6月に正式デビューを果たし、サイクルモードなどの展示会で徐々に一般ユーザーの目に触れる機会も多くなり、一部パーツのデリバリーも徐々に開始され始めた9000系デュラエース。今回はその次世代型コンポーネントの使用感をレポートする。

シマノ 9000系デュラエース STIレバーシマノ 9000系デュラエース STIレバー

遂に踏み切られた11スピード化、斬新な4アーム式クランクの採用など、恐らくデュラエースの歴史の中で最も大幅なモデルチェンジが施された9000系デュラエース。新型デュラエースが目指したテーマは、より少ない力で的確なコントロールを実現できるようにすることだ。

様々な部分が大幅に変更・改善された新型デュラエースだが、まず真っ先に違いを感じ取ることができるのが先代の7900系と比較してかなりコンパクトになったブラケットと、レバーの形状が見直されたデュアルコントロールレバーだ。

基本的な構造は同じながら、より性能を高めたリアディレイラー基本的な構造は同じながら、より性能を高めたリアディレイラー コンパクトに生まれ変わったシフトレバーとブラケット 内側からのアングルコンパクトに生まれ変わったシフトレバーとブラケット 内側からのアングル ホイールはWH-9000-C35-CLホイールはWH-9000-C35-CL



11速化に伴ってシフト操作はよりショートストローク化され、3D CADの進歩によって内部構造を極限まで削り落としたことによって生み出されたものだ。ー30%のリリースレバーストローク比を達成しつつ、大きすぎると声のあったSTIレバーのブラケットは、より大多数の日本人に向くコンパクトで細身の形状となった。2種類の素材を使い分けたラバー製のブラケットカバーと併せて快適性とグリップを増している。

前後のディレイラーも基本構造自体には変化が無いが、しかしそれはこれまでのモデルの完成度が高かったことの証明でもある。リアメカはバネレートを落としてケーブルルーティングを変更、フロントはアームを長くすることで共に40%という大幅なシフティングパワーの改善が図られている。

ペダリングの踏力の特性を考慮して設計されたチェーンホイールセットペダリングの踏力の特性を考慮して設計されたチェーンホイールセット

フロントディレーラーは引きを軽くするために長く伸びたアームが特徴的だフロントディレーラーは引きを軽くするために長く伸びたアームが特徴的だ PCD110ですべてのギア歯数をカバーしてしまう。コンパクトやノーマルといった区分はないPCD110ですべてのギア歯数をカバーしてしまう。コンパクトやノーマルといった区分はない


そして大きな構造上の変更が行われたのがブレーキキャリパーだ。2ベアリング+1ローラーのダブルピボット構造へと進化し、シャフトの位置やアームの位置が大きく変更された。ピボットからブレーキシューボルトまでの距離が7900と比較して17mm近づくことによって剛性を増し、10%のパワーアップとコントロール性の向上を達成した。

そしてそれらタッチやレバーのパワー削減に大きく向上したのが新開発のケーブルシステムだ。ワイヤには接触面積を少なくする加工が、アウターケーブル内にはシリコングリスが封入され、新型デュラエースの性能向上に大きく貢献している。

2ベアリング+1ローラーのダブルピボット構造としたブレーキキャリパー2ベアリング+1ローラーのダブルピボット構造としたブレーキキャリパー 大きく形状を変えたフォルムがよく分かる大きく形状を変えたフォルムがよく分かる


ギアが1枚増えたことでよりストレスフリーを実現している9000系デュラエースだが、ロー側をチタン化、アームをカーボン化したスプロケットや、4アーム化したクランクの恩恵によって10スピードの7900系と比較して全体で77gの軽量化を達成している。性能を犠牲にせず軽量化を成し遂げることは容易なことではない。
ユーザーのストレスフリーを追求した新型デュラエースの実力とは如何に。2名のテストライダーが検証する。
なおテスト車両にはタイムZXRS、WH-9000-C35-CLホイール装着車を使用。BB小物はプレスフィット仕様により他社製品仕様となっている。




―インプレッション

「ライバルメーカーを完全にリードした。11sという点を忘れてしまうぐらいの軽さがある」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

ブレーキング性能から変速性能、全ての性能が良くなっていたことに驚きました。レバーを押した瞬間にギアが変わってしまうような感覚があって、その軽さとショートストロークが印象的で、つい11速になったということを忘れてしまったほどです。特にフロントディレイラーの変速性能は、今までのものと全く違いますね。

「ライバルメーカーを完全にリードした。11sという点を忘れてしまうぐらいの軽さがある」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)「ライバルメーカーを完全にリードした。11sという点を忘れてしまうぐらいの軽さがある」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

自分で組んでいないのではっきりとは言えませんが、7900系ではケーブルルーティングを慎重に組み付けしないと引っ掛かり感が出てしまっていたのですが、その点も改善されているのだろうと思います。シマノらしいカッチリとした変速感はしっかりと感じられます。フロントをインナーに変える速さこそ変化はあまり感じませんが、チェーンにテンションを掛けた状態でもキッチリと変速してくれる"シマノらしさ"がありますね。引きが軽くとも不安感などは一切感じません。

アームが長く伸びたフロントディレーラー 力効率を計算し尽くした結果軽い引きが実現できたアームが長く伸びたフロントディレーラー 力効率を計算し尽くした結果軽い引きが実現できた 驚異的な変速の軽さは抵抗の少ない新開発ワイヤーの賜物。このワイヤーは10スピードモデルに使用することはできないという驚異的な変速の軽さは抵抗の少ない新開発ワイヤーの賜物。このワイヤーは10スピードモデルに使用することはできないという


ブレーキは従来コントロール性能に疑問を感じる声もあったのですが、レバーを引いてシューが当たってからのコントロールがしやすくなったと思います。とにかくコンポーネント全体としてのバランスとレスポンスが非常に良好・向上しており、ワイヤーの一本にまでにこだわって造っているんだな、という印象を受けました。フロントメカのアーチやクランクの形状など、従来の概念からすると特異な形状のような気もしますが、そこはシマノ。もちろん性能を求めた設計に拠るものでしょう。そう考えれば納得できます。

STIレバーはテの小さな人にも握りやすい形状だSTIレバーはテの小さな人にも握りやすい形状だ シフトアップレバーを操作した状態シフトアップレバーを操作した状態 シフトレバーを操作した状態「気づいたら変速していた、と思うほど軽い」シフトレバーを操作した状態「気づいたら変速していた、と思うほど軽い」


7900系で中通し式(バーテープに巻き込む方式)になったシフトケーブルは、「とりあえず見た目を良くした感」がどうしてもありましたが、9000系になって完全にそれが払拭されていましたね。カンパニョーロ、スラム、シマノと3社それぞれ特徴あるコンポーネントを作っていますが、9000系デュラエースはトータルで見た際に「頭一つ完全に抜けだしたな」と感じました。


「従来のゴチッとした感覚が皆無で、剛性感と軽さあふれる操作感」諏訪孝浩(BIKESHOP SNEL)

私も戸津井さんとほぼ一緒の第一印象でしたが、おそらくほとんどのライダーが乗って使ってもその良さをすぐに感じ取れるでしょう。性能が全体的にレベルアップしていますが、その中でも特に輝くのはフロントディレイラーをアウターへと上げるのストレスフリーでしょう。今まではどうしても「よいしょ」と、少し力を入れて変速する動作が必要でしたが、リアディレイラーと同じような気軽さでチェーンが上がってくれました。曖昧な動きが一切なく、いわばDi2のような正確さ・精度であっと言う間に変速してくれました。

「従来のゴチッとした感覚が皆無で、剛性感と軽さあふれる操作感」諏訪孝浩(BIKESHOP SNEL)「従来のゴチッとした感覚が皆無で、剛性感と軽さあふれる操作感」諏訪孝浩(BIKESHOP SNEL)

シフトレバーの操作感は非常に軽く、上質ですね。軽さはあるものの、ふにゃふにゃとした弱さは全く感じず、しっかりとしたクリック感があります。「今までに無いようなシマノっぽさ」と言ったら良いでしょうか。その中でもフロント変速は際立つ部分で、レバーを倒した瞬間にもう変速していて驚きました。以前はこすりながら変速するような抵抗感があったのですが、それも皆無です。

「従来のゴチッとした感覚が皆無で、剛性感と軽さあふれる操作感」諏訪孝浩(BIKESHOP SNEL)「従来のゴチッとした感覚が皆無で、剛性感と軽さあふれる操作感」諏訪孝浩(BIKESHOP SNEL) フィーリングとして、硬いか柔らかいか?と聞かれたら「硬い」と答えると思います。ブレーキのコントロールもシフティングも、カッチリと剛性感があって、だけれど非常に軽い。7900系から比較すると一瞬頼りなさも感じてしまうほどなのですが、スプロケの歯の下に誤差なくチェーンが移動してくれるような正確さ・精密さがあります。

電動コンポを初めて触った時にも同じでしたが、むやみに変速してみたくなるほど凄いですね(笑)。今までのゴチッとした変速感はどうも好きになれかったのですが、こうも違うと...。
このフィーリングが今後リリースされるであろうアルテグラや105にも生かされてくれば、それはもう大ヒット間違いないでしょう。
シマノの11Sコンポのこれからの展開を期待させる、そんなフィーリングがありました。

11スピードのスプロケット  シマノの現行10スピードカセットハブ仕様ホイールには取り付けられない11スピードのスプロケット シマノの現行10スピードカセットハブ仕様ホイールには取り付けられない




インプレライダーのプロフィール

戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。

OVER-DOバイカーズサポート


諏訪孝浩諏訪孝浩 諏訪 孝浩(BIKESHOP SNEL)
バイクショップSNEL代表。自転車歴26年、過去にオランダのアマチュアチームに3シーズン在籍しクリテリウムに多数参戦。オランダクラブ内クリテリウム選手権3位など。
2008年3月に東京都大田区にショップをオープン。オランダで色々なショップを見てきた経験を元に、独自のセンスでショップを経営中。主にシクロクロスをメインに参戦し、クラブ員の約半数がシクロクロスに出場している。

BIKESHOP SNEL


ウェア協力:biciBISLEY 

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