2012/01/18(水) - 05:47
レンタカーをゴール地点に向けて運転しながらレース実況のラジオ放送に耳を傾けていると、アナウンサーがある数字を2回連呼した。「気温は41度!41度!」しかも窓の外の乾いた樹々は風に吹かれて揺られている。ずっと向かい風だ。
朝、プレスセンターのホワイトボードには「VERY HOT "SLIP, SLOP, SLAP AND SLURP PLEASE(とても暑いので、服を着て、日焼けどめを塗って、帽子を被って、水を飲むように)"」という注意書きが登場していた。
確かに朝から太陽光線が肌にぐっさり突き刺さるような暑さ。アデレードの中心地から5kmほど北にあるプロスペクトのスタート地点に集まった観客は、選手が到着するまで建物の影に隠れている。"SLIP, SLOP, SLAP AND SLURP"を実践している人は多いが、それでも影があれば少しの時間でも逃げ込む。
「これサンオイルだったらどうしよう」という冗談を言いながら、スタート地点で宮澤崇史(チームサクソバンク)がSPF30+の日焼け止めを全身に塗り込む。
「今日はチームオーダーが無く、集団スプリントになればジョナサン(キャントウェル)。ゆっくり行けというオーダーです。風が強いなら逃げる日じゃない」。
この日はアデレードからクレアまで直線的に北上する。アデレードの市街地を抜けると、そこは遮るものが一切ない広大な平野。真向かいの風を受けながら、コースは平野を突っ切っていく。4人の逃げを見送ったメイン集団はこの向かい風ならびに横風区間で分裂。モトに乗って撮影していたフォトグラファー曰く「オランダのレースみたいだった!」そうだ。
気温41度という暑さの中で、しかもずっと向かい風というコンディション。必然的にレーススピードは落ちる。平坦基調のコースだったにも関わらず、ステージの平均スピードが32.7km/hだったという事実がその厳しさを物語っている。
選手たちはもちろん頻繁に水分を補給する。チームスカイはボトルを80本用意したものの、レース終盤にはすべて使い切ってしまったそう。
北上を続けるとやがて平野は波打ち始める。緩やかなアップダウンを繰り返しながら丘陵地帯へと入っていく。沿道には青々としたブドウ畑が整然と並んでいる。ゴール地点のクレアはワインの産地「クレア・バレー」の中心地だ。
逃げをすべて飲み込んだメイン集団は、予定時間を1時間近く過ぎてからクレアの街にやってきた。確かUCI(国際自転車競技連合)は下りゴールを禁じているが、クレアのゴール地点は下り基調。ラスト300mあたりから明らかに下りだ。
レースレポートでお伝えしたように、ラスト1kmを切って発生した落車には、多くの選手が巻き込まれた。映像を見ると、落車した選手に後続が突っ込み、避けきれない選手が沿道に逸れて大きな砂埃が立てていることが確認できる。
フレデリック・ゲドン(フランス、FDJ・ビッグマット)は病院でのX線検査の結果、骨盤の骨折が判明した。1971年10月生まれの40歳は、1997年に優勝したパリ〜ルーベを最後に引退する予定だったが、この骨折により現役引退を強いられる可能性が高い。
同じく病院に運び込まれたユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ベリソル)は首の第6頸椎を骨折している。
ハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、ガーミン・バラクーダ)は右腕をぶら下げながらゴール。典型的な鎖骨骨折のポーズだったため憶測が飛んだが、骨折は免れている。マッテオ・モンタグーティ(イタリア、アージェードゥーゼル)は鎖骨骨折の疑い(正式な発表待ち)。
ロビー・マキュアン(オーストラリア、グリーンエッジ)も落車に巻き込まれたが大事には至っていない。しかし落車によってグリーンエッジのUCIワールドツアーレース初ステージは良いところがないまま不発に終わっている。
沿道に立っていた70歳の女性も病院に運ばれたが、軽傷で済んでいると伝えられている。
落車に巻き込まれた宮澤崇史は、砂まみれになりながらトップから2分54秒遅れでゴールした。「手袋をしていてよかった」と話しながらチームカーに向かう。
「初戦から転んでしまった」。前日からレースに帯同し始めたビャルヌ・リース監督に労われながら、宮澤は笑顔で話す。「ちょっと痛いけど大丈夫。ケツがちょっと痛い。集団の前で落車が起こって、そこに突っ込む形になった。ブレーキングは間に合ったけど、地面が砂利だったのでどうしようもなかった。しょうがない」。
UCIワールドツアーレースの初戦を落車という形で終えた宮澤。しかしそれまでのレースは順調で、苦しいコンディションの中でも走れていた様子。「でもずっとメンバーと一緒に走っていたし、良いレースだったと思う。前半の横風区間で集団が割れた時は、久しぶりに血の味がした。最後はジョナサンのスプリントに持っていくつもりだったけど、集中力が続かなくて最後は後ろに下がってしまっていた。150kmにしては長く感じた。本当にきつかった」。
レース後、チームのメカニックは砂埃で真っ白になった宮澤のバイクを簡単にチェックし、素早くチームカーのキャリアに載せる。バーテープが破れているが、バイクとしては特に問題ないようだ。チームカーとチームバンに詰め込まれた選手たちは、追い風に押されながら、アデレードまで130kmの帰路についた。
text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
朝、プレスセンターのホワイトボードには「VERY HOT "SLIP, SLOP, SLAP AND SLURP PLEASE(とても暑いので、服を着て、日焼けどめを塗って、帽子を被って、水を飲むように)"」という注意書きが登場していた。
確かに朝から太陽光線が肌にぐっさり突き刺さるような暑さ。アデレードの中心地から5kmほど北にあるプロスペクトのスタート地点に集まった観客は、選手が到着するまで建物の影に隠れている。"SLIP, SLOP, SLAP AND SLURP"を実践している人は多いが、それでも影があれば少しの時間でも逃げ込む。
「これサンオイルだったらどうしよう」という冗談を言いながら、スタート地点で宮澤崇史(チームサクソバンク)がSPF30+の日焼け止めを全身に塗り込む。
「今日はチームオーダーが無く、集団スプリントになればジョナサン(キャントウェル)。ゆっくり行けというオーダーです。風が強いなら逃げる日じゃない」。
この日はアデレードからクレアまで直線的に北上する。アデレードの市街地を抜けると、そこは遮るものが一切ない広大な平野。真向かいの風を受けながら、コースは平野を突っ切っていく。4人の逃げを見送ったメイン集団はこの向かい風ならびに横風区間で分裂。モトに乗って撮影していたフォトグラファー曰く「オランダのレースみたいだった!」そうだ。
気温41度という暑さの中で、しかもずっと向かい風というコンディション。必然的にレーススピードは落ちる。平坦基調のコースだったにも関わらず、ステージの平均スピードが32.7km/hだったという事実がその厳しさを物語っている。
選手たちはもちろん頻繁に水分を補給する。チームスカイはボトルを80本用意したものの、レース終盤にはすべて使い切ってしまったそう。
北上を続けるとやがて平野は波打ち始める。緩やかなアップダウンを繰り返しながら丘陵地帯へと入っていく。沿道には青々としたブドウ畑が整然と並んでいる。ゴール地点のクレアはワインの産地「クレア・バレー」の中心地だ。
逃げをすべて飲み込んだメイン集団は、予定時間を1時間近く過ぎてからクレアの街にやってきた。確かUCI(国際自転車競技連合)は下りゴールを禁じているが、クレアのゴール地点は下り基調。ラスト300mあたりから明らかに下りだ。
レースレポートでお伝えしたように、ラスト1kmを切って発生した落車には、多くの選手が巻き込まれた。映像を見ると、落車した選手に後続が突っ込み、避けきれない選手が沿道に逸れて大きな砂埃が立てていることが確認できる。
フレデリック・ゲドン(フランス、FDJ・ビッグマット)は病院でのX線検査の結果、骨盤の骨折が判明した。1971年10月生まれの40歳は、1997年に優勝したパリ〜ルーベを最後に引退する予定だったが、この骨折により現役引退を強いられる可能性が高い。
同じく病院に運び込まれたユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ベリソル)は首の第6頸椎を骨折している。
ハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、ガーミン・バラクーダ)は右腕をぶら下げながらゴール。典型的な鎖骨骨折のポーズだったため憶測が飛んだが、骨折は免れている。マッテオ・モンタグーティ(イタリア、アージェードゥーゼル)は鎖骨骨折の疑い(正式な発表待ち)。
ロビー・マキュアン(オーストラリア、グリーンエッジ)も落車に巻き込まれたが大事には至っていない。しかし落車によってグリーンエッジのUCIワールドツアーレース初ステージは良いところがないまま不発に終わっている。
沿道に立っていた70歳の女性も病院に運ばれたが、軽傷で済んでいると伝えられている。
落車に巻き込まれた宮澤崇史は、砂まみれになりながらトップから2分54秒遅れでゴールした。「手袋をしていてよかった」と話しながらチームカーに向かう。
「初戦から転んでしまった」。前日からレースに帯同し始めたビャルヌ・リース監督に労われながら、宮澤は笑顔で話す。「ちょっと痛いけど大丈夫。ケツがちょっと痛い。集団の前で落車が起こって、そこに突っ込む形になった。ブレーキングは間に合ったけど、地面が砂利だったのでどうしようもなかった。しょうがない」。
UCIワールドツアーレースの初戦を落車という形で終えた宮澤。しかしそれまでのレースは順調で、苦しいコンディションの中でも走れていた様子。「でもずっとメンバーと一緒に走っていたし、良いレースだったと思う。前半の横風区間で集団が割れた時は、久しぶりに血の味がした。最後はジョナサンのスプリントに持っていくつもりだったけど、集中力が続かなくて最後は後ろに下がってしまっていた。150kmにしては長く感じた。本当にきつかった」。
レース後、チームのメカニックは砂埃で真っ白になった宮澤のバイクを簡単にチェックし、素早くチームカーのキャリアに載せる。バーテープが破れているが、バイクとしては特に問題ないようだ。チームカーとチームバンに詰め込まれた選手たちは、追い風に押されながら、アデレードまで130kmの帰路についた。
text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
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