2014/05/08(木) - 09:48
国内最高峰のワンデーロードレースことジャパンカップ。数あるポイントの中でも特にシンボル的な存在として君臨するのが「古賀志林道」だ。今回は古賀志を含むジャパンカップのコースの一部を走った宇都宮サイクルピクニックでその攻略法を探った。
今回編集部が古賀志攻略法を探ったのは4月27日(日)に開催された「第6回うつのみやサイクルピクニック(以下、サイピク)」でのこと。このイベントは自然豊かでライド環境抜群の宇都宮や鬼怒川沿いを中心に新緑とご当地グルメを楽しむというロングライドながら、ゆったり走るだけでは無く、ジャパンカップのコースを走ること、さらには今回紹介する古賀志林道を計測区間とすることで、「速く走る」というロードレーサー元来の楽しみ方を提案するものだ(サイピクの詳細はこちらから)。
古賀志林道を含むジャパンカップの開催地が位置するのはJR宇都宮駅から南西に15km弱、自転車で約45分ほどの小高い山々が連なる中。交通量が極端に少ないため、「日本ロードレース界の聖地」を走ろうと普段から多くのサイクリストが訪れている。今回のサイピクでも古賀志付近の道中ではトレーニングに勤しむ地元サイクリストの姿があり、参加者の中には常に聖地が走れるというシチュエーションが少し羨ましいと感じた方も少なく無いだろう。
サイピクでは県外からの参加者が半数ということもあって、筆者を含めジャパンカップのコースにレース観戦以外で初めて来た参加者は多かったはず。そして、毎年多くの観客が訪れる「聖地」が普段はとても静かであるということに驚いた方も少なくは無いだろう。ちなみにジャパンカップのコース中でも古賀志だけの特徴といえる路上に描かれたペイントはうっすらと残っている。あの本場さながらのイラストや選手を応援するメッセージを毎年書いている方に頭がさがるばかりだ。
まずは、ジャパンカップのコースについて説明しておこう。例年10月末に開催されるジャパンカップの舞台となるのが1周14.1kmのコース。バラエティに富んだヒルクライムの数々に田園風景が広がる平坦路、チャレンジングなダウンヒルが程よくミックスされたサーキットを10周し、最終周回のみショートコースを通る151.3kmをプロ選手たちは走る。その標高獲得差は2800mに達しながらも、2012年に優勝したイヴァン・バッソ(イタリア、キャノンデール)は4時間1分58秒=平均時速37.6km/hでフィニッシュしている。
その中でも最大の難所とされているのが「古賀志林道」である。この登りは14.1kmのスタート/ゴール地点が設定される宇都宮サイクリングターミナルから赤川ダムのほとりへの急な登りをこなし、湖畔の平坦の後に赤川を渡った約1km地点からいきなり勾配がきつくなって始まる。ゴールはジャパンカップにおいてKOM(山岳賞ポイント)が設けられる頂上。登坂距離は1.1kmでその間に約100mを登る。平均勾配は約9%。つまり周回コース1周の獲得標高260mのうち、約40%を占めると言うことなる。
次に勾配の変化について見ていこう。スタート~150mまでは勾配が均一に変化し、レンタサイクル進入禁止区域に入ると150~300mはほぼ12%で推移。この区間で最大勾配でマークする(最大勾配の正確な値については諸説あるが12~14%程度とする意見が多い)。
300mと600m付近で勾配が一瞬だけ落ちるものの、300~900mまでは再び10%が続き、600mからは名物のつづら折りがある。緑の柵が見えてくるゴールは間近だが、一瞬だけ勾配が上昇しゴールが見えてくると緩斜面になる。そして全般的にコーナーのアウト/インで大きく斜度が変わってくるため、ライン取りによってもタイムが変化しそうだ。また、古賀志を終えた後のダウンヒルはプロ選手でも危険という程に急勾配かつテクニカルなため細心の注意を払って下る必要があるだろう。
ちなみに古賀志はレースサーキットの途中に含まれているため、区間計測が行われておらず正式な最速タイムが存在しないよう。しかしながら参考として、GPSを利用して走行タイムなどを共有するライド・ソーシャルウェブ「STRAVA(ストラヴァ)」にプロライダーの古賀志登坂タイムが記録されている。
それによれば、現段階で古賀志の最速タイムである3分6秒は現メキシコチャンピオンのエンリケ・ダヴィラ(ジェリーベリー・プレゼンテッドバイケンダ)によるもの。ダヴィラは2012年のジャパンカップの1周目で記録しており、また14.1kmのコース全体の最速タイムも保持している。
サイピクの古賀志林道タイムトライアルに参加したのは200名。マイペースで完走を目指す方もいれば、レースの如く古賀志への道のりをウォームアップに使い好タイムを狙う方まで思い思いに「聖地」へと挑戦。1番時計を叩き出した参加者は日本一有名と言っても過言ではない激坂を3分半程で登り切っている。
シクロワイアード編集部では古賀志を速く走るためのコツを宇都宮ブリッツェンの栗村修テクニカルアドバイザー、廣瀬佳正ゼネラルマネジャー、鈴木真理選手にインタビュー。そして、3分半というタイムでサイピクで見事山岳賞を獲得した岩崎晶雲さんにもお話を伺った。
「ピュアクライマーでは無くパンチャーに有利な登り」栗村修テクニカルアドバイザー
基本的に古賀志は急坂ですが1km程と短距離なため、ピュアクライマー向けでは無く筋肉質なパンチャー系の選手に分がある登りです。
ちなみに宇都宮ブリッツェンの歴代記録の中では2分30秒がベストタイムで、クライマーの増田成幸選手では無く、昨シーズンをもって引退したパンチャーでガッチリとした体型の飯野智行選手が記録を持っています。
高いレベルにあるアマチュアサイクリストであれば、ゆっくりと腰を落ち着けて走るよりも、急勾配区間を思い切って勢い良く、勾配が緩いところも勢いでこなすことでタイムを縮める事ができるでしょうし、コンディションによっては全区間をアウターギアで登っていけるでしょう。
私を含めた一般的なサイクリストの方でしたら、序盤を頑張り過ぎないことが重要ですね。最初から飛ばしてしまうと、心拍数が高いまま走り続けなくてはならないため、軽いギアでケイデンスを高め、終盤で再び勾配がきつくなる区間まで体力を温存すると良いでしょう。
「最初はひたすら抑え気味で最後にペースアップを」廣瀬佳正ゼネラルマネジャー
古賀志はスタートから勾配がキツく、序盤から攻めてしまうと後半の急勾配区間が苦しくなってしまうため、まず序盤の踏みすぎに注意が必要です。最初はひたすら抑え気味に一定ペースで、中盤の斜度が緩くなった区間で徐々にペースアップすると良いのでは無いでしょうか。そして、最後に一気にペースを上げると良いでしょう。
ちなみにジャパンカップで山岳賞を獲得した際は、古賀志の入り口からサプライズ的にアタックを仕掛けました。周りの選手がここではアタックしないだろうと考えている地点から、スプリントの様にフルもがきで飛び出しましたね。不意打ちによって「あっ、行かれた」と戦意を喪失させることが重要なのかもしれません(笑)。脚質についてはクライマーではなく、パンチャーが最も有利でレース展開しだいではスプリンターにもチャンスがありますね。
「速く走るためには、麓から一気にハイペースを維持し続ける必要がある」鈴木真理選手
古賀志を速く走るためには、麓から一気にハイペースを維持し続ける必要があります。勾配の変化が大きいですが、急なところを踏みつつ、緩いところでも確実に速いペースでこなしたいですね。
2009年にアジア最優秀選手賞(9位)になった際は、当時サクソバンクだったグスタフエリック・ラーション(スウェーデン、現IAMサイクリング)らと一緒に一定ペースで登ったことが功を奏したのだと思います。とにかく短距離なため実力差が出やすくもあり、タイムを稼ぐにはしっかりとしたトレーニングが欠かせません。
うつのみやサイクルピクニック山岳賞獲得の岩崎晶雲さん
今回はジャパンカップのコースに入る前までの70kmを脚を温存しながら走りました。そして山岳賞を狙うためにYouTubeなどでコースをチェックしてペース配分などを考えました。序盤から常に80%程度のペースを維持し、ゴール手前100mの左コーナーにある緑の柵が見えた瞬間から全力でもがきました。
日本ロードレース界の聖地として有名な古賀志林道で苦しい思いをしたサイクリストは少なくないだろう。しかし、今回の記事を読んで、また挑戦してみたいと感じて頂ければ嬉しい。レースシーズン以外は自由に走ることが可能なため、サイクリングに絶好のこの季節、休日に古賀志林道を攻略しに出かけてみては如何だろうか。
text:Yuya.Yamamoto
photo:CW編集部
今回編集部が古賀志攻略法を探ったのは4月27日(日)に開催された「第6回うつのみやサイクルピクニック(以下、サイピク)」でのこと。このイベントは自然豊かでライド環境抜群の宇都宮や鬼怒川沿いを中心に新緑とご当地グルメを楽しむというロングライドながら、ゆったり走るだけでは無く、ジャパンカップのコースを走ること、さらには今回紹介する古賀志林道を計測区間とすることで、「速く走る」というロードレーサー元来の楽しみ方を提案するものだ(サイピクの詳細はこちらから)。
古賀志林道を含むジャパンカップの開催地が位置するのはJR宇都宮駅から南西に15km弱、自転車で約45分ほどの小高い山々が連なる中。交通量が極端に少ないため、「日本ロードレース界の聖地」を走ろうと普段から多くのサイクリストが訪れている。今回のサイピクでも古賀志付近の道中ではトレーニングに勤しむ地元サイクリストの姿があり、参加者の中には常に聖地が走れるというシチュエーションが少し羨ましいと感じた方も少なく無いだろう。
サイピクでは県外からの参加者が半数ということもあって、筆者を含めジャパンカップのコースにレース観戦以外で初めて来た参加者は多かったはず。そして、毎年多くの観客が訪れる「聖地」が普段はとても静かであるということに驚いた方も少なくは無いだろう。ちなみにジャパンカップのコース中でも古賀志だけの特徴といえる路上に描かれたペイントはうっすらと残っている。あの本場さながらのイラストや選手を応援するメッセージを毎年書いている方に頭がさがるばかりだ。
まずは、ジャパンカップのコースについて説明しておこう。例年10月末に開催されるジャパンカップの舞台となるのが1周14.1kmのコース。バラエティに富んだヒルクライムの数々に田園風景が広がる平坦路、チャレンジングなダウンヒルが程よくミックスされたサーキットを10周し、最終周回のみショートコースを通る151.3kmをプロ選手たちは走る。その標高獲得差は2800mに達しながらも、2012年に優勝したイヴァン・バッソ(イタリア、キャノンデール)は4時間1分58秒=平均時速37.6km/hでフィニッシュしている。
その中でも最大の難所とされているのが「古賀志林道」である。この登りは14.1kmのスタート/ゴール地点が設定される宇都宮サイクリングターミナルから赤川ダムのほとりへの急な登りをこなし、湖畔の平坦の後に赤川を渡った約1km地点からいきなり勾配がきつくなって始まる。ゴールはジャパンカップにおいてKOM(山岳賞ポイント)が設けられる頂上。登坂距離は1.1kmでその間に約100mを登る。平均勾配は約9%。つまり周回コース1周の獲得標高260mのうち、約40%を占めると言うことなる。
次に勾配の変化について見ていこう。スタート~150mまでは勾配が均一に変化し、レンタサイクル進入禁止区域に入ると150~300mはほぼ12%で推移。この区間で最大勾配でマークする(最大勾配の正確な値については諸説あるが12~14%程度とする意見が多い)。
300mと600m付近で勾配が一瞬だけ落ちるものの、300~900mまでは再び10%が続き、600mからは名物のつづら折りがある。緑の柵が見えてくるゴールは間近だが、一瞬だけ勾配が上昇しゴールが見えてくると緩斜面になる。そして全般的にコーナーのアウト/インで大きく斜度が変わってくるため、ライン取りによってもタイムが変化しそうだ。また、古賀志を終えた後のダウンヒルはプロ選手でも危険という程に急勾配かつテクニカルなため細心の注意を払って下る必要があるだろう。
ちなみに古賀志はレースサーキットの途中に含まれているため、区間計測が行われておらず正式な最速タイムが存在しないよう。しかしながら参考として、GPSを利用して走行タイムなどを共有するライド・ソーシャルウェブ「STRAVA(ストラヴァ)」にプロライダーの古賀志登坂タイムが記録されている。
それによれば、現段階で古賀志の最速タイムである3分6秒は現メキシコチャンピオンのエンリケ・ダヴィラ(ジェリーベリー・プレゼンテッドバイケンダ)によるもの。ダヴィラは2012年のジャパンカップの1周目で記録しており、また14.1kmのコース全体の最速タイムも保持している。
サイピクの古賀志林道タイムトライアルに参加したのは200名。マイペースで完走を目指す方もいれば、レースの如く古賀志への道のりをウォームアップに使い好タイムを狙う方まで思い思いに「聖地」へと挑戦。1番時計を叩き出した参加者は日本一有名と言っても過言ではない激坂を3分半程で登り切っている。
シクロワイアード編集部では古賀志を速く走るためのコツを宇都宮ブリッツェンの栗村修テクニカルアドバイザー、廣瀬佳正ゼネラルマネジャー、鈴木真理選手にインタビュー。そして、3分半というタイムでサイピクで見事山岳賞を獲得した岩崎晶雲さんにもお話を伺った。
「ピュアクライマーでは無くパンチャーに有利な登り」栗村修テクニカルアドバイザー
基本的に古賀志は急坂ですが1km程と短距離なため、ピュアクライマー向けでは無く筋肉質なパンチャー系の選手に分がある登りです。
ちなみに宇都宮ブリッツェンの歴代記録の中では2分30秒がベストタイムで、クライマーの増田成幸選手では無く、昨シーズンをもって引退したパンチャーでガッチリとした体型の飯野智行選手が記録を持っています。
高いレベルにあるアマチュアサイクリストであれば、ゆっくりと腰を落ち着けて走るよりも、急勾配区間を思い切って勢い良く、勾配が緩いところも勢いでこなすことでタイムを縮める事ができるでしょうし、コンディションによっては全区間をアウターギアで登っていけるでしょう。
私を含めた一般的なサイクリストの方でしたら、序盤を頑張り過ぎないことが重要ですね。最初から飛ばしてしまうと、心拍数が高いまま走り続けなくてはならないため、軽いギアでケイデンスを高め、終盤で再び勾配がきつくなる区間まで体力を温存すると良いでしょう。
「最初はひたすら抑え気味で最後にペースアップを」廣瀬佳正ゼネラルマネジャー
古賀志はスタートから勾配がキツく、序盤から攻めてしまうと後半の急勾配区間が苦しくなってしまうため、まず序盤の踏みすぎに注意が必要です。最初はひたすら抑え気味に一定ペースで、中盤の斜度が緩くなった区間で徐々にペースアップすると良いのでは無いでしょうか。そして、最後に一気にペースを上げると良いでしょう。
ちなみにジャパンカップで山岳賞を獲得した際は、古賀志の入り口からサプライズ的にアタックを仕掛けました。周りの選手がここではアタックしないだろうと考えている地点から、スプリントの様にフルもがきで飛び出しましたね。不意打ちによって「あっ、行かれた」と戦意を喪失させることが重要なのかもしれません(笑)。脚質についてはクライマーではなく、パンチャーが最も有利でレース展開しだいではスプリンターにもチャンスがありますね。
「速く走るためには、麓から一気にハイペースを維持し続ける必要がある」鈴木真理選手
古賀志を速く走るためには、麓から一気にハイペースを維持し続ける必要があります。勾配の変化が大きいですが、急なところを踏みつつ、緩いところでも確実に速いペースでこなしたいですね。
2009年にアジア最優秀選手賞(9位)になった際は、当時サクソバンクだったグスタフエリック・ラーション(スウェーデン、現IAMサイクリング)らと一緒に一定ペースで登ったことが功を奏したのだと思います。とにかく短距離なため実力差が出やすくもあり、タイムを稼ぐにはしっかりとしたトレーニングが欠かせません。
うつのみやサイクルピクニック山岳賞獲得の岩崎晶雲さん
今回はジャパンカップのコースに入る前までの70kmを脚を温存しながら走りました。そして山岳賞を狙うためにYouTubeなどでコースをチェックしてペース配分などを考えました。序盤から常に80%程度のペースを維持し、ゴール手前100mの左コーナーにある緑の柵が見えた瞬間から全力でもがきました。
日本ロードレース界の聖地として有名な古賀志林道で苦しい思いをしたサイクリストは少なくないだろう。しかし、今回の記事を読んで、また挑戦してみたいと感じて頂ければ嬉しい。レースシーズン以外は自由に走ることが可能なため、サイクリングに絶好のこの季節、休日に古賀志林道を攻略しに出かけてみては如何だろうか。
text:Yuya.Yamamoto
photo:CW編集部
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