ニックネームは「ユキ」もしくは「マズ」。キャノンデールプロサイクリングの一員としてチームプレゼンテーションに出席し、1月20日にアルゼンチンで開幕するツール・ド・サンルイス(UCI2.1)でシーズンインする増田成幸。世界的なビッグチームに加わった彼に、勝負の一年の意気込みを聞いた。



増田成幸(キャノンデールプロサイクリング)増田成幸(キャノンデールプロサイクリング) photo:Cannondale Pro Cycling増田は過去にチームNIPPOの一員としてイタリアをはじめとするヨーロッパレースで走った経験をもつ。しかし完全に海外に拠点を移し、海外レースにのみ出場するのは今シーズンが初めて。昨年Jプロツアーの年間チャンピオンに輝いた29歳が、結果が全て&1年契約という厳しい世界に飛び込んだ、

10月のチーム移籍発表時、「イタリア語が出来ないので」と、弱気の発言をしていた増田。しかし12月のトレーニングキャンプを経て、驚くほどすんなりとチームに馴染んでいる。もちろんイタリア語はまだまだ流暢とは言えず、語彙も少ないが、日常会話は問題ないレベルだ。

プレゼンテーションの翌日に行なわれた選手やスタッフ、メディア合同のライドでは、マリオ・シレーア監督にアシストとしてこき使われる一面も。登りに入ると、シレーア監督は増田の肩をがっちりとホールドして脚を休める。「いま何ワット?(SRMを覗き込んで)430? あ、じゃあしばらくこのままで」と言われて、物理的にシレーア監督を引き続ける仕事をこなす。年齢的には中堅だが、あくまでもチームの中では新人扱いだ。

インタビューを行なったのは、プレゼンテーション後、ツール・ド・サンルイスに経つ直前のタイミングだ。

インタビューを受ける増田成幸(キャノンデールプロサイクリング)インタビューを受ける増田成幸(キャノンデールプロサイクリング) photo:Kei Tsuji登りで増田成幸(キャノンデールプロサイクリング)に掴まるマリオ・シレーア監督登りで増田成幸(キャノンデールプロサイクリング)に掴まるマリオ・シレーア監督 photo:Kei Tsuji



キャンプでかなり飲まされたと聞きましたが?
増田成幸(キャノンデールプロサイクリング)増田成幸(キャノンデールプロサイクリング) photo:Kei Tsuji11月下旬にイタリアに渡り、トレーニングキャンプに合流。そこでチームメイトたちと3週間ほど過ごしました。『いいかユキ、今日は新人を歓迎するレースをやるからな』と言われて、ホテルの駐車場でレースをしたんです。あまり大々的に書ける内容ではないので『そのレースを通して仲良くなった』と書いておいて下さい(笑)。
その後はバールで飲まされて寝てしまって、ホテルに担ぎ込まれました。次の日のトレーニングは、新人選手の多くが欠席(笑)。そんな手荒い歓迎を受けましたが、そこでまた一段と仲良くなれましたね。

チームの中でのニックネームは?
「ユキ」か「マズ」ですね。「マス」ではなくて、濁って「マズ」。かしこまった時は「マスーダ」

チーム内の共通言語はイタリア語ですか?
中には英語を話すイタリア人もいますが、デンマーク人もアメリカ人もイタリア語を話すので、チームメイトと話す時はイタリア語がほとんどです。トレーニングキャンプの期間中にイタリア語が上達したと自分でも思います。今回のロサンゼルスにもイタリア語の教本を持って来ていますし、早くイタリアに腰を据えて言語を学びたいですね。イタリアでは、トレヴィーゾの近くにあるチーム所有のアパートに住む予定です。

バイクポジションについて
増田成幸(キャノンデールプロサイクリング)増田成幸(キャノンデールプロサイクリング) photo:Kei Tsujiポジションについて、結構チームから突っ込みが入ります。本当はワンサイズ大きい54のフレームに乗りたかったんですけど、チームの指示で52のフレームに乗っています。
小さいフレームの理由を聞くと『それだとシートポストが出ないだろ? それに小さいフレームのほうが剛性がある』という答えが返ってきました。合理的ですがイタリアっぽい。昨年までと比べて上半身が“詰まって”いて、ハンドルが近くて低い。またこれからアルゼンチンで煮詰めて行きます。

移籍発表時に話していた貧血は改善されましたか?
ジャパンカップ前後は貧血に困っていました。貧血と言っても一般的に言う病的な貧血ではなく、アスリートとしての貧血です。シーズン前半から徐々に状態が悪くなって、ジャパンカップの時はヘマトクリット値が38まで下がっていた。実際にバイクに乗って追い込んでも、呼吸の苦しさが分かるほどでした。
ジャパンカップと輪島が終わって、2週間トレーニングのペースを落とすことで、値が45まで回復。一気に状態がよくなりました。休みを取らずにハードトレーニングを続けたことが、貧血に繋がったのだと思います。鉄分のサプリも取りましたが、やはりサプリだけでは改善しませんでした。

相談出来るチームの医療体制は整っていますか?
サドルを調整する増田成幸(キャノンデールプロサイクリング)サドルを調整する増田成幸(キャノンデールプロサイクリング) photo:Kei Tsujiチームにはドクターが3人いて、いつでも相談出来る環境です。至れり尽くせりで、大きな安心感があります。ですが、チームドクター以外には絶対に相談してはいけない。チーム以外のトレーナーにも相談出来ないなど、厳重に管理されています。

トレーニングについてチームからの指示は?
チームからイタリア語でメニューが送られてきます。SRMのデータを毎日チームに送って、週に一回チームにトレーニングの結果を報告。メニューはパワーメーターの数値をベースに組まれていています。トレーニングキャンプの時に行なった乳酸テストの結果をもとに、いわゆるメディオやソリオと呼ばれる範囲を決定して、メニューが組まれています。

トップチームのメニューに違いを感じますか?
「こんなに沢山有るのか!」と思うほど、トレーニングメニューのバリエーションの豊富さに驚きました。これまで自分では色んなトレーニングをしてきたつもりでしたが、今思うとワンパターンだった。
例を挙げて具体的に言うと、20秒全開&40秒メディオの繰り返しを登りで行なったり、アウタートップからスタートして1分毎にギアを1枚下げて、7分経ったらまたギアを上げて行くメディオのトレーニングなど、楽しみながらメニューをこなせています。強弱がついて、より実戦的です。

これまで負った重傷の後遺症は残っていませんか?
増田成幸(キャノンデールプロサイクリング)増田成幸(キャノンデールプロサイクリング) photo:Kei Tsuji過去に3回ほど大きな怪我をしていますが、腰の怪我だけが残っています。骨の形状が変わるほどの圧迫骨折だったので、背中がキレイなS字を描いていない。長時間のライドでは、少しですが、腰に負担がかかってきますね。

早速アルゼンチンでデビューですね
このままアメリカからアルゼンチンに飛んで、早速ツール・ド・サンルイスに出場します。サガン、サルミエント、アエド、コッホ、キング、ダダルト、そして自分というメンバーです。トレーニングはしっかりこなしてきましたが、このロサンゼルス滞在中もあまり乗れてないので、正直やばいですね(笑)。山岳コースが多いので、映像を見て研究しています。

その後のスケジュールを教えて下さい
サンルイスの後、そのままイタリアに向かいます。ザナッタ監督やトレーナーのスロンゴと話し合いながらスケジュールを決めていて、予定ではイタリアのクラス1のワンデーレースを中心に、4月までに合計20レースを走ります。トレーニングキャンプの個人ミーティングで「昨年は何レース出場したか?」と聞かれて、正直に「40レースで、そのうちステージレースはTOJと熊野、北海道の3つ」と答えると、その少なさに驚かれました。
監督には「いきなり(濃いスケジュールで)走ると身体が壊れるので、レースは詰め込まない」と言われました。チームにとって素性の分からない自分がアピールするべきなのはシーズン序盤。いきなり「ビッグレースに出たい出たい」と言うには、自分の状況があまりにも見えていない。それは心に仕舞っておいて、今は課題を一つ一つクリアすることですね。焦りはありませんが、責任感とプレッシャーはあります。

text&photo:Kei Tsuji