2011/03/20(日) - 06:34
2011年3月19日、イタリアに春がやってきた。日の丸が翻る中、宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)の逃げでスタートしたミラノ〜サンレモ第102回大会。最後に待っていたのは、劇的な、そして歓喜に満ちたマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)の勝利だった。
逃げで魅せた全日本チャンピオン宮澤崇史
東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)の犠牲者に捧げる黙祷で始まった今年のミラノ〜サンレモ。出走サイン台に集まった選手たちは、チャリティーオークションに出される日の丸に一人一人サイン。各国のナショナルチャンピオンらを従えた宮澤崇史は、日の丸を手にスタートラインの最前列に立った。
「明日(レース当日)の仕事は前半の逃げに乗る事。前半から全開だ」と語っていた全日本チャンピオンは、序盤のアタック合戦に加わり、そして逃げに乗ってみせた。
12km地点で集団から飛び出したアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、アンドローニ・ジョカトリ)、ニコ・シーメンス(ベルギー、コフィディス)、ミハイル・イグナチエフ(ロシア、カチューシャ)、そして宮澤の4名は、50km地点で最大13分30秒のリードを稼ぐことに成功する。
ピエモンテ州の平野を駆け抜けた4名は、ガーミン・サーヴェロがコントロールするメイン集団から7分のリードを得てトゥルキーノ峠(142km地点)をクリア。タイム差を維持したままリグーリア海岸を駆け抜け、レース後半へと駒を進めた。
雨が降り、太陽が射し込む移り気な天候の中、逃げ続ける宮澤、デマルキ、シーメンス、イグナチエフの4名。しかし標高318mのレ・マニエ(204km地点)の登りが近づくと、メイン集団はにわかに活気づく。スプリンターたちを消耗させたいレオパード・トレックがペースを上げると、タイム差は急速に縮まった。
レ・マニエ手前の平坦区間で世界王者トル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)を含む20名ほどの落車が発生したが、メイン集団は構わず登りに突入する。ゴール94kmを残したこのレ・マニエでレースは動いた。
先頭ではデマルキとイグナチエフの2名が先行し、宮澤とシーメンスは吸収される。雨に濡れた登りと下り区間で集団は大きく2つに割れ、フースホフトやマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)、そしてオスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)が後方に取り残されてしまう。下りでクラッシュしたフレイレはレースを続行したが、大会連覇のチャンスは回ってこなかった。
スピードバトルを繰り広げた2つの集団
逃げていたデマルキとイグナチエフを捕らえ、先頭に立ったのは50名ほどのメイン集団。この中にはカンチェラーラやジルベール、グライペル、ハウッスラー、バッラン、ボーネン、ポッツァート、サガン、ニーバリ、そしてゴスが入った。
カヴェンディッシュやフースホフトを含む第2集団に対し、オメガファーマ・ロットやカチューシャ、BMCレーシングチームが率いるメイン集団は2分のリード。出遅れたチームリーダーを引き戻そうと、ファルネーゼヴィーニを中心に第2集団を牽引したが、タイム差は縮まらない。
先頭から脱落した全日本チャンピオン宮澤も最後まで力を振り絞って第2集団を牽引。結局2つの集団は1分のタイム差のままチプレッサに突入した。
高低差234mのチプレッサ(平均4.1%、最大9%)でリクイガス・キャノンデールやBMCレーシングチームがハイスピードな展開に持ち込むが、有力スプリンターはメイン集団から遅れず。
一方の第2集団からは、ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)が勢い良くアタック。スカルポーニは単独追走の後にメイン集団への合流を果たした。
チプレッサの下りでFDJが攻撃を仕掛け、ヨアン・オフルド(フランス、FDJ)やスチュアート・オグレディ(オーストラリア、レオパード・トレック)、フレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)ら5名が飛び出して先行。この先頭グループは、30秒のリードで高低差136mのポッジオ(平均3.7%、最大8%)に向かう。
そして迎えた最後のアタックポイント、ポッジオ。ゴールまで6kmを残したこの登りでファンアフェルマートが独走に持ち込み、一方のメイン集団からはヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)がアタック。ペースが上がったメイン集団は、人数を減らした状態でファンアフェルマート以外の選手を飲み込んだ。
10秒先行してポッジオをクリアしたファンアフェルマートだったが、テクニカルな下り区間はタイム差は減少。ゴール地点サンレモの街に入ってすぐ、ラスト3kmで後続8名に追い抜かれてしまう。こうして形成された8名の精鋭グループの中でアタック合戦が始まった。
オフルドやカンチェラーラ、ジルベール、ポッツァートらが断続的にアタックするも、決定的なリードを奪う選手が現れない。結局先頭は8名のままラスト1kmアーチを通過。ゴールスプリント勝負に持ち込まれた。
最終ストレートに突入すると、スカルポーニやジルベールが早めの仕掛けで先頭へ。しかし一枚上手の加速力を見せたゴスがラスト100mで先頭へ。カンチェラーラの懸命の追い上げも届かず、ゴスが叫び声とともに両手を突き上げた。
オーストラリア人初の栄冠を手にしたゴス 134位でゴールした宮澤
「上手くやれると思っていた。良い成績を残せると思っていた。でもまさか勝てるとは思っていなかった」。ゴール後のインタビューでゴスは驚きの表情でコメントする。
「ジルベールが危険な存在であることは心得ていたし、ポッジオでのアタックに警戒していた。彼らのアタックに合わせるように登りをこなしているうちに、精鋭グループの中に残ったんだ。人数が絞られたグループのスプリントに持ち込まれれば、勝てると思った」。
登りでのアタックを抑え込み、スプリンターとして唯一精鋭グループに残ったゴス。レ・マニエで脱落したカヴェンディッシュに代わるエーススプリンターとしての役割を確実に果たした。
「コースを知っていることは大きなアドバンテージになる。近く(モナコ)に住んでいるので、ポッジオは何度も走っているんだ。確認のためにこの1週間で何度も走った。下りのスピードは速かったけど、幸い濡れていなかったので、それほどトリッキーではなかった。ラスト500mを切ってから、最高の結果を信じて全開でスプリントしたんだ」。
昨年ジロ・デ・イタリアでグランツール初勝利を飾ったゴスは、今年ツアー・ダウンアンダーでステージ優勝を飾り、僅差の総合2位フィニッシュ。ツアー・オブ・オマーンとパリ〜ニースでもそれぞれステージ優勝を飾っている。このミラノ〜サンレモの勝利は今シーズン8勝目にあたる(UCIレースは4勝目)。
長いミラノ〜サンレモの歴史の中で、初のオーストラリア人優勝者となったゴス。オーストラリア大陸の南に浮かぶタスマニア島を飛び出した24歳は、名実共にトップスプリンターの仲間入り。特に今シーズンはエーススプリンターのカヴェンディッシュを食ってしまいそうな勢いを見せる。「本当に信じられない成績だよ。こんな素晴らしいシーズンスタートを切れるなんて夢にも思っていなかった」。HTC・ハイロードとしてはパリ〜ニースに続くビッグレース制覇。今シーズンの勝利数を世界最多の14に伸ばした。
一方、前半から逃げ、後半にかけてもチームのために集団を牽く動きを見せた宮澤は134位でゴール。日の丸が路上にペイントされたサンレモのゴールに、15分51秒遅れで辿り着いた。
ただ単に完走するだけでなく、チーム内の仕事を果たした宮澤。レース後に「今日は本当に300km集中して走った。(集団から)切れてからは、最後までコースを走り切ることしか自分にできる事はなかった。今日は最後まで諦めない、そんな気持ちを伝えられたとしたら、今日という日が自分にとって最高の1日になったと思う」とツイートしている。その熱い走りは日本人だけでなく、全世界の人々に伝わったはず。全日本チャンピオンとしての役目を完遂した。
選手コメントはHTC・ハイロード公式サイトより。
ミラノ〜サンレモ2011
1位 マシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード) 6h51'10"(43.486km/h)
2位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
4位 アレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)
5位 フィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)
6位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)
7位 ヨアン・オフルド(フランス、FDJ)
8位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)+03"
9位 フレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム) +10"
10位 スチュアート・オグレディ(オーストラリア、レオパード・トレック) +12"
134位 宮澤崇史(日本、ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ) 15'51"
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Riccardo Scanferla
逃げで魅せた全日本チャンピオン宮澤崇史
東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)の犠牲者に捧げる黙祷で始まった今年のミラノ〜サンレモ。出走サイン台に集まった選手たちは、チャリティーオークションに出される日の丸に一人一人サイン。各国のナショナルチャンピオンらを従えた宮澤崇史は、日の丸を手にスタートラインの最前列に立った。
「明日(レース当日)の仕事は前半の逃げに乗る事。前半から全開だ」と語っていた全日本チャンピオンは、序盤のアタック合戦に加わり、そして逃げに乗ってみせた。
12km地点で集団から飛び出したアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、アンドローニ・ジョカトリ)、ニコ・シーメンス(ベルギー、コフィディス)、ミハイル・イグナチエフ(ロシア、カチューシャ)、そして宮澤の4名は、50km地点で最大13分30秒のリードを稼ぐことに成功する。
ピエモンテ州の平野を駆け抜けた4名は、ガーミン・サーヴェロがコントロールするメイン集団から7分のリードを得てトゥルキーノ峠(142km地点)をクリア。タイム差を維持したままリグーリア海岸を駆け抜け、レース後半へと駒を進めた。
雨が降り、太陽が射し込む移り気な天候の中、逃げ続ける宮澤、デマルキ、シーメンス、イグナチエフの4名。しかし標高318mのレ・マニエ(204km地点)の登りが近づくと、メイン集団はにわかに活気づく。スプリンターたちを消耗させたいレオパード・トレックがペースを上げると、タイム差は急速に縮まった。
レ・マニエ手前の平坦区間で世界王者トル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)を含む20名ほどの落車が発生したが、メイン集団は構わず登りに突入する。ゴール94kmを残したこのレ・マニエでレースは動いた。
先頭ではデマルキとイグナチエフの2名が先行し、宮澤とシーメンスは吸収される。雨に濡れた登りと下り区間で集団は大きく2つに割れ、フースホフトやマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)、そしてオスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)が後方に取り残されてしまう。下りでクラッシュしたフレイレはレースを続行したが、大会連覇のチャンスは回ってこなかった。
スピードバトルを繰り広げた2つの集団
逃げていたデマルキとイグナチエフを捕らえ、先頭に立ったのは50名ほどのメイン集団。この中にはカンチェラーラやジルベール、グライペル、ハウッスラー、バッラン、ボーネン、ポッツァート、サガン、ニーバリ、そしてゴスが入った。
カヴェンディッシュやフースホフトを含む第2集団に対し、オメガファーマ・ロットやカチューシャ、BMCレーシングチームが率いるメイン集団は2分のリード。出遅れたチームリーダーを引き戻そうと、ファルネーゼヴィーニを中心に第2集団を牽引したが、タイム差は縮まらない。
先頭から脱落した全日本チャンピオン宮澤も最後まで力を振り絞って第2集団を牽引。結局2つの集団は1分のタイム差のままチプレッサに突入した。
高低差234mのチプレッサ(平均4.1%、最大9%)でリクイガス・キャノンデールやBMCレーシングチームがハイスピードな展開に持ち込むが、有力スプリンターはメイン集団から遅れず。
一方の第2集団からは、ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)が勢い良くアタック。スカルポーニは単独追走の後にメイン集団への合流を果たした。
チプレッサの下りでFDJが攻撃を仕掛け、ヨアン・オフルド(フランス、FDJ)やスチュアート・オグレディ(オーストラリア、レオパード・トレック)、フレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)ら5名が飛び出して先行。この先頭グループは、30秒のリードで高低差136mのポッジオ(平均3.7%、最大8%)に向かう。
そして迎えた最後のアタックポイント、ポッジオ。ゴールまで6kmを残したこの登りでファンアフェルマートが独走に持ち込み、一方のメイン集団からはヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)がアタック。ペースが上がったメイン集団は、人数を減らした状態でファンアフェルマート以外の選手を飲み込んだ。
10秒先行してポッジオをクリアしたファンアフェルマートだったが、テクニカルな下り区間はタイム差は減少。ゴール地点サンレモの街に入ってすぐ、ラスト3kmで後続8名に追い抜かれてしまう。こうして形成された8名の精鋭グループの中でアタック合戦が始まった。
オフルドやカンチェラーラ、ジルベール、ポッツァートらが断続的にアタックするも、決定的なリードを奪う選手が現れない。結局先頭は8名のままラスト1kmアーチを通過。ゴールスプリント勝負に持ち込まれた。
最終ストレートに突入すると、スカルポーニやジルベールが早めの仕掛けで先頭へ。しかし一枚上手の加速力を見せたゴスがラスト100mで先頭へ。カンチェラーラの懸命の追い上げも届かず、ゴスが叫び声とともに両手を突き上げた。
オーストラリア人初の栄冠を手にしたゴス 134位でゴールした宮澤
「上手くやれると思っていた。良い成績を残せると思っていた。でもまさか勝てるとは思っていなかった」。ゴール後のインタビューでゴスは驚きの表情でコメントする。
「ジルベールが危険な存在であることは心得ていたし、ポッジオでのアタックに警戒していた。彼らのアタックに合わせるように登りをこなしているうちに、精鋭グループの中に残ったんだ。人数が絞られたグループのスプリントに持ち込まれれば、勝てると思った」。
登りでのアタックを抑え込み、スプリンターとして唯一精鋭グループに残ったゴス。レ・マニエで脱落したカヴェンディッシュに代わるエーススプリンターとしての役割を確実に果たした。
「コースを知っていることは大きなアドバンテージになる。近く(モナコ)に住んでいるので、ポッジオは何度も走っているんだ。確認のためにこの1週間で何度も走った。下りのスピードは速かったけど、幸い濡れていなかったので、それほどトリッキーではなかった。ラスト500mを切ってから、最高の結果を信じて全開でスプリントしたんだ」。
昨年ジロ・デ・イタリアでグランツール初勝利を飾ったゴスは、今年ツアー・ダウンアンダーでステージ優勝を飾り、僅差の総合2位フィニッシュ。ツアー・オブ・オマーンとパリ〜ニースでもそれぞれステージ優勝を飾っている。このミラノ〜サンレモの勝利は今シーズン8勝目にあたる(UCIレースは4勝目)。
長いミラノ〜サンレモの歴史の中で、初のオーストラリア人優勝者となったゴス。オーストラリア大陸の南に浮かぶタスマニア島を飛び出した24歳は、名実共にトップスプリンターの仲間入り。特に今シーズンはエーススプリンターのカヴェンディッシュを食ってしまいそうな勢いを見せる。「本当に信じられない成績だよ。こんな素晴らしいシーズンスタートを切れるなんて夢にも思っていなかった」。HTC・ハイロードとしてはパリ〜ニースに続くビッグレース制覇。今シーズンの勝利数を世界最多の14に伸ばした。
一方、前半から逃げ、後半にかけてもチームのために集団を牽く動きを見せた宮澤は134位でゴール。日の丸が路上にペイントされたサンレモのゴールに、15分51秒遅れで辿り着いた。
ただ単に完走するだけでなく、チーム内の仕事を果たした宮澤。レース後に「今日は本当に300km集中して走った。(集団から)切れてからは、最後までコースを走り切ることしか自分にできる事はなかった。今日は最後まで諦めない、そんな気持ちを伝えられたとしたら、今日という日が自分にとって最高の1日になったと思う」とツイートしている。その熱い走りは日本人だけでなく、全世界の人々に伝わったはず。全日本チャンピオンとしての役目を完遂した。
選手コメントはHTC・ハイロード公式サイトより。
ミラノ〜サンレモ2011
1位 マシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード) 6h51'10"(43.486km/h)
2位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
4位 アレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)
5位 フィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)
6位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)
7位 ヨアン・オフルド(フランス、FDJ)
8位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)+03"
9位 フレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム) +10"
10位 スチュアート・オグレディ(オーストラリア、レオパード・トレック) +12"
134位 宮澤崇史(日本、ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ) 15'51"
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Riccardo Scanferla
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