2013/02/27(水) - 09:55
暮らしの中に旧暦と伝統行事、そして幾多の歴史が息づく沖縄。それらパワースポットが多くある地域を中心に開催されたイベントが「ECOスピリットライド&ウォークin南城市」だ。晴天に恵まれた大会の様子をレポート。
2月24日に開催された「ECOスピリットライド&ウォークin南城市」は、その名にもある通り、南城市を中心に、歴史やパワースポットの多い沖縄本島の中~南部を巡るイベント。サイクリングとウォーキング、そしてノルディックという3ジャンルを持つ今大会の、サイクリング部門「160kmコース」をCW編集部の磯部が実走取材した。
沖縄の日の出は東京よりも遅い。6時半の段階ではまだ暗いため身体が慣れず、会場の駐車場に止めたクルマの中でついうとうとしてしまった。時刻は一緒なのに時の流れが違う。"南に来たな"と思わされる。
イベントのスタート/ゴール地点に集まった参加者はおよそ180名。「ECOスピリットライド&ウォークin南城市」最長コースにエントリーした皆さんだ。6時45分、勇壮なエイサーの見送りを受けてスタート。私もこの中に混じり、琉球の道へと繰り出した。
中城湾を一望できるサイクリングロードを抜けると、そこに現れたのはニライカナイ橋。頂上のトンネルを抜けると、そこから広がる光景に思わず息を飲んだ。高台から望む大海原と、赤く燃える太陽。古来、琉球では朝陽を「若ティダ」と呼んで生命の源として崇めたそうだが、それを十分に納得させる力を感じる。
ニライカナイ橋の爽快な下りを楽しんだら331号線に出て、与那原町、西原町、中城村と通過していく。この区間は地元強豪クラブ、チームキッズのトレインに乗車出来たのであっという間だ。北中城村からうるま市に入り、海中道路を目指していく。
沖縄サイクリングイベントの定番コースとなった海中道路だが、この日はやや空気が霞みがち。"抜けるような"とはいかなかったが、それでも海の蒼さが目に眩しい。そもそも2月に半袖短パンで走れるのだから、やはり"沖縄って良いな"と思う。沖縄取材はもう5、6回を数えるが、その度に新しい発見がある。
美ら島センチュリーライドでは海中道路を渡ると浜比嘉島へと右折するが、ECOスピリットでは宮城島へ。10%ほどの急勾配をよいしょと登りつつ、ぬちうなーエイドへ到着。
「命の塩」を意味する地の塩「ぬちまーす」を作るショップ付き製塩工場は、160kmコースの最北端に位置する場所。「スポーツぬちまーすドリンク(かなり塩っぱい!)」を補給して、もと来た海中道路を再び渡り、本島へと戻っていく。
ところで、スピリチュアルな部分と合わせて、この大会のもう一つのタイトルテーマが「エコ」。「なるべくリユースできる食器類を使い、コップはリユース品を多数手配しました。人件費と手間は掛かりますが、自然が売り物の沖縄で催す大会として、取り組むべきことだと思ったんです。」とは、運営に関わる具志堅さん。
なるほど。そういえばエイドのコップや食器は全てリユースできるもので、ボランティアの方々が丁寧に使用済みのものを手洗いしてくれていた。参加者目線でも、大会で出るゴミが減るのは嬉しいこと。ジャンルを問わず広まってほしい取り組みだと感じる。世界遺産の勝連城跡を横目に見つつ、やがてお昼スポットへと到着した。
ECOスピリットでは全てのコースがランチ食べ放題となっていて、160kmコースのメニューはなんと焼肉!沖縄は良い肉が安いことでも有名だが、サイクリングイベントで焼肉とは初めて(笑)。食は琉球文化の見聞を深めるツール、と決め込みたらふく食べてしまった。
さて、根っこが生えそうなお昼ポイントを後にして、コースは後半へと入っていく。国道329号線と507号線は交通量が多くやや走りにくいが、糸満市から331号線に入ると一変。田舎道風情があって走りやすい。今まで本島のサイクリングと言えば北部とばかり思っていたが、南部も「なかなか」だ。
ここ沖縄県南部は、太平洋戦争において熾烈な戦闘が行われた場所。ひめゆりの塔や慰霊碑などがコース脇には多くあり、平和記念公園は160kmコース最後のエイド。今回は資料館を訪れることが出来なかったが、この地で悲惨な戦いがあったと思うと、平和を願わずにはいられない。青い芝生でのんびりと休憩するサイクリストの姿を、当時想像できただろうか。
さて、シーサイドの細かなアップダウンをしばらく楽しむと、最初に下ったニライカナイ橋を上り返す。でもその前に、近くにある「琉球最高の聖地」に寄り道してみた。この「エコスピ」ライドのコース付近には、スピリチュアルな立ち寄りスポットが多いのだ。
「ほら、四国にお遍路さんってあるでしょう。沖縄にもそれと似た「東御廻い(あがりうまーい)」っていう霊地を巡る旅があるんです。先祖様にお参りして、自然や生きていることに感謝するんですよ」そう話してくれたのは、お参りに来た地元のおばあさん。月に一度はお参りに来ているという。
訪ねたのは斎場御嶽(せーふぁうたき)。琉球の始祖「アマミキヨ」が造ったとされ、国始めの七御嶽の一つと言われる神聖な場所だ。
バイクを受付に預け、急峻な石段を上って奥へ進む。せり出したり、ぽっかりと亀裂の空いたり、特徴的な岩の袂にはそれぞれ祭壇や香炉が設けられ、少々覚えにくい名が付けられている。
有名な観光名所だけに、観光客も多く賑やかな斎場御嶽。でもどこか、荘厳な雰囲気を崩していないのは、過去数百年以上も前から、地元の人達に大切に守られてきたからだろうか。そんな歴史に、少し背筋が延びた。
さて、斎場御嶽を後にして、一度前を通り過ぎたニライカナイ橋を登っていく。長さ1km、高低差は80mほどだが、150kmを走ってきた脚には結構キツく感じる。どうやらそれまでの細かなアップダウン区間に脚を削られていたらしい。しばらく長距離を走っていなかったので、やや身体がキツい。
ニライカナイ橋の頂上に立つのは2度目だったから、それほど驚くことはないだろうと思っていた。でも、そこから望む風景は相変わらず圧倒的だった。
濃淡のはっきりした海の青と、琉球をつくったアマミキヨが天から降りた場所として敬われる久高島が遠くに見える。斎場御嶽を訪れた後だったから、ことさら風景が心に沁み入ってくる。
しばらく眺めを楽しんでから再び走り出すと、もうゴールは間近。下り基調のコースを楽しんで、16時頃にスタート/ゴール地点の設けられたゆいんちーホテルへと到着した。
沖縄で開催されるサイクリングイベントは数あれど、地元に根付く歴史や文化に触れることのできるイベントを取材したのは初めてだったが、沖縄の持つ歴史や、文化的な側面に触れることができ、心が澄んだような気分になった。
参加人数こそそれほど多くないが、その分のんびりとした大会の雰囲気も良かった。ただ単なるサイクリングに終わらない、沖縄の深い魅力を垣間見た気がする。今回は限られた時間の中で斎場御嶽しか訪れることが出来なかったが、次回はより深く、様々な場所を訪れてみたいと感じた。
text&photo:So.Isobe
フォトギャラリー2(Google Picasaウェブアルバム)
2月24日に開催された「ECOスピリットライド&ウォークin南城市」は、その名にもある通り、南城市を中心に、歴史やパワースポットの多い沖縄本島の中~南部を巡るイベント。サイクリングとウォーキング、そしてノルディックという3ジャンルを持つ今大会の、サイクリング部門「160kmコース」をCW編集部の磯部が実走取材した。
沖縄の日の出は東京よりも遅い。6時半の段階ではまだ暗いため身体が慣れず、会場の駐車場に止めたクルマの中でついうとうとしてしまった。時刻は一緒なのに時の流れが違う。"南に来たな"と思わされる。
イベントのスタート/ゴール地点に集まった参加者はおよそ180名。「ECOスピリットライド&ウォークin南城市」最長コースにエントリーした皆さんだ。6時45分、勇壮なエイサーの見送りを受けてスタート。私もこの中に混じり、琉球の道へと繰り出した。
中城湾を一望できるサイクリングロードを抜けると、そこに現れたのはニライカナイ橋。頂上のトンネルを抜けると、そこから広がる光景に思わず息を飲んだ。高台から望む大海原と、赤く燃える太陽。古来、琉球では朝陽を「若ティダ」と呼んで生命の源として崇めたそうだが、それを十分に納得させる力を感じる。
ニライカナイ橋の爽快な下りを楽しんだら331号線に出て、与那原町、西原町、中城村と通過していく。この区間は地元強豪クラブ、チームキッズのトレインに乗車出来たのであっという間だ。北中城村からうるま市に入り、海中道路を目指していく。
沖縄サイクリングイベントの定番コースとなった海中道路だが、この日はやや空気が霞みがち。"抜けるような"とはいかなかったが、それでも海の蒼さが目に眩しい。そもそも2月に半袖短パンで走れるのだから、やはり"沖縄って良いな"と思う。沖縄取材はもう5、6回を数えるが、その度に新しい発見がある。
美ら島センチュリーライドでは海中道路を渡ると浜比嘉島へと右折するが、ECOスピリットでは宮城島へ。10%ほどの急勾配をよいしょと登りつつ、ぬちうなーエイドへ到着。
「命の塩」を意味する地の塩「ぬちまーす」を作るショップ付き製塩工場は、160kmコースの最北端に位置する場所。「スポーツぬちまーすドリンク(かなり塩っぱい!)」を補給して、もと来た海中道路を再び渡り、本島へと戻っていく。
ところで、スピリチュアルな部分と合わせて、この大会のもう一つのタイトルテーマが「エコ」。「なるべくリユースできる食器類を使い、コップはリユース品を多数手配しました。人件費と手間は掛かりますが、自然が売り物の沖縄で催す大会として、取り組むべきことだと思ったんです。」とは、運営に関わる具志堅さん。
なるほど。そういえばエイドのコップや食器は全てリユースできるもので、ボランティアの方々が丁寧に使用済みのものを手洗いしてくれていた。参加者目線でも、大会で出るゴミが減るのは嬉しいこと。ジャンルを問わず広まってほしい取り組みだと感じる。世界遺産の勝連城跡を横目に見つつ、やがてお昼スポットへと到着した。
ECOスピリットでは全てのコースがランチ食べ放題となっていて、160kmコースのメニューはなんと焼肉!沖縄は良い肉が安いことでも有名だが、サイクリングイベントで焼肉とは初めて(笑)。食は琉球文化の見聞を深めるツール、と決め込みたらふく食べてしまった。
さて、根っこが生えそうなお昼ポイントを後にして、コースは後半へと入っていく。国道329号線と507号線は交通量が多くやや走りにくいが、糸満市から331号線に入ると一変。田舎道風情があって走りやすい。今まで本島のサイクリングと言えば北部とばかり思っていたが、南部も「なかなか」だ。
ここ沖縄県南部は、太平洋戦争において熾烈な戦闘が行われた場所。ひめゆりの塔や慰霊碑などがコース脇には多くあり、平和記念公園は160kmコース最後のエイド。今回は資料館を訪れることが出来なかったが、この地で悲惨な戦いがあったと思うと、平和を願わずにはいられない。青い芝生でのんびりと休憩するサイクリストの姿を、当時想像できただろうか。
さて、シーサイドの細かなアップダウンをしばらく楽しむと、最初に下ったニライカナイ橋を上り返す。でもその前に、近くにある「琉球最高の聖地」に寄り道してみた。この「エコスピ」ライドのコース付近には、スピリチュアルな立ち寄りスポットが多いのだ。
「ほら、四国にお遍路さんってあるでしょう。沖縄にもそれと似た「東御廻い(あがりうまーい)」っていう霊地を巡る旅があるんです。先祖様にお参りして、自然や生きていることに感謝するんですよ」そう話してくれたのは、お参りに来た地元のおばあさん。月に一度はお参りに来ているという。
訪ねたのは斎場御嶽(せーふぁうたき)。琉球の始祖「アマミキヨ」が造ったとされ、国始めの七御嶽の一つと言われる神聖な場所だ。
バイクを受付に預け、急峻な石段を上って奥へ進む。せり出したり、ぽっかりと亀裂の空いたり、特徴的な岩の袂にはそれぞれ祭壇や香炉が設けられ、少々覚えにくい名が付けられている。
有名な観光名所だけに、観光客も多く賑やかな斎場御嶽。でもどこか、荘厳な雰囲気を崩していないのは、過去数百年以上も前から、地元の人達に大切に守られてきたからだろうか。そんな歴史に、少し背筋が延びた。
さて、斎場御嶽を後にして、一度前を通り過ぎたニライカナイ橋を登っていく。長さ1km、高低差は80mほどだが、150kmを走ってきた脚には結構キツく感じる。どうやらそれまでの細かなアップダウン区間に脚を削られていたらしい。しばらく長距離を走っていなかったので、やや身体がキツい。
ニライカナイ橋の頂上に立つのは2度目だったから、それほど驚くことはないだろうと思っていた。でも、そこから望む風景は相変わらず圧倒的だった。
濃淡のはっきりした海の青と、琉球をつくったアマミキヨが天から降りた場所として敬われる久高島が遠くに見える。斎場御嶽を訪れた後だったから、ことさら風景が心に沁み入ってくる。
しばらく眺めを楽しんでから再び走り出すと、もうゴールは間近。下り基調のコースを楽しんで、16時頃にスタート/ゴール地点の設けられたゆいんちーホテルへと到着した。
沖縄で開催されるサイクリングイベントは数あれど、地元に根付く歴史や文化に触れることのできるイベントを取材したのは初めてだったが、沖縄の持つ歴史や、文化的な側面に触れることができ、心が澄んだような気分になった。
参加人数こそそれほど多くないが、その分のんびりとした大会の雰囲気も良かった。ただ単なるサイクリングに終わらない、沖縄の深い魅力を垣間見た気がする。今回は限られた時間の中で斎場御嶽しか訪れることが出来なかったが、次回はより深く、様々な場所を訪れてみたいと感じた。
text&photo:So.Isobe
フォトギャラリー2(Google Picasaウェブアルバム)
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