、茅ヶ崎市が自転車をフレンドリーな姿勢で迎え入れてくれていることを感じる。そして、沿道の観客たちも自転車ファンだけではなく、通行人、中央公園向かいの市民文化会館に用事があった人なども足をとめてレースを見ており、市民全体も自転車を受け入れてくれているかのようだった。
エキシビションながらレースはアタック、エスケープが繰り広げられる熱戦に。「スプリントの牽制になった時に不意をついて飛び出しました」と最終周回で抜けだしたフミが独走で最初にゴールに飛び込んでくる。さいたまクリテリウムのTTで優勝した愛三工業レーシングの中根英登が2位争いのスプリントを制し、「あわよくば別府選手の前でゴールして孫の代まで語り継ごうと考えていました」というレモネード・ベルマーレの大村寛が3位となった。
レース終了直後、各選手たちの周りにあっという間に来場者が集まる。フミの周りには何重もの人だかりができる。「普段のレースでは近くにお客さんが来ることがないので、このイベントはみなさんと話せていい機会ですね」と早川選手が言うように、プロ選手たちもフレンドリーに集まったファンの方たちと交流を図っていたのが印象的だ。
クリテリウムが終了すると、会場では閉会する16時までひっきりなしにイベントが行われていく。地元のチアグループCloversとCREEKSによるダンスの披露や、サービスが始まったばかりのZwiftを使用したサイクリストGP、元競輪選手コジマユウタさんによる「サイクリストのためのヨガ」講座など、見て参加して盛り上がる内容ばかり。
そのなかでもやはりキッズレースの注目度は高いようだ。キッズレースというと親御さんたちの熱い応援が目立ちがちだが、ヴェロフェスは参加するキッズたちの熱量の高さが親御さん以上にある。参加者の多くが昨年に引き続いての参加で、昨年は勝てなかったとか。補助輪が外れましたとか。1年前の自分やライバルたちに打ち勝とうというやる気が満ち溢れているのだ。
イベントを見ていればあっという間に時間が過ぎてしまうが、屋台村もちがさきVELO FESTIVALには欠かせない。茅ヶ崎のお店が幾つも屋台をだしており、イベントに訪れれば茅ヶ崎の街を食べ歩きしているかのよう。
インドカレーを提供していたGARA中海岸は、移動式の石窯を使用してナンやチキンティッカを焼いていたという手の込みよう。イベントではチキンカレーを頂いたが、茅ヶ崎に行く機会があるならばぜひ店舗の方で様々なカレーを試したくなった。
そして自転車イベントには欠かせない企業の出展ブースには茅ヶ崎に縁があるミヤタサイクルが、自社のハイエンドバイクとメリダのバイクを試乗車として用意していた。そして、トレックブースはジャパンカップやさいたまクリテリウムでも大人気であったトレックファクトリーレーシングバルーンを配っていたりと子どもたちから大人気。
日も暮れ始めると仮装した子どもたちが会場を埋めはじめる。夕方からはハロウィンイベントが始まるのだった。昼間に自転車イベントがやっていたとは知らないだろう子たちも、ロードレーサーやパンプトラックを見て目をキラキラと光らせていた。
このように自転車に触れる機会が身近にあるということが、「自転車のまち」茅ヶ崎をより一層自転車にフレンドリーな空気を盛り上げるのではないだろうかと感じる。また、ちがさきVELO FESTIVALでフミの姿を見て育った子どもたちの中から、日本を代表する選手が生まれるのではないかと期待させられるイベントだった。
神奈川県出身のロードレーサーが強いわけ。それは絆だった。
ちがさきVELO FESTIVALの舞台となった茅ヶ崎市、ひいては神奈川県は、数多くのプロ選手が生まれた土地でもある。近年はフミをはじめ、鈴木真理や山本雅道、綾部勇成、伊藤雅和、福田真平、平井栄一などなど。そして、U23カテゴリーの面手利輝やジュニアの石上優大まで、どの世代も満遍なく日本を代表するレーサーが育っている。
なぜ湘南から強い選手が生まれてくるのか。筆者がまず思い浮かんだのは、練習場所に事欠かないということだった。山に登りたいと思ったら県西の箱根、足柄、丹沢、ヤビツ峠、宮ヶ瀬方面へと足を運べば、選り取りみどりである。平地を走りたいと思えば湘南地域の海岸線がある。交通量などが多く環境はベストとはいえないが、バリエーションに富んだ土地こそがレーサーを生み出している理由なのではないかそう考えていた。
フミと面手、石上の3選手に、神奈川県からなぜ強い選手が生まれるのか?他の県と違うところは?と疑問を投げかけてみた。
すると3人から帰ってきた答えは一様に「選手同士の絆の強さ」だった。特に先輩後輩とのつながりが強く、後輩は先輩の姿を見て学び、先輩は後輩に教えていくというのだという。強くなるために先輩から多くのことを吸収しようという姿勢が強いからこそ、先輩も後輩たちに惜しみなく指導してくれる。そして、多くのことを学んだ選手が奈川県を飛び出し、日本を代表する選手へと成長していく。これが神奈川県の特徴だと3人は言う。
この世代間の交流は、古くは日本のロードレース界を牽引してきた森幸春、高橋松吉、三浦恭資らが所属した宮田工業のロードレースチームが活躍した時代からあるのだという。地域の実業団チームの選手と繋がりができたことで、若手の選手たちは外の世界が垣間見ることができ成長できた。そこで学んだことが次の世代へ脈々と受け継がれているのだろう。
先輩から後輩へ。その「絆」がグランツールで活躍する別府史之を生んだ。フミの姿を見て育った、面手や石上がまた世界へ進出しようとしている。そして、彼らの姿を間近に見ることができ、交流も図れる。なによりも自転車を笑顔で楽しめるちがさきVELO FESTIVALのようなイベントが開かれる神奈川県の未来は明るいだろう。
text&photo:Gakuto.Fujiwara
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