2013/12/13(金) - 09:30
11月30日、12月1日の2日間、埼玉県青少年総合野外活動センターで行われた秩父サイクルフェス、通称「ちちフェス」。今年で11年目を迎えたローカルイベントの裏側にある、シクロクロスに対する主催者の熱い思いを取材した。
埼玉県横瀬町、西武秩父線芦ケ久保駅からひたすら峠道を登って辿り着く埼玉県青少年総合野外活動センター。周囲には白石峠や正丸峠が囲み、サイクリストにとって馴染みのあるこの場所で、11年もの長きに渡って開催されているローカルレースイベント、それが秩父サイクルフェス、通称「ちちフェス」だ。
会場は標高1000mに届こうかという山地であるため、ひとたび雨が降れば低温となるが、幸いイベントが行われた2日間はいずれも最高の冬晴れに恵まれ絶好のイベント日和。取材をしたイベント初日には、過去大会を上回る70名ほどの参加者が集った。
イベント内容は初日にシクロクロスレース、そして2日目はMTBによる3時間耐久レースが行われ、メインであるシクロクロスはAJOCCの認定を受ける本格的なもの。手作り感あふれるローカル大会だけにイベントの雰囲気はゆるいものの、レース内容はそれなりに本気度が高い。
シクロクロスレースと言えば平坦基調なコースを想像しがちだが、このちちフェスは山の斜面に敷かれた急峻な山岳コース(と言い切ってしまって良いはず)が最大の特徴で、落葉が始まった広葉樹の間をすり抜けるルートはさながらMTBレースのよう。
レースはC3、C2と下位カテゴリーから行われ、14時過ぎからはC1というスケジュールだが、各レースの間が大きく空けられているため、あくせくした雰囲気が無くとてものんびりとした感じ。土曜日のレースだけに、開会式が11時過ぎと遅いことも家を暗いうちに出発せずに良いから気が楽だ。平日に仕事があるホビーシクロクロッサーのためを考えたタイムスケジュールが(取材する立場としても)とても嬉しい。
この日最上級カテゴリーであるC1レースには、地元埼玉に店舗を構えるサイクルハウスミカミの三上和志や江下健太郎、そして大会の冠スポンサーを務めるバイクショップSNELからは若手の金子楓各選手らが集結した。レースは三上VS江下のデッドヒートとなり、終盤にアタックした三上が独走勝利。非常にテクニカルな山岳コースで、エリートMTB経験豊かな二人のテクニックには驚きと賞賛の声が多く上がっていた。
さて、今年開催11周年を迎えた「ちちフェス」を手がけるのは、女子ロードチームであるReady Go JAPANのチーム運営にも携わる須藤むつみさんと、須藤大輔さんご夫妻。お二人とも過去にエリート選手として活躍し、むつみさんはシクロクロスの全日本チャンピオンに輝いた実績の持ち主だ。会場準備からリストやゼッケンの作成、MC、後片付けまでほぼ二人でこなすなど、実質「二人でつくり上げた大会」と言ってしまって良い。
そもそも「ちちフェス」がスタートしたきっかけは、11年前に関東からシクロクロスレースが一切無くなってしまったこと。
むつみさんは「もともと私が発案者で、夫を巻き込み今まで二人三脚で運営を行ってきました。私はもともとシクロクロスの全日本を獲っていますから、何らかの形で競技に対して恩返しをしたかった。"レースが無くなる?じゃあ私がやらなきゃ!"という気持ちがこの大会をスタートさせました。最近ではGPミストラルや茨城クロスなど多くの大会が開催されていて、とても嬉しく思っていますね」と言う。
「シクロクロスという競技は今でこそ平坦な場所でやるというイメージがありますが、昔の信州クロスなどではだいたいこういった地形でレースを行っていたんです。だからある意味時代に流されないというか、昔ながらというか(笑)。
確かにクロス車には難しいコースですが、こんなコースで上手く走れるようになれば、おそらく世界中どんなレースに行っても全く問題無いと思うんです。例えば河川敷でレースをやったら、圧倒的にクロス車が速くて、MTBしか持っていないクロス初心者が全然楽しくなくなってしまう。だから誰もが楽しめて、でもクロス車の方が少しだけ速いかな、というぐらいのコースを作っています。」(大輔さん)
年々着々と参加人数を増やしているちちフェスだが、須藤さんご夫妻自身もシクロクロス全体の盛り上がりを実感しているそう。ただしイベント自体を大規模にすること無く、あくまでローカルイベントとしてのスタンスは崩したくないそうだ。
「やっぱり二人でやっているので、これ以上になると大変で(笑)。ただ私たちがやりたいのは、あくまでグラスルーツ(草の根)レベルのシクロクロスレースの開催。それを通して競技全体のファンを増やしたいのです。これはちちフェスに限ったことではありませんが、やはり地域ごと、各バイクショップごとにレースを開催してほしい。シクロクロスが盛んな欧米ではそれが基本スタイルです。大きな大会も魅力ですが、地域に根ざした大会が各地で行われるようになれば良いですよね。
私たちはそういう大会のお手伝いをしたいと常日頃から思っていますし、実際に茨城クロスの際にはTOHOKU CX PROJECTを主催する菅田(純也)さんと共に、コース設営や運営などを担当させて頂きました。ですからもしそういったご要望があれば、是非私たちにお声がけ頂きたいと思うんです。(むつみさん)」
インタビューの最後、今回参加したシクロクロッサーの方々に期待することを聞いた。
「やっぱり一番は"シクロクロスって面白いんだよ!"と仲間に伝えてもらうことでしょうね。とにかく競技を楽しむ人数が増えれば有望な選手も輩出できるでしょうし、よりイベントやレース自体も盛り上がりますよね。裾野を広くすれば、頂点も高くなるんです。より競技がメジャーになって、強い選手が出てくるようになれば、それに越したことはありませんね。(大輔さん)」
ちちフェスは今年、11年掛かってようやく今年C1クラスのエントリー人数が二ケタになったそう。「ここまで来たら、もう僕らがやることは無くなったのかな、とも思いますね(笑)」と大輔さんは笑う。
良きイベントは、熱き思いあってこそ。どこか清々しい思いを感じながら秩父の山道を下りた。さぞ2日目のMTBエンデューロも居心地の良いローカルな雰囲気の中成功に終わったことだろう。
text&photo:So.Isobe
埼玉県横瀬町、西武秩父線芦ケ久保駅からひたすら峠道を登って辿り着く埼玉県青少年総合野外活動センター。周囲には白石峠や正丸峠が囲み、サイクリストにとって馴染みのあるこの場所で、11年もの長きに渡って開催されているローカルレースイベント、それが秩父サイクルフェス、通称「ちちフェス」だ。
会場は標高1000mに届こうかという山地であるため、ひとたび雨が降れば低温となるが、幸いイベントが行われた2日間はいずれも最高の冬晴れに恵まれ絶好のイベント日和。取材をしたイベント初日には、過去大会を上回る70名ほどの参加者が集った。
イベント内容は初日にシクロクロスレース、そして2日目はMTBによる3時間耐久レースが行われ、メインであるシクロクロスはAJOCCの認定を受ける本格的なもの。手作り感あふれるローカル大会だけにイベントの雰囲気はゆるいものの、レース内容はそれなりに本気度が高い。
シクロクロスレースと言えば平坦基調なコースを想像しがちだが、このちちフェスは山の斜面に敷かれた急峻な山岳コース(と言い切ってしまって良いはず)が最大の特徴で、落葉が始まった広葉樹の間をすり抜けるルートはさながらMTBレースのよう。
レースはC3、C2と下位カテゴリーから行われ、14時過ぎからはC1というスケジュールだが、各レースの間が大きく空けられているため、あくせくした雰囲気が無くとてものんびりとした感じ。土曜日のレースだけに、開会式が11時過ぎと遅いことも家を暗いうちに出発せずに良いから気が楽だ。平日に仕事があるホビーシクロクロッサーのためを考えたタイムスケジュールが(取材する立場としても)とても嬉しい。
この日最上級カテゴリーであるC1レースには、地元埼玉に店舗を構えるサイクルハウスミカミの三上和志や江下健太郎、そして大会の冠スポンサーを務めるバイクショップSNELからは若手の金子楓各選手らが集結した。レースは三上VS江下のデッドヒートとなり、終盤にアタックした三上が独走勝利。非常にテクニカルな山岳コースで、エリートMTB経験豊かな二人のテクニックには驚きと賞賛の声が多く上がっていた。
さて、今年開催11周年を迎えた「ちちフェス」を手がけるのは、女子ロードチームであるReady Go JAPANのチーム運営にも携わる須藤むつみさんと、須藤大輔さんご夫妻。お二人とも過去にエリート選手として活躍し、むつみさんはシクロクロスの全日本チャンピオンに輝いた実績の持ち主だ。会場準備からリストやゼッケンの作成、MC、後片付けまでほぼ二人でこなすなど、実質「二人でつくり上げた大会」と言ってしまって良い。
そもそも「ちちフェス」がスタートしたきっかけは、11年前に関東からシクロクロスレースが一切無くなってしまったこと。
むつみさんは「もともと私が発案者で、夫を巻き込み今まで二人三脚で運営を行ってきました。私はもともとシクロクロスの全日本を獲っていますから、何らかの形で競技に対して恩返しをしたかった。"レースが無くなる?じゃあ私がやらなきゃ!"という気持ちがこの大会をスタートさせました。最近ではGPミストラルや茨城クロスなど多くの大会が開催されていて、とても嬉しく思っていますね」と言う。
「シクロクロスという競技は今でこそ平坦な場所でやるというイメージがありますが、昔の信州クロスなどではだいたいこういった地形でレースを行っていたんです。だからある意味時代に流されないというか、昔ながらというか(笑)。
確かにクロス車には難しいコースですが、こんなコースで上手く走れるようになれば、おそらく世界中どんなレースに行っても全く問題無いと思うんです。例えば河川敷でレースをやったら、圧倒的にクロス車が速くて、MTBしか持っていないクロス初心者が全然楽しくなくなってしまう。だから誰もが楽しめて、でもクロス車の方が少しだけ速いかな、というぐらいのコースを作っています。」(大輔さん)
年々着々と参加人数を増やしているちちフェスだが、須藤さんご夫妻自身もシクロクロス全体の盛り上がりを実感しているそう。ただしイベント自体を大規模にすること無く、あくまでローカルイベントとしてのスタンスは崩したくないそうだ。
「やっぱり二人でやっているので、これ以上になると大変で(笑)。ただ私たちがやりたいのは、あくまでグラスルーツ(草の根)レベルのシクロクロスレースの開催。それを通して競技全体のファンを増やしたいのです。これはちちフェスに限ったことではありませんが、やはり地域ごと、各バイクショップごとにレースを開催してほしい。シクロクロスが盛んな欧米ではそれが基本スタイルです。大きな大会も魅力ですが、地域に根ざした大会が各地で行われるようになれば良いですよね。
私たちはそういう大会のお手伝いをしたいと常日頃から思っていますし、実際に茨城クロスの際にはTOHOKU CX PROJECTを主催する菅田(純也)さんと共に、コース設営や運営などを担当させて頂きました。ですからもしそういったご要望があれば、是非私たちにお声がけ頂きたいと思うんです。(むつみさん)」
インタビューの最後、今回参加したシクロクロッサーの方々に期待することを聞いた。
「やっぱり一番は"シクロクロスって面白いんだよ!"と仲間に伝えてもらうことでしょうね。とにかく競技を楽しむ人数が増えれば有望な選手も輩出できるでしょうし、よりイベントやレース自体も盛り上がりますよね。裾野を広くすれば、頂点も高くなるんです。より競技がメジャーになって、強い選手が出てくるようになれば、それに越したことはありませんね。(大輔さん)」
ちちフェスは今年、11年掛かってようやく今年C1クラスのエントリー人数が二ケタになったそう。「ここまで来たら、もう僕らがやることは無くなったのかな、とも思いますね(笑)」と大輔さんは笑う。
良きイベントは、熱き思いあってこそ。どこか清々しい思いを感じながら秩父の山道を下りた。さぞ2日目のMTBエンデューロも居心地の良いローカルな雰囲気の中成功に終わったことだろう。
text&photo:So.Isobe
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