超級山岳モンヴァントゥーにゴールするドーフィネ・リベレ第5ステージは、最後の上りで飛び出したシルヴェスタ・シュミット(ポーランド、リクイガス)とアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)がステージ優勝とリーダージャージを分け合った。

モンヴァントゥーに向かって逃げ続けるフレデリック・ヴィレムス(ベルギー、リクイガス)らモンヴァントゥーに向かって逃げ続けるフレデリック・ヴィレムス(ベルギー、リクイガス)ら photo:Cor Vosツール前哨戦ドーフィネは5日目に最大の難所を迎えた。コースは標高1909mの超級山岳モンヴァントゥーにゴールする154kmで、ラスト22kmは禿げ山に向かって登りっぱなし。この難関ステージでアタック合戦の末に飛び出したのは、ホセルイス・アリエッタ(スペイン、アージェードゥーゼル)を含む4名だ。

最大8分25秒のリードを得た逃げグループは、4分50秒のリードを保ったまま超級山岳モンヴァントゥーに突入。しかし勝負のかかったメイン集団のペースアップにより、そのタイム差は瞬く間に縮小した。

メイン集団はサイレンス・ロットがコントロールして一路モンヴァントゥーに向かうメイン集団はサイレンス・ロットがコントロールして一路モンヴァントゥーに向かう photo:Cor Vosラボバンクがペースを上げるメイン集団から、最初に動いたのはリクイガス勢。シュミットに連れられたイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)がアタック。総合ですでに遅れていたバッソを見送ったメイン集団では、ラスト10kmでディフェンディングチャンピオンが動く。総合で1分54秒遅れのバルベルデが鋭いアタックを決めた。

バルベルデは先に飛び出していたバッソらに追いつき、更には先頭を逃げ続けていたアリエッタまでも吸収。ペースを弱めないバルベルデに食らいついたのは、バッソのアシストを務めていたシュミットだけだった。

モンヴァントゥー序盤はラボバンクが集団を牽き続けるモンヴァントゥー序盤はラボバンクが集団を牽き続ける photo:Cor Vos上りを進むにつれて木々は姿を消し、風が直接選手たちに襲いかかる。この強風のコンディションの中、リーダージャージ奪取という強い信念をもったバルベルデとステージ優勝狙いのシュミットはメイン集団を2分以上引き離した。

メイン集団ではヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)やロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)、新鋭のヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)らがアタックを仕掛けたが成功せず、総合首位陥落の危機にあるカデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)が先頭を牽引。アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)は最後まで動かなかった。

モンヴァントゥーでアタックを成功させたイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)モンヴァントゥーでアタックを成功させたイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) photo:Cor Vosやがてラスト1kmを切ると、ステージ優勝を目前にしたシュミットが一気にペースダウン。「ゴールが近づくと、緊張で止まってしまった。吐きそうになって、文字通り脚が止まったんだ」(シュミット)。しかし何とか持ち堪えてペースを取り戻し、最後はバルベルデにステージ優勝を譲られる形で先頭でガッツポーズ。2000年のプロ入り以降、ずっとアシストとして走ってきたシュミットが、栄えあるプロ初勝利を飾った。

レース後「バルベルデがステージ優勝を譲るという協定があったのか?」という質問には「いや、言葉での約束は無く、自然と僕にステージ優勝が巡ってきた。2人とも違った目標があって、バルベルデはリーダージャージ獲得を目指していた。僕の狙いはステージ優勝で、彼はそれも理解していた。こうなったのは自然の流れだ」と語る。バルベルデとの間には、暗黙の了解、“見えない紳士協定”があった。

決して離れないアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)とカデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)決して離れないアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)とカデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット) photo:Cor Vos山岳スペシャリストとして活躍するシュミットは、これまでクネゴやバッソ、シモーニに尽くしてきた。「ツール・ド・ロマンディとこのドーフィネは、数少ない総合成績を狙えるステージレース。ジロなどのグランツールでは、キャプテンのために働かなければならないけど、ドーフィネのようなレースでは、少しは自分を表現出来る。キャプテンの許しを得て、自分の勝利を狙えるんだ」。

「これは自身初のモンヴァントゥーではない。2007年にも上ったことがあって(ドーフィネ第4ステージ)、その時は先頭を走りながらもメイン集団に捉えられ、クリストフ・モローに次いで2位だった」。

先頭で頂上に向かうアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)とシルヴェスタ・シュミット(ポーランド、リクイガス)先頭で頂上に向かうアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)とシルヴェスタ・シュミット(ポーランド、リクイガス) photo:Cor Vosサエコ時代の2004年のジャパンカップで3位、ランプレ時代の2006年は5位。グランツールではアシストとして活躍しながらも総合10〜20台の成績を残す。昨年はドーフィネとツール・ド・ロマンディで総合8位フィニッシュ。プロ入り以降ずっとイタリアチームで走っているためイタリア語は堪能で、物静かだが誠実で気さくな人柄もアシストとして高評価を受けている要因だ。

ガゼッタ紙によると、この日アタックしながらも下位に沈んだバッソは、発熱によりゴール後にレースリタイアを決めた。シーズン前半戦を闘い終えたバッソはしばらくの休養をとり、ブエルタ・ア・エスパーニャと世界選手権に向けて再び動き出す予定だ。

禿げ山を上るメイン集団、先頭はカデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)禿げ山を上るメイン集団、先頭はカデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット) photo:Cor Vos「今日はモンヴァントゥーの上り始めから調子の良さを感じていた。一方でエヴァンスは調子が悪そうだったからゴールまで10kmを残してアタックしたんだ。それまで逃げていた選手を一人一人パスしながら、エヴァンスを突き放そうとハイペースで上り続けた」。そう語るのはエヴァンスを2分10秒引き離すことに成功し、リーダージャージ奪取に成功したバルベルデ。

「上りで最後まで付いてきたのがシュミット。彼との協調体制は非常に有益で、特に風の強い区間で彼の存在が際立ったよ。彼がステージ優勝するのは当然の流れだ」。この動きに関してシュミットは「経験豊かなバルベルデはリーダーとしての品格を見せてくれた」と賞賛している。

ガッツポーズでゴールするシルヴェスタ・シュミット(ポーランド、リクイガス)ガッツポーズでゴールするシルヴェスタ・シュミット(ポーランド、リクイガス) photo:Cor Vos大会連覇に向けて一日で形勢を逆転させたバルベルデは「ドーフィネを勝ち取るために、今日は最初からアタックする予定だった。でもこの1ステージでリーダージャージを奪い取れるなんて想像していなかった」と、少し驚いた様子。「まだ難易度の高い山岳ステージが残っているけど、もう難所は過ぎた。最終日まで総合首位の座を明け渡す気はない」。ツール出場に黄信号が灯り、他のライバルたちよりモチヴェーション高くドーフィネに挑んでいるハズのバルベルデは、果たしてリーダージャージを守りきることが出来るだろうか?

山岳で攻撃を仕掛けると見られたアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)は、上りでエヴァンスのマークに徹し、自ら動くことはなかった。2007年のツール覇者は「『今日はステージ優勝も総合成績ジャンプアップも狙わない』というのがチームの戦略だった。ツールを見据えて全力走行せず、エネルギーをセーブするのが目的だった」と語る。

前年度覇者のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)がリーダージャージ獲得前年度覇者のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)がリーダージャージ獲得 photo:Cor Vos「モンヴァントゥーのラスト数キロは、いつも通りとても風が強かった。この風がレースに大きく影響して、仮に集団から飛び出して先頭(バルベルデ)を追っても、風を一身に受け、力を浪費するだけで集団に引き戻される。アイマル(スベルディア)が前を逃げていたことは、僕が動かずに済むいい口実になったよ」。

モンヴァントゥーの上り序盤でバルベルデと言葉を交わしていたというコンタドール。「バルベルデは僕に今日の戦略を聞いてきたんだ。僕がエヴァンスをマークに徹することを告げると彼はアタック。攻撃を成功させたアレハンドロを賞賛したい。エヴァンスは今日も強かったけど、終盤はずっと一人だった」。

「これからの山岳ステージでは、エヴァンスの動きに注意しつつ、“エネルギーセーブ”の戦略に沿って走る。ここまでのレース展開には満足しているよ。このドーフィネではまだスーパーなコンディションではない。まだトップコンディションではないことは好都合だ」。コンタドールはバルベルデから1分04秒、エヴァンスから48秒遅れの総合3位につける。

選手コメントはレース公式サイト、チーム(ケースデパーニュとアスタナ)のプレスリリースより。

ドーフィネ・リベレ2009第5ステージ結果
1位 シルヴェスタ・シュミット(ポーランド、リクイガス)4h05'04"
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)
3位 アイマル・スベルディア(スペイン、アスタナ)+1'14"
4位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)+1'50"
5位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)
6位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)+2'10"
7位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)+2'13"
8位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)
9位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)+2'16"
10位 ウラディミール・エフィムキン(ロシア、アージェードゥーゼル)+2'20"
65位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)+17'56"

個人総合成績
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)15h23'17"
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)+16"
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)+1'04"
4位 デーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン)+1'43"
5位 アイマル・スベルディア(スペイン、アスタナ)+2'21"
6位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)+2'34"
7位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)
8位 ミケル・アスタルロサ(スペイン、エウスカルテル)+2'44"
9位 シルヴェスタ・シュミット(ポーランド、リクイガス)+3'05"
10位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)+3'35"
82位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)+20'38"

ポイント賞
カデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)

山岳賞
シルヴェスタ・シュミット(ポーランド、リクイガス)

チーム総合成績
アスタナ

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