2012/01/22(日) - 07:48
アデレードから自走圏内にあるオールドウィランガヒルに、続々とサイクリストがやってくる。大歓声に後押しされるように宮澤崇史(チームサクソバンク)が逃げたが、オールドウィランガヒルで130kmに及ぶ逃げは終わった。「今日の走りに点数をつけるなら40点」。エースをアシストできなかったことに悔いが残る。
宮澤崇史は、マクラーレンヴェイルのスタート地点にやってくるなりビャルヌ・リース監督に指示され、サドルを5mmも上げた。翌日には更にサドルを上げ、そして3mm前に出すと言う。全てはリース監督がザッと見た印象によるもの。
いわばリースフィット。いくらツール・ド・フランスで総合優勝した人物とは言え、その感覚が日本人の身体に合っているとは思えないけど。
「今日は風が吹いているので、ウィランガの登りよりも前半の平坦周回コースで集団が割れる可能性がある。総合上位にいるルーク(ロバーツ)やセルジオ(パウリーニョ)を集団前方に連れて行って風から守るのが自分の仕事」。
そう言いながらスタートした宮澤は、スタート直後の動きに入り、6名の逃げに入った。自らアタックを仕掛けたのではなく、アタックをチェックした結果によるもの。
「集団前方に位置しながら人数が揃った逃げに警戒していた。まず集団から10名強が飛び出してそれに反応し、その後ろから飛び出したグループに合流。結局それが決まった」。
ビュンビュンと風が吹き、ブドウ畑がブンブンと揺れる中、宮澤ら6名がガンガン逃げる。特に前半の周回コースは平坦基調&直線基調&強風なので、まったく逃げ向きのコース&コンディションとは言えない。「もし指示があったら後ろに戻ればいいだけなので、とりあえず前のグループに入っていた」。
真っ白で真っ青な遠浅の砂浜をバックに、逃げグループが走る。それを追って、8分遅れで大集団がやってくる。本能的に海に飛び込みたくなるような暑さなのに、選手たちはみんな砂浜には目もくれず、内陸のオールドウィランガヒルに向かう。
レースのラジオツール(競技無線)を聞くための無線機がプレスセンターで貸し出されているものの、400ドル(32,000円)という驚愕の価格なのでさすがに借りない。
かといってヨーロッパレースとは違って特殊な周波数(軍用?)を使っているので、普段使っている無線機では聞けない。しかたなくラジオのライブ放送で情報を収集する。
「逃げているのはネイサン・ハース、スチュアート・オグレディ(中略)そして日本人としてダウンアンダー初出場のタカハシ・ミヤザワ」。・・・名字が2つあるがな!と突っ込みを入れながらオールドウィランガヒルに向かう。
平坦コースが多いダウンアンダーで、最も厳しい登りと言われるオールドウィランガヒル。昨年までカテゴリー山岳は1種類だけで、このオールドウィランガヒルも最終ステージに登場する標高差10mほどの丘も同じカテゴリー&同じポイントだった。今年はそんな理不尽なポイントシステムに変更が加えられ、1級〜3級までカテゴリーがついている。
ちなみに、カテゴリー山岳は他のステージレースと同様KOM(キング・オブ・マウンテン)と呼ばれている。当然と言えば当然だ、だ、だけど、アデレード近郊には標高のある山がない。そもそもオーストラリアには標高のある山が少ない(大陸の最高峰は大分水嶺山脈にある標高2228mのコジアスコ山)。
実際これまでダウンアンダーに登場したKOMは、セリックスヒル、メングラーズヒル、スミスヒル、オールドウィランガヒル・・・。つまりヒル(丘)ばっかり。KOMではなくてKOH(キング・オブ・ヒル)のほうがしっくりくる。丘陵賞ジャージ。
レースの公式発表によると、第5ステージの沿道に集まった観客は12万人。その数字の真偽はおいておいて、その大部分はオールドウィランガヒルに集まっていたと思う。アデレードから50kmほどの距離なので、みんな朝早くに市内で集合し、グループでローテーションを組んでオールドウィランガヒルに向かっていた。
逃げのメンバーを振り切ってオールドウィランガヒルで飛び出したのはネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・バラクーダ)。昨年オーストラリアのジェイコ・ヘラルドサンツアーと日本のジャパンカップでUCIプロチームライダーを退けて優勝した22歳の名前はすでに全国区(オーストラリア限定)。
ハースのウィランガ単独逃げが観客を盛り上げる。頂上通過後すぐにメイン集団に吸収される運命を辿ったが、レースを盛り上げる立役者だったことは間違いない。そして有名になっても気さくなキャラは変わらない。
そしてもう一人の主役はサイモン・ジェランス(オーストラリア)。グリーンエッジの期待、オーストラリア全体の期待を背負うジェランスの走りにウィランガが沸く。目の前で繰り広げられたジェランスとアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とのスプリント一騎打ちは今大会のクライマックスだった。
出場停止処分を終えてレースに戻ってきたバルベルデが、1月という早い時期に勝った。これは、処分中も乗り込んでいた証拠。処分前より幾分スリムになったバルベルデがグランツールで再び主役級の活躍することは想像に容易い。
ジェランスとバルベルデのタイム差は、ゼロ。昨年はマイヤーが2秒差で総合優勝を決めたが、今年はそれ以上にタイトな総合争い。ステージ優勝を飾った選手(バルベルデ)にリーダージャージが移ると思ったが、第5ステージまでの積算順位で上をいくジェランスが規定により首位に立った。
最終日にはスプリントポイントとゴールのトップスリーにボーナスタイムが与えられるが、現実的にバルベルデがスプリントでグリーンエッジの厚い壁を破れるとは思えない。両者の積算順位の差は73位あるので、仮にバルベルデが10位でゴールし、ジェランスが84位でゴールすればひっくり返るが、それも現実的ではない。
ここまで散々な結果に終わっていたグリーンエッジが最後の最後に大会制覇の王手をかけた。
ハースのアタックによって遅れた宮澤は、ウィランガでメイン集団からも遅れた。
「見せ場を作ることが出来た?」という問いには一切同意しない。「逃げたまま1回目のウィランガを通過して、後ろから合流するルークらを横風区間で守る役目を担うべきだった。でも登りで遅れ、その働きは出来なかった。実際ルークも横風区間で苦しんだと言っている」。
約130kmを逃げた宮澤は「今日の走りに点数をつけるなら40点。サドルは高かった」と神妙に笑う。チームサクソバンクのメンバーは距離を乗り込むため、アデレードまで50kmを自走で帰っていった。
text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
宮澤崇史は、マクラーレンヴェイルのスタート地点にやってくるなりビャルヌ・リース監督に指示され、サドルを5mmも上げた。翌日には更にサドルを上げ、そして3mm前に出すと言う。全てはリース監督がザッと見た印象によるもの。
いわばリースフィット。いくらツール・ド・フランスで総合優勝した人物とは言え、その感覚が日本人の身体に合っているとは思えないけど。
「今日は風が吹いているので、ウィランガの登りよりも前半の平坦周回コースで集団が割れる可能性がある。総合上位にいるルーク(ロバーツ)やセルジオ(パウリーニョ)を集団前方に連れて行って風から守るのが自分の仕事」。
そう言いながらスタートした宮澤は、スタート直後の動きに入り、6名の逃げに入った。自らアタックを仕掛けたのではなく、アタックをチェックした結果によるもの。
「集団前方に位置しながら人数が揃った逃げに警戒していた。まず集団から10名強が飛び出してそれに反応し、その後ろから飛び出したグループに合流。結局それが決まった」。
ビュンビュンと風が吹き、ブドウ畑がブンブンと揺れる中、宮澤ら6名がガンガン逃げる。特に前半の周回コースは平坦基調&直線基調&強風なので、まったく逃げ向きのコース&コンディションとは言えない。「もし指示があったら後ろに戻ればいいだけなので、とりあえず前のグループに入っていた」。
真っ白で真っ青な遠浅の砂浜をバックに、逃げグループが走る。それを追って、8分遅れで大集団がやってくる。本能的に海に飛び込みたくなるような暑さなのに、選手たちはみんな砂浜には目もくれず、内陸のオールドウィランガヒルに向かう。
レースのラジオツール(競技無線)を聞くための無線機がプレスセンターで貸し出されているものの、400ドル(32,000円)という驚愕の価格なのでさすがに借りない。
かといってヨーロッパレースとは違って特殊な周波数(軍用?)を使っているので、普段使っている無線機では聞けない。しかたなくラジオのライブ放送で情報を収集する。
「逃げているのはネイサン・ハース、スチュアート・オグレディ(中略)そして日本人としてダウンアンダー初出場のタカハシ・ミヤザワ」。・・・名字が2つあるがな!と突っ込みを入れながらオールドウィランガヒルに向かう。
平坦コースが多いダウンアンダーで、最も厳しい登りと言われるオールドウィランガヒル。昨年までカテゴリー山岳は1種類だけで、このオールドウィランガヒルも最終ステージに登場する標高差10mほどの丘も同じカテゴリー&同じポイントだった。今年はそんな理不尽なポイントシステムに変更が加えられ、1級〜3級までカテゴリーがついている。
ちなみに、カテゴリー山岳は他のステージレースと同様KOM(キング・オブ・マウンテン)と呼ばれている。当然と言えば当然だ、だ、だけど、アデレード近郊には標高のある山がない。そもそもオーストラリアには標高のある山が少ない(大陸の最高峰は大分水嶺山脈にある標高2228mのコジアスコ山)。
実際これまでダウンアンダーに登場したKOMは、セリックスヒル、メングラーズヒル、スミスヒル、オールドウィランガヒル・・・。つまりヒル(丘)ばっかり。KOMではなくてKOH(キング・オブ・ヒル)のほうがしっくりくる。丘陵賞ジャージ。
レースの公式発表によると、第5ステージの沿道に集まった観客は12万人。その数字の真偽はおいておいて、その大部分はオールドウィランガヒルに集まっていたと思う。アデレードから50kmほどの距離なので、みんな朝早くに市内で集合し、グループでローテーションを組んでオールドウィランガヒルに向かっていた。
逃げのメンバーを振り切ってオールドウィランガヒルで飛び出したのはネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・バラクーダ)。昨年オーストラリアのジェイコ・ヘラルドサンツアーと日本のジャパンカップでUCIプロチームライダーを退けて優勝した22歳の名前はすでに全国区(オーストラリア限定)。
ハースのウィランガ単独逃げが観客を盛り上げる。頂上通過後すぐにメイン集団に吸収される運命を辿ったが、レースを盛り上げる立役者だったことは間違いない。そして有名になっても気さくなキャラは変わらない。
そしてもう一人の主役はサイモン・ジェランス(オーストラリア)。グリーンエッジの期待、オーストラリア全体の期待を背負うジェランスの走りにウィランガが沸く。目の前で繰り広げられたジェランスとアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とのスプリント一騎打ちは今大会のクライマックスだった。
出場停止処分を終えてレースに戻ってきたバルベルデが、1月という早い時期に勝った。これは、処分中も乗り込んでいた証拠。処分前より幾分スリムになったバルベルデがグランツールで再び主役級の活躍することは想像に容易い。
ジェランスとバルベルデのタイム差は、ゼロ。昨年はマイヤーが2秒差で総合優勝を決めたが、今年はそれ以上にタイトな総合争い。ステージ優勝を飾った選手(バルベルデ)にリーダージャージが移ると思ったが、第5ステージまでの積算順位で上をいくジェランスが規定により首位に立った。
最終日にはスプリントポイントとゴールのトップスリーにボーナスタイムが与えられるが、現実的にバルベルデがスプリントでグリーンエッジの厚い壁を破れるとは思えない。両者の積算順位の差は73位あるので、仮にバルベルデが10位でゴールし、ジェランスが84位でゴールすればひっくり返るが、それも現実的ではない。
ここまで散々な結果に終わっていたグリーンエッジが最後の最後に大会制覇の王手をかけた。
ハースのアタックによって遅れた宮澤は、ウィランガでメイン集団からも遅れた。
「見せ場を作ることが出来た?」という問いには一切同意しない。「逃げたまま1回目のウィランガを通過して、後ろから合流するルークらを横風区間で守る役目を担うべきだった。でも登りで遅れ、その働きは出来なかった。実際ルークも横風区間で苦しんだと言っている」。
約130kmを逃げた宮澤は「今日の走りに点数をつけるなら40点。サドルは高かった」と神妙に笑う。チームサクソバンクのメンバーは距離を乗り込むため、アデレードまで50kmを自走で帰っていった。
text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
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