2011/05/08(日) - 14:57
現在、トリノはとりあえず混雑している。イタリア統一150周年と、アルピニと呼ばれるイタリア北部の全国集会、そしてジロ・デ・イタリアが重なったことで、街中はとにかくごった返している。飛び込みで宿を取ろうと思ってもほぼ不可能だ。
開幕前日のチームプレゼンテーションも、アルピニ全国集会ーの一部に組み込まれるという異例のものだった。選手たちは長時間に渡って混雑した街の中を引っ張り回され、パラッツォ広場では防衛省のイニャツィオ・ラルッサ大臣の威勢のいい演説を延々と聞かされた。
翌日にチームTTを控えた選手たちが、あまりの式典の長さに座り込むのも無理はない。選手やスタッフからは「史上最高に疲れるプレゼンテーション」「ゼロ・オーガナイズ」「やっぱりジロはジロ」「これが3週間続くんだ」と飽きれムード。
過去にジャパンカップに出場し、今年のジロではミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)の重要な山岳アシストのひとりになるマルコ・マルツァーノ(イタリア)は「ほんとサイクリストに有り得ない仕打ち」と眉間にしわを寄せる。その横でアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)が頷く。
トリノの中心街には、特徴的な羽根つきの山岳兵帽子を被ったアルピニと呼ばれる人々が大勢詰めかけている。イタリア人の祭り好きに火が付き、若者からおじさんまで、昼間からアルコールを飲んで盛り上がっている。
この週末にかけてトリノを訪れた人は50万人とも70万人とも言われている(聞く人によって数字が違うのがなんともイタリアらしい)。前日のチームプレゼンテーションの写真を見た方は、あまりの人の多さに驚かれたと思うが、純粋にジロだけを見に来ている人は実際かなり少ないというのが実状だ。
チームタイムトライアルのスタート地点は、トリノの中心から北西に10kmほど行ったところにあるヴェナリア・レアーレ。ユネスコ世界遺産に登録された「ヴェナリア王宮とその庭園」のすぐ前の広場で第94回大会は始動した。
コースはスタート直後の直線路が石畳で、その後セリエAの強豪ユヴェントスのホームスタジアムである「スタディオ・デッレ・アルピ(現在改築中)」の横を通り、複雑に入り組んだトラムの線路をかわしながらヴィットリオ・ヴェネト広場にゴールする19.3km。
ヴィットリオ・ヴェネト広場の一帯はアルピニたちのたまり場になっていて、トリノの中心部の交通網はダウン。大々的に交通規制が敷かれているのに市民がクルマで移動しようとするものだから、周囲は大渋滞。しかも前日はショーペロ(ストライキ)の影響で空港が閉鎖され、電車も止まった(トリノは限定的に運航)。そんなカオス状態の中で、ジロのチームタイムトライアルは行なわれた。
トップタイムを叩き出したのはHTC・ハイロード。会場には「アッカティチーがトップタイムを更新した」というアナウンスが響き渡る。英語読みだとエイチ・ティー・シーだが、イタリア語読みだとアッカ・ティ・チー。イタリア人は自分たちの読み方を貫いてしまう。
マリアローザを獲得したマルコ・ピノッティ(イタリア)は、国内ではインテリな選手という位置づけ。前々日に行なわれた記者会見でも、流暢な英語で質問に答える。ドーピングに関しては歯に衣を着せないコメントで違反者を痛烈に批判する。
ピノッティのマリアローザ着用は2回目。2007年大会のスポレートにゴールするステージで2位に入って総合首位に立ったピノッティは、マリアローザを4日間着続けた。2008年大会の最終個人タイムトライアルで優勝(当時コンタドールが総合優勝)していて、昨年は総合9位に入る走りを見せている。
「最初から全開で入り、力のある選手が積極的に長い時間前を引いた。そのおかげで最後までハイペースを保つことができた」。マリアローザに袖を通したピノッティは照れくさそうな笑顔を見せる。「トラムの線路やコーナーに気をつけながら走った。いくつかのパートは本当に難しかった」と、単純な平坦コースではなかったことを打ち明ける。
HTC・ハイロードは2009年大会に続く2度目のチームタイムトライアル勝利。翌日からは、ここイタリアで比較的リラックスした表情を見せているマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)のスプリントが待っている。「明日マリアローザを失うかもしれない。チームメイトに奪われるかも」とピノッティは笑った。
HTC・ハイロードのタイムを唯一脅かしたのが、最後から2番目にスタートしたレディオシャック。ジロ初出場のフミは「今日はあくまでもティアゴ(マシャド)とポポ(ポポヴィッチ)のための走りだった」と振り返る。献身的な走りを見せながら、チームの隊列の3番目でゴールラインを越えた。
「かなり前を引きましたよ」と語るあたり、ツール・ド・ロマンディからの好調を維持していることは明らか。リプレイ映像を見ても、フミは余裕のある表情でゴールしているのが分かる。まだ初日とは言え、日本人がグランツールで総合トップ10に入るのは初。
レディオシャックの先頭でゴールしたロビー・マキュアン(オーストラリア)は総合6位。翌日からマリアローザを狙えるポジションだが、総合上位にはカヴェンディッシュがいる。HTC・ハイロードはここぞとばかりにレースをコントロールするだろう。
とにかくジロが始まった。3週間に渡る闘いは始まったばかり。後半の山岳ステージに向けて様々な憶測が飛んでいるが「そんなのまだまだ先の話」というのが有力選手の常套句。大混雑のトリノを抜け出した選手たちを待つのは、アルバからパルマまで、今大会最長244kmの長い長い平坦コースだ。
text:Kei Tsuji in Torino, Italy
開幕前日のチームプレゼンテーションも、アルピニ全国集会ーの一部に組み込まれるという異例のものだった。選手たちは長時間に渡って混雑した街の中を引っ張り回され、パラッツォ広場では防衛省のイニャツィオ・ラルッサ大臣の威勢のいい演説を延々と聞かされた。
翌日にチームTTを控えた選手たちが、あまりの式典の長さに座り込むのも無理はない。選手やスタッフからは「史上最高に疲れるプレゼンテーション」「ゼロ・オーガナイズ」「やっぱりジロはジロ」「これが3週間続くんだ」と飽きれムード。
過去にジャパンカップに出場し、今年のジロではミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)の重要な山岳アシストのひとりになるマルコ・マルツァーノ(イタリア)は「ほんとサイクリストに有り得ない仕打ち」と眉間にしわを寄せる。その横でアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)が頷く。
トリノの中心街には、特徴的な羽根つきの山岳兵帽子を被ったアルピニと呼ばれる人々が大勢詰めかけている。イタリア人の祭り好きに火が付き、若者からおじさんまで、昼間からアルコールを飲んで盛り上がっている。
この週末にかけてトリノを訪れた人は50万人とも70万人とも言われている(聞く人によって数字が違うのがなんともイタリアらしい)。前日のチームプレゼンテーションの写真を見た方は、あまりの人の多さに驚かれたと思うが、純粋にジロだけを見に来ている人は実際かなり少ないというのが実状だ。
チームタイムトライアルのスタート地点は、トリノの中心から北西に10kmほど行ったところにあるヴェナリア・レアーレ。ユネスコ世界遺産に登録された「ヴェナリア王宮とその庭園」のすぐ前の広場で第94回大会は始動した。
コースはスタート直後の直線路が石畳で、その後セリエAの強豪ユヴェントスのホームスタジアムである「スタディオ・デッレ・アルピ(現在改築中)」の横を通り、複雑に入り組んだトラムの線路をかわしながらヴィットリオ・ヴェネト広場にゴールする19.3km。
ヴィットリオ・ヴェネト広場の一帯はアルピニたちのたまり場になっていて、トリノの中心部の交通網はダウン。大々的に交通規制が敷かれているのに市民がクルマで移動しようとするものだから、周囲は大渋滞。しかも前日はショーペロ(ストライキ)の影響で空港が閉鎖され、電車も止まった(トリノは限定的に運航)。そんなカオス状態の中で、ジロのチームタイムトライアルは行なわれた。
トップタイムを叩き出したのはHTC・ハイロード。会場には「アッカティチーがトップタイムを更新した」というアナウンスが響き渡る。英語読みだとエイチ・ティー・シーだが、イタリア語読みだとアッカ・ティ・チー。イタリア人は自分たちの読み方を貫いてしまう。
マリアローザを獲得したマルコ・ピノッティ(イタリア)は、国内ではインテリな選手という位置づけ。前々日に行なわれた記者会見でも、流暢な英語で質問に答える。ドーピングに関しては歯に衣を着せないコメントで違反者を痛烈に批判する。
ピノッティのマリアローザ着用は2回目。2007年大会のスポレートにゴールするステージで2位に入って総合首位に立ったピノッティは、マリアローザを4日間着続けた。2008年大会の最終個人タイムトライアルで優勝(当時コンタドールが総合優勝)していて、昨年は総合9位に入る走りを見せている。
「最初から全開で入り、力のある選手が積極的に長い時間前を引いた。そのおかげで最後までハイペースを保つことができた」。マリアローザに袖を通したピノッティは照れくさそうな笑顔を見せる。「トラムの線路やコーナーに気をつけながら走った。いくつかのパートは本当に難しかった」と、単純な平坦コースではなかったことを打ち明ける。
HTC・ハイロードは2009年大会に続く2度目のチームタイムトライアル勝利。翌日からは、ここイタリアで比較的リラックスした表情を見せているマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)のスプリントが待っている。「明日マリアローザを失うかもしれない。チームメイトに奪われるかも」とピノッティは笑った。
HTC・ハイロードのタイムを唯一脅かしたのが、最後から2番目にスタートしたレディオシャック。ジロ初出場のフミは「今日はあくまでもティアゴ(マシャド)とポポ(ポポヴィッチ)のための走りだった」と振り返る。献身的な走りを見せながら、チームの隊列の3番目でゴールラインを越えた。
「かなり前を引きましたよ」と語るあたり、ツール・ド・ロマンディからの好調を維持していることは明らか。リプレイ映像を見ても、フミは余裕のある表情でゴールしているのが分かる。まだ初日とは言え、日本人がグランツールで総合トップ10に入るのは初。
レディオシャックの先頭でゴールしたロビー・マキュアン(オーストラリア)は総合6位。翌日からマリアローザを狙えるポジションだが、総合上位にはカヴェンディッシュがいる。HTC・ハイロードはここぞとばかりにレースをコントロールするだろう。
とにかくジロが始まった。3週間に渡る闘いは始まったばかり。後半の山岳ステージに向けて様々な憶測が飛んでいるが「そんなのまだまだ先の話」というのが有力選手の常套句。大混雑のトリノを抜け出した選手たちを待つのは、アルバからパルマまで、今大会最長244kmの長い長い平坦コースだ。
text:Kei Tsuji in Torino, Italy
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