2011/07/21(木) - 18:55
ツールは一路イタリアへ向かう。アルプス山岳の中では難易度が低めながら、キーとなる登り、そして危険な下りが含まれる重要なステージを前に、プロトンには緊張感が漂う。
駆けつけたノルウェー応援団と談笑するエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ) photo:Makoto Ayano前日と打って変わって爽やかに晴れ上がったガップ。周囲を山に囲まれたこの街の中心部の、昨日のゴール地点がスタートになる。
昨日勝ったフースホフトとボアッソンハーゲンが今日も詰めかけたノルウェー人観客のサインに応じる。
昨日の2位をまだ引きずっているボアッソンハーゲン。「昨日はスプリントのタイミングを待ちすぎたんだ。もう少し早く仕掛けていれば、トールに勝てたかもしれない。2対1スプリントは難しい。あまり経験がなかったんだ。でもすでに1勝しているからこのツールは良かったと言えるよ」
「コースはまた今日もフースホフト向きだ」というジャーナリストたちの予想が飛び交う。しかしよもやボアッソンハーゲンによって再びノルウェーの日になるとは、誰が予想しただろう?
ヴォクレールの緊張感はすでに頂点へ
日に日にヒートアップするヴォクレールの応援 photo:Makoto Ayanoユーロップカーのバスはマイヨジョーヌのトマ・ヴォクレールを待つファンですごい人だかり。人ごみを避けるように遠くに停めたバスなのに、ファンたちが詰めかけている。
ヴォクレールはバスから出てくると、黄色く塗られたコルナゴのバイクの入念なチェック。クイックレバーをわざわざ締めなおし、タイヤにゴミや傷が着いてないか点検。トマらしい笑顔はなく、しかしトマらしい眉間を寄せた困った顔つきで点検する。
大声援を受けて登場したトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) photo:Makoto Ayanoサインの求めはひっきりなし。スタートサイン台に向かうまでいつものように応じていたが、あまりにファンがたかるのでトマがとうとうキレた。ファンに向かって怒声を挙げてしまったのだ。
トマが大声で発したのは、「いい加減にしろ」の叫びだった(フランス語の「バカヤロウ」にあたる「ピュターン」までの表現ではない)。強い語気にファンたちは一瞬で静かになり、気まずい空気が流れる。トマの緊張感はすでに極限まできている。
前日に下りで苦しんだアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)とイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)が話し込む photo:Makoto Ayanoマイヨジョーヌを守る意欲。そしていつ失ってもおかしくない難ステージが続く。今日も削られるであろうタイム差に、精神的に追いつめられている気配に満ちている。しかし同時に、その集中力こそが連日の驚異的な走りを支えているのだろうとも思う。
マイヨ・アポアを着るファネンデルトのもとにはお揃いの続き文字「JELLE」Tシャツをきたベルギーからファンクラブが現れた。2位に続くサムエル・サンチェス(エウスカルテル)の調子がいいが、総合狙いのサンチェスの隙をついてポイントを重ねれば、こちらも最後までキープする可能性もある。
沿道に置かれた数々の絵 photo:Makoto Ayanoスタートラインに並ぶシュレク兄弟。だがふたりは離れた位置につく。ひとり集中しているフランク。そしてアンディはバッソと並んで何か相談中だ。昨日のステージの敗者ふたり。お互いダウンヒルが苦手なふたりが、今日もレース終盤に待つ危険な下りの対策を練っている? あるいは、コンタドール&サンチェス連合に対する、シュレク兄弟&バッソ連合の提案?
バッソは2009年ジロでこの後半のコースをレースで経験している。クネオ~ピネローロでで行われた2009年ジロ第10ステージでは、ペリツォッティとディルーカがプラマルティーノ峠で激突。ディルーカがステージ優勝し、バッソ自らはステージ7位で終えている。後半区間はそのステージで通った同じルート。そしてシュレク兄弟も下見で今日のコースは走っている。
コースはブリアンソンの旧市街をかすめ、セストリエールを越え、イタリアはピネローロを目指す。道路は広く、ひらけたところでは強い風が吹きつけていた。
見晴らしのいい沿道に観客の多さが目立つ。フランスの関心ごとはヴォクレールがなんとかマイヨを守ってくれること。ユニークな工夫を凝らした応援があちこちに。
そしてイタリアに入国してからは応援が国際色豊かに。イタリア人が黄色いツールのお土産Tシャツを着て応援しているのは見ていてとても違和感がある。5月にピンクに彩られた記憶が残る街が黄色くなっているのも同様に、少し変だ。でも思ったよりイタリア人の応援は少ないように感じた。逃げグループにはイタリア人が誰も入れず!
フラストレーションへのリベンジ 「ノルウェーの一日 」
2級山岳プラマルティーノ峠の下りを先頭でこなすエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ) photo:Cor Vosレースの勝負の鍵を握ったのはピネローロ郊外のプラマルティーノ峠。ゴールの8km手前に設定されるこの標高差537mの2級山岳は、木々に覆われたこのパンチ力のある登りだ。逃げ集団からアタックをかけたシルヴァン・シャヴァネルを追い、10秒の差をもって峠を先頭通過したボアッソンハーゲン。
ジョナタン・イヴェール(ソール・ソジャサン)、そしてマイヨジョーヌのトマ・ヴォクレールが同じ箇所で落車するなど、テクニカルな下りに多くの選手が苦しむ中、下りと平坦区間でリードを広げ、選手としてのクオリティの高さを証明した。
ゴール前でガッツポーズを見せるエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ) photo:Makoto Ayanoボアッソンハーゲンは言う。「ひとりでゴールに飛び込むなんて、すばらしい気分だ。今日のステージはどうしても勝ちたかった。昨日は勝利まであと一歩のところまできていながら2対1になってしまい、勝てなかった。そうなってはどうすることもできなかったから。
今日もまた調子が良くてアタックできる力があると感じたので行った。この勝利は昨日感じたフラストレーションへのリベンジだね。おかげでもうそれも忘れられる」。
この日もゴール地点にはノルウェー国旗が翻る photo:Makoto Ayano今ツールでステージ2勝目、そしてツールに出場しているもうひとりのノルウェー人トル・フースホフトのステージ2勝と合わせ、ノルウェーに2日連続の勝利とツール4勝目をもたらした。まさに「ノルウェーの一日」。
「ノルウェーにとっては、すばらしいツールになっている。僕たち(フースホフトとボアッソン)全2名のノルウェー人が4回もステージ優勝している。本当にすごい。いいツールを体験していると思う」。
ボアッソンハーゲンは事前に2009年ジロ第9ステージのビデオを何度も観て、このコースの下りについて予習していたという。
「下りが待ち遠しかった。ひとりになりたかったから登りではシャヴァネルに着いて行ってアタックし、下りはひとりになって自分のリズムで下れた。確かにとてもテクニカルな下りだったけれど、ひとりなら危険だとは思わなかった。もし事前にコースを知らなかったら集団で下っただろうし、違うことを言っていたと思う」。
アタッカーたちの最後のチャンス フランス人の勝利はゼロ?
1級山岳セストリエールでペレスを追うシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)ら photo:Makoto Ayano残りのステージの特性を考えると、実質上このステージが逃げて勝利を狙うアタッカーたちの最後のチャンスだった。そしてまだステージ優勝がないフランス人選手たちにとっても自国のグランツールで勝てる最後のチャンスだった。
第5ステージで落車し、リタイア寸前の身体の状態まで追い込まれたフランスチャンピオンのシルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)も逃げに乗った。
3番手でゴールに向かうシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)やサンディ・カザール(フランス、FDJ) photo:Makoto Ayanoシャヴァネルはプラマルティーノ峠でアタックするも、ホアッソンハーゲンに抜かれ、ゴールではサンディ・カザール(FDJ)とジュリアン・エルファレ(コフィディス)とともにフランス人3人の3位争いを繰り広げることになった。3位はカザール、シャヴァネルは5位に終わる。
シャヴァネルは言う「それでもハッピーだよ。今日はずっと逃げて前にいたんだ。もちろんツールでフランス人初の優勝を挙げたかった。僕みたいな逃げのスペシャリストにとっては今日が最後のチャンスだったんだ。
僕のアタックは早かったわけじゃない。ボアッソンハーゲン抜かれてから、彼に追いつくにはあの下りはコーナーが多くて危険過ぎた。でも、勝てなかった本当の理由はひとつ。彼はただ強かった。それ以上言うことは何も無いよ」。
カミカゼ・アタック コンタドールとサンチェス連盟再び
2級山岳プラマルティーノ峠で攻撃を仕掛けるサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)とアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Cor Vosプラマルティーノ峠では総合争いも激しく動いた。昨日の第16ステージの2級山岳マンス峠と同様、またしてもコンタドールとサムエル・サンチェスが上りでアタックを掛け、揃って逃げた。下りを得意とすることで有名なサンチェスがついていくのに苦しむほどのダウンヒル能力を披露し、下りきってからも2人で先頭交代しながらペダルを踏み続けた。
総合成績を上げたいという、お互いのメリットを共有するスペイン人の2人。チームを超えたこの同盟による逃げはゴール寸前200mでシュレク兄弟の引く主力集団に吸収されてしまい、失敗に終わった。
しかしタイム差こそつかなかったが、コンタドールはアンディとフランクのシュレク兄弟、カデル・エヴァンス、そしてマイヨジョーヌのヴォクレールたちにプレッシャーをかけ続けた。まだあるタイム差を返すべく、超級山岳の続く明日の第18ステージを前に惜しみなく脚を使ったコンタドール。結果的にはコースアウトして遅れたヴォクレールに対して、27秒を稼いだ。ちなみにコンタドールもこのコースは事前に下見していたという。
タイム返上に意欲的なコンタドール 攻めることができないアンディ
2級山岳プラマルティーノ峠でペースを上げるアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) photo:Cor Vosコンタドールは言う「とても危ない下りだった。前にいたからアタックできるチャンスが見えた。大事なのは毎日少しでもタイムを返すことだった。
今日は誰もが僕がアタックすることを知っていた。それが昨日との違いだ。天気が良かったのもアタックしやすかった。
2級山岳プラマルティーノ峠でペースを上げるイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Cor Vosシュレク兄弟がアタックしなかったことは驚きじゃないよ。でも僕は僕のレースをした。ヴォクレールはとてもとても凄い選手だから、彼から少しでもタイムを取り返したことはいいことだ」。
危険を冒さず、しかし辛うじてコンタドールに再びタイム差を返されるのを阻止したシュレク兄弟。アンディはふたたび登場した危険な下りに憤慨している。
「まただよ。今日のような下りを、コースに組む込む必要は全然ないよ!」
慎重にコマを進めるエヴァンス
アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)とサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)を捉えたメイン集団がゴール photo:Cor Vosエヴァンスはシュレク兄弟と同じ集団でフィニッシュした。危険を冒さないエヴァンスも慎重派のひとりだ。
「今日は昨日とはちょっと違った。コーナーが多かったし、路面はドライで、ずっと影になって暗かった。
アンディが上りをグループ先頭で通過し、たぶんヴォクレールが最初にアタックした。そしてコンタドールが行ったんだ」
先頭から4分26秒遅れでゴールするメイン集団 photo:Cor Vos「僕はアンディの後ろにいたからすぐに差がついた。アンディを追い越せなかった。道が暗くて細かったから良く見えず怖かったね。僕はリスクをとりたくはなかった。だけど下り終えたときに少し余裕があったし、僕らは人数が揃っていた。目の前でヴォクレールが2回コースがら飛び出した。だからもっと慎重にいくことにしたんだ」。
登りをこなし、安定したタイムトライアル能力をもつエヴァンスが総合争いにおいてまたひとつ有利にコマを進めた。
ガリビエ、ラルプデュエズの2つの難関山岳ステージが待ち構える。コンタドールに遅れなければ、タイムトライアルでは有利だ。しかしエヴァンスはコンタドールの強さをもはや認めざるをえない。
エヴァンスは言う「誰とのタイム差も失なうべきじゃないし、今のところ僕はアルベルトに対してかなり有利だ。だけど彼はかつての絶好調のときの走りを見せている。もっとタイム差が欲しいね。最後の個人タイムトライアルまでに5分か10分欲しいよ。そんなことは叶いそうもないけど」。
雪が待つ? ガリビエ峠フィニッシュのクイーンステージ
美しい山岳風景が広がるセストリエール photo:Cor Vos翌18ステージは今ツールの行方を決める最難関ステージとされている。ガリビエ峠がツールに登場した100周年目を祝い、その峠にフィニッシュする。
プロトンはまず大会最高地点である標高2744mの超級山岳アニュエル峠を越えてフランスに帰国。超級山岳イゾアール峠を経由して、超級山岳ガリビエ峠にゴールするというこの3連続超級山岳は、間違いなく今大会最強の組み合わせだ。
この日のステージでも周囲の山には真新しい冠雪が眺められた。ガリビエ峠にも積雪があったという情報だ。コース短縮の可能性は低そうだが、天候の悪化はツールの心配事の一つだ。
平均勾配5.1%の登りが23kmに渡って続くガリビエ峠フィニッシュ。強風が吹くことも予想されており、今までのステージとは比較にならないほどの大きなタイム差がつくと予想されている。
text:Makoto AYANO
photo:Makoto AYANO, CorVos
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「コースはまた今日もフースホフト向きだ」というジャーナリストたちの予想が飛び交う。しかしよもやボアッソンハーゲンによって再びノルウェーの日になるとは、誰が予想しただろう?
ヴォクレールの緊張感はすでに頂点へ
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トマが大声で発したのは、「いい加減にしろ」の叫びだった(フランス語の「バカヤロウ」にあたる「ピュターン」までの表現ではない)。強い語気にファンたちは一瞬で静かになり、気まずい空気が流れる。トマの緊張感はすでに極限まできている。
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コースはブリアンソンの旧市街をかすめ、セストリエールを越え、イタリアはピネローロを目指す。道路は広く、ひらけたところでは強い風が吹きつけていた。
見晴らしのいい沿道に観客の多さが目立つ。フランスの関心ごとはヴォクレールがなんとかマイヨを守ってくれること。ユニークな工夫を凝らした応援があちこちに。
そしてイタリアに入国してからは応援が国際色豊かに。イタリア人が黄色いツールのお土産Tシャツを着て応援しているのは見ていてとても違和感がある。5月にピンクに彩られた記憶が残る街が黄色くなっているのも同様に、少し変だ。でも思ったよりイタリア人の応援は少ないように感じた。逃げグループにはイタリア人が誰も入れず!
フラストレーションへのリベンジ 「ノルウェーの一日 」
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「ノルウェーにとっては、すばらしいツールになっている。僕たち(フースホフトとボアッソン)全2名のノルウェー人が4回もステージ優勝している。本当にすごい。いいツールを体験していると思う」。
ボアッソンハーゲンは事前に2009年ジロ第9ステージのビデオを何度も観て、このコースの下りについて予習していたという。
「下りが待ち遠しかった。ひとりになりたかったから登りではシャヴァネルに着いて行ってアタックし、下りはひとりになって自分のリズムで下れた。確かにとてもテクニカルな下りだったけれど、ひとりなら危険だとは思わなかった。もし事前にコースを知らなかったら集団で下っただろうし、違うことを言っていたと思う」。
アタッカーたちの最後のチャンス フランス人の勝利はゼロ?
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僕のアタックは早かったわけじゃない。ボアッソンハーゲン抜かれてから、彼に追いつくにはあの下りはコーナーが多くて危険過ぎた。でも、勝てなかった本当の理由はひとつ。彼はただ強かった。それ以上言うことは何も無いよ」。
カミカゼ・アタック コンタドールとサンチェス連盟再び
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しかしタイム差こそつかなかったが、コンタドールはアンディとフランクのシュレク兄弟、カデル・エヴァンス、そしてマイヨジョーヌのヴォクレールたちにプレッシャーをかけ続けた。まだあるタイム差を返すべく、超級山岳の続く明日の第18ステージを前に惜しみなく脚を使ったコンタドール。結果的にはコースアウトして遅れたヴォクレールに対して、27秒を稼いだ。ちなみにコンタドールもこのコースは事前に下見していたという。
タイム返上に意欲的なコンタドール 攻めることができないアンディ
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「まただよ。今日のような下りを、コースに組む込む必要は全然ないよ!」
慎重にコマを進めるエヴァンス
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アンディが上りをグループ先頭で通過し、たぶんヴォクレールが最初にアタックした。そしてコンタドールが行ったんだ」
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ガリビエ、ラルプデュエズの2つの難関山岳ステージが待ち構える。コンタドールに遅れなければ、タイムトライアルでは有利だ。しかしエヴァンスはコンタドールの強さをもはや認めざるをえない。
エヴァンスは言う「誰とのタイム差も失なうべきじゃないし、今のところ僕はアルベルトに対してかなり有利だ。だけど彼はかつての絶好調のときの走りを見せている。もっとタイム差が欲しいね。最後の個人タイムトライアルまでに5分か10分欲しいよ。そんなことは叶いそうもないけど」。
雪が待つ? ガリビエ峠フィニッシュのクイーンステージ
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プロトンはまず大会最高地点である標高2744mの超級山岳アニュエル峠を越えてフランスに帰国。超級山岳イゾアール峠を経由して、超級山岳ガリビエ峠にゴールするというこの3連続超級山岳は、間違いなく今大会最強の組み合わせだ。
この日のステージでも周囲の山には真新しい冠雪が眺められた。ガリビエ峠にも積雪があったという情報だ。コース短縮の可能性は低そうだが、天候の悪化はツールの心配事の一つだ。
平均勾配5.1%の登りが23kmに渡って続くガリビエ峠フィニッシュ。強風が吹くことも予想されており、今までのステージとは比較にならないほどの大きなタイム差がつくと予想されている。
text:Makoto AYANO
photo:Makoto AYANO, CorVos