福島晋一(トレンガヌ・プロアジア)が開催中のツール・ド・インドネシア(UCI2.2)で第8ステージに続いて第10ステージでステージ優勝した。福島晋一からの第8~第10ステージの参戦手記でお伝えする。

福島晋一(トレンガヌ・プロアジア)がツール・ド・インドネシア第10ステージを制する福島晋一(トレンガヌ・プロアジア)がツール・ド・インドネシア第10ステージを制する photo:Cycling Asia

第8ステージ Probolinggo-banyuwangi185km ついに優勝!

このレースの最長ステージは気温の上がるイーストジャヴァ。消耗戦が予想された。
海岸線を走るので風がきつい。スタート前、ワンカンポと風がきつくなったら一緒にペースをあげて、リーダーを苦しめようぜ。と話をした。

昨日とは違って、スタートアタックがあっさり決まって9分の差がついた。リーダーチームが追うがなかなかつまらない。
100km地点を過ぎて、横風が強くなったので香港と一緒にペースをあげた。しかし、やはり熱帯の風は気まぐれですぐに風向きが変わってしまう。結局、リーダーを置いて行くには至らなかった。
よく考えたら、総合から脱落している自分にはリーダーを置いていく必要がなく。総合に関係ない逃げで行けばいいのだが、どうしても総合を動かす方に動いてしまう。

本日唯一の山岳でワン・カンポがアタック。迷わず反応して、ワンカンポを引き連れて逃げると総合に関係ある選手がごっそり来てしまった。ここで総合に関係ない時自分は休んでもいいのだが、総合に関係ある選手の中にいっぱいいっぱいで引けない選手もいるので、結局自分が引かなくてはならない。
そうこうしているうちに、必死に引っ張るリーダーチームに追い付かれてしまった。

カウンターアタックが見事に決まり、10人ほどがいってしまい、集団はパレード状態。トレンガヌからもアシストのウマディが乗って行ったのでOK。だが、今日もステージ優勝は難しいな。やはり、獲れる時に捕っておかないとチャンスはいつまでも来ないな。
(マージャンと同じで、チャンスを逃すとツキが逃げると思ったかどうかはわからないが)と考えていたが、またアタックがかかり始めた。

自分は暑い時は小さいタオルを濡らしてヘルメットの後ろに充てている。後頭部に直射日光が当たるのを避けるのと水をかけた時に涼しさが長持ちするためであるが、見た目が目立つ。
これを外してアタックしたら、俺じゃないと思うかもしれないな。と残り20kmでタオルをとってアタックしてみた。

10人ほどの逃げが見事に決まり、同時に道がすごく悪くなり、道がくねり始めた。重い路面をガシガシ踏んで集団の視界から消えた。そこから、順調にペースを保って前を追った。

残り5km。前の集団が見え始めた。前は統制がとれておらず、アタック合戦になっている。
追いついた途端にギヤを2枚重くしてアタックした。振り向くと4人ほどの選手が抜け出して追ってきている。追いつかれないように踏みなおす。前に一人選手が逃げている。マレーシアのロー選手だ。
彼を抜いて、しばらくして先頭交代を要求すると「you win(お前が勝て)」という。

ツール・ド・インドネシア第8ステージでステージ優勝した福島晋一(トレンガヌ・プロアジア)ツール・ド・インドネシア第8ステージでステージ優勝した福島晋一(トレンガヌ・プロアジア) photo:CA PhotoGraphicその時初めて、自分が先頭にいる事を知った。(教えてくれてありがとう)
実はレースの情報が乏しく。状況が分かっていなかった。そこから、3km先頭固定で引きまくった。
最後にまさか刺してくる事はないだろうな?
「ゴールまで行ってしまえば、気が変わってさしてくることもあるかもしれない。今度2位だったら3回目だな。いや、俺と彼の関係でそれはない筈だ」
残り100mで彼は踏むのをやめた。久々に気持ちいいゴールだった。

今はツイッターやフェイスブックで多くの人と簡単に情報交換が出来る。優勝した後に、世界各国の友人からコメントをもらえるのは嬉しいことだ。ホテルにはプールがあり久々に泳いだ。
明日は朝バリ島に渡りキンタマーニ(覚えやすい名前だ)まで1600m登るステージ。逃げられれば逃げてみようと思っている。


第9ステージ Gilimanuk- kintamani 150km 山岳で勝利を逃す

朝5時半に起きて朝食をとり、慌ただしくホテルを出発。早めだったのでロビーでインターネットをしながら待っていると、香港チームがまだ食べている。ワンカンポと昨日のレースを話をしながら集合地点に行くと、もう、他の選手は出発してしまっていて少し焦ったが港まで無事着いた。
港では、海水パンツと足ひれをつけた男が気合十分でこっちに何か話しかけていると思ったらいきなり海に飛び込んだ。「コインを投げろ、俺がとってやる」というのだ。

出港前の船の上から、500ルピー(約5円)を投げると、彼は難なくそれをキャッチ。何の芸もない。
潜ってとってきてくれるのかと思ったのだが…。
なんだか白けていると男は船の前方に行って、客に叫んでいる。いまだ。
「おーい」と声をかけ、コインを見せるとコインを海に投げ入れた。
彼は慌てて「待て」という仕草をしたが全速力で泳いでしまったがコインは海の底。諦めってしまった。
なんだか、男の目が怒っている。足ひれ付けている意味ねぇジャン。

さて、船の中で携帯電話のチャージをしたが、電話番号を教えて後で自動的にチャージされる仕組みだが夜になってもいまだにチャージされない。騙されたと思う。
さて、会場についてトイレに行くと一回1000ルピー(10円)。持ってないというと、男は怒った顔になった。
金をとるくせに汚いトイレで手を洗う水も石鹸もない。しかし、安いから後で払っておいた。
とまあ、そんなことをしているうちにスタートの時間がやっと来てレースはスタート。

僕は予告通り、スタートアタックをしたが意表をついたアタックにも皆の反応はかなり良く。1列棒状でついてくる。失敗。

代わりにマッパリが乗った7人の逃げが決まった。暫くして、アタックした選手について行くと2人で抜け出すことに成功。前と2分。後ろと1分。暫く逃げたが、追いつかないので集団に戻る。

集団も前の7人をいいペースで追っている。総合で危ない選手がいる訳でもないのにリーダーチームを他のインドネシア人が助けている。買収されたのだろう。

100km走っていよいよ、登りに入った。ワンカンポに押されたインドネシア人が怒って喧嘩みたいになった。よく見るとさっき自分と一緒に前を追った奴だ。間に入ってなだめる。

マッパリが戻ってきた。具合が悪そうだ。こう配はきつくないが延々と続く登り。途中でアタックして5人で抜け出した。
先頭はCCNチームのフランス人が2分の差を保って逃げ続けている。オランダ人が一人、先頭交代に加わらないが他のインドネシア人はローテーションに入ってくれた。

山頂まで10kmで総合上位の集団に追いつかれる。そこでもう一度アタックするとさっきのオランダ人がついてきた。彼を引き連れて、山頂を通過。山岳賞1位通過。15ポイント獲得。

彼はほとんど引けないくせに下りでアタックした。この野郎!最初からそのつもりだったな、と思うが、彼との差が開いて行く。しかし、その後差が詰まってきて、追いついた。
すると奴は又自分の陰について出てこない。

途中で車に道を阻まれた先導者が止まっており、突っ込んでこけそうになった。残り4kmからは登りに入る。
いま思えばそこで彼をいじめておけばよかったが、自分も脚が攣りかけていたのでゆっくりとスプリントまで入ってしまった。
残り200mで平坦になったところでアウターにあげている内に、彼に行かれてしまい。差を詰めている内にゴール。何とも情けない。

しかし、ヨーロッパ人の端くれとして恥ずかしくないのか? 彼を祝福する気にもなれず、また2位おめでとうと言われても素直に喜べない。チームの雰囲気を悪くするから、2位でも喜んでいればいいのかもしれない。
スタッフのみんなも気を使って複雑な顔をしている。総合はポリゴンの選手からプランBの19歳の若者に移った。ここでリーダージャージを着るのが最高のタイミングだ。

明日は1600mからデンパサールの海まで降りる100km。なんというレースだろう。オランダ人がかっ飛んでいきそうだ。キンタマーニはカルデラ地形に湖が見える雄大なところです。


第10ステージ Kintamani-denpasar 102km ステージもう1勝!

朝6時半に目が覚めた。ルームメイトのアランマッサージャーはすでにいない。彼の携帯のアラームが鳴っている。さて、雄大な景色を見ようとカメラを持って外に出て湖畔に行って暫く写真を撮ったりしていた。スタートは11時なので時間がある。昨日は随分ビールを飲んでしまった。

普段レース中は控えているが、このように疲れて安全な食事が少ないと、ビールはちょうどいい炭水化物の補給になる。2位でゴールした事に対する悔しさもある。

今日のコースは標高1600mから一気に下りる。あり得ないコースだが、下り始めるとあっという間。幸い直線的な下りであったため集団がバラける事はなかった。
しかし、途中にある登り10kmは長かった。集団は15人ほどに減り、団体総合の逆転を狙う香港チームのインホンが単独で逃げる。
僕はその中で普通にしていたが、下りきったところでオランダ人2人が飛び出したのを見て慌てて追っかけた。一人で追い付き2人に。インホンを捕まえて4人になった。後続とは1分。
ゴールまでは30kmだ。デンパサール市内に入り、6kmを3周する。

オランダ人が話しかけてくる。あまり相手したくない。
「いくら払うから」と聞いてくる。「いいよ、スプリントしよう!」と却下。
昨日の復讐だ。2対1だが今日は絶対負けない。

最終周回に入って、インホンが「アイ ヘルプ ユー」と言ってくれた。
45秒差をつけて逃げ切ればいいインホンは、ステージは最初からいいと言っていた。最後の直線に入ってインホンが先行してくれた。

ツール・ド・インドネシア第10ステージを制した福島晋一(右/トレンガヌ・プロアジア)ツール・ド・インドネシア第10ステージを制した福島晋一(右/トレンガヌ・プロアジア) photo:Cycling Asia

いつも、先に仕掛けられて届かない。自分は2番手にいて、後ろからアタックをかけたオランダ人をまくっていった。並んだときに、オランダ人も踏み返す。こっちもさらに踏む。

一歩前に出たと思った所でゴール。勝ったと思ったからガッツポーズした。集団は15秒後ろまで来ていて
頭をマッパリがとって5位に入った。

ツール・ド・インドネシアが終わった。
総合優勝はプランBの19歳の若者、エリック・シェパート。マッパリが中間ポイント賞3位。自分が山岳賞3位に入った。

ステージ2勝、2位3回、3位1回、4位1回。記者会見で「イエロージャージをどうしてとれなかったのか」と聞かれたが、

「リーダージャージは価値があるもの。価値があるものを守るためには犠牲を伴う。今回はリーダージャージを手放したが、いつかはここでのリーダージャージも守りたい」と答えた。

text:Shinichi.Fukushima
photo:Cycling Asia
edit.Makoto.AYANO