2013/11/30(土) - 09:10
これまで連載を通じてツール・ド・東北160kmコースの完走を目指してきたボランティアツアーコンダクターの佐藤真理さん。いよいよ本番。大会に参加しての手記を紹介します。
美味しそうな地元海産物の露店が並ぶも不安で意気消沈気味 11月3日、ツール・ド・東北。いよいよこの日を迎えた。何も分からないままロードバイクを始めて約半年足らず。練習・コンディションも万全というわけではないまま、ついにこの日を迎えることに。
会場へはクルマで。すっかり愛車となったFELTを積んでのドライブ。石巻へ向かう車中から観て感じる震災の爪痕に「いよいよこの地を走るんだ…」そんな想いを改めて感じながら、会場へと車を走らせた。そして、会場の専修大学に到着した。
地元の方々のご協力あっての大会ということもあり、地元海産物の露店などが多く並び、前日のワクワク感・ドキドキ感が伝わる会場。期待と不安に包まれた私は、なんとなく高揚する雰囲気に飲まれ、正直なところ意気消沈気味でした。
そんな中、会場で石巻在住のおばあちゃんに「あんたも明日走るんかね?」と声をかけてもらいました。会場側の仮設住宅近くに住むご老人で、このイベントに気づいて遊びに来たとのこと。世間話に花を咲かせながら「明日走らせてもらいます!よろしくお願いします」と話したら、「遠いところからありがとう」という言葉をもらった。
「記事読んでますよ!」と声をかけてくださった参加者の方々との記念撮影。その言葉に励まされつつも、ちょっと緊張気味の私
スタート直前。全員で想いを高める
「あぁ、ここを走ることの意味ってこのことなんだ」と、大会の意味を改めて痛感した。
「明日がんばれるように、念を込めてあげる」とギュッと握ってくれたおばあちゃんの手の温かさに涙がでた。
車でコースを試走して、心も折れそうな前日だったが、「明日、できるとこまでやりきろう」そんな風に思っていた。
当日は早朝4時の起床。とにかく寒い。雪国生まれの私も久々に「寒い!」と言葉が出た。早朝7時のスタート。会場は熱気に包まれ、私の連載記事を読んでくださっている方々にも「頑張ってね!」とお声をかけていただいた。「きっといける。いける…」と、心のなかで呟きながらのスタートだ。
早朝7時半、寒空の下に集った大勢の参加者と共にツール・ド・東北がスタート
いよいよスタートするも、次々に抜かれ後続へと追いやられていく。なぜか異様にペダルが重い! 回しても回しても進まない…。スタート直後に早速のトラブル? じつはメンテナンス不足でした。後輪のリムにブレーキシューが触れていたことが原因。確認不足を猛省しながらのリスタート。これでだいぶペースを回復させることが出来た。
石巻を過ぎ、女川へ出ると潮の香りがしてくる。アップダウンの激しい山道を登り、海を見ながらの走行。朝陽を浴びた海はとても美しく風光明媚で、それゆえに心に刺さる光景でもあった。
第1エイドは女川。さんまのみそ汁なども振る舞われていて、とてもいい香り。ちょっとだけいただいて、スタート。「もっとゆっくりしたい・・・」と思いつつも、今回は時間制限もあるし…と、心を鬼にして出発する。
コース周辺の民家、そしてコース沿いを歩いている方からも声援を受ける
海沿いはかなりのアップダウンが続く
女川から雄勝町へ抜けるのも再び山道だ。ちょっとづつペースも上がり、身体の調子も上がってきた感覚に。「ツール・ド・ちばよりキツイ…」そんなことを思いながらも「千葉の山も越えた!」という自信を、自らに言い聞かせながら、苦しみながらもなんとか前へ前へと進んで行く。
そして、第2エイドは雄勝。ホタテの香りに誘われてエネルギー補給!塩分がたまらなく染み入ると感じながら、三陸の海の幸に感謝する一瞬だ。雄勝のエイドを出発して、まだまだ続くアップダウン。もはや、ツール・ド・ちば同様に集団に追いつくこともできず、苦しい展開に。集団に抜かれ、進まない山道やトンネルを進むと、北上川へと抜けた。そして川が見えたと同時に、右手には大川小学校が見えた。この場所で起きたことを改めて思い返し、信号待ちをしながら手を合わせた。
雄勝のエイドステーションには大量に積まれたがれきの山 (c)ツール・ド・東北実行委員会
沿道からの沢山の応援が力になった (c)ツール・ド・東北実行委員会
序盤は集団で走れたものの、徐々に遅れてしまい苦しい展開に
コース脇には津波の被害が残り、重機が整備のために忙しい走り回る
川は凪だ。たくさんのトラックが防波堤の整備に忙しい。物静かさに時が止まっているかのようにさえ感じる。
川端を走ると、津波の爪痕が生々しく残る光景と出会う。変わりゆく新しい建物と、当時の建物が残る光景。メディアで見る「復興・復旧」とは違う、一言で表すことのできない現地の難しさをその目で感じ取ることができた。
川から再び山へと入る。第3エイドはまだ遠い。のろのろと進む私に、参加者の方、沿道の方々から本当に多くの方から声をかけてもらった。その声援の力でなんとか進むことができたといっても過言ではないと思う。皆が応援してくれている。民家が見えれば、必ず誰かが立っててくれるのだ。
途中、体力の限界を何度感じただろう。その度に、ツール・ド・ちばを走った時と同様に、「仕事よりましだ! 休めば登れる!」と心を奮い立たせながら、やっとの思いで第3エイドの神割崎キャンプ場へ。
道路脇にあるガソリンスタンドの看板からパワーをもらう
正直、限界目前での到着。泣きたくなったのは初めてだった。「コースを100キロに変更しよう」という気持ちも芽生えた第3エイドだったけれど、どうしても南三陸まではペダルを進めたかった。「まだいける」と、自らを奮い立たせて第3エイドを出発。グランフォンドの最後尾ライダーとして進んだ。
南三陸は約1年半ぶりに訪れた。変わった場所、変わらない場所。そして総合庁舎。車窓からでは感じ取れなかった、人々と同じ目線での南三陸。「この場所で起きたことを忘れてはいけない」と痛烈に感じた。そしてなんとかたどり着いた第4エイド。回収のリミットまで10分というところ。疲労困憊。体力不足。そして、悩んだ末の「リタイア」。実走行時間5時間30分、85km、獲得標高差778mでバイクを降りることに。
温かい暖かい食事を頂く。リタイアにはなったけれど、ゆっくり食べれて良かった
石巻赤十字病院の資機材運搬トラックにロードバイクを載せてスタート地点に戻った
ゴール地点でヤフージャパンの宮坂学社長にもお声掛け頂き、自然と「じゃぁ、来年倍返しで!」の言葉が出た この大会への参加を楽しみにしつつも、走ることが出来なかった方々に本当に申し訳ない…と思いつつ、ご用意いただいたものはしっかり食べるべし!と、エイドで海鮮カレーと牡蠣汁をごちそうになりました。
温かく、地元のお母さんたちの愛情たっぷりのランチ。リタイアにはなったけれど、ゆっくり食べれて良かった。
バスに揺られて、専修大学へと戻り、今回の企画にご協力いただいた方々へ御礼かねがねご挨拶へ。「残念だったねー!じゃぁ、来年倍返しで!」と、そんな話をしながら、改めて感謝の気持ちをお伝えした。
その夜はヤフー関係者の皆さんにお声掛けをいただき、ヤフー石巻復興ベースでの、大会の打ち上げにも顔を出させて頂いた。この日は11月3日、そう、東北楽天イーグルスの優勝の日。その瞬間と東北の喜びを、スタッフの方々も東北の地で、みんなで共有していた。「地元の方の協力あっての今日です」と口ぐちに話してくれた。「何かしたくてここにきました」とみんなが言う。
今回、ツール・ド・東北に参加できたことを、本当に光栄に思う。時間の経過とともに、変わっていくもの、変えていかなければいけないもの、変えてはいけないものがある。今回の大会は「変えてはいけないもの」だったと思う。3・11は辛く悲しい出来事であったけれど、そこから学ぶべきことや、未来へつなげるべきことがたくさんあった。その未来へ向けて忘れないとみんなが思った気持ちは「変えてはいけないもの」だと感じた。
多くの人々の強力があってこそ実現できたツール・ド・東北
ツール・ド・東北までの4ヶ月を一緒に過ごした赤いフェルト
自転車というツールができる「復興支援」のカタチ。それがこの「ツール・ド・東北」。自転車を好きな人が東北を好きになって、愛着を深め、つながりができる。東北に関わりの無かった人たちが、東北と関わるきっかけとなるこの大会の意義を、しみじみと実感させられた。ただ訪問するだけではできない、得ることのできないものを教えてくれるこの大会に、これからも私なりに関わっていきたいと感じている。
短時間ながら、すっかり私の愛車となったFELTを、快くお貸し下さったライトウェイプロダクツジャパン様、この企画と大会に関わられた全ての皆様、応援してくださった地元の皆様、この企画をお読み下さった読者の皆様に、この場を借りて改めて御礼をお伝えしたい。
夕日に染まった北上川に来年のリベンジを誓った
荒川サイクリングロードを走ったTokyoセンチュリーライドから始まり、ツール・ド・ちば参戦、そしてこのツール・ド・東北。思うように上達しない自転車に「苦しい苦しい」という記事ばかりでしたが、今ではいい思い出になりました。
そして東北の海の香り、自然、そして被災地のことは、「自転車」だから感じられたことがとても多かったと実感しています。参加者との出逢いや地域の人とのつながりも自転車だからできることだったと思います。その「自転車」の魅力も、微力ながらお伝えできていれば嬉しいです。そしてまた来年、ツール・ド・東北で皆さんとお会いできるのを楽しみにしております。ありがとうございました。
文:佐藤真理
photo&Edit:Haruo.Fukushima
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地元の方々のご協力あっての大会ということもあり、地元海産物の露店などが多く並び、前日のワクワク感・ドキドキ感が伝わる会場。期待と不安に包まれた私は、なんとなく高揚する雰囲気に飲まれ、正直なところ意気消沈気味でした。
そんな中、会場で石巻在住のおばあちゃんに「あんたも明日走るんかね?」と声をかけてもらいました。会場側の仮設住宅近くに住むご老人で、このイベントに気づいて遊びに来たとのこと。世間話に花を咲かせながら「明日走らせてもらいます!よろしくお願いします」と話したら、「遠いところからありがとう」という言葉をもらった。
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「明日がんばれるように、念を込めてあげる」とギュッと握ってくれたおばあちゃんの手の温かさに涙がでた。
車でコースを試走して、心も折れそうな前日だったが、「明日、できるとこまでやりきろう」そんな風に思っていた。
当日は早朝4時の起床。とにかく寒い。雪国生まれの私も久々に「寒い!」と言葉が出た。早朝7時のスタート。会場は熱気に包まれ、私の連載記事を読んでくださっている方々にも「頑張ってね!」とお声をかけていただいた。「きっといける。いける…」と、心のなかで呟きながらのスタートだ。
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石巻を過ぎ、女川へ出ると潮の香りがしてくる。アップダウンの激しい山道を登り、海を見ながらの走行。朝陽を浴びた海はとても美しく風光明媚で、それゆえに心に刺さる光景でもあった。
第1エイドは女川。さんまのみそ汁なども振る舞われていて、とてもいい香り。ちょっとだけいただいて、スタート。「もっとゆっくりしたい・・・」と思いつつも、今回は時間制限もあるし…と、心を鬼にして出発する。
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女川から雄勝町へ抜けるのも再び山道だ。ちょっとづつペースも上がり、身体の調子も上がってきた感覚に。「ツール・ド・ちばよりキツイ…」そんなことを思いながらも「千葉の山も越えた!」という自信を、自らに言い聞かせながら、苦しみながらもなんとか前へ前へと進んで行く。
そして、第2エイドは雄勝。ホタテの香りに誘われてエネルギー補給!塩分がたまらなく染み入ると感じながら、三陸の海の幸に感謝する一瞬だ。雄勝のエイドを出発して、まだまだ続くアップダウン。もはや、ツール・ド・ちば同様に集団に追いつくこともできず、苦しい展開に。集団に抜かれ、進まない山道やトンネルを進むと、北上川へと抜けた。そして川が見えたと同時に、右手には大川小学校が見えた。この場所で起きたことを改めて思い返し、信号待ちをしながら手を合わせた。
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川は凪だ。たくさんのトラックが防波堤の整備に忙しい。物静かさに時が止まっているかのようにさえ感じる。
川端を走ると、津波の爪痕が生々しく残る光景と出会う。変わりゆく新しい建物と、当時の建物が残る光景。メディアで見る「復興・復旧」とは違う、一言で表すことのできない現地の難しさをその目で感じ取ることができた。
川から再び山へと入る。第3エイドはまだ遠い。のろのろと進む私に、参加者の方、沿道の方々から本当に多くの方から声をかけてもらった。その声援の力でなんとか進むことができたといっても過言ではないと思う。皆が応援してくれている。民家が見えれば、必ず誰かが立っててくれるのだ。
途中、体力の限界を何度感じただろう。その度に、ツール・ド・ちばを走った時と同様に、「仕事よりましだ! 休めば登れる!」と心を奮い立たせながら、やっとの思いで第3エイドの神割崎キャンプ場へ。
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南三陸は約1年半ぶりに訪れた。変わった場所、変わらない場所。そして総合庁舎。車窓からでは感じ取れなかった、人々と同じ目線での南三陸。「この場所で起きたことを忘れてはいけない」と痛烈に感じた。そしてなんとかたどり着いた第4エイド。回収のリミットまで10分というところ。疲労困憊。体力不足。そして、悩んだ末の「リタイア」。実走行時間5時間30分、85km、獲得標高差778mでバイクを降りることに。
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温かく、地元のお母さんたちの愛情たっぷりのランチ。リタイアにはなったけれど、ゆっくり食べれて良かった。
バスに揺られて、専修大学へと戻り、今回の企画にご協力いただいた方々へ御礼かねがねご挨拶へ。「残念だったねー!じゃぁ、来年倍返しで!」と、そんな話をしながら、改めて感謝の気持ちをお伝えした。
その夜はヤフー関係者の皆さんにお声掛けをいただき、ヤフー石巻復興ベースでの、大会の打ち上げにも顔を出させて頂いた。この日は11月3日、そう、東北楽天イーグルスの優勝の日。その瞬間と東北の喜びを、スタッフの方々も東北の地で、みんなで共有していた。「地元の方の協力あっての今日です」と口ぐちに話してくれた。「何かしたくてここにきました」とみんなが言う。
今回、ツール・ド・東北に参加できたことを、本当に光栄に思う。時間の経過とともに、変わっていくもの、変えていかなければいけないもの、変えてはいけないものがある。今回の大会は「変えてはいけないもの」だったと思う。3・11は辛く悲しい出来事であったけれど、そこから学ぶべきことや、未来へつなげるべきことがたくさんあった。その未来へ向けて忘れないとみんなが思った気持ちは「変えてはいけないもの」だと感じた。
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短時間ながら、すっかり私の愛車となったFELTを、快くお貸し下さったライトウェイプロダクツジャパン様、この企画と大会に関わられた全ての皆様、応援してくださった地元の皆様、この企画をお読み下さった読者の皆様に、この場を借りて改めて御礼をお伝えしたい。
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そして東北の海の香り、自然、そして被災地のことは、「自転車」だから感じられたことがとても多かったと実感しています。参加者との出逢いや地域の人とのつながりも自転車だからできることだったと思います。その「自転車」の魅力も、微力ながらお伝えできていれば嬉しいです。そしてまた来年、ツール・ド・東北で皆さんとお会いできるのを楽しみにしております。ありがとうございました。
文:佐藤真理
photo&Edit:Haruo.Fukushima
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