2012/02/01(水) - 00:40
今にも雨が降り出しそうな暗い空の下で開催されたシクロクロス世界選手権2日目。大会のクライマックス、男子エリートのレースは午後3時から開催されるが、朝早くから観客たちは行列をなして続々と会場に集まってきた。
人、人、人……。コース内は身動きが取れないほどの観客が集まった (c)Sonoko.Tanaka
ベルギーカラーに身を包み、頭にはスヴェン・ネイスの写真が (c)Sonoko.Tanaka大量の前売り券が売り切れ、当日券は発売しないと告知されたものの、会場には6万人を超える観客たちが集まったという(7万人という発表もあった)。
空には偵察用の警察ヘリコプターが見える。その光景は、何もない砂山に突然巨大遊園地が現れたようなイメージだった。
カラフルな応援グッズを身につけ、大量のアルコールとともに朝から観客たちのテンションは上がりっぱなし。ベルギー名物フリッツ(フライドポテト)やハンバーガー、ホットワインなどの屋台が軒を連ね、4,500人というVIPのための巨大な飲食テントも多く設けられた。会場内に移動式のATMを発見したときは、思わず笑ってしまったほど。
コースを渡るために行列ができる (c)Sonoko.Tanakaその観客の多さは主催者にとってはステータスとなるが、レースに関わる関係者から見れば、正直ちょっと恐るべきことでもあった。日本ナショナルチームも、チームパーキングがスタート地点やピットエリアから離れていたため、常に移動には時間的余裕をもち、限られたスタッフながらいかに確実に、そして効率的に動くか、たくさんの話し合いをした上でレースに挑んだ。
午後になるに連れ、予想どおりコース内の移動は困難を極め、身動きが取れなくなってしまうエリアも出てきた。通常、カメラマンたちはスタート地点に集まって、そこから撮影ポイントに移動し、フィニッシュに戻るという動きをするが、多くのカメラマンは、今回ばかりはスタート地点に行くのを諦め、レース開始1時間前に砂地セクションへ設けられたカメラマンゾーンへと移動したくらいだ。その観客の多さは異常なほどだった。
そもそもカメラマンの申請数も180人を超え、コース内での撮影は一切禁止。会場内4ヶ所のカメラマンゾーンへも限られたカメラマンのみが入れるシステムだった。
フリッツやホットドッグの屋台に集まる観客たち (c)Sonoko.Tanaka
大きなベルギー国旗を手に、会場へと集まる (c)Sonoko.Tanaka
悔しさに涙を浮かべた豊岡英子
まず11時にスタートしたのは女子。世界王者マリアンヌ・フォス(オランダ)が安定した強さで4連勝、通算5勝目の世界王者へと輝いた。日本から出走した豊岡英子(パナソニックレディース)は、最終周回を前にラップアウト。
豊岡は「いい状態で挑んだレースだったが、最終周回に入れなかったことを悔しく思う。しかし80%ルールで切られてしまったのは自分の実力の問題。支えてもらったスタッフには大変申し訳ない気持ちでいっぱいだが、また今後も頑張って上をめざしていきたい」と語り、悔しさに涙を浮かべるほどだった。
苦手な砂のセクションでは何度も何度も繰り返し練習をしていたが、世界トップの走りには届かなかった。
砂セクションを走る豊岡英子(パナソニックレディース) (c)Sonoko.Tanaka
砂のセクションを越える宮内佐季子(CLUB VIENTO)と豊岡英子(パナソニックレディース) (c)Sonoko.Tanaka
また世界選手権初参戦となる宮内佐季子(CLUB VIENTO)も豊岡と同じく最終周回を前にラップアウト。「出走前から基礎ができていないのはわかっていた。それが結果になってしまった。実力、テクニックともに足りていない。世界の速さを実感することができた」と振り返る。アドベンチャーレースやオリエンテーリングレースでも世界の舞台で活躍する宮内。シクロクロスの競技経験は浅いが、一人でひたむきに練習する姿が印象的だった。競技を始める女性ライダーの先頭に立って、これからも世界をめざしていく。
世界の壁を痛感した竹之内悠と辻浦圭一
そして頂点に達した興奮の中、開催された男子エリートカテゴリー。ニールス・アルベルト(BKCP・パワープラス)が独走で2度目のアルカンシェルを獲得。ジュニア、アンダー23、女子とオランダに獲られてしまった世界王座の座だったが、エリートカテゴリーではベルギーが7位までを独占し、「ナンバーワンはベルギーなんだ」とシクロクロス王国の意地を見せつけた。
砂地を走る辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー) (c)Sonoko.Tanaka
砂のセクションでバイクを押す竹之内悠(チームユーラシア) (c)Sonoko.Tanaka
日本勢は日本チャンピオンの竹之内悠(チームユーラシア)と辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)が参戦したが、10周回のレースのうち、竹之内は残り5周、辻浦は残り6周で降ろされてしまう結果となった。
完走者わずか24名。アルベルトの圧倒的な速さを言い訳にできるかもしれないが、強烈な悔しさを残す結果となってしまった。
便利な観戦グッズ(瓶ビールの空き箱) (c)Sonoko.Tanaka竹之内は言う。「レースを終えて、悔しさや喪失感が溢れてきた。今までやってきたことをすべて崩された感じがする。正直、厳しいレースになることはわかっていて、完走できるかの勝負でもあったと思うが、思う以上にラップタイムは伸びず、早い段階で切られてしまった。もっと走りたい気持ちだった。これからも諦めずにやっていきたい。本場のレースを多く走って、世界一をめざすだけ。向かっている方向は何も変わっていません」
一方の辻浦は体調不良を押してのレースだった。周りからは、出場をキャンセルし、即日本に帰ることを勧められるほどの状況下だったが、辻浦は世界選手権に出ることを選んだ。
早くもビールを飲み、”できあがった“観客たち (c)Sonoko.Tanaka辻浦は言う「昨年のドイツの世界選手権は機材トラブルもあり、結果を出すことができなかった。拠点をオランダからベルギーに移して3年目という節目。砂も苦手ではないので、1年前からプランを立てて楽しみにしていたレースだったが、よくない結果だった。思うようにいかないシーズンで、世界選手権だけはしっかり走りたいと思っていたが残念。来年に向けて、また頑張っていきたいと思う」。
世界のトップをめざし続けるナショナルチーム
昨年まで全日本選手権を9連覇し、誰よりも多く本場ヨーロッパのレースで走り続けている辻浦。意地やプライド、周りへの感謝の気持ちが、彼をスタートラインに立たせていた。辻浦は続ける。
「個人的にやっても限界がある。来年に向けてさまざまな問題があるが、結果を残す上で、全体的にナショナルチームとして、レベルの底上げを図る必要があると思う」。
砂のセクションでバイクを押す竹之内悠(チームユーラシア) (c)Sonoko.Tanakaシクロクロスは個人エントリーだが、スタッフとの連係やレースを走る環境が非常に大切になってくるという競技の特性がある。スタッフからも「今回の結果は日本の自転車競技界の結果でもあると思う」という声が多く上がった。
もちろん選手個々のさらなる努力や経験が必要になるが、選手1人でもがいても、世界の壁はまだまだ高い。
10年以上、本気で世界をめざし続ける選手がいるなかで、結果を残せない現状を前に、世界の厳しさを改めて痛感した日本ナショナルチーム。
近年、活躍がめざましいアメリカは来年の世界選手権開催国と言うこともあり、国をあげて選手たちをバックアップしている環境があるが、現在のところ、日本ナショナルチームが使える予算には限りがあり、選手やスタッフは経費の多くを自己負担して世界選手権に出場している。
結果を出すために必要なことは何か? もっと広い視野で、今までの反省を生かしながら、考え直す時期にきているようだ。今後、今回の悔しさをバネに、選手だけでなく、今回の悔しさを味わったすべての人の挑戦が始まっていくだろう。
ユニークな応援グッズが並ぶ (c)Sonoko.Tanaka
ベルギーの新聞に掲載された優勝選手予想の記事 (c)Sonoko.Tanaka
text&photo:Sonoko.Tanaka
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空には偵察用の警察ヘリコプターが見える。その光景は、何もない砂山に突然巨大遊園地が現れたようなイメージだった。
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悔しさに涙を浮かべた豊岡英子
まず11時にスタートしたのは女子。世界王者マリアンヌ・フォス(オランダ)が安定した強さで4連勝、通算5勝目の世界王者へと輝いた。日本から出走した豊岡英子(パナソニックレディース)は、最終周回を前にラップアウト。
豊岡は「いい状態で挑んだレースだったが、最終周回に入れなかったことを悔しく思う。しかし80%ルールで切られてしまったのは自分の実力の問題。支えてもらったスタッフには大変申し訳ない気持ちでいっぱいだが、また今後も頑張って上をめざしていきたい」と語り、悔しさに涙を浮かべるほどだった。
苦手な砂のセクションでは何度も何度も繰り返し練習をしていたが、世界トップの走りには届かなかった。
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世界の壁を痛感した竹之内悠と辻浦圭一
そして頂点に達した興奮の中、開催された男子エリートカテゴリー。ニールス・アルベルト(BKCP・パワープラス)が独走で2度目のアルカンシェルを獲得。ジュニア、アンダー23、女子とオランダに獲られてしまった世界王座の座だったが、エリートカテゴリーではベルギーが7位までを独占し、「ナンバーワンはベルギーなんだ」とシクロクロス王国の意地を見せつけた。
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完走者わずか24名。アルベルトの圧倒的な速さを言い訳にできるかもしれないが、強烈な悔しさを残す結果となってしまった。
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世界のトップをめざし続けるナショナルチーム
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もちろん選手個々のさらなる努力や経験が必要になるが、選手1人でもがいても、世界の壁はまだまだ高い。
10年以上、本気で世界をめざし続ける選手がいるなかで、結果を残せない現状を前に、世界の厳しさを改めて痛感した日本ナショナルチーム。
近年、活躍がめざましいアメリカは来年の世界選手権開催国と言うこともあり、国をあげて選手たちをバックアップしている環境があるが、現在のところ、日本ナショナルチームが使える予算には限りがあり、選手やスタッフは経費の多くを自己負担して世界選手権に出場している。
結果を出すために必要なことは何か? もっと広い視野で、今までの反省を生かしながら、考え直す時期にきているようだ。今後、今回の悔しさをバネに、選手だけでなく、今回の悔しさを味わったすべての人の挑戦が始まっていくだろう。
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text&photo:Sonoko.Tanaka
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