4月26日の実業団東日本ロード。ゴール地点に単独現れたのは、スプリンターのマトリックス辻善光ではなかった。昨年まではヒルクライマーとして知られていたブリッツェン長沼隆行が後続を引き離して現れた。ゴールで待ち構えていた大方の予想を覆したその差はなんだったのか。

スタートライン前方には今年から活動の宇都宮ブリッツェンがスタートライン前方には今年から活動の宇都宮ブリッツェンが photo:Hideaki.TAKAGI
162kmのレース
今年から大きく仕組みが変わった実業団ロードレース。その最高峰はTRクラスで年間12戦あり、Jサイクルツアーと呼ばれる。ここ群馬CSCで行われる東日本ロードレースはその第1戦だ。昨年までは100km程で行われてきたが、今年はなんと162km。4時間以上の長丁場のレースだ。そしてチーム総合1位には実業団連盟賞として100万円が贈られる。4人以上出走のチームで、上位3人の個人ポイント合計で競われるものであり、その仕組みと参加メンバーから、中堅チームにまで候補が広がるものだ。

特別なレースとなった宇都宮ブリッツェン
当日は海外レースのため、コンチネンタルチームの参加が少ない。シマノは鈴木真理、愛三工業は松村光浩と秋山英也、BSアンカーは三瀧光誠だけだ。いっぽうでマトリックスと宇都宮ブリッツェンはほぼフルメンバーで参戦。1周目の上りで13人の逃げができる1周目の上りで13人の逃げができる photo:Hideaki.TAKAGI
特に宇都宮ブリッツェンは昨秋に設立、公式戦(登録者レース)はこの東日本ロードが初めてだ。東西のチャレンジロードにも出ていなかったため、チーム実力は未知数のままでの参加だ。もちろん優勝が目標であるし、地元宇都宮から大勢のファンや支援者が応援に駆けつけ、ほかのどのチームよりも勝たなければならないプレッシャーが大きくかかる。

1周目に決まった逃げ
TRクラスは6kmコースを27周する162kmで、156名が出走した。いきなり大きな動きが1周目の心臓破りの坂で起きる。恵阿珠朝(Comrade Giant)、リー・ロジャース(Esperance Stage/WAVE ONE)らのペースアップでばらけて10人ほどが前方に。さらに後方から合流してS/Fラインは13人で通過して先頭集団ができる。3周目に先頭は10人に。メンバーは向川尚樹(マトリックスパワータグ・コラテック)、秋山英也(愛三工業レーシングチーム)、三瀧光誠(チームブリヂストン・アンカー)、中里聡史・小坂光(UTSUNOMIYA BLITZEN)、小段亮(パールイズミ・スミタ・ラバネロ)、武田耕大(Comrade Giant)、伊藤翔吾(MASSA-FOCUS-OUTDOORPRODUCTS)、リー・ロジャース(Esperance Stage/WAVE ONE)、大塚潤(TEAM YOU CAN八王子)だ。この逃げは、人数を減らしながら結局はゴールまで逃げ切ることになる。


中盤はメイン集団からアタックがかかるも決まらず
向川尚樹(マトリックスパワータグ・コラテック)、中里聡史(UTSUNOMIYA BLITZEN)らの逃げ集団向川尚樹(マトリックスパワータグ・コラテック)、中里聡史(UTSUNOMIYA BLITZEN)らの逃げ集団 photo:Hideaki.TAKAGI
逃げとメイン集団の差は、最大3分にまで広がる。追走のアタックが幾度もかかるが決定的な動きにならない。江本泰輔(なるしまフレンドレーシングチーム八王子)と安藤光平(オーベストディープラスデザイン)の動きがいい。青木誠(GRUPPO ACQUA TAMA)、小嶋洋介(Team DARK BLUE)、外勢健一朗(ダイハツ・ボンシャンス飯田)、西山知宏(TACURINO-KS Material-TR)、丸山厚(スワコレーシングチーム-TR)、寺崎武郎(バルバレーシング)、永良大誠(グランデパール播磨Hyogo)らも動くが結局まとまった動きにならない。20周目120kmまではこの展開が続く。先頭からは三瀧、大塚、武田、中里が脱落して6人に。
5周目、メイン集団は大人数のまま5周目、メイン集団は大人数のまま photo:Hideaki.TAKAGI
ラスト30kmを切って先頭は仕切りなおしの8人に
120kmを越えた21周目、単独で追走していた山川惇太郎(Comrade Giant)に後方から抜け出しに成功した廣瀬佳正・長沼隆行(UTSUNOMIYA BLITZEN)、辻善光(マトリックスパワータグ・コラテック)が合流して4人に、さらに下りてきた小坂も合流して5人で追走。そして単独で追走していた江本泰輔(なるしまフレンドレーシングチーム八王子)を抜き、その後小坂が脱落して4人で追走。同じく下りてきた伊藤と合流するが1周して伊藤も脱落。廣瀬、長沼、辻、山川の4人で先頭の秋山、向川、小段、ロジャースの4人を追う。24周目、ついに追走の4人は先頭で逃げていた4人に追いつき、ここで8人の先頭グループができる。
12周目、ペースを上げる真鍋和幸(TEAM NIPPO-COLNAGO)12周目、ペースを上げる真鍋和幸(TEAM NIPPO-COLNAGO) photo:Hideaki.TAKAGI
マトリックスとブリッツェンの攻防
8人となった先頭集団だが、向川が揺さぶりのアタックをかけ、秋山と小段が反応、長沼も合わせる。25周目(ラスト3周)の心臓破りの坂で辻がペースアップし、廣瀬、ロジャース、山川が脱落する。続くラスト2周で向川が再度揺さぶりのアタックを仕掛ける。秋山と続いて小段が反応する。そして続けて辻がペースアップ、これも秋山と小段が追う。メイン集団が猛追しているため、先頭は牽制だけでなくペースも落としてはならない。そのため辻や秋山、小段も積極的に前を引く。

そして最終周回。変わらず向川がペースアップして秋山と小段が反応、長沼は後方に位置する。辻もその長沼をマークする。そして最後の心臓破りの坂で長沼が渾身のアタックを掛ける。スプリンターに有利な展開だが、長沼が辻らを引き離してゴールへ向かう。長沼はそのままゴール、見事に自身でも初の優勝を遂げた。後方は小段と辻が2位争いになり、辻が2位となった。そしてメイン集団からアタックを仕掛けたメンバーが猛追して、そのうちの鈴木真理が4位の秋山に1秒差にまで迫って5位となった。
19周目、逃げる先頭の6人、伊藤翔吾(MASSA-FOCUS-OUTDOORPRODUCTS)、秋山英也(愛三工業レーシングチーム)、リー・ロジャース(Esperance Stage/WAVE ONE)ら19周目、逃げる先頭の6人、伊藤翔吾(MASSA-FOCUS-OUTDOORPRODUCTS)、秋山英也(愛三工業レーシングチーム)、リー・ロジャース(Esperance Stage/WAVE ONE)ら photo:Hideaki.TAKAGI
チーム総合はマトリックスが辻、向川、中村の成績により1位となり、賞金100万円を手にした。

勝敗を分けたものは
最終局面の5人では、向川は辻のアシスト、秋山と小段はその反応とペース維持に脚を使っていたため実質、辻と長沼の対決となった。昨年までならば、ヒルクライマーの長沼にスプリンターの辻が勝利するするのが普通の見方だった。だが、最終ホームストレートに現れたのは長沼ひとりだった。「力がありませんでした」と辻はうなだれる。いっぽうの長沼は「いままでスピード練習を多くしてきました。それにこのレースは、チームとして絶対に勝たないといけませんでした」と語る。
22周目、追走集団は下ってきた小坂光(UTSUNOMIYA BLITZEN)を加えて5人に22周目、追走集団は下ってきた小坂光(UTSUNOMIYA BLITZEN)を加えて5人に photo:Hideaki.TAKAGI
長沼はスピードも身につけオールラウンダーへ進化していた。さらに向川の揺さぶりに乗らず後方で冷静に対応したこと、そして何よりも絶対に勝つという気力が勝利につながった。いっぽうのマトリックスは、その長沼の力量を把握しきれていなかったこと、メイン集団の猛追に向川だけでなく辻もペース維持に参加したことが結果として2位になった要因だ。だが、辻がペース維持に協力していなければ鈴木真理が優勝していたかもしれない。難しい判断だったと思われる。

秋山はおそらく参加選手中一番の運動量だろう。存在感を十分に見せ付けた。3位の小段は21歳。1周目から逃げたメンバーとして、走りの内容と合わせてその順位はふさわしいものだ。
優勝候補だった廣瀬敏は、全員からマークされ、動けば必ず合わされて、抜け出すことが不可能だった。同じく鈴木真理も激しくマークされ、両者が抜け出せたのは最終周回に入ってからだった。
24周目、ついに先頭へ追走が追いつき、先頭集団は8人に24周目、ついに先頭へ追走が追いつき、先頭集団は8人に photo:Hideaki.TAKAGI
ブリッツェンは最初の逃げに中里と小坂を送り込む計画が予定通りに進み、その後に廣瀬と長沼を先頭へ送り込めた。いっぽうで斉藤翔太とマークから抜け出せなかったエースの清水良行は、ライバルチェックとメイン集団の抑えに回り、まさしくチーム全員で勝ち取った栄冠だ。


なお、4月25日の群馬CSCグランプリ、ならびに26日の東日本ロードの女子、BR-1およびERのレポートは追ってホットニュースでお伝えする。

ラスト2周、向川尚樹(マトリックスパワータグ・コラテック)の揺さぶりに反応する秋山英也(愛三工業レーシングチーム)、小段亮(パールイズミ・スミタ・ラバネロ)ラスト2周、向川尚樹(マトリックスパワータグ・コラテック)の揺さぶりに反応する秋山英也(愛三工業レーシングチーム)、小段亮(パールイズミ・スミタ・ラバネロ) photo:Hideaki.TAKAGI
結果
TRクラス(Jサイクルツアー)162km
1位 長沼隆行(UTSUNOMIYA BLITZEN)4時間19分59秒(AVS37.38km/h)
2位 辻善光(マトリックスパワータグ・コラテック)+03秒
3位 小段亮(パールイズミ・スミタ・ラバネロ)+03秒
4位 秋山英也(愛三工業レーシングチーム)+05秒
5位 鈴木真理(シマノレーシング)+06秒
6位 大塚潤(TEAM YOU CAN八王子)+08秒
7位 向川尚樹(マトリックスパワータグ・コラテック)+08秒
8位 中村誠(マトリックスパワータグ・コラテック)+10秒
9位 平井栄一(ブリヂストン・エスポワール)+11秒ラスト周回、向川尚樹(マトリックスパワータグ・コラテック)がペースアップ。長沼隆行(UTSUNOMIYA BLITZEN)は冷静に対応するラスト周回、向川尚樹(マトリックスパワータグ・コラテック)がペースアップ。長沼隆行(UTSUNOMIYA BLITZEN)は冷静に対応する photo:Hideaki.TAKAGI
10位 松村光浩(愛三工業レーシングチーム)+12秒
11位 永良大誠(グランデパール播磨Hyogo)+12秒
12位 西谷雅史(オーベストディープラスデザイン)+13秒
13位 鎌田圭介(パールイズミ・スミタ・ラバネロ)+13秒
14位 寺崎武郎(バルバレーシング)+13秒
15位 津末浩平(MASSA-FOCUS-OUTDOORPRODUCTS)+17秒
16位 森本誠(ベルダ)+17秒
17位 清水良行(UTSUNOMIYA BLITZEN)+17秒
18位 今井康人(SPADE・ACE浜松)+17秒
19位 松木健治(クラブ シルベストTR)+18秒
20位 小嶋洋介(Team DARK BLUE)+18秒
ホームストレートに単独現れたのは長沼隆行(UTSUNOMIYA BLITZEN)。プレッシャーをはねのけて見事優勝ホームストレートに単独現れたのは長沼隆行(UTSUNOMIYA BLITZEN)。プレッシャーをはねのけて見事優勝 photo:Hideaki.TAKAGI
団体戦
1位 マトリックス パワータグ・コラテック 195点
2位 UTSUNOMIYA BLITZEN 170点
3位 パールイズミ・スミタ・ラバネロ 130点

Jサイクルツアーリーダー
長沼隆行(UTSUNOMIYA BLITZEN)

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