2011/05/26(木) - 15:54
「後半にかけて調子が良くなった」という別府史之(レディオシャック)は、集団スプリントを狙っていた。多くのスプリンターが去った今、フミは逃げでもスプリントでもステージを狙えるポジションにある。だが、230kmの長いコースの栄冠は、逃げグループの手に落ちた。総合成績をかき回したいという選手の思惑は外れた。
フェルトレからティラーノまでの230kmは今大会2番目に長い。でも感覚的には、レース時間が8時間を越えた第15ステージのほうが断然長く感じる。第17ステージはカテゴリー3級と2級の山岳が設定されているものの、チーマコッピステージと比べると難易度は雲泥の差だ。
コースは渓谷に沿った幹線道路を走るので、エスケープルート(迂回路)が皆無に等しい。つまりレースを追い越せないので、撮影チャンスが乏しい。これはクルマで取材するフォトグラファーにとってはストレスのもと。いつもゴール地点に直行するジャーナリストたちも「これじゃスタート時のコメントが取れないじゃないか」と不満を漏らす。今年は特にレーススケジュールがタイトだ。
今日のコースの周辺には、ガヴィア峠やモルティローロ峠といった有名な難関山岳が並んでいる。2級山岳トナーレ峠で撮影し、脇道に逸れてモルティローロ峠を攻めればゴール地点に先着可能だが、あまりにも時間がタイトなので冒険はせず。美しい山岳風景で撮影するイメージトレーニングだけをしながら、ゴール地点ティラーノに向かった。
ティラーノはスイス国境まで数キロの距離。街中にはドイツ語表記の交通標識もある。でも前日までのチロル地方とはまた違った雰囲気で、ドロミテからアルプスに移動したことを感じさせる。
今日最大の見どころは、最後の3級山岳アプリカ通過後、山の上から谷底まで標高差700mを一気に駆け下りるダウンヒルだったかのかもしれない。ハイスピードかつカーブが連続する危険な下りだ。ここでのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)のアタックはライバルたちもお見通しだった。
リクイガス勢の懸命の集団コントロールの末、ニーバリが下りでアタックを仕掛けるも、マリアローザのアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)や、総合2位ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)らは問題なく食らいついた。総合2位浮上を狙うニーバリはスカルポーニを引き離したかった?
同じメイン集団内で山岳をクリアしたフミは、あまりにリスキーな下りに恐怖感を覚えたという。「下りでリクイガスが他の総合選手をふるいにかけたので、超危険だった」。
その下りでリードを維持し、最後の平坦路でもスピードを殺さなかった逃げグループが、ティラーノの最終ストレートにやってきた。ラスト1000mに渡って直線路が続くので、ファインダー越しに各選手のスプリントの所作が事細かに見える。
イタリアチャンピオンジャージのジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)が、コロコロとラインを変えながらスプリントしている。しかし最終的にラインを見誤り、ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・ISD)とバリケードの間を突き進んでしまう。
まずパブロ・ラストラス(スペイン、モビスター)を手で押しのけ、そしてゴール直前でウリッシを振り払ってゴールする三色のトリコローレ。あまりの熱いスプリントに会場は騒然となった。
一旦はヴィスコンティのステージ優勝がアナウンスされたが、それと時を同じくして表彰台を去るヴィスコンティ。審判の判断は、危険行為による降格処分。不満に満ちた表情を浮かべながらも、ヴィスコンティは親指を立てて歓声に応える。その代わりに初々しいウリッシが、喜びを爆発させながら表彰台に上がった。
レース後、ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリの宮島正典マッサーと一緒にゴールスプリントのリプレイを見る。「もう総合が関係ないので、完全にステージ優勝狙いだった。今日は絶好のチャンスだったのに」と、宮島マッサーは苦虫を噛み潰したような表情で悔しがる。
ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリにとってのステージ優勝の意味。結果的に降格処分になってしまったものの、スプリント中のヴィスコンティの鬼気迫る表情から、その意味の大きさが計り知れる。膝の痛みに耐えながら山岳ステージを乗り越え、勝ちパターンに持ち込み、そしてスプリント。そんな極限状態での瞬間の判断など、第三者には到底理解できないし、口出しすることはできない。
表彰式の後、ジロのレース後番組「プロチェッソ・アッラ・タッパ」に当事者ヴィスコンティとウリッシが出演。番組内で互いの言い分をぶつけ合った。両者のコメントは別ページをご覧になっていただくとして、個人的に驚いたのはウリッシの落ち着きぶりだ(シャンパンを顔めがけて暴発させるのは新人のお決まりとして)。
ウリッシは2006年から2年連続ジュニア世界チャンピオンに輝いている。ジュニアのロードタイトルで連覇を果たしたのはウリッシが史上2人目。今年のパリ〜ニースでは最終ステージでトマ・ヴォクレール(フランス)と逃げて2位。プロ2年目の21歳とは思えない堂々とした態度で物怖じせずに質問に応える姿は実に頼もしい。ドーピングスキャンダルで揺れるランプレ・ISDの希望の星だ。
その騒々しいゴールから2分59秒遅れて、逃げグループを捉えることができなかったメイン集団がゴールにやってきた。「集団の中で山岳を越えることができると思う」という言葉を残していたフミが、集団の前方でゴール。ステージ23位。
「序盤のアタックに加わりましたが、良いメンバーが揃わず、飛び出しても集団に戻るを繰り返していました。逃げが決まってからは集団内で走行。後半にかけて調子が良くなってきたのですが、逃げグループに追いつきませんでした。シウトソウとルメヴェルが逃げに乗っていたのが計算外。スプリントしたかっただけに残念です。」
総合上位の選手がひしめく35名の集団に残ったことが、調子の良さを物語っている。また、フミはチーマコッピステージで調子を落とした原因を突き止めたという。「食事の量と体重。ドーピングコントロールで水を飲み過ぎたのと、塩分を取り過ぎていたのが原因。自分でも驚くほど、ずっと汗をかき続けていたんです。」フミはジロ3週目に入って調子を取り戻している。
翌第18ステージはフミにとって、そして他の多くの選手にとって、ステージ優勝を狙う実質的に最後のチャンスになる。レースブックによると“平坦ステージ”に分類されているが、ゴール30km手前には平均勾配7.3%・登坂距離9.2kmという2級山岳ガンダ峠が設定されている。天候は下り坂で、荒れた展開になる可能性も。フミはツイートに「調子もいいので明日は積極的に動きたいです!」と書き込んでいる。
text&photo:Kei Tsuji in Tirano, Italy
フェルトレからティラーノまでの230kmは今大会2番目に長い。でも感覚的には、レース時間が8時間を越えた第15ステージのほうが断然長く感じる。第17ステージはカテゴリー3級と2級の山岳が設定されているものの、チーマコッピステージと比べると難易度は雲泥の差だ。
コースは渓谷に沿った幹線道路を走るので、エスケープルート(迂回路)が皆無に等しい。つまりレースを追い越せないので、撮影チャンスが乏しい。これはクルマで取材するフォトグラファーにとってはストレスのもと。いつもゴール地点に直行するジャーナリストたちも「これじゃスタート時のコメントが取れないじゃないか」と不満を漏らす。今年は特にレーススケジュールがタイトだ。
今日のコースの周辺には、ガヴィア峠やモルティローロ峠といった有名な難関山岳が並んでいる。2級山岳トナーレ峠で撮影し、脇道に逸れてモルティローロ峠を攻めればゴール地点に先着可能だが、あまりにも時間がタイトなので冒険はせず。美しい山岳風景で撮影するイメージトレーニングだけをしながら、ゴール地点ティラーノに向かった。
ティラーノはスイス国境まで数キロの距離。街中にはドイツ語表記の交通標識もある。でも前日までのチロル地方とはまた違った雰囲気で、ドロミテからアルプスに移動したことを感じさせる。
今日最大の見どころは、最後の3級山岳アプリカ通過後、山の上から谷底まで標高差700mを一気に駆け下りるダウンヒルだったかのかもしれない。ハイスピードかつカーブが連続する危険な下りだ。ここでのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)のアタックはライバルたちもお見通しだった。
リクイガス勢の懸命の集団コントロールの末、ニーバリが下りでアタックを仕掛けるも、マリアローザのアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)や、総合2位ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)らは問題なく食らいついた。総合2位浮上を狙うニーバリはスカルポーニを引き離したかった?
同じメイン集団内で山岳をクリアしたフミは、あまりにリスキーな下りに恐怖感を覚えたという。「下りでリクイガスが他の総合選手をふるいにかけたので、超危険だった」。
その下りでリードを維持し、最後の平坦路でもスピードを殺さなかった逃げグループが、ティラーノの最終ストレートにやってきた。ラスト1000mに渡って直線路が続くので、ファインダー越しに各選手のスプリントの所作が事細かに見える。
イタリアチャンピオンジャージのジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)が、コロコロとラインを変えながらスプリントしている。しかし最終的にラインを見誤り、ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・ISD)とバリケードの間を突き進んでしまう。
まずパブロ・ラストラス(スペイン、モビスター)を手で押しのけ、そしてゴール直前でウリッシを振り払ってゴールする三色のトリコローレ。あまりの熱いスプリントに会場は騒然となった。
一旦はヴィスコンティのステージ優勝がアナウンスされたが、それと時を同じくして表彰台を去るヴィスコンティ。審判の判断は、危険行為による降格処分。不満に満ちた表情を浮かべながらも、ヴィスコンティは親指を立てて歓声に応える。その代わりに初々しいウリッシが、喜びを爆発させながら表彰台に上がった。
レース後、ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリの宮島正典マッサーと一緒にゴールスプリントのリプレイを見る。「もう総合が関係ないので、完全にステージ優勝狙いだった。今日は絶好のチャンスだったのに」と、宮島マッサーは苦虫を噛み潰したような表情で悔しがる。
ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリにとってのステージ優勝の意味。結果的に降格処分になってしまったものの、スプリント中のヴィスコンティの鬼気迫る表情から、その意味の大きさが計り知れる。膝の痛みに耐えながら山岳ステージを乗り越え、勝ちパターンに持ち込み、そしてスプリント。そんな極限状態での瞬間の判断など、第三者には到底理解できないし、口出しすることはできない。
表彰式の後、ジロのレース後番組「プロチェッソ・アッラ・タッパ」に当事者ヴィスコンティとウリッシが出演。番組内で互いの言い分をぶつけ合った。両者のコメントは別ページをご覧になっていただくとして、個人的に驚いたのはウリッシの落ち着きぶりだ(シャンパンを顔めがけて暴発させるのは新人のお決まりとして)。
ウリッシは2006年から2年連続ジュニア世界チャンピオンに輝いている。ジュニアのロードタイトルで連覇を果たしたのはウリッシが史上2人目。今年のパリ〜ニースでは最終ステージでトマ・ヴォクレール(フランス)と逃げて2位。プロ2年目の21歳とは思えない堂々とした態度で物怖じせずに質問に応える姿は実に頼もしい。ドーピングスキャンダルで揺れるランプレ・ISDの希望の星だ。
その騒々しいゴールから2分59秒遅れて、逃げグループを捉えることができなかったメイン集団がゴールにやってきた。「集団の中で山岳を越えることができると思う」という言葉を残していたフミが、集団の前方でゴール。ステージ23位。
「序盤のアタックに加わりましたが、良いメンバーが揃わず、飛び出しても集団に戻るを繰り返していました。逃げが決まってからは集団内で走行。後半にかけて調子が良くなってきたのですが、逃げグループに追いつきませんでした。シウトソウとルメヴェルが逃げに乗っていたのが計算外。スプリントしたかっただけに残念です。」
総合上位の選手がひしめく35名の集団に残ったことが、調子の良さを物語っている。また、フミはチーマコッピステージで調子を落とした原因を突き止めたという。「食事の量と体重。ドーピングコントロールで水を飲み過ぎたのと、塩分を取り過ぎていたのが原因。自分でも驚くほど、ずっと汗をかき続けていたんです。」フミはジロ3週目に入って調子を取り戻している。
翌第18ステージはフミにとって、そして他の多くの選手にとって、ステージ優勝を狙う実質的に最後のチャンスになる。レースブックによると“平坦ステージ”に分類されているが、ゴール30km手前には平均勾配7.3%・登坂距離9.2kmという2級山岳ガンダ峠が設定されている。天候は下り坂で、荒れた展開になる可能性も。フミはツイートに「調子もいいので明日は積極的に動きたいです!」と書き込んでいる。
text&photo:Kei Tsuji in Tirano, Italy
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