オーストラリアで開催されたサイクルメッセンジャー世界選手権。日本チームのメンバーとして参加した渡邊卓人さんによる帯同レポートを紹介します。レースの後にはメッセンジャー同士、言葉の壁を越えて絆が生まれたようです。



CMWC会場に世界各国から続々と集まったメッセンジャーCMWC会場に世界各国から続々と集まったメッセンジャー (c)www.jambi-jambi.com
CMWCに参加した日本からのメッセンジャー。右端が筆者CMWCに参加した日本からのメッセンジャー。右端が筆者 (c)www.jambi-jambi.com4月3日〜4月4日にかけて、オーストラリアのメルボルンでサイクルメッセンジャー世界選手権(CMWC)がオーストラリアのメルボルンで開催された。
海外のメッセンジャーはみんなバッチリ決まっていた海外のメッセンジャーはみんなバッチリ決まっていた (c)www.jambi-jambi.comいよいよレースがスタート。バイクへと駆け出すルマン方式いよいよレースがスタート。バイクへと駆け出すルマン方式 (c)www.jambi-jambi.com
サイクルメッセンジャー世界選手権とは、年に一度、世界最速、そして正確なデリバリーをするメッセンジャーを決める大会である。毎年開催されるこの大会であるが、2009年には東京でも開催された。昨年はメキシコとかなり遠くでの開催となったため、日本人メッセンジャーの参加が少なかったが、今年はオーストラリアで時差も少なく治安も良いことから多くのメッセンジャーが海を渡って世界一を目指した。

プレイベントでシクロクロス、トラックレース等が行われたが、今回はメインレースを中心にお伝えしようと思う。

世界一を競うこのレースのコースは街を模した完全クローズドの中で行われ、コースの中に設置されたブースをクライアントに見立て、それぞれに渡されるマニフェスト(指示書)の通りにデリバリーをこなしていく実践形式で行われる。渡されるマニフェストがランダムに何種類もあるところから、セオリーというものが基本的には通用しない。指示書の内容をいち早く終わらせたメッセンジャーが優勝という形式が一般的であるが、今回のメルボルン大会は制限時間内にどれだけの稼ぎを得られたか、で勝敗が決する形式であった。

オーストラリアはイースターという祝日の連休だったこともあったのと、メルボルンの中心地に近いところで行われたので、一般の市民からの応援もたくさんあった。自転車というものが日本に比べて市民権を得ている、からかもしれない。

4月3日に予選が行われ、その日のうちに上位60名の決勝進出者が発表される。予選は90分間で行われ、スピードもさることながら集中力、持久力も試される。予選突破のための第一関門は英語力。もちろんマニフェストはすべて英語で書かれており、まず内容を理解できないことにはレースにならない。今回は海外でメッセンジャーをしていた日本人が翻訳して解読していた。日本人は自分も含めて18人が予選にエントリーした。所属する会社もそれぞれ違う。でも気持ちは一つだ。

予選を走るメッセンジャー。荷物が多く、マニフェストを素早く出すために口にくわえる予選を走るメッセンジャー。荷物が多く、マニフェストを素早く出すために口にくわえる 荷物が入らない時はこんな運び方もあり荷物が入らない時はこんな運び方もあり

パワフルな走りを見せる外国のメッセンジャーパワフルな走りを見せる外国のメッセンジャー レースの段取りを考えるメッセンジャーたちレースの段取りを考えるメッセンジャーたち


いざレースを走ってみると、大きい段ボール箱を運ぶ回数がとても多く、日本のデリバリーではほとんどが書類のため、荷物をカバンに納めるときに手間取る場面も。海外のメッセンジャーは慣れているのか、自転車にフロントキャリアを付けていたり、荷物を片手に持ってデリバリーしている姿が目立つ。

路面電車の脇に造られたコースを走る路面電車の脇に造られたコースを走る 他にも自転車にカギをかけなければデリバリー完了のハンコを押してもらえなかったり、自転車を降りて小高い丘を走って届けるポイントがあったりと本格的な仕事さながら。もちろん、ヘルメットは必須である。メルボルンでは自転車に乗る際にヘルメットを被らないと$300の罰金になる。

デリバリー完了のハンコをもらって次のポイントへデリバリー完了のハンコをもらって次のポイントへ (c)www.jambi-jambi.com高得点を狙って行くとデリバリーまでの時間が足りなかったり、何個も荷物を持っていると焦りからか、ピックアップとドロップを同時にできるポイントでそれを逃してしまったりと、冷静さも求められるレースであった。

日本人は予選5位が最高で、5人が決勝進出を果たした。決勝前夜もパーティーが開かれ、世界中のメッセンジャー達とお酒を飲みながらコミュニケーションを取る。これも年一度の世界戦の醍醐味。

そして決勝は予選とは違いスタート地点に予選の順位ごとに自転車を並べて、走ってスタートするルマン形式が取られてのスタート。コースや基本的なルールに変更はないが、時間は90分から倍の180分に増えるという相当タフなレースだ。

予選にはなかった真剣な表情でマニフェストを眺めるメッセンジャーの姿も。そして、世界一を決める、長い長い決勝がスタートした。

淡々と、時には笑顔で声援に笑顔で応えるメッセンジャーたち。自転車も様々、国籍もバラバラ、言葉ももちろんバラバラであるがこの会場には不思議な一体感が生まれていた。

決勝を走り終えた選手たちはさすがに疲労の顔を見せながらも、皆やりきったという達成感に満ちた表情に溢れていて、日本チームも全員で記念撮影するなど、会場のさまざまな場所で、たくさんの人々が、互いの健闘を讃え合っていた。

市街地コースを走り抜ける市街地コースを走り抜ける 走りきって雄叫びを上げるメッセンジャー走りきって雄叫びを上げるメッセンジャー

優勝したオースティン・ホース。野辺山シクロクロスに参戦し、C2でぶっちぎり優勝を飾ったことがある優勝したオースティン・ホース。野辺山シクロクロスに参戦し、C2でぶっちぎり優勝を飾ったことがある (c)www.jambi-jambi.com中にはバトンホイール+エアロヘルメットで参加したツワモノも中にはバトンホイール+エアロヘルメットで参加したツワモノも (c)www.jambi-jambi.com


アフターパーティーの会場ではフリードリンクが振る舞われ、場所もライブハウスのような場所を貸し切っていたからか、とてもハイテンションな空気に包まれていた。結果は予選1位のオースティンホース(アメリカ)が1位。日本人最高はトリ蔵(CY-Q)の5位。ちかっぱ(courio-city)の17位、ゴン(CY-Q)が19位という順で続いた。

結果だけ見れば大健闘かもしれないが、2008年、2009年と日本人メッセンジャーが優勝していることもあり、本人たちは悔しそうであったが、充実していた、最高だったと話していた。もう既に来年のパリでの大会を見据えるメッセンジャーもいた。

チーム日本で記念撮影チーム日本で記念撮影
セブンイレブンで売っているヘルメット。5ドルとは思えない作りセブンイレブンで売っているヘルメット。5ドルとは思えない作り 郊外にもちゃんと自転車レーン。車もレーンを塞がないように駐車郊外にもちゃんと自転車レーン。車もレーンを塞がないように駐車 さて、今回滞在したメルボルンについて、その自転車事情を説明しておこうと思う。

日本と同じく自転車と車が左側通行になっていて、ほとんどの道にに自転車専用レーンが整備されているのでとても走りやすい印象を受けた。ただし路面はアスファルトでなくほとんどがコンクリート舗装になっていて、ところどころグレーチングの段差が大きかったり、穴があいていたりと日本より道は荒れている印象。さらにトラム(路面電車)のレールの溝があるので、ダウンタウンを走る際には溝にはまらないように注意が必要だったりも。

ヘルメットの着用が義務づけられているとお伝えしたが、驚くことにセブンイレブンに5ドル(約500円!、写真参照)でシェアサイクル用のヘルメットが売っているので、メルボルンに行った際はお土産として買うのも良いかもしれない。

メルボルンはまたカフェの街としても有名で、街を歩けば至る所にコーヒースタンドがあり、一杯ずつ注文をしてから丁寧にコーヒーを淹れてくれる。それぞれのお店ごとに豆の種類が違うが、メルボルンでは酸味よりも深い苦みがあるコーヒーが人気なようで、エスプレッソをトリプルにして作るカフェラテが自分の行ったお店の一番人気のメニュー。マスターが気さくな感じも良いところ。チェーン店ではなく小さいコーヒースタンドで大きめのラテを注文して飲みながら街を散策するのがオススメ。

美味しいコーヒーを飲めるお店がメルボルンにはたくさん美味しいコーヒーを飲めるお店がメルボルンにはたくさん 日本人は大好きさ!と気さくに話してくれたコーヒースタンドのマスター日本人は大好きさ!と気さくに話してくれたコーヒースタンドのマスター


今回は大会期間でメルボルンの街を自転車で堪能するには時間が足りなかったが、海も近く、ちょっと脚を伸ばせば広大な自然が広がるメルボルンは、直行便で10時間。自転車を持って旅行に行くにもオススメです。

こうしてあっという間にメルボルンでの刺激的な日々が終了した。メッセンジャーという仕事柄、一人で街を走る時間が多く、無線が付いていても孤独を感じることもあるだろう。

今回参加したメッセンジャーたちは日本だけでなく世界中で同じように走る"仲間"を見つけた。その気持ちを胸に、晴れの日も、雨の日も、風の日も、今日も彼らは街を走り続ける。バイシクルメッセンジャーとしての誇りを持って。

大会公式サイト: http://cmwc2015.com/

text&photo:Takuto.Watanabe