2011/03/08(火) - 08:39
昨年まではマドンシリーズのボトムを受け持っていた4シリーズだが、今年は3シリーズの登場を受けて、格付けがワンランクアップした。とはいえ、依然としてマドンの魅力を最も身近に体験できるモデルの1つであることに変わりはない。この4シリーズは、上位機種となる「4.7」と今回試乗する「4.5」(WSD仕様も展開)の2グレードが用意される。両者ともフレームは同じだが、4.5はパーツアッセンブルの違いにより、25万円という入門者にも手が届く、比較的手ごろな価格を実現している。
トレックのカーボンフレームといえばOCLVカーボンを代名詞的存在とするが、4シリーズにはTCT(トレック・カーボン・テクノロジー)と呼ばれるカーボンテクノロジーが用いられる。トレックでは2011年モデルから、6シリーズを除く全てのマドンにこのTCTカーボンが用いられており、同社のこの素材に対する自信がうかがえる。
多くのメーカーにおいてカーボン製ロードバイクのラインナップといえば、全く異なるモデルが展開されている。しかし、トレックでは素材や多少の工作の違いはあるものの、全てがマドンである。レースもロングライドもこの1台で事足りるというのがトレックの開発姿勢であり、同時にマドンのパフォーマンスの高さともいえるだろう。
下ワンが1-1/2インチのテーパーコラムに設計して、さらに前後方向への剛性調整を行った最新の「E2フォーク」、電子デバイスに対応する「デュオトラップ」など上位機種譲りの設計を備える。4シリーズのフォークはコラムもアルミというところにトレックの安全基準の厳しさを垣間見ることができる。
シマノ・デュラエースDi2が決定打となり、ロードバイクにも急速にエレクトリックテクノロジーが流入してきつつある。プロバイクにはパワー測定装置が標準装備に等しくなり、電子装備はこれからますます導入されていくだろう。デュオトラップはボントレガー、ガーミン、パワータップ、SRMなどに対応するANT+(アントプラス)規格を採用。将来的な拡張性という面でも安心で、すっきりとフレームに収まる。こういった所にもいち早く対応しているのが同社の先見の明を感じる。
ワイヤリングもレイアウトは同じなのだが、上位機種のような内蔵式ではない。さらに、BBも同社独自規格のBB90ではなく、通常のねじ切りタイプを採用している。これは差別化というより、乗り手のレベルを想定した工作と考えられる。
シートポストはオリジナルインテグラルシートポスト・シートマストではなく、丸チューブの一般的なタイプを装備できる仕様。振動吸収性では上位機種に採用されるトレック独自のシートマストに譲るものの、コストの面はもちろんのこと、マドン4が照準とする入門クラスユーザーを考えると、一般的なシートポスト構造を採用した方が整備性やパーツ交換の拡張性も高いというメリットもある。
パーツアッセンブルはシマノ・105のコンポーネントをベースするが、クランクはシマノ・R600、ブレーキはテクトロ・R540にするなど、要所要所でコスト削減することで価格を手ごろにし、マドンの魅力を多くのユーザーに届けるねらいだ。ギヤレシオもフロントギヤは50×34T、リヤスプロケットは11~28Tとフロントトリプルを除いてはシマノラインナップでもっとも軽い仕様で、経験の浅いライダーにとっては、ロングライドや山岳ライドでお守りのように心強いに違いない。
現代のカーボンフレームは位置付けがはっきり分かれている。ひと昔前のように前代の上位機種をそのままトップダウンしてくるのではなく、それぞれユーザーを想定し、最適な剛性、強度、振動吸収性などを備えるのが最新のロードバイクだ。高い金額を支払えばその人にとって良いバイクが手に入るという時代ではない。ビッグメーカーらしく、ユーザーのレベルに合わせたトップダウンが巧みに行なわれているのが、このマドン4.5だ。レースやロングライドの世界に本格的に足を踏み入れたいユーザーにとって、その楽しみを広げてくれる1台になるだろう。それではその実力を、2人のテスターに確認してもらおう。
―インプレッション
「上級者をも納得させるほどのレーシング性能を備える」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
マドン3シリーズにも乗りましたが、この4.5は同じマドンシリーズでありながらも、踏み出しの軽さなどが全く違うレベルにあるのが乗った瞬間にわかります。特にBB周りのフィーリングが異なり、4.5はしっかりとしているので踏み出しがとても軽いです。
スピードを上げて高速域で巡航するような走りでも持続性の高さを感じることができます。1台目のバイクを購入するユーザーよも、ロードバイクの経験が少しでもあるような人に乗ってもらった方が、このバイクの良さを体感できるでしょう。
さらに、フォークがとても良くできている印象を受けました。後三角からBB周りの剛性は高いのですが、踏み出したときにフォークが僅かによれることによって、フレーム全体の硬さを上手く和らげています。
疲れてしまってインナーギヤをクルクル回しながら走る時でも、脚にくるような感覚はなですね。したがって初心者の方でも、体力が落ちてきた場合に巡航させやすいと思います。
フレームはかなり剛性が高い印象です。しっかりあるような硬さを受けます。でも不思議なことにキンキンとした尖ったフィーリングはないので疲れにくいです。路面からの突き上げ感を、フロントもリヤも上手くいなしてくれます。低速ではコツコツとした感覚がハンドルから伝わることもありますが、サドルはパッドも十分で座りやすく、体にドンとくる大きな衝撃に関してもしっかり緩和してくれます。
そして、ハンドリングの軽さは特筆すべき性能です。レーシングバイクとしての味付けがとても濃い感じです。上りでのダンシングにおいて体重をバイクの前側に預けても、フロントセクションがよれを出すようなことはほとんどありません。ハイスピードコーナーにおいても思い通りのラインをトレースでき、怖さを感じさせません。しっかりした感覚はあるのですが、フロントフォークは上手にサスペンション的役割を果たしています。走行時にフォークブレードに目を向けると結構ウイップしていますが、これがライディング時の上下左右の入力に対してバランスを上手に取ってくれます。
ちょっと気になったのは、トップチューブと脚がかなり擦れること。このバイクはあんまり車体を振らなくても加速ができるので、足下でカサカサ、という擦れる音と感触が少し気になりますね。しかし、最近のバイクはトップチューブの横幅が広く設計されているので、仕方ないのでしょう。
ある程度ロードバイクに乗ってきて、レースのようなイベントにチャレンジしようと思ったときに、このマドン4.5のようなレスポンスの早いバイクは十分ライダーの能力を引き出してくれると思います。上り坂でも軽さがあるし、スピードの緩急にも負けない剛性があります。ある程度の中級者、ひょっとしたら上級者が乗っても満足する性能を持っているかもしれません。走りを楽しむというか……、よりスポーティな味付けがなされています。アクションの上達、コーナーリングや上りのタイムを短縮したい望みに対応できる優秀なバイクと言えるでしょう。
「あらゆる楽しみ方を高いレベルでこなすことができる」
吉本 司(バイクジャーナリスト)
試乗した2011年モデルの中でも強く印象に残るバイクの1つがマドン6シリーズ。軽い加速感、剛と軟のバランスに優れた剛性、そして高い快適性という、レーシングバイクに求められる要素を高次元でバランスされ、トレック史上最高のモデルと言えるだろう。5シリーズはフレーム形状が6シリーズと基本的に同じで、素材が異なるだけなので“マドンらしさ”をそれなりに楽しめると想像できる。
しかし、この4シリーズはマドンの特徴でもある乗り心地を高めるためのシートマストもなければ、BB90も装備されていない。BBについては、下位機種のマドン3シリーズがプレスフィットBBを装備するだけに、4シリーズがスレッドタイプというのは正直なところ“グレードダウン感”があり少々残念なところ。3シリーズと同じBBタイプならば、より魅力的なのだが……。さて話が横道に逸れたが、マドン4はどれだけ“マドンらしさ”を持っているのか? というのが試乗前の気がかりな点だった。
マドン4.5の大きなチャームポイントはペダリングの軽さだ。これは20万円中盤の価格とは思えないほどキレがいい。フレーム剛性は高めでレーシングモデルらしい切れ味の鋭さがあり、コーナーや上りでの加速は楽しく、レーシングマインドがあおられる。上位機種のエッセンスを感じることができ、試乗前の懸念は無駄であった。
6シリーズと4シリーズの加速感の違い(車重差による加速の違いを抜きして)は、6シリーズの方がしなやかさとペダリング時にタメがあるので、大きなトルクをかけた時の速度の伸びのよさがあり、さらに脚がいっぱいになった時のペダリングでは速度の鈍りが少ないと感じる。違いといえばそれぐらいで、4シリーズの加速の良さはかなり高いレベルにあり、同クラスのライバルと比べると抜きんでた性能を持つ。このバイクのターゲットユーザーはもちろん、ある程度レース経験のあるライダーが乗っても、4シリーズの加速性能は魅力的だろう。
ジオメトリーも上位機種と同じなので、ハンドリング特性もナチュラル、そして乗車時の重心位置も低めに感じる。ビギナーでも非常に乗りやすく、それでいて上級者でもハンドリングに怠さを感じることがないので、スイートスポットはかなり広いライディング特性と言える。
ストレートタイプのブレードを持つフォークはマドンのもう1つの魅力といっていい。少しばかり細めに設計されたブレードは先端を微妙にしならす設計で、路面のギャップを弾くように吸収して、荷重に対しても的確なコントロールを実現するので、コーナーリングにおけるスタビリティや乗り心地を高めてくれる。また、リヤセクションとのバランスもしっかりとられているので、バイクの挙動が乱れにくく、安定したライディングを可能にしてくれる。
レーシングバイクらしい加速感を持つマドン4.5は、ロードレースやヒルクライムのようなコンペ志向の走りを楽しめるのはもちろんだが、加えて高い安定感と十分な乗り心地も備えているのでロングライドでもストレスの少ない走りが体験できるはずだ。個人的には、加速の軽さを生かして、ミシュラン・プロ3レースなどのレーシングタイヤをベースにした25Cクラスのタイヤを装備すると、重量のハンディをそれほど感じることなく、ロングライドをかなり快適に走れると思う。
もちろんヒルクライムなら軽量なホイールを履いて、ハンドルやサドル周りのパーツを少し軽量化すればかなり軽快な走りを目指せる。ロードレースならエアロ系のホイールとも相性が良さそうだ。フレームの基本性能が高く、扱いやすい走行性能なので、1台でレースからロングライドまで、いろいろな楽しみ方をかなり高いレベルでこなせるバイクと言えるだろう。自分の楽しみ方に合わせてステップアップしたカスタムで長く付き合える1台だ。
トレック・マドン4.5
フレーム:4シリーズTCTカーボン
フォーク:ボントレガー・レースライトW/E2 アルミニウムステアラー×カーボンレッグ
サイズ:50、52、54 、56、58、60、62
カラー:マットブラック×ホワイト×カレラ
ヘッドセット:インテグレーテッドカートリッジベアリング アロイ 1-1/8トップ1-1/2ボトム
コンポーネント:シマノ・105
シートポスト:ボントレガー・カーボン20mmオフセット
フレームセット重量:NA
価格:25万円(完成車)
インプレライダーのプロフィール
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート
吉本 司(バイクジャーナリスト)
71年生まれ。スポーツサイクル歴は25年。自転車専門誌の編集者を経てフリーランスの自転車ライターとなる。主にロードバイク関連の執筆が多いが、MTBから電動アシスト自転車まで幅広いジャンルのバイクに造詣が深い。これまで30台を上回るロードバイクを所有してきた。身長187センチ、体重71㎏。
ウェア協力:B・EMME(フォーチュン)
photo:Makoto.AYANO
text:Tsukasa.YOSHIMOTO
トレックのカーボンフレームといえばOCLVカーボンを代名詞的存在とするが、4シリーズにはTCT(トレック・カーボン・テクノロジー)と呼ばれるカーボンテクノロジーが用いられる。トレックでは2011年モデルから、6シリーズを除く全てのマドンにこのTCTカーボンが用いられており、同社のこの素材に対する自信がうかがえる。
多くのメーカーにおいてカーボン製ロードバイクのラインナップといえば、全く異なるモデルが展開されている。しかし、トレックでは素材や多少の工作の違いはあるものの、全てがマドンである。レースもロングライドもこの1台で事足りるというのがトレックの開発姿勢であり、同時にマドンのパフォーマンスの高さともいえるだろう。
下ワンが1-1/2インチのテーパーコラムに設計して、さらに前後方向への剛性調整を行った最新の「E2フォーク」、電子デバイスに対応する「デュオトラップ」など上位機種譲りの設計を備える。4シリーズのフォークはコラムもアルミというところにトレックの安全基準の厳しさを垣間見ることができる。
シマノ・デュラエースDi2が決定打となり、ロードバイクにも急速にエレクトリックテクノロジーが流入してきつつある。プロバイクにはパワー測定装置が標準装備に等しくなり、電子装備はこれからますます導入されていくだろう。デュオトラップはボントレガー、ガーミン、パワータップ、SRMなどに対応するANT+(アントプラス)規格を採用。将来的な拡張性という面でも安心で、すっきりとフレームに収まる。こういった所にもいち早く対応しているのが同社の先見の明を感じる。
ワイヤリングもレイアウトは同じなのだが、上位機種のような内蔵式ではない。さらに、BBも同社独自規格のBB90ではなく、通常のねじ切りタイプを採用している。これは差別化というより、乗り手のレベルを想定した工作と考えられる。
シートポストはオリジナルインテグラルシートポスト・シートマストではなく、丸チューブの一般的なタイプを装備できる仕様。振動吸収性では上位機種に採用されるトレック独自のシートマストに譲るものの、コストの面はもちろんのこと、マドン4が照準とする入門クラスユーザーを考えると、一般的なシートポスト構造を採用した方が整備性やパーツ交換の拡張性も高いというメリットもある。
パーツアッセンブルはシマノ・105のコンポーネントをベースするが、クランクはシマノ・R600、ブレーキはテクトロ・R540にするなど、要所要所でコスト削減することで価格を手ごろにし、マドンの魅力を多くのユーザーに届けるねらいだ。ギヤレシオもフロントギヤは50×34T、リヤスプロケットは11~28Tとフロントトリプルを除いてはシマノラインナップでもっとも軽い仕様で、経験の浅いライダーにとっては、ロングライドや山岳ライドでお守りのように心強いに違いない。
現代のカーボンフレームは位置付けがはっきり分かれている。ひと昔前のように前代の上位機種をそのままトップダウンしてくるのではなく、それぞれユーザーを想定し、最適な剛性、強度、振動吸収性などを備えるのが最新のロードバイクだ。高い金額を支払えばその人にとって良いバイクが手に入るという時代ではない。ビッグメーカーらしく、ユーザーのレベルに合わせたトップダウンが巧みに行なわれているのが、このマドン4.5だ。レースやロングライドの世界に本格的に足を踏み入れたいユーザーにとって、その楽しみを広げてくれる1台になるだろう。それではその実力を、2人のテスターに確認してもらおう。
―インプレッション
「上級者をも納得させるほどのレーシング性能を備える」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
マドン3シリーズにも乗りましたが、この4.5は同じマドンシリーズでありながらも、踏み出しの軽さなどが全く違うレベルにあるのが乗った瞬間にわかります。特にBB周りのフィーリングが異なり、4.5はしっかりとしているので踏み出しがとても軽いです。
スピードを上げて高速域で巡航するような走りでも持続性の高さを感じることができます。1台目のバイクを購入するユーザーよも、ロードバイクの経験が少しでもあるような人に乗ってもらった方が、このバイクの良さを体感できるでしょう。
さらに、フォークがとても良くできている印象を受けました。後三角からBB周りの剛性は高いのですが、踏み出したときにフォークが僅かによれることによって、フレーム全体の硬さを上手く和らげています。
疲れてしまってインナーギヤをクルクル回しながら走る時でも、脚にくるような感覚はなですね。したがって初心者の方でも、体力が落ちてきた場合に巡航させやすいと思います。
フレームはかなり剛性が高い印象です。しっかりあるような硬さを受けます。でも不思議なことにキンキンとした尖ったフィーリングはないので疲れにくいです。路面からの突き上げ感を、フロントもリヤも上手くいなしてくれます。低速ではコツコツとした感覚がハンドルから伝わることもありますが、サドルはパッドも十分で座りやすく、体にドンとくる大きな衝撃に関してもしっかり緩和してくれます。
そして、ハンドリングの軽さは特筆すべき性能です。レーシングバイクとしての味付けがとても濃い感じです。上りでのダンシングにおいて体重をバイクの前側に預けても、フロントセクションがよれを出すようなことはほとんどありません。ハイスピードコーナーにおいても思い通りのラインをトレースでき、怖さを感じさせません。しっかりした感覚はあるのですが、フロントフォークは上手にサスペンション的役割を果たしています。走行時にフォークブレードに目を向けると結構ウイップしていますが、これがライディング時の上下左右の入力に対してバランスを上手に取ってくれます。
ちょっと気になったのは、トップチューブと脚がかなり擦れること。このバイクはあんまり車体を振らなくても加速ができるので、足下でカサカサ、という擦れる音と感触が少し気になりますね。しかし、最近のバイクはトップチューブの横幅が広く設計されているので、仕方ないのでしょう。
ある程度ロードバイクに乗ってきて、レースのようなイベントにチャレンジしようと思ったときに、このマドン4.5のようなレスポンスの早いバイクは十分ライダーの能力を引き出してくれると思います。上り坂でも軽さがあるし、スピードの緩急にも負けない剛性があります。ある程度の中級者、ひょっとしたら上級者が乗っても満足する性能を持っているかもしれません。走りを楽しむというか……、よりスポーティな味付けがなされています。アクションの上達、コーナーリングや上りのタイムを短縮したい望みに対応できる優秀なバイクと言えるでしょう。
「あらゆる楽しみ方を高いレベルでこなすことができる」
吉本 司(バイクジャーナリスト)
試乗した2011年モデルの中でも強く印象に残るバイクの1つがマドン6シリーズ。軽い加速感、剛と軟のバランスに優れた剛性、そして高い快適性という、レーシングバイクに求められる要素を高次元でバランスされ、トレック史上最高のモデルと言えるだろう。5シリーズはフレーム形状が6シリーズと基本的に同じで、素材が異なるだけなので“マドンらしさ”をそれなりに楽しめると想像できる。
しかし、この4シリーズはマドンの特徴でもある乗り心地を高めるためのシートマストもなければ、BB90も装備されていない。BBについては、下位機種のマドン3シリーズがプレスフィットBBを装備するだけに、4シリーズがスレッドタイプというのは正直なところ“グレードダウン感”があり少々残念なところ。3シリーズと同じBBタイプならば、より魅力的なのだが……。さて話が横道に逸れたが、マドン4はどれだけ“マドンらしさ”を持っているのか? というのが試乗前の気がかりな点だった。
マドン4.5の大きなチャームポイントはペダリングの軽さだ。これは20万円中盤の価格とは思えないほどキレがいい。フレーム剛性は高めでレーシングモデルらしい切れ味の鋭さがあり、コーナーや上りでの加速は楽しく、レーシングマインドがあおられる。上位機種のエッセンスを感じることができ、試乗前の懸念は無駄であった。
6シリーズと4シリーズの加速感の違い(車重差による加速の違いを抜きして)は、6シリーズの方がしなやかさとペダリング時にタメがあるので、大きなトルクをかけた時の速度の伸びのよさがあり、さらに脚がいっぱいになった時のペダリングでは速度の鈍りが少ないと感じる。違いといえばそれぐらいで、4シリーズの加速の良さはかなり高いレベルにあり、同クラスのライバルと比べると抜きんでた性能を持つ。このバイクのターゲットユーザーはもちろん、ある程度レース経験のあるライダーが乗っても、4シリーズの加速性能は魅力的だろう。
ジオメトリーも上位機種と同じなので、ハンドリング特性もナチュラル、そして乗車時の重心位置も低めに感じる。ビギナーでも非常に乗りやすく、それでいて上級者でもハンドリングに怠さを感じることがないので、スイートスポットはかなり広いライディング特性と言える。
ストレートタイプのブレードを持つフォークはマドンのもう1つの魅力といっていい。少しばかり細めに設計されたブレードは先端を微妙にしならす設計で、路面のギャップを弾くように吸収して、荷重に対しても的確なコントロールを実現するので、コーナーリングにおけるスタビリティや乗り心地を高めてくれる。また、リヤセクションとのバランスもしっかりとられているので、バイクの挙動が乱れにくく、安定したライディングを可能にしてくれる。
レーシングバイクらしい加速感を持つマドン4.5は、ロードレースやヒルクライムのようなコンペ志向の走りを楽しめるのはもちろんだが、加えて高い安定感と十分な乗り心地も備えているのでロングライドでもストレスの少ない走りが体験できるはずだ。個人的には、加速の軽さを生かして、ミシュラン・プロ3レースなどのレーシングタイヤをベースにした25Cクラスのタイヤを装備すると、重量のハンディをそれほど感じることなく、ロングライドをかなり快適に走れると思う。
もちろんヒルクライムなら軽量なホイールを履いて、ハンドルやサドル周りのパーツを少し軽量化すればかなり軽快な走りを目指せる。ロードレースならエアロ系のホイールとも相性が良さそうだ。フレームの基本性能が高く、扱いやすい走行性能なので、1台でレースからロングライドまで、いろいろな楽しみ方をかなり高いレベルでこなせるバイクと言えるだろう。自分の楽しみ方に合わせてステップアップしたカスタムで長く付き合える1台だ。
トレック・マドン4.5
フレーム:4シリーズTCTカーボン
フォーク:ボントレガー・レースライトW/E2 アルミニウムステアラー×カーボンレッグ
サイズ:50、52、54 、56、58、60、62
カラー:マットブラック×ホワイト×カレラ
ヘッドセット:インテグレーテッドカートリッジベアリング アロイ 1-1/8トップ1-1/2ボトム
コンポーネント:シマノ・105
シートポスト:ボントレガー・カーボン20mmオフセット
フレームセット重量:NA
価格:25万円(完成車)
インプレライダーのプロフィール
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート
吉本 司(バイクジャーナリスト)
71年生まれ。スポーツサイクル歴は25年。自転車専門誌の編集者を経てフリーランスの自転車ライターとなる。主にロードバイク関連の執筆が多いが、MTBから電動アシスト自転車まで幅広いジャンルのバイクに造詣が深い。これまで30台を上回るロードバイクを所有してきた。身長187センチ、体重71㎏。
ウェア協力:B・EMME(フォーチュン)
photo:Makoto.AYANO
text:Tsukasa.YOSHIMOTO
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