2012/10/15(月) - 19:13
10月7日にフランス、オルナンにて開催されたUCI MTBマラソン世界選手権。84kmに及ぶワンウェイのコースは悪天候により完全なマッドコンディションとなった。門田基志(ジャイアント)、松本駿(トレック)と共に過酷なレースを完走した池田祐樹(トピーク・エルゴン)によるレポートをお届けする。
チューリッヒ(スイス)にバンコク(タイ)経由でレース4日前に到着し、車の移動にて会場のあるオルナン(フランス)に入った。現地でのガイドやフィード・テクニカルサポートとしてドイツ在住の木山さんがアテンドしてくれていたので移動、言語の問題などを最小限のストレスでクリアできた。
合流した日本代表選手の門田選手と松本選手とできる限りコースを把握するために試走を繰り返した。
天候は雨が続いていた影響でコースは完全な泥コンディション。試走の段階からかなり苦戦し、タイヤのチョイスや泥対策を考慮した機材準備が必須となった。ドライなコンディションだとしても相当なハードコースな上に、泥により滑る危険なセクション、担ぐセクションが増えて想像以上の過酷なレースが予想された。
日本での泥レース経験が豊富な門田選手と松本選手も今回の泥条件には驚かされていたようだ。私は泥経験が少なく、苦手意識があったので先輩選手二人のアドバイスを頂きながら慎重に準備を進めた。
前日には藤本選手とサポートグループと合流。サポート陣は7つもあるフィード・テックゾーンを全て前日のうちに車で回り、場所確認をしてくれた。本当にありがたい。
当日、6時起床。明け方からすでに雨が降り始めていたが、気持ちの準備はできていた。泥対策、寒さ対策、補給計画も全て整い、レース会場へと向かった。世界ランキングでのコールアップなので最後列からのスタートとなった。いつかは日本でもポイントレースを作り、この順番も前へと上げていきたい。
146人がスタートの号砲と共に一斉全力スタート。上から降る雨と下から巻き上がる泥しぶきで視界はほぼゼロ。路面状況も見えず、落車もあり、非常に危険な状況だったが乗り遅れないためにも必死に着いて行った。最初の平坦セクションは集団の超高速ペース。次に来る長い登りは後半戦を意識しながら自分のペースをキープ。
泥セクションはたくさんのライダーで路面が掘り返され、試走時よりも難易度は格段にアップしていた。冷静かつ、攻め気を忘れずに下った。
足の調子は悪くないが、普段痛くならない腰も痛み、なかなか本調子のエンジンがかからないのがもどかしい。3週間前の王滝の右ハムストリングス肉離れで練習できなかった影響だろうか。しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。レース中に一切の言い訳はない。前を見るしかない。
次第に泥がバイクの駆動部に積もり始めて、ギヤチェンジが上手くいかなくなる。ボトルのスポーツドリンクを吹きかけて泥を落とすが、フロントはビッグリングに固定されて動かない。何度か止まって、泥を掻き出すがすぐに同じ症状になってしまう。
焦る気持ちがこみ上げてくるが、立ちこぎを多用してパワーでとにかく踏んだ。気持ちが吹っ切れたためか、前のライダー達を徐々に追い抜きはじめた。足の強いドイツの選手とスイスの選手に平坦と登りで後ろに着き、高速ペースにのっかることができた。まだまだこれからだ。
距離が短い女性選手達のコースに合流し、少しずつ追い抜き始める。上位の女性選手達の強さと追い込み具合には心底驚かされた。下りでも登りでもほぼ変わらないスピードで着いてくる。男子選手が抜かしても抜き返すぐらいの勢いで必死の形相をして競い合ってくる。日本の女子選手にもこの素晴らしい走りをぜひ見てもらいと感じた。
第4フィード手前の直滑降の泥の下りで前にいた女性選手が落車。かなりのスピードが出ていたので避けきれずに彼女のバイクにクラッシュして派手に落車。
顔を含め、身体のあちこちを擦りむき、強打したがなんとか動くようだ。バイクはステムとサドルが曲がったが、修復可能な範囲。泥でボルトの穴がふさがれていたので木の枝で掻き出してトピークミニ20プロで修復。アドレナリン効果で痛みもあまり感じずに、すぐにレースを続行。
フィードゾーンではサポーターが日本人トップからのタイム差を教えてくれる。サポーターの人数が限られていたため、日本人トップから30分以上遅れたらボトルだけ置いて先頭のフィードを優先してサポーターは次のフィードゾーンへ移動する、というルールを決めていた。門田選手と松本選手はほぼ同スピードで前にいるようだ。まずは二人の位置に追いつきたいがその数分差が埋まらない。
コース途中、山中にいくつかある小さな集落の中を駆け抜ける。歴史あるフランスの古い建物が海外レースに来ていることを改めて実感させてくれる。コース上にいる観客は見どころをしっかり抑えていることも興味深い。過酷なセクションには必ずと言ってよいほど声援が聞こえてくる。アクセスが非常に難しく、断崖絶壁の上を走るダイナミックでスリリングなセクションにも観客がいたことには驚かされた。
後半は生乾きの泥セクションが多くなり、タイヤにつまって乗ることができない場面が増えてきた。降りるタイミング、泥の乗り方、歩き方、メカなどの対処方法に戸惑い、再び周りから遅れ始める。ここで経験不足が露呈されてしまった。
それでも試行錯誤を繰り返し、慣れてきた感じだが前との差は離れるばかり。
涙が出るほど悔しくて仕方がないが、今はこの瞬間でできることを精一杯やるしかない。世界に挑戦するためにフランスまで来ているのだ。応援してくれるたくさんの人に応えるためにも絶対に心だけはあきらめてはいけない。カッコ悪くても最後まであがくのだ。
最終フィードにいるサポーターも最後までしっかり声掛けをしてドリンクと元気を渡してくれた。泥で固まった重いギヤが足に堪えるが、フィニッシュまで強く踏み抜くことが今できる最低限の仕事。誰かも判別できないほどの泥だらけになり、身体も機材もこれ以上ないくらいボロボロでのフィニッシュ。かなりの選手が棄権したが日本人選手は全員完走。
機材、精神、体力、技術のすべてを試された今回のレース。トラブルはあったにしろ、ぐうの音もでないほど完全に打ちのめされた。世界との圧倒的な差。自分自身の未熟さ。
今からトレーニング計画を一から見直し、世界のトップで通用するライダーになるために出直す必要がある。しかし、通用する部分も見えている。向上できる部分も見えている。レーサーとして出場するからには世界であろうとなんであろうと目指すはトップ。
MTBマラソン世界選手権は年々規模が大きくなり、競技レベルが上がってきていることも見逃せない。来年はその流れに負けないためにもチームジャパン一同気を引き締め、チーム一丸となり、成長した姿で世界に挑戦したい。
たくさんの応援とサポートありがとうございました。特に現地でサポートしてくれた皆様には心から感謝を申し上げます。(池田祐樹)
UCI MTBマラソン世界選手権
結 果:79位 (147人出走、91人完走)
タイム:5:50
場所:オルナン、 フランス
開催日時:2012年10月7日
コースコンディション:泥、雨
レース距離:84キロ(ワンウェイ)
report:Yuki.Ikeda
チューリッヒ(スイス)にバンコク(タイ)経由でレース4日前に到着し、車の移動にて会場のあるオルナン(フランス)に入った。現地でのガイドやフィード・テクニカルサポートとしてドイツ在住の木山さんがアテンドしてくれていたので移動、言語の問題などを最小限のストレスでクリアできた。
合流した日本代表選手の門田選手と松本選手とできる限りコースを把握するために試走を繰り返した。
天候は雨が続いていた影響でコースは完全な泥コンディション。試走の段階からかなり苦戦し、タイヤのチョイスや泥対策を考慮した機材準備が必須となった。ドライなコンディションだとしても相当なハードコースな上に、泥により滑る危険なセクション、担ぐセクションが増えて想像以上の過酷なレースが予想された。
日本での泥レース経験が豊富な門田選手と松本選手も今回の泥条件には驚かされていたようだ。私は泥経験が少なく、苦手意識があったので先輩選手二人のアドバイスを頂きながら慎重に準備を進めた。
前日には藤本選手とサポートグループと合流。サポート陣は7つもあるフィード・テックゾーンを全て前日のうちに車で回り、場所確認をしてくれた。本当にありがたい。
当日、6時起床。明け方からすでに雨が降り始めていたが、気持ちの準備はできていた。泥対策、寒さ対策、補給計画も全て整い、レース会場へと向かった。世界ランキングでのコールアップなので最後列からのスタートとなった。いつかは日本でもポイントレースを作り、この順番も前へと上げていきたい。
146人がスタートの号砲と共に一斉全力スタート。上から降る雨と下から巻き上がる泥しぶきで視界はほぼゼロ。路面状況も見えず、落車もあり、非常に危険な状況だったが乗り遅れないためにも必死に着いて行った。最初の平坦セクションは集団の超高速ペース。次に来る長い登りは後半戦を意識しながら自分のペースをキープ。
泥セクションはたくさんのライダーで路面が掘り返され、試走時よりも難易度は格段にアップしていた。冷静かつ、攻め気を忘れずに下った。
足の調子は悪くないが、普段痛くならない腰も痛み、なかなか本調子のエンジンがかからないのがもどかしい。3週間前の王滝の右ハムストリングス肉離れで練習できなかった影響だろうか。しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。レース中に一切の言い訳はない。前を見るしかない。
次第に泥がバイクの駆動部に積もり始めて、ギヤチェンジが上手くいかなくなる。ボトルのスポーツドリンクを吹きかけて泥を落とすが、フロントはビッグリングに固定されて動かない。何度か止まって、泥を掻き出すがすぐに同じ症状になってしまう。
焦る気持ちがこみ上げてくるが、立ちこぎを多用してパワーでとにかく踏んだ。気持ちが吹っ切れたためか、前のライダー達を徐々に追い抜きはじめた。足の強いドイツの選手とスイスの選手に平坦と登りで後ろに着き、高速ペースにのっかることができた。まだまだこれからだ。
距離が短い女性選手達のコースに合流し、少しずつ追い抜き始める。上位の女性選手達の強さと追い込み具合には心底驚かされた。下りでも登りでもほぼ変わらないスピードで着いてくる。男子選手が抜かしても抜き返すぐらいの勢いで必死の形相をして競い合ってくる。日本の女子選手にもこの素晴らしい走りをぜひ見てもらいと感じた。
第4フィード手前の直滑降の泥の下りで前にいた女性選手が落車。かなりのスピードが出ていたので避けきれずに彼女のバイクにクラッシュして派手に落車。
顔を含め、身体のあちこちを擦りむき、強打したがなんとか動くようだ。バイクはステムとサドルが曲がったが、修復可能な範囲。泥でボルトの穴がふさがれていたので木の枝で掻き出してトピークミニ20プロで修復。アドレナリン効果で痛みもあまり感じずに、すぐにレースを続行。
フィードゾーンではサポーターが日本人トップからのタイム差を教えてくれる。サポーターの人数が限られていたため、日本人トップから30分以上遅れたらボトルだけ置いて先頭のフィードを優先してサポーターは次のフィードゾーンへ移動する、というルールを決めていた。門田選手と松本選手はほぼ同スピードで前にいるようだ。まずは二人の位置に追いつきたいがその数分差が埋まらない。
コース途中、山中にいくつかある小さな集落の中を駆け抜ける。歴史あるフランスの古い建物が海外レースに来ていることを改めて実感させてくれる。コース上にいる観客は見どころをしっかり抑えていることも興味深い。過酷なセクションには必ずと言ってよいほど声援が聞こえてくる。アクセスが非常に難しく、断崖絶壁の上を走るダイナミックでスリリングなセクションにも観客がいたことには驚かされた。
後半は生乾きの泥セクションが多くなり、タイヤにつまって乗ることができない場面が増えてきた。降りるタイミング、泥の乗り方、歩き方、メカなどの対処方法に戸惑い、再び周りから遅れ始める。ここで経験不足が露呈されてしまった。
それでも試行錯誤を繰り返し、慣れてきた感じだが前との差は離れるばかり。
涙が出るほど悔しくて仕方がないが、今はこの瞬間でできることを精一杯やるしかない。世界に挑戦するためにフランスまで来ているのだ。応援してくれるたくさんの人に応えるためにも絶対に心だけはあきらめてはいけない。カッコ悪くても最後まであがくのだ。
最終フィードにいるサポーターも最後までしっかり声掛けをしてドリンクと元気を渡してくれた。泥で固まった重いギヤが足に堪えるが、フィニッシュまで強く踏み抜くことが今できる最低限の仕事。誰かも判別できないほどの泥だらけになり、身体も機材もこれ以上ないくらいボロボロでのフィニッシュ。かなりの選手が棄権したが日本人選手は全員完走。
機材、精神、体力、技術のすべてを試された今回のレース。トラブルはあったにしろ、ぐうの音もでないほど完全に打ちのめされた。世界との圧倒的な差。自分自身の未熟さ。
今からトレーニング計画を一から見直し、世界のトップで通用するライダーになるために出直す必要がある。しかし、通用する部分も見えている。向上できる部分も見えている。レーサーとして出場するからには世界であろうとなんであろうと目指すはトップ。
MTBマラソン世界選手権は年々規模が大きくなり、競技レベルが上がってきていることも見逃せない。来年はその流れに負けないためにもチームジャパン一同気を引き締め、チーム一丸となり、成長した姿で世界に挑戦したい。
たくさんの応援とサポートありがとうございました。特に現地でサポートしてくれた皆様には心から感謝を申し上げます。(池田祐樹)
UCI MTBマラソン世界選手権
結 果:79位 (147人出走、91人完走)
タイム:5:50
場所:オルナン、 フランス
開催日時:2012年10月7日
コースコンディション:泥、雨
レース距離:84キロ(ワンウェイ)
report:Yuki.Ikeda