2011/05/12(木) - 15:11
「人生初のストラーデ・ビアンケです」。ピオンビーノのスタート地点にやってきた別府史之(レディオシャック)は嬉しそうにそう言った。そう、ジロ第5ステージには未舗装のダート区間、いわゆる「ストラーデ・ビアンケ(白い道)」が登場するのだ。
スタート地点ピオンビーノは、ティレニア海に突き出た半島の先にある。位置的にはジェノヴァとローマの間ぐらい。沖合にはエルバ島が見える。
一帯には工業地帯が広がっているが、ピオンビーノの中心部はレンガ作りの美しい旧市街が広がっている。レンガ色の街並が、蒼い空と青い海にとてもよく映える。燦々と照りつける太陽が、ピンクのバルーンを一層目立たせる。
ウェイラントの死により沈黙の一日を経験したジロは、再び活気を取り戻した。しかしそこにレオパード・トレックの姿はない。ウェイラントが残したサインボードの空白の108番に、現イタリア代表チーム監督を務めるパオロ・ベッティーニが「Sempre con noi!(いつでも一緒さ!)」と書き込んだ。
数キロ離れたチームバスから、石畳の旧市街を通って、別府史之(レディオシャック)が出走サインにやってきた。未舗装区間が登場するステージだと言うのに、フミはむしろそれを楽しみにしているような感もある。
ステージ優勝を狙うような走りを期待する日本人ファンには残念なお知らせだが、スタート前にフミは「前半から動くのはロフニーやセランダーの仕事で、自分は山岳でティアゴ(マシャド)を支えます」と答える。つまり総合上位を狙うマシャドのサポートが第一ミッションであり、自分のチャンスを狙って動くことができない。だがそれはチームの中で山岳力が評価されている証拠でもある。
モトに乗るフォトグラファーたちは、未舗装の3級山岳の下り区間がとても危険だと警鐘を鳴らしている。
フミ曰く、マシャドはステージレースで総合上位に入る能力をもつ選手だが、実際あまり下りが得意ではない。「平坦コースで風が吹けば自分が前に出ますが、下りでは彼を前に行かせています(自分のラインで走らせている)。そのほうが互いにストレスがないから」。マシャドは第3ステージの下りでも落車している。ポルトガル出身クライマー系オールラウンダーにとって試練のステージとなった。
前半はトスカーナ州の丘陵地帯で、ウンブリア州の山岳地帯へと脚を伸ばす。コースは昨年「茶色い道」となった第6ステージより南に位置していて、よりアップダウンが激しい印象。「そんなところにも人が住むのか!」というツッコミを入れたくなるような丘上都市が、山の至る所に確認される。
コースの大半は田舎道だったので観客は少なめだったが、3級山岳クローチェ・ディ・フィギーネが近づくと、俄に沿道が活気づき始めた。クローチェ・ディ・フィギーネは脇道に逸れるとすぐにスタート。いきなり未舗装の細い急坂が目の前に現れる。1速と2速を多用しながら、「砂埃を巻き上げるな!」とジェスチャーで表す観客をかきわけて、急坂を進んでいく。
聞いていた以上に勾配がきつい。しかも路面は未舗装で、砂利というよりは砂が覆っているような感じ。ロードバイクで何とかトラクションを得ながら進んでいる観客もいるが、MTBで登っている観客のほうが明らかに多い。しかしその後の撮影ポイントの兼ね合いにより、登りでの撮影を諦める。未舗装の下りに向かってアクセルを踏んだ。
でも、すぐにブレーキを踏んだ。砂の浮いた、というか砂に覆われた下りが、グネグネ曲がりながら林の中へと続いていく。ほんの20m前を走る赤いオフィシャルカーが、砂埃でよく見えない。真っ白な視界の中に赤いブレーキランプがついて慌ててブレーキを踏むと、グググっとABSが作動しながらクルマは停止する。そんな危険な下りが3kmほど続いた。
この下りでヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)が先行しているという情報を、ラジオコルサ(競技無線)越しに得た。ニーバリは昨年10月のコース発表時からこの第5ステージに注目し、テクニカルな下りを入念に下見したという。しかしビッグサプライズを起こすほどの破壊力はなかった。
ゴールまで27kmほど残した2つ目の未舗装区間で撮影する。路面が白いので、選手のカラダが太陽の反射によって明るく輝くという不思議な光景。集団から遅れたマシャドは膝から血を流している。フミが無事に走っていることを確認して、ゴール地点オルヴィエートに向かってクルマを飛ばした。
渓谷を見下ろす崖の上に作られたオルヴィエートは、時に空中都市に例えられる。天然の城砦に囲まれた姿は壮観で、定番の観光スポットであるフィレンツェとローマの移動時に、車窓から見たことがある方も多いはず。崖の上だけに、そのアクセスルートは必然的に急坂になる。
勾配が15%に達するラスト2km地点で、独走するピーター・ウェーニング(オランダ、ラボバンク)を撮影。すぐ後ろにメイン集団が迫っていたが、ウェーニングが無事にゴールまで逃げ切った。しかもマリアローザがついてきたらしい(表彰台に行けなかったので自分は見ていない)。
レディオシャックのリーダー、マシャドは3分03秒遅れでフィニッシュ。エキモフ監督は「ティアゴが落車して、ロフニーがバイクを差し出した。その後ティアドはセカンドバイクに乗り換えたが、もう遅かった。これからもジロは続くし、まだ終わったわけじゃない」と語るが、総合狙いの選手にとって3分のビハインドは痛い。
フミはチーム内で3番手となる77位・6分44秒遅れでゴール。「(泥だらけの)去年よりマシなのかもしれないけど、平坦かと思いきや結構な激坂で、コースは砂埃、パンク、渋滞と落車で大変なことになっていた。自分もパンクで出遅れてしまって前の集団に乗ることはできなかった」。
「でもチームとして総合狙いが難しくなったので、これからは自分が動きやすくなるかも。これでへこたれたわけじゃないので、大丈夫ですよ」と、頼もしいコメントを残す。日本人としてはフミが自分のチャンスを狙ってアタックするシーンを期待せずにはいられない。
1つ目の山場(砂場?)を越えたジロは、さらに南下を続ける。移動距離の長いジロにしては珍しく、ゴール地点が翌日のスタート地点。荘厳な雰囲気を醸し出すオルヴィエートのドゥオーモ(教会)の前から第6ステージはスタートする。
text&photo:Kei Tsuji in Orvieto, Italy
スタート地点ピオンビーノは、ティレニア海に突き出た半島の先にある。位置的にはジェノヴァとローマの間ぐらい。沖合にはエルバ島が見える。
一帯には工業地帯が広がっているが、ピオンビーノの中心部はレンガ作りの美しい旧市街が広がっている。レンガ色の街並が、蒼い空と青い海にとてもよく映える。燦々と照りつける太陽が、ピンクのバルーンを一層目立たせる。
ウェイラントの死により沈黙の一日を経験したジロは、再び活気を取り戻した。しかしそこにレオパード・トレックの姿はない。ウェイラントが残したサインボードの空白の108番に、現イタリア代表チーム監督を務めるパオロ・ベッティーニが「Sempre con noi!(いつでも一緒さ!)」と書き込んだ。
数キロ離れたチームバスから、石畳の旧市街を通って、別府史之(レディオシャック)が出走サインにやってきた。未舗装区間が登場するステージだと言うのに、フミはむしろそれを楽しみにしているような感もある。
ステージ優勝を狙うような走りを期待する日本人ファンには残念なお知らせだが、スタート前にフミは「前半から動くのはロフニーやセランダーの仕事で、自分は山岳でティアゴ(マシャド)を支えます」と答える。つまり総合上位を狙うマシャドのサポートが第一ミッションであり、自分のチャンスを狙って動くことができない。だがそれはチームの中で山岳力が評価されている証拠でもある。
モトに乗るフォトグラファーたちは、未舗装の3級山岳の下り区間がとても危険だと警鐘を鳴らしている。
フミ曰く、マシャドはステージレースで総合上位に入る能力をもつ選手だが、実際あまり下りが得意ではない。「平坦コースで風が吹けば自分が前に出ますが、下りでは彼を前に行かせています(自分のラインで走らせている)。そのほうが互いにストレスがないから」。マシャドは第3ステージの下りでも落車している。ポルトガル出身クライマー系オールラウンダーにとって試練のステージとなった。
前半はトスカーナ州の丘陵地帯で、ウンブリア州の山岳地帯へと脚を伸ばす。コースは昨年「茶色い道」となった第6ステージより南に位置していて、よりアップダウンが激しい印象。「そんなところにも人が住むのか!」というツッコミを入れたくなるような丘上都市が、山の至る所に確認される。
コースの大半は田舎道だったので観客は少なめだったが、3級山岳クローチェ・ディ・フィギーネが近づくと、俄に沿道が活気づき始めた。クローチェ・ディ・フィギーネは脇道に逸れるとすぐにスタート。いきなり未舗装の細い急坂が目の前に現れる。1速と2速を多用しながら、「砂埃を巻き上げるな!」とジェスチャーで表す観客をかきわけて、急坂を進んでいく。
聞いていた以上に勾配がきつい。しかも路面は未舗装で、砂利というよりは砂が覆っているような感じ。ロードバイクで何とかトラクションを得ながら進んでいる観客もいるが、MTBで登っている観客のほうが明らかに多い。しかしその後の撮影ポイントの兼ね合いにより、登りでの撮影を諦める。未舗装の下りに向かってアクセルを踏んだ。
でも、すぐにブレーキを踏んだ。砂の浮いた、というか砂に覆われた下りが、グネグネ曲がりながら林の中へと続いていく。ほんの20m前を走る赤いオフィシャルカーが、砂埃でよく見えない。真っ白な視界の中に赤いブレーキランプがついて慌ててブレーキを踏むと、グググっとABSが作動しながらクルマは停止する。そんな危険な下りが3kmほど続いた。
この下りでヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)が先行しているという情報を、ラジオコルサ(競技無線)越しに得た。ニーバリは昨年10月のコース発表時からこの第5ステージに注目し、テクニカルな下りを入念に下見したという。しかしビッグサプライズを起こすほどの破壊力はなかった。
ゴールまで27kmほど残した2つ目の未舗装区間で撮影する。路面が白いので、選手のカラダが太陽の反射によって明るく輝くという不思議な光景。集団から遅れたマシャドは膝から血を流している。フミが無事に走っていることを確認して、ゴール地点オルヴィエートに向かってクルマを飛ばした。
渓谷を見下ろす崖の上に作られたオルヴィエートは、時に空中都市に例えられる。天然の城砦に囲まれた姿は壮観で、定番の観光スポットであるフィレンツェとローマの移動時に、車窓から見たことがある方も多いはず。崖の上だけに、そのアクセスルートは必然的に急坂になる。
勾配が15%に達するラスト2km地点で、独走するピーター・ウェーニング(オランダ、ラボバンク)を撮影。すぐ後ろにメイン集団が迫っていたが、ウェーニングが無事にゴールまで逃げ切った。しかもマリアローザがついてきたらしい(表彰台に行けなかったので自分は見ていない)。
レディオシャックのリーダー、マシャドは3分03秒遅れでフィニッシュ。エキモフ監督は「ティアゴが落車して、ロフニーがバイクを差し出した。その後ティアドはセカンドバイクに乗り換えたが、もう遅かった。これからもジロは続くし、まだ終わったわけじゃない」と語るが、総合狙いの選手にとって3分のビハインドは痛い。
フミはチーム内で3番手となる77位・6分44秒遅れでゴール。「(泥だらけの)去年よりマシなのかもしれないけど、平坦かと思いきや結構な激坂で、コースは砂埃、パンク、渋滞と落車で大変なことになっていた。自分もパンクで出遅れてしまって前の集団に乗ることはできなかった」。
「でもチームとして総合狙いが難しくなったので、これからは自分が動きやすくなるかも。これでへこたれたわけじゃないので、大丈夫ですよ」と、頼もしいコメントを残す。日本人としてはフミが自分のチャンスを狙ってアタックするシーンを期待せずにはいられない。
1つ目の山場(砂場?)を越えたジロは、さらに南下を続ける。移動距離の長いジロにしては珍しく、ゴール地点が翌日のスタート地点。荘厳な雰囲気を醸し出すオルヴィエートのドゥオーモ(教会)の前から第6ステージはスタートする。
text&photo:Kei Tsuji in Orvieto, Italy
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