スタート地点のオロンヌ・シュルメールは快晴。大会初の集団スプリントステージとあって独特の緊張感が漂う。カヴェンディッシュ、ペタッキ、フェイユ、ボーネン...スタースプリンターたちそれぞれをメディアが取り囲んでコメントを求める。

マクラーレンの名を冠したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)ののスペシャライズド・ヴェンジマクラーレンの名を冠したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)ののスペシャライズド・ヴェンジ photo:Makoto Ayano注目のカヴの周りは何重ものスクラムが組まれて早くもピリピリ。マクラーレンのロゴが入った新しいスペシャライズドのバイクにまたがり、今日のスプリントへの意気込みを訊かれてボソボソと応える。

ロマン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ)がフランス人記者たちに「カヴェンディッシュの振る舞いはちょっとリッコみたいだ。言葉をよく選ばないで発している」などと刺激的なことを言ってしまったようで、そのことについてどう思うか?というカヴの感情を逆なでするような質問も飛ぶ。

ヴァカンソレイユ・DCMのリドレー新型ノア 前後ブレーキが内蔵ヴァカンソレイユ・DCMのリドレー新型ノア 前後ブレーキが内蔵 photo:Makoto Ayanoハッピーな雰囲気に溢れているのがガーミン・サーヴェロだ。狙っていた序盤の活躍が織り込み済みだったのだろう、選手の家族や彼女がチームと一緒に動いていて、スタート前までおしゃべりを楽しんでいる。このあたりの自由さはいかにもアメリカチームらしい。

スプリント勝負に関係がない総合系の選手たちは緊張感も少ない。バッソは5月にダウンヒルで落車して顔面に大きな怪我を負ったが、もはや傷跡も目立たないほどに回復している。ただし体調はまだ仕上がっていないのではないかという心配の声が聞こえている。身体は十分に絞りきれているように見えたが。

エウスカルテルのバイクには「Ride for Japan」のステッカーがエウスカルテルのバイクには「Ride for Japan」のステッカーが photo:Makoto Ayanoそしてさばけた(おそらくは落胆の)表情をしているのはサムエル・サンチェス(エウスカルテル)。昨日のチームTTでもチームが最下位になり、2分36秒遅れの104位。昨年できなかったシャンゼリゼのポディウムに立つことは、今年もかなり難しくなってしまった。

サンチェスのバイクの各部には、「8」の文字イラストがあしらわれる。2008年8月9日にオリンピックの金メダルを取ったから?(詳しくは後日スタッフに尋ねてみます)

そしてエウスカルテルは今回「Euskaltel Ride for
JAPAN」のステッカーをバイクに貼って走っている。これはオルベア社のバイクの売上の一部を震災復興支援のための募金とするチャリティー活動。以前にhref="http://www.cyclowired.jp/?q=node/56373">こちらの記事で紹介したもの。フェイスブックにオルベアのhref="http://www.facebook.com/photo.php?fbid=10150679876105427&set=a.261120000426.318565.168413295426&type=1&theater">ファンページがあるということなので、チェックしてみて欲しい。

スタート地点に向かうマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)スタート地点に向かうマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード) photo:Makoto Ayanoフランスの数少ないスプリンターの一人、ロメン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ・DCM)フランスの数少ないスプリンターの一人、ロメン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ・DCM) photo:Makoto Ayano第3ステージスタート前のイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)第3ステージスタート前のイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Makoto Ayano


クルーズを楽しむプロトン ヴァンデからブルターニュへ

ミカエル・ドラージュ(フランス、FDJ)が逃げグループを率いるミカエル・ドラージュ(フランス、FDJ)が逃げグループを率いる photo:Makoto Ayano今日も太陽が降り注ぎ、暑くなった。スプリンターの勝利を狙うチームたちがレースをコントロールすることが見えている今日のようなステージでは、あっさりと逃げのアタックが許される。

ミカエル・ドラージュ(フランス、FDJ)、ホセイバン・グティエレス(スペイン、モビスター)、マキシム・ブエ(フランス、アージェードゥーゼル)、ニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップ)、ルーベン・ペレス(スペイン、エウスカルテル)の5人の逃げが決まると、集団はタイム差を保って逃げグループを泳がせるクルーズ状態に入る。

サイモン・ジェランス(オーストラリア、チームスカイ)とトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)サイモン・ジェランス(オーストラリア、チームスカイ)とトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ) photo:Makoto Ayanoユーロップカーが本拠を置くヴァンデ県から、自転車レースの盛んなブルターニュへ。ナント出身のアントニー・シャルトー(ユーロップカー)の故郷をかすめ、ベルナール・イノーの故郷でもあるブルターニュが近づく。当然観客も多い。

コースがつなぐ田舎の小さな村々では、趣向を凝らした応援団がアチコチに見られる。今年の第1・第2ステージはいつもと違って変則的で、取材する側も対応に追われたが、今日はようやくツールならではの雰囲気が楽しめる。沿道に可愛い応援団をたくさん見つけ、ほっとした気分になる。通過する村ではやんやの拍手が沸く。やはりフランス人はツールが大好きだ。

アントニー・シャルトー(フランス、ユーロップカー)の地元を通過アントニー・シャルトー(フランス、ユーロップカー)の地元を通過 photo:Makoto Ayano走る選手たちの中で目立つのは、アルカンシェルの虹のストライプが入った白いパンツをはき、黄色いマイヨジョーヌを着たフースホフトだ。ともかく、これ以上ないもっともゴージャスなコスチューム!

集団のどこにいても眩しいぐらいに輝いて見える。ガーミン・サーヴェロのチームメイトたちが先頭を固めてタイム差をコントロールする。なかでもリトアニアの国旗カラーをあしらったジャージを着たラムナス・ナヴァルダスカスが先頭を長く引いている姿が目についた。

一方のフースホフトは中間スプリントポイントと後半勝負に備えて、集団内でいろいろな選手とおしゃべりを楽しんだようだ。おそらく他チームの選手が代わる代わる挨拶に訪れたことだろう。


海の上の山岳 サン・ナザール橋

横風の吹くサンナゼール橋を通過したプロトン横風の吹くサンナゼール橋を通過したプロトン photo:Makoto Ayanoロワール川にかかるサン・ナザール橋を通過するのがこのステージのハイライトのひとつだ。ツールは過去にこの橋を何度か通過しているが、2005年にはチームタイムトライアルが通ったことがある。

海にかかる橋のため、橋の上は風の吹きっ晒し。しかも標高66mとはいえ山岳ポイントがつく登りでもあるので、少人数で走ると風圧に翻弄される。かつてのチームTTでもここで隊列がバラバラに分解した。

横風の吹くサンナゼール橋で集団から遅れたイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)横風の吹くサンナゼール橋で集団から遅れたイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Makoto Ayano逃げ集団を追ってスピードが上がる大集団が海の上を渡る。橋の下り切った側で撮影していたが、大集団が風を切りながら落ちるように通り過ぎていく様子は迫力満点だった。おそらくスピードは100km/h近く出ていただろう。

上りで中切れが発生して、分断した集団が泡を食って追いかける。3つに割れた集団。その第2グループにはアシストに牽かれて懸命にメイン集団を追うバッソの姿もあった。たまたまポジションが悪くて遅れたグループに取り残されただけなのかもしれないが、総合上位狙いとしては迂闊。さらに不安な話題を提供してしまうシーンだった。

割れた集団はその後無事にメイン集団に追いついたが、遅れてしまったローレンス・テンダム(ラボバンク)はレース後「橋でちぎれたのははじめてだ!」と自嘲を込めてツィートしている。

急成長のファラー アメリカの記念日にツールに勝ったアメリカ人スプリンター

メイン集団を長時間に渡って引き続けるラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア、ガーミン・サーヴェロ)メイン集団を長時間に渡って引き続けるラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア、ガーミン・サーヴェロ) photo:Makoto Ayanoマイヨジョーヌが牽引する豪華な列車がサポートし、タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)がツールで初めてのステージ優勝を飾った。

ゴールラインを切るときに、両手でVサインを並べてつくった「W」を誇らしげに示した。言うまでもなく、5月のジロで命を落とした親友ワウテル・レイラント(レオパード・トレック)に勝利を捧げるというジェスチャーだ。

Wサインでゴールするタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)Wサインでゴールするタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ) photo:Cor Vosクラシックを愛し、ヘント近郊に住むファラーはウェイラントの無二の親友だった。死亡事故の翌日、追悼のための第4ステージを走るとリタイアしてジロを去り、悲しみに暮れて自転車から離れる日が2週間続いたという。そして、2ヶ月の時間をおいてツールに出場し、ステージ勝利を挙げるまでに心身ともに立ち直った。

少し前まで「心の状態と体の状態の準備がツールに間に合うかは分からない」と表明していた。実際、同じくウェイラントの友人だったステイン・デヴォルデル(ヴァカンソレイユ)は、傷心がもとで自転車に乗る気持ちが沸かず、今回のツール出場メンバーからは外れている。

レース後の記者会見に臨むタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)レース後の記者会見に臨むタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ) photo:Makoto Ayano「正直言ってこの2ヶ月は浮き沈みを繰り返した。でも彼の追悼のためにとうとう特別なことができた」と言うファラー。

ウェイラントの死去以来、ファラーが味わってきた気持ちや苦しさは想像することしかできないが、勝利者記者会見に現れたファラーは以前と同じ愛らしい笑顔を取り戻していたのが印象的だった。

スプリンターとして成長著しいが、ツールに勝つ力は、カヴに破れて2度2位になった2009年から備えていたと自分を分析する。2010年は序盤のステージで落車に巻き込まれ、手首を微細骨折してしまったために勝負には絡むことができなかった。今回の勝利でジロとブエルタにそれぞれ2勝し、この勝利で3つのグランツール全てでステージ優勝を挙げる結果を残した。

そしてこの日は7月4日、アメリカ独立記念日。ちょうどその日にアメリカ人の挙げたステージ優勝だ。1986年と87年にそれぞれツールでステージ優勝を挙げているデーヴィス・フィニー(当時セブンイレブン)に続くアメリカ人スプリンターになったというわけだ。

昨ステージのチームタイムトライアルではアメリカ籍の4チームがトップ10までに食い込み、さらに今日のアメリカ独立記念日のアメリカ人の勝利。予期せぬアメリカ色の濃いツールに、フランス人の機嫌を損ねないかが心配だ。


厳しい降格処分 スプリントをめぐる舌戦

ブルターニュのルドンが初めてツールのゴールを迎えるブルターニュのルドンが初めてツールのゴールを迎える photo:Makoto Ayanoゴール後、中間スプリントポイント通過する際のスプリントが危険行為とみなされて降格処分となったカヴェンディッシュとフースホフト。カヴは逃げグループに続く集団トップ通過だが、2人ともポイントもつかず。フースホフトもポイント争いで3位から4位に順位を下げた。

HTCとカヴにとっては2009年のゴールスプリントでのカヴの降格、そして昨年のステージでアシストのマーク・レンショーが頭突きをしたことでレンショーが失格処分になったことが思い出される。どうにもツールの審判団との相性が悪い。

マイヨジョーヌに袖を通すトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)胸元には特別に虹色ラインが入っているマイヨジョーヌに袖を通すトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)胸元には特別に虹色ラインが入っている photo:Makoto Ayanoカヴはリザルトを見るまで自身の処分について気付かなかったが、フースホフトはこの処分についていち早く認め、丸く収めている。「顔の日焼け止めクリームをカヴの腕に摺りつけようとしただけだ」というジョークまでつけて。

もっとも、今年のフースホフトは平坦スプリントでファラーのアシストに回るため、マイヨヴェールは狙わないことをスタート前に表明している。それなのに取れるものは取る動きを見せたが。

コースディレクターのジャンフランソワ・ペシュー氏コースディレクターのジャンフランソワ・ペシュー氏 photo:Makoto Ayanoこの降格処分については「審判団が厳しすぎるのではないか」「なんら安全を脅かしていない」「これはレースなのだからぶつかり合うのは当たり前のこと」といった意見が多数派のように感じる。

おりしも、昨日のチームTTでは「サドルは水平でなくてはならない」という硬直した態度を見せたUCIのコミッセールたち。その検査に対して避難の声明を出したヨハン・ブリュイネール監督(レディオシャック)に対して、「プロフェッショナルらしくない振る舞い」として警告があったという。どうやら今年の審判団は厳格で、ちょっと手ごわそうだ。

カヴはゴール後、スタート前に「カヴはリッコみたいだ」という有り難くない言葉を頂戴したロマン・フェイユに対して仕返しすることを忘れなかった。2位になったフェイユのスプリントは確かに右に左に進路を変えて安定していない。

「"カミカゼ"フェイユはいつだってスプリントで危なっかしいマネをする。スプリンターの誰に訊いてもフェイユは危ないって言うよ!」。

ミュールでコンタドールの攻撃はあるか?

マイヨヴェールのフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)とマイヨジョーヌのトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)マイヨヴェールのフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)とマイヨジョーヌのトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ) photo:Makoto Ayano第4ステージはミュール・ド・ブルターニュの激坂を上るフィリップ・ジルベールに最高のアップヒルフィニッシュ。予想ではもちろんジルベールの第1ステージの勝利のリピートが観られるだろう。しかしここで急浮上してきたのがコンタドールの存在。タイム差をいち早く挽回しておきたいコンタドールがミュールでアタックしたなら、ジルベールにはちょっとした驚異だ。コンディション次第ではステージ優勝もあり得る。

ジルベールも「コンタドールと協力しあう必要があるかもしれない」とちょっと慎重な姿勢をみせている。


photo&text:Makoto.AYANO
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