10月5日(土)・6日(日)の2日間に渡って開催される復興支援サイクリングイベントが「ツール・ド・三陸 サイクリングチャレンジ 2013 in りくぜんたかた」だ。今大会より新設される49kmの健脚コースSの試走の模様を大会実行委員の韓祐志さんのレポートで紹介します。



東日本大震災で最も被害の大きかった岩手県陸前高田市の被災地の中を走るサイクリング大会「ツール・ド・三陸」は今年で2年目となる。今回は大会開催のきっかけを作ってくださった大会実行委員長で地元サイクリングチーム「teamTAKATA」に所属する吉田氏と大会ホストライダーの日向涼子さんらと約49kmの「健脚コースS」を試走を行った。今回は寄り道スポットを含めてコースを通過する順に詳しくご紹介します。

スタート・ゴール地点が設定される高田第一中学校の校庭スタート・ゴール地点が設定される高田第一中学校の校庭 photo:Yuji.Han昨年は未舗装路だった地点で現在では舗装が完了した道路を通過する昨年は未舗装路だった地点で現在では舗装が完了した道路を通過する photo:Yuji.Han


スタート&ゴール地点は昨年よりも海側に降りてきた高田第一中学校の仮設グラウンド。この場所は地酒「酔仙酒造」の醸造所だったところだ。現在は地元特産品が並ぶ仮設のお土産センター脇の広場である。ここからスタートし、津波で破壊された街(の跡)の中を東へと進む。道中、盛り土をした高台の上に建設中のホテルや昨年の大会では自転車を押して歩いた砂利道が舗装がされているなど世間では遅れていると言われながらも少しずつ復興が前進している様子が伺える。

そしてアップルロードと呼ばれる県道を登っていくと、あっけなくコース上の最高標高地点に到達する。前ばかり見て漕いでいると右斜め前方に見える海を見逃すのでご注意。また、大会のコースには含まれていないが途中で右手行くと美味しい海鮮系のラーメンが食べられると人気のお店もあるので大会前後に是非お寄りいただきたい。

大船渡市方面へ向かう道中、海が見渡せる高台を通過する大船渡市方面へ向かう道中、海が見渡せる高台を通過する photo:Yuji.Han
長い坂を下ってそのまま直進すると小友という昨年の健脚コースAとBのメインステージとなったポイントに入る。今年の健脚コースAとBではそのまま南下して広田半島に突入するが、健脚コースSではここを左折し大船渡市方面へ向かうため再び登りはじめることになる。このSコースの特徴は「上りは直ぐに終わるかな?」と思って勢い良く上ると、意外と長く上りが続き、終わったと思ってホッとして港まで下るとすぐにまた上りが現れる点だ。

つまり、平坦な部分が少ないのである。特に広田半島を走る区間が顕著で、新たなSコースも例外ではない。ガツンと攻めるのもアリだが、全体として小高い丘の上からチラリと見える碧い海や被災地の様子など陸前高田ならではの風景を見逃さない「センサー」を常にONにして走ることをオススメしたい。そんな多くのビューポイントがコース上に多く存在することがツール・ド・三陸のもう一つの特徴である。

地元の特産品にはおいしいものがたくさん地元の特産品にはおいしいものがたくさん photo:Yuji.Han大きなホタテが乗った磯の香りたっぷりのラーメン大きなホタテが乗った磯の香りたっぷりのラーメン photo:Yuji.Han


そんなアップダウンをこなすと最初のエイドステーションが設置される碁石海岸のレストハウスに着く。ここでは地元特産品を買うことができ、どんな補給食が並ぶかもお楽しみの一つだ。

大会中、多少時間に余裕のある方はレストハウスの奥に続く松林の遊歩道を散策してみるのもおススメ。ここでは三陸海岸特有の切り立った断崖の荒々しい岩と海の風景を目にすることができ、特に乱曝谷(らんぼうや)と雷岩はぜひとも写真に収めておきたい。因みに雷岩の名前の理由は静かに海へと耳を傾けるとお分かり頂けるはずだ。

碁石レストハウスを出るとほどなく碁石浜に差しかかる。浜そのものは狭いので素通りしてしまいそうになるが、ここに敷き詰められた石たちは波に洗われて碁石のように黒くて丸い綺麗な玉砂利で、この石が碁石海岸の名前の由来なのである。ただし、石の持ちだしは禁止となっているためご注意いただきたい。

碁石レストハウスの裏手にある雷石碁石レストハウスの裏手にある雷石 photo:Yuji.Han碁石海岸の名前の由来となった丸くて綺麗な玉砂利碁石海岸の名前の由来となった丸くて綺麗な玉砂利 photo:Yuji.Han

鉄道の代替交通であるBRTのバス専用道路鉄道の代替交通であるBRTのバス専用道路 photo:Yuji.Han地元の食材を具にしたおやき「めぐ海焼き」地元の食材を具にしたおやき「めぐ海焼き」 photo:Yuji.Han


碁石浜を後にして登っていくと踏切が現れる。ここは元々線路だったが、今はコンクリートで舗装され、鉄道の代替交通としてJRのBRT(BUS RAPID TRANSIT)バスの専用道路になる予定。試走時は工事中だったが、大会が開催される頃にはバス専用道として使用されている予定だ。

そして大船渡市を回って西に戻ってくると広田半島の入口である小友に帰ってくる。ここから昨年と同じ健脚コースを走る。先にも触れた通りに引き続きのアップダウンが続くが、下りの途中では大野湾の美しい海が見えるので、この辺りでも景色を楽しむことを心がけながら走って頂きたい。

広田半島の綺麗な海岸線をコースから眺めることが出来る広田半島の綺麗な海岸線をコースから眺めることが出来る photo:Yuji.Han
ただし下りの途中で停まるには後続車にしっかり合図しないと事故になるので十分に注意する必要がある。下りきった所にある壊れた堤防の白い砂浜では自転車を停めることができるため、是非、グループで記念撮影して頂きたい。少し先にはコース中唯一のコンビニ(仮設)もある。

試走ではその先にある「めぐ海焼き」の工房に寄り道。めぐ海焼きとは地元の食材を具にしたおやきのことで、生地には米粉が使用され、中身はカボチャや小倉、白あん、ミニホタテ、わかめの茎、リンゴ(リンゴは収穫時期の晩秋以降)などのバリエーションがあるという。さらにクルミが香ばしい「がんづき」と呼ばれる郷土料理もある。どちらとも美味しいので食べ過ぎにご注意と言う他ない(笑)。

黒崎展望台は記念撮影スポットとしておすすめだ黒崎展望台は記念撮影スポットとしておすすめだ photo:Yuji.Han昨年大会で大漁旗を飾った志田旅館さん、今年もやってくださるそうだ昨年大会で大漁旗を飾った志田旅館さん、今年もやってくださるそうだ (c)Shojiro Nakabayashi

昨年の志田旅館付近の様子、多くの参加者が立ち止まった昨年の志田旅館付近の様子、多くの参加者が立ち止まった photo:Yuji.Han子どもたちが掲げていた横断幕を思い出して胸が熱くなった子どもたちが掲げていた横断幕を思い出して胸が熱くなった (c)Shojiro Nakabayashi


さて満腹になったところで、時間に余裕があれば工房の辺りを散歩するという選択肢もある。先に紹介した碁石レストハウスの遊歩道よりも少し距離があるが、松林の中を登っていくと断崖の上に手すりだけの絶景展望台があるのでここもオススメ。もちろんカメラの準備はお忘れなく。

この後、昨年の参加者の多くが立ち止まったであろう大漁旗を飾った志田旅館に到着する。試走時に志田旅館を訪ねると「今年もやるよ」と笑顔で答えてくださった。この広田半島はかつて20年間続いた「南三陸サイクルロード」というロードレースのステージとなったところであり、自転車のレースを間近で見続け応援してきた土地。だから当時と同じようにツール・ド・三陸でも大漁旗が飾られたというわけだ。また、大漁旗のみならず「来てくれてありがとう」という横断幕を子どもが掲げていたことを思い出して再び胸が熱くなった。

広田半島のアップダウンの途中には養殖筏が浮かぶ広田湾が見えてくる広田半島のアップダウンの途中には養殖筏が浮かぶ広田湾が見えてくる photo:Yuji.Han
広田半島のアップダウンはコースのラスト1/4に当たる部分がハイライト。ハイペースで来るとこの辺りで脚に来るので、オーバーペースにはご用心。加えて、ここでも気張って地面ばかり見つめていてはもったいない。「津波がここまで到達した」という表示のある建物があるかと思うと、集落の合間に陽光に光る広田湾が見えはじめ、ついにはドーンと眼前に広がるのだ。ボランティアの方たちと共に組んだという牡蠣の養殖筏が昨年よりも増えている事にも気づいて欲しい。

広田半島の付け根に戻って来て、がれきの山を横目に左折し、再び広田湾の堤防沿いに走る。堤防沿いのどこかで写真を撮るってみても良いだろう。その後、かつて市街地だった部分を再び進んで行くのだが、ゴールへと右折すべき交差点で、一度左折してすぐの陸前高田駅前ロータリーへとお寄りいただき、ここでも是非ともコースの締めとしての記念撮影を。駆け抜けてきた色々な風景や地元の人々とのふれ合いと、この駅前の風景をもう一度目に焼き付けよう。それが終われば、あとはみんなで一緒にゴールを目指すだけだ。

かつては市街地だったゴール付近、陸前高田駅前のロータリーに寄るのもおススメだかつては市街地だったゴール付近、陸前高田駅前のロータリーに寄るのもおススメだ photo:Yuji.Han今大会のコースは最長でも49kmと普段から走り込んでいるサイクリストにとってはさして長いコースではないと感じるだろう。しかし、このレポートをお読みいただければ「ツール・ド・三陸」はただ被災地を走り抜けるだけのサイクリングではなく、五感の全てでこの地を感じ取ってたどるひとつの「体験」であることに気付いていただけるのではないだろうか。

少しも短かくはない、他では得難い体験である。是非ともこの「体験」を一緒に走る仲間や地元の方々と「共有」しに来ていただきたいと切に願う。それだけでも私達が被災地を忘れないことにつながるのである。

text&photo:韓 祐志(ツール・ド・三陸実行委員)


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