着実にシェアを広げているロードバイク用チューブレスタイヤ。マウンテンバイクの世界でチューブレスを多く手がけるアメリカのマキシスが満を持して発表するロードバイク用タイヤが、PADRONE(パドロネ)だ。

マキシスPADRONEマキシスPADRONE (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

マキシスPADRONEマキシスPADRONE マウンテンバイク・クロスカントリーレースではもはや常識と言えるほどまで普及したチューブレスタイヤ。チューブの無い構造から原理上リム打ちパンクが無く、路面へのグリップや快適さを増すために(チューブドに比較して)低圧で使用できるのメリットは大きい。

このチューブレスタイヤがロードレースシーンに登場したのはこの数年。とりわけパリ~ルーベに代表されるパヴェ(石畳)のような悪路を走るレースで装着率が高まっている。低圧で走れるメリットがプロレベルで理解され始めているのだ。

通常の路面を走るツール・ド・フランスでも使用するチームがあるなど、徐々に平常使用での用途が広がり始めているが、一般サイクリストが積極的に選ぶにはまだタイヤの種類や対応ホイールの少なく、爆発的に普及しているとは言いがたい状況が続いている。

しかし未だ評価が定まらないこの新しい機材にも、ここ1、2年でタイヤやホイールが各社から揃い始めたことで、チューブレスを選ぶサイクリストも徐々に増え始めている。その流れの中で、マウンテンバイクのチューブレスタイヤの豊かなノウハウを持つマキシスが発表したのが、パドロネだ。

完全スリックトレッドを採用完全スリックトレッドを採用 チューブレスの難点である取付けにくさとエア漏れ対策に自信

とりわけクリンチャータイヤに比してメリットが取り上げられるチューブレスだが、構造的な難点もいくつか抱えている。チューブが無く、タイヤビードとリムを密着させる仕組み上、取り付けにはビードを痛めない慎重な嵌め方や適切なエア注入が問われるばかりか、隙間からエア漏れしない密封性に気を遣うことになる。こうした「気疲れ」がチューブレスタイヤを語る際には常につきまとい、その普及を妨げている一因となっている。

マキシスがチューブレスタイヤに参入する際に、このハードルを下げるべく独自の技術を取り入れた。OEM生産ではなく、自社工場で生産している点からも、ブランドテクノロジーを直に反映するマキシスの意志が感じられる。

パドロネはチューブレスタイヤのポイントとなるビード部に、カーボンファイバービードを採用。高強度のカーボンファイバーにより、ビードにコシを出しリムへの確実な圧着を実現せしめた。タイヤ内部には不透過性のブチルインナーを採用し、後にみるビードクッションとあわせエア漏れのリスクを低減する。

エア漏れがチューブレス第一の問題として、次に気になるのは装着のし易さだろう。どのタイヤにおいてもメンテナンス性は必ず問われる。クリンチャーのチューブラーに対する優位性も始めはその取付け易さにあったはずだ。パドロネはチューブレスタイヤとしてその問題に取り組んだ。

その解答は、上にみた高強度のカーボンファイバービードを柔軟性に富むビードクッションで包み込むことだった。これにより、ビードを「硬いもの」から「扱い易いもの」へと転換。このビードクッションと好相性の専用のチューブレス用タイヤレバーが2本付属し、装着性の良さを追求した。

PADRONEに付属するチューブレス専用タイヤレバー(ペア) PADRONEに付属するチューブレス専用タイヤレバー(ペア)  デュアルコンパウンドでさらにしなやかで軽やかに

こうしたチューブレスタイヤの機構上の問題を過ぎると、当然タイヤそのものとしての性能が重要になってくる。マキシスのロードタイヤは、アメリカのプロコンチネンタルチーム、ユナイテッドヘルスケアプロサイクリングチームへの強力なサポート&フィードバックによってプロダクト化されており、その性能は様々なレースシーンでの結果が証明しているところだ。

当然パドロネにもその技術力が活かされている。マキシス得意のデュアルコンパウンドを採用し、タイヤの適所に適材を配す。これにより、コーナーリンググリップと転がり抵抗、そして耐久性という一見相反する要素の共存を可能にする。適材適所、とはまさにこのことだろう。

耐パンクのためにはお得意の「シルクワームプロテクション」を採用。他の多くのマキシスタイヤと同じく、タイヤケーシングの内部に挟み込まれるこのベルト状のシートは、タイヤ外部がパンクの要因となるチューブレスタイヤにおいてとりわけその有効性の高さが認められるだろう。

それではこのロードチューブレースタイヤのニューカマーのインプレッションを、経験豊富な2人のショップ店長に聞いてみよう。





「ブランドが意図した転がり抵抗の軽さを感じるタイヤ」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)「ブランドが意図した転がり抵抗の軽さを感じるタイヤ」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 「ブランドが意図した転がり抵抗の軽さを感じるタイヤ」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)



グリップに関しては「ものすごく高い」といった感じは受けなかったのですが、路面状況が滑らかに伝わってくる振動吸収性のよさを感じました。コーナリングではタイヤサイドがしっかりしているのでクリンチャーのタイヤに比べてより倒し込める感触があります。

転がり抵抗はすごく少ないですね。日本の暑い夏の粘っこいアスファルトもけっこう耐えられるんじゃないでしょうか。クローズドサーキットのような、路面の良いところで活躍すると思います。

チューブレスの恩恵だと思いますが、ケーシングはすごくしなやかです。レース専用というよりは、あらゆる状況で走りたいマイルドさがある。転がり抵抗の軽さを意識して作ったというブランドの意図を感じました。

「今までのチューブレスにない軽さとしなやかさ」
鈴木祐一(Rise Ride)


まだロード用チューブレスタイヤのラインナップが各社多くはない状態です。これまでに僕はハッチンソンやIRCを使ったことがありますが、それに比べてタイヤ自体の軽さを感じました。実際に重量が軽いかはわからないんですが、それがペダルを踏んだ時のホイールの転がりの軽さ、負荷の低減につながっているという印象を受けました。

「今までのチューブレスにない軽さとしなやかさを感じる」鈴木祐一(Rise Ride)「今までのチューブレスにない軽さとしなやかさを感じる」鈴木祐一(Rise Ride) そしてかなりしなやかさを感じました。どうしても比較になってしまいますが、市場のチューブレスタイヤのラインナップの中でもしなやかな部類だと思います。「チューブレスはクリンチャーと比べて乗り心地がいいですよ」とよく言われますが、その中でも光るものがあると思います。

コンパウンドによるグリップ力という点では「すごく高いな」という感じはせず、標準的な印象ですね。テストしたのが晴れのドライコンディションだったので、ウェット時のグリップ感はちょっとわからないんですが、晴れの状況下では問題を感じませんでした。

チューブレースタイヤに関しては重くなってしまうというデメリットとそれに伴う先入観をもってしまいがちですが、軽量感のあるこのタイヤだと軽い走りができるので、その意味でも好印象を受けました。


「万能かつ軽い走りだが、ウェット性能は並」
綾野 真(編集部)


タイヤは長期にわたって使わなければ分からない性能がある。そのため、取扱代理店からお借りして2週間ほど使用を続けた。その間、海外のレースイベントの実走行取材もこなしたので、あらゆる状況でのテストができた。走行距離は300km程度。

走っていて常に感じるのは、2人のインプレライダーが口を揃えて感じたように、走行感の軽さだ。装着されていたホイールがアルテグラのチューブレスホイール(経験があるデュラエースC-24に比べると168gほど重い)だったため、厳密な比較ができなかったが、ホイールの重さを感じた以外は非常に軽快な走行感で、路面抵抗の少なさを実感できた。もしデュラエースクラスの軽量ホイールを使用したなら、実際のセット重量と路面抵抗の両方の面で、相当な軽快さで走れることだろうと思った。ちなみにパドロネのカタログ重量は295gだ。

荒れた路面の振動をみごとにマイルドにしてくれる荒れた路面の振動をみごとにマイルドにしてくれる しなやかさという点においても非常に優秀、快適で、チューブレスの美点がフルに引き出されている。チューブラーに匹敵するか、あるいはそれを越えるクッション性の良さと、真円度の高さから感じる精度の良さを感じる。それらは「ロードタイヤの未来はチューブレスにあるな」と改めて実感させてくれるものだ。

走行感の軽いタイヤで心配なのは雨天のグリップ力だ。パドロネはドライ路面においてはまったく心配ないレベルで、難コースでのスピードレースにも十分対応できるハイグリップタイヤだ。しかし雨に濡れた路面で使用した状況では、ある程度スリップしやすい面があることが確認できた。濡れた滑らかな(ミューの低い)路面を走る際に、トルクをかけて踏み込むと後輪がスリップする現象があった。

そもそもスリップしないタイヤなどというのは無いので、あくまで他のタイヤとの相対比較で語らなければいけないもの。筆者が比べる基準としたのはパナレーサーRACEタイプDで、悪条件での性能の高さでは市場にあるタイヤでナンバーワンの定評のあるハイグリップタイヤだ。だからウェットグリップに関しては「標準的」または「並」と言うべきなのかも知れないが、晴天時のようにはいかなかったことは付け加えておこう。



マキシス・パドロネ  パッケージマキシス・パドロネ  パッケージ マキシス・パドロネ

サイズ:700×23C
ビード:フォルダブル(折り畳み)
重量:295g
備考:チューブレス用タイヤレバー2本付属
定価:8,500円(税抜)











インプレライダーのプロフィール


戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート




鈴木祐一鈴木祐一 鈴木 祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド



バイク協力:インターマックス
ウェア協力:SUGOi


text:Yufta.OMATA
photo:Makoto.AYANO

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