2011/03/18(金) - 13:44
今年も「ラ・プリマヴェーラ(春)」がやってきた。1907年に第1回大会が開催された「クラッシチッシマ(クラシックの最上級)」が、春めく北イタリアを駆け抜ける。今年で104年目を迎えるクラシックの中のクラシックだ。
クラシックの中のクラシック アタック連発の熾烈なバトル
今年からUCIワールドツアーに組み込まれたミラノ〜サンレモが、3月19日(土)に開催される。今年で開催102回目の伝統あるワンデークラシックだ。
コースはその名の通りミラノからサンレモまで、300kmの大台目前の298km。日本で言うところの、東京〜愛知、大阪〜静岡に匹敵するほどの長旅。現存するロードレースの中で最長距離を誇っている。
内陸部の大都市ミラノをスタートするコースは、平野部を突っ切る前半部が平坦基調。ジェノバ近郊のトゥルキーノ峠(標高532m)を越えると、リグーリア海に沿ったオーシャンロードが始まる。
トゥルキーノ峠は大会の最標高地点だが、レース展開的には重要なポイントではない。勝負の鍵を握るのは、後半に登場するレ・マニエ、トレ・カーピ、チプレッサ、ポッジオの登りだ。
リグーリア海沿いの平坦路をしばらく走った後、204km地点でレ・マニエ峠(標高318m)をクリア。2008年に導入されたこのレ・マニエは、5km弱で標高差300mを駆け上がる。アタッカー有利の展開に持ち込みたいチームは、スプリンターの脚を弱めるためにここでペースを上げてくるだろう。ここから徐々にレースは慌ただしさを増す。
トレ・カーピ(3つの岬)と呼ばれるカーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタの3つの岬の先、真の勝負どころとして選手たちを待ち構えるのが、ゴール28km手前から連続する2つの登り。高低差234mのチプレッサ(平均4.1%、最大9%)と高低差136mのポッジオ(平均3.7%、最大8%)だ。
このチプレッサとポッジオでは毎年激しいアタック合戦が繰り広げられる。ここで飛び出した選手は、何とかスプリンターチームの追撃を抑え込んでゴールまで逃げ切りを図る。対するスプリンターチームは、登りで縮小した集団を率いて、エーススプリンターのゴール勝負をお膳立てする。
最後のポッジオの頂上からゴールまでは僅かに6.2km。その構成は3km下って3km平坦。ゴール地点はサンレモの町の海側に位置するルンゴマーレ・カルヴィーノだ。
ポッジオ通過後のテクニカルなダウンヒルで飛び出す選手も出てくるだろう。アタッカーの逃げ切りか、それともスプリンターの追い上げ&スプリントバトルか。この2通りの展開が絶妙なバランスでクロスするコースレイアウトが、ミラノ〜サンレモ最大の魅力だ。
世界最高峰のスプリンターがミラノに集結
伝統的に、スプリンターに有利な展開に持ち込まれることの多いミラノ〜サンレモ。過去の優勝者リストを見ても、スプリンターの名前が並んでいる。ピュアスプリンターが優勝を狙うことの出来る数少ないメジャークラシックだけに出場リストは豪華だ。
昨年は登りで絞られた30名ほどの集団によるゴールスプリントに持ち込まれ、オスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)が勝利した。フレイレは2004年と2007年にも優勝しており、今年史上4人目となる4勝目を目指す(最多勝記録はエディ・メルクスの7勝)。
フレイレは今年ブエルタ・ア・アンダルシアでステージ2勝をマーク。直前のティレーノ〜アドリアティコでは1度もスプリントに絡んでいないが、故意に調子の良さを見せず、調整に専念していた可能性もある。それはアンダルシア2勝とティレーノ0勝でミラノ〜サンレモ制覇を成し遂げた昨シーズンの成績が証明している。
初出場の2009年大会で涙の勝利を飾ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)は、強力なHTC・ハイロードを率いての出場だ。マシュー・ゴス(オーストラリア)やマーク・レンショー(オーストラリア)、ベルンハルト・アイゼル(オーストリア)による鉄壁のHTCトレインがカヴェンディッシュを解き放つ。
しかしカヴェンディッシュのコンディションには疑問が残る。昨年不調のままミラノ〜サンレモに挑んだカヴェンディッシュは89位。今年はすでにシーズン1勝を飾っているが、トップコンディションとは言えない状態だ。カヴェンディッシュが不調の場合はゴスやレンショーで勝負する可能性もある。
スプリント力の面で頭一つ抜け出ているのがガーミン・サーヴェロだ。優勝を狙えるスプリンターが3名出場する。
まずは世界チャンピオンのトル・フースホフト(ノルウェー)。起伏に富んだティレーノ〜アドリアティコ第4ステージで最後まで集団に残ったフースホフトは、抜群のコンディションでミラノに降り立つ。
そのフースホフトに発射されて第2ステージで集団スプリントを制したタイラー・ファラー(アメリカ)や、2009年に数センチ差でカヴェンディッシュに敗れたハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア)が出揃う。大集団の場合はファラー、小集団の場合はフースホフトやハウッスラーと言った具合に、ガーミン・サーヴェロは様々な戦術を用意する。
そんな海外勢を、イタリアンスプリンターたちが受けて立つ。レオパード・トレックに移籍したダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)は、今シーズン何度もスプリントに絡みながらも未勝利。母国最大のクラシックタイトルを渇望している。
昨年ワイルドカード枠で出場し、4位に入ったサーシャ・モードロ(イタリア、コルナゴ・CSFイノックス)は表彰台へのジャンプアップを目指す。2005年大会優勝者のアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)は直前になって気管支喘息が再発し、出場が危ぶまれたが、問題なくスタートする予定だ。
他にもアンドレ・グライペル(ドイツ、オメガファーマ・ロット)やロビー・マキュアン(オーストラリア、レディオシャック)、トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)、フアンホセ・アエド(アルゼンチン、サクソバンク・サンガード)らが顔を揃える。スプリンターの中では登坂力に秀でたエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)は小集団によるスプリント勝負に持ち込みたいところだ。
チプレッサとポッジオで攻撃を仕掛けるアタッカーたち
終盤に登場するチプレッサとポッジオの上りで攻撃を仕掛け、スプリンターに挑戦状を叩き付けるのがアタッカーたちだ。「逃げ切り成功率」は低いが、それでも僅かな可能性を信じて攻撃に出る。
毎年ほぼ必ずポッジオでアタックを仕掛けるフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)は要注意人物。ジルベールはここ数年RCS Sport主催レースと相性がよく、昨年ジロ・ディ・ロンバルディアで連覇を達成し、未舗装路のストラーデ・ビアンケで勝利。ティレーノ第5ステージでも勝利している。今年も果敢な走りで突破口を開く。
ジルベールに加えて、登りではヴィンチェンツォ・ニーバリ(リクイガス・キャノンデール)やアレッサンドロ・バッラン(BMCレーシングチーム)、ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)、ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)、フィリッポ・ポッツァート(カチューシャ)と言ったイタリア人たちが波状攻撃を仕掛けるはず。
パリ〜ニースの開幕ステージで優勝し、マイヨジョーヌを着たトーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM)も要チェック。
ジロ・ディ・サルデーニャで登りスプリント、頂上ゴール、集団スプリントを制し、総合優勝を飾ったペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)の存在も忘れてはならない。
2008年大会のゴール前で単独アタックを成功させ、圧倒的な独走力で勝利を手にしたファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)は、ティレーノ最終個人タイムトライアルで勝利して好調ぶりをアピールしている。独走態勢に入ると手に負えない圧倒的な強さは他チームの脅威になるだろう。
そして日本からは、全日本チャンピオンの宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)が初出場を果たす。「被災地の人達に見てもらう事は出来なかったとしても、気持ちを届けたいと思います」と語る宮澤は、同時に東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)被災者への寄付を目的としたオークションも提案。多くの選手の賛同を得た。「自分に出来る全ての気持ちを、ペダルに乗せて走ってきます」。全日本チャンピオンが298kmの至高のクラシックに挑む。
ミラノ〜サンレモのテキストライブは3月19日(土)22:30スタート予定です!
text:Kei Tsuji
クラシックの中のクラシック アタック連発の熾烈なバトル
今年からUCIワールドツアーに組み込まれたミラノ〜サンレモが、3月19日(土)に開催される。今年で開催102回目の伝統あるワンデークラシックだ。
コースはその名の通りミラノからサンレモまで、300kmの大台目前の298km。日本で言うところの、東京〜愛知、大阪〜静岡に匹敵するほどの長旅。現存するロードレースの中で最長距離を誇っている。
内陸部の大都市ミラノをスタートするコースは、平野部を突っ切る前半部が平坦基調。ジェノバ近郊のトゥルキーノ峠(標高532m)を越えると、リグーリア海に沿ったオーシャンロードが始まる。
トゥルキーノ峠は大会の最標高地点だが、レース展開的には重要なポイントではない。勝負の鍵を握るのは、後半に登場するレ・マニエ、トレ・カーピ、チプレッサ、ポッジオの登りだ。
リグーリア海沿いの平坦路をしばらく走った後、204km地点でレ・マニエ峠(標高318m)をクリア。2008年に導入されたこのレ・マニエは、5km弱で標高差300mを駆け上がる。アタッカー有利の展開に持ち込みたいチームは、スプリンターの脚を弱めるためにここでペースを上げてくるだろう。ここから徐々にレースは慌ただしさを増す。
トレ・カーピ(3つの岬)と呼ばれるカーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタの3つの岬の先、真の勝負どころとして選手たちを待ち構えるのが、ゴール28km手前から連続する2つの登り。高低差234mのチプレッサ(平均4.1%、最大9%)と高低差136mのポッジオ(平均3.7%、最大8%)だ。
このチプレッサとポッジオでは毎年激しいアタック合戦が繰り広げられる。ここで飛び出した選手は、何とかスプリンターチームの追撃を抑え込んでゴールまで逃げ切りを図る。対するスプリンターチームは、登りで縮小した集団を率いて、エーススプリンターのゴール勝負をお膳立てする。
最後のポッジオの頂上からゴールまでは僅かに6.2km。その構成は3km下って3km平坦。ゴール地点はサンレモの町の海側に位置するルンゴマーレ・カルヴィーノだ。
ポッジオ通過後のテクニカルなダウンヒルで飛び出す選手も出てくるだろう。アタッカーの逃げ切りか、それともスプリンターの追い上げ&スプリントバトルか。この2通りの展開が絶妙なバランスでクロスするコースレイアウトが、ミラノ〜サンレモ最大の魅力だ。
世界最高峰のスプリンターがミラノに集結
伝統的に、スプリンターに有利な展開に持ち込まれることの多いミラノ〜サンレモ。過去の優勝者リストを見ても、スプリンターの名前が並んでいる。ピュアスプリンターが優勝を狙うことの出来る数少ないメジャークラシックだけに出場リストは豪華だ。
昨年は登りで絞られた30名ほどの集団によるゴールスプリントに持ち込まれ、オスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)が勝利した。フレイレは2004年と2007年にも優勝しており、今年史上4人目となる4勝目を目指す(最多勝記録はエディ・メルクスの7勝)。
フレイレは今年ブエルタ・ア・アンダルシアでステージ2勝をマーク。直前のティレーノ〜アドリアティコでは1度もスプリントに絡んでいないが、故意に調子の良さを見せず、調整に専念していた可能性もある。それはアンダルシア2勝とティレーノ0勝でミラノ〜サンレモ制覇を成し遂げた昨シーズンの成績が証明している。
初出場の2009年大会で涙の勝利を飾ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)は、強力なHTC・ハイロードを率いての出場だ。マシュー・ゴス(オーストラリア)やマーク・レンショー(オーストラリア)、ベルンハルト・アイゼル(オーストリア)による鉄壁のHTCトレインがカヴェンディッシュを解き放つ。
しかしカヴェンディッシュのコンディションには疑問が残る。昨年不調のままミラノ〜サンレモに挑んだカヴェンディッシュは89位。今年はすでにシーズン1勝を飾っているが、トップコンディションとは言えない状態だ。カヴェンディッシュが不調の場合はゴスやレンショーで勝負する可能性もある。
スプリント力の面で頭一つ抜け出ているのがガーミン・サーヴェロだ。優勝を狙えるスプリンターが3名出場する。
まずは世界チャンピオンのトル・フースホフト(ノルウェー)。起伏に富んだティレーノ〜アドリアティコ第4ステージで最後まで集団に残ったフースホフトは、抜群のコンディションでミラノに降り立つ。
そのフースホフトに発射されて第2ステージで集団スプリントを制したタイラー・ファラー(アメリカ)や、2009年に数センチ差でカヴェンディッシュに敗れたハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア)が出揃う。大集団の場合はファラー、小集団の場合はフースホフトやハウッスラーと言った具合に、ガーミン・サーヴェロは様々な戦術を用意する。
そんな海外勢を、イタリアンスプリンターたちが受けて立つ。レオパード・トレックに移籍したダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)は、今シーズン何度もスプリントに絡みながらも未勝利。母国最大のクラシックタイトルを渇望している。
昨年ワイルドカード枠で出場し、4位に入ったサーシャ・モードロ(イタリア、コルナゴ・CSFイノックス)は表彰台へのジャンプアップを目指す。2005年大会優勝者のアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)は直前になって気管支喘息が再発し、出場が危ぶまれたが、問題なくスタートする予定だ。
他にもアンドレ・グライペル(ドイツ、オメガファーマ・ロット)やロビー・マキュアン(オーストラリア、レディオシャック)、トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)、フアンホセ・アエド(アルゼンチン、サクソバンク・サンガード)らが顔を揃える。スプリンターの中では登坂力に秀でたエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)は小集団によるスプリント勝負に持ち込みたいところだ。
チプレッサとポッジオで攻撃を仕掛けるアタッカーたち
終盤に登場するチプレッサとポッジオの上りで攻撃を仕掛け、スプリンターに挑戦状を叩き付けるのがアタッカーたちだ。「逃げ切り成功率」は低いが、それでも僅かな可能性を信じて攻撃に出る。
毎年ほぼ必ずポッジオでアタックを仕掛けるフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)は要注意人物。ジルベールはここ数年RCS Sport主催レースと相性がよく、昨年ジロ・ディ・ロンバルディアで連覇を達成し、未舗装路のストラーデ・ビアンケで勝利。ティレーノ第5ステージでも勝利している。今年も果敢な走りで突破口を開く。
ジルベールに加えて、登りではヴィンチェンツォ・ニーバリ(リクイガス・キャノンデール)やアレッサンドロ・バッラン(BMCレーシングチーム)、ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)、ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)、フィリッポ・ポッツァート(カチューシャ)と言ったイタリア人たちが波状攻撃を仕掛けるはず。
パリ〜ニースの開幕ステージで優勝し、マイヨジョーヌを着たトーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM)も要チェック。
ジロ・ディ・サルデーニャで登りスプリント、頂上ゴール、集団スプリントを制し、総合優勝を飾ったペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)の存在も忘れてはならない。
2008年大会のゴール前で単独アタックを成功させ、圧倒的な独走力で勝利を手にしたファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)は、ティレーノ最終個人タイムトライアルで勝利して好調ぶりをアピールしている。独走態勢に入ると手に負えない圧倒的な強さは他チームの脅威になるだろう。
そして日本からは、全日本チャンピオンの宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)が初出場を果たす。「被災地の人達に見てもらう事は出来なかったとしても、気持ちを届けたいと思います」と語る宮澤は、同時に東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)被災者への寄付を目的としたオークションも提案。多くの選手の賛同を得た。「自分に出来る全ての気持ちを、ペダルに乗せて走ってきます」。全日本チャンピオンが298kmの至高のクラシックに挑む。
ミラノ〜サンレモのテキストライブは3月19日(土)22:30スタート予定です!
text:Kei Tsuji
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