2010/10/02(土) - 20:00
4年振りの世界選手権の開催地を訪れ、U23のレースを観て、かつての熱い気持ちを思い出した。エリート男子のプロの戦いも面白いが、将来、ロードレース界の主役になるだろう選手たちの戦いは、その将来を想像させる戦いが繰り広げられるからだ。
2001年リスボン大会から2006年ザルツブルグ大会まで6年間を現地に入り、レースを観てきた。それはフミがプロになるまでの道のりでもあった。
そもそもU23カテゴリーとはどんなカテゴリーかと言うと、参加資格は、年齢が19歳以上、23歳未満(=1991年~1988年生まれ)。加えてUCI Pro Teamに所属していないこと。スタジエ(※)の制度でUCI ProTeamに所属している選手は除く。
※スタジエ トレーニーとも言われるが8月1日から3人の選手(U23もしくはチームに所属していないエリートカテゴリーの選手)を訓練生としてチームに加えることができる。ただし、その選手はUCI Pro Tourとヒストリカルのレースには出場不可。
つまり、まだプロチームに所属していない選手たち=プロ予備軍が争うレースなのだ。
近年はU23カテゴリー対象年齢であってもプロデビューする選手が増えてきている。リクイガスのピーター・サガンのような逸材だ。ダミアーノ・クネゴ、アンディ・シュレクなどもU23カテゴリーを走っていない選手だ。
そもそもヨーロッパでは、このU23カテゴリーの期間にプロにならなければいけないと考えられている。
世界選手権はプロの大会と同時開催なので注目度も高く、プロチーム関係者なども、他のU23のレースよりも注目度が高い。プロにアピールする場としては絶好の場だ。
ただし、9月末~10月頭という世界選手権の開催時期は、各チームの翌年のメンバーはもう大方決まっている時期。U23の選手でも、すでに来季どこで走るか決まっている選手も多い。
世界選手権とは別に、ヨーロッパではU23カテゴリーの国際レースが多く開催されている。それらのレースにはコンチネンタルチームやクラブチーム、そしてナショナルチームが参加するのだが、それらのチームはほぼU23カテゴリーをターゲットにして活動している。
近年ではU23カテゴリー専門のチームというのは運営が難しいだろうと、ナショナルチームで参加するNations' Cupと呼ばれるシリーズ戦が開催されるようになっている。
※Nations’ Cup U23はヨーロッパを中心に年間7戦行われている。詳しくは下記リンク参照。
http://www.uci.ch/templates/UCI/UCI5/layout.asp?MenuId=MTUyNTk&LangId=1
今回優勝したマイケル・マシューズは今年のツアー・オブ・ジャパンを走り、プロローグとなる堺ステージで優勝して、リーダージャージを着用していたのが、記憶に新しい。
所属チームはオーストラリアのチームジェイコ・スキンズ(母体はAISという事実上U23のナショナルチーム)というチーム。このチームはオセアニア、アジア、ヨーロッパのレースを転戦している。
ツアー・オブ・ジャパンにも毎年参加していて、数多くのプロデビュー前の選手が来日している。アラン・デーヴィス(アスタナ)、マシュー・ロイド(オメガファルマ)、マシュー・ボス(HTC)、クリストファー・サットン(スカイ)、ジャック・ボブリッジ(ガーミン)、キャメロン・マイヤー(ガーミン)、リーハワード(HTC)など。
オーストラリアと同じようにスロベニアやコロンビア、オランダ、フランス、アメリカ、ドイツといった国はナショナルチームとして活動が活発だ。
もしくはラボバンク・コンチネンタルやトレック・リブストロングU23チームのようにプロチームの下部チームとしてコンチネンタルチーム登録をしているU23のチームもある。
レースでは、ツール・デ・フランドル・エスポワール(NCup)、リエージュ~バストーニュ~リエージュ・エスポワールやパリ~ルーベ・エスポワールなど、プロのレースのU23カテゴリー版をはじめ、ツール・ド・ラブニール(NCup)、ジロ・デル・レジオーニ(NCup)、ジロ・デッラ・ヴァッレ・ダオスタ、テューリンゲン・ツアー、ツール・ド・ロンドリザーなどといったレースがU23カテゴリー最高峰でプロへの登竜門レースと呼べるレースがある。
※エスポワールとはU23カテゴリーのことを指す。フランス語で“希望”という単語。
今回の世界選手権、上位の選手たちの経歴を見ても、多くの選手がこれらのレースで成績を残している選手だ。選手同士も顔なじみになっていて、ライバルという意識をすでに持っている。
今回の優勝者マイケル・マシューズと2位のドイツ人ジョン・デーゲンコルプは、9月初旬に行われたツール・ド・ラブニールでスプリント勝負をし、デーゲンコルプは2勝を挙げ、マシューズは2位と5位という結果になっている。
おそらくデーゲンコルプはスプリント勝負になれば優勝できるという自信を持っていたはずだ。
しかし、ふたを開けてみれば地元オーストラリアのマシューズが大差をつけての勝利となった。
日本ではU23カテゴリーは大学生にあたる。おそらく日本のU23の多くの選手の目標は、4年間で全日本選手権U23や学生選手権、インカレ優勝、あってもツール・ド・北海道でU23日本人最上位、世界選手権U23日本代表ぐらいだろう。
日本のロードレースが世界のロードレースの世界から遅れているのは、想像がしやすいと思う。日本では現在U23ナショナルチームの活動ができていない。かつてはそれをしていた時代もあったが、ナショナルチームが活動すれば道が拓けるかという単純なものではない。
日本の選手たちを否定をする訳ではないが、ヨーロッパのプロの世界を目標としているのであれば、やはり国際舞台で戦う必要がある。それはプロになっている選手の経歴を見ていくと、見えてくることでもある。どんなレースに出て、どんな活躍をしているか。
日本には多くのコンチネンタルチームも存在していることも、悪く言えば悪影響を与えている。そこに居場所が提供されてしまうために、ヨーロッパへ行く前に、まずは日本のチームに所属するという発想を生んでしまっている。
だからと言って、日本のコンチネンタルチームの存在を否定しているわけでもない。日本のロードレース界のためには、これらのチームの存在も絶対に必要だと思っている。
ただ、時間をかけて成長することができるようにみえるが、ヨーロッパのプロになりたいと思っている選手にとっては、その間に確実にチャンスを失っていることになる。その現実を知るべきだ。プロになる素質があれば、そんな心配をよそに道を開いてしまうだろうが、知らなかったことで埋もれてしまう才能もある。
今年のU23の日本代表の選手たちと話をし、「ヨーロッパプロになりたい」とは言っているが、あまりに現実が見えていなかった。もしそう思っているのならば、もっと焦らなければいけない。3選手は今年U23最後の年、たくさんのチャンスが転がっている、いわゆる「新人発掘世代」は終わりだ。
最後の世界選手権が終わって「これじゃあ、もうプロにはなれません。どうしたらいいのだろう?」ぐらいは言ってもいいと思う。次はないはずだ。
ちなみに今回の優勝したマイケル・マシューズやタイラー・フィニーははまだU23カテゴリー2年目の1990年生まれ、2位のデーゲンコルプも3年目。ほとんどの選手が3年目以下の選手で、さらに言えば来季プロチームへの加入が決まっている。
厳しいことだがそれが現実だ。しかし、完全にプロ選手の道が閉ざされた訳ではないのも事実。ごく僅かだが可能性は残っている。世界で戦う選手になりたいと思う選手や、そうなって欲しいと願っている関係者はもっと世界に目を向けなければいけない。
「プロになりたい」と思っているだけでなれるものではない。世界のトップアスリートが集まるところ、自らつかみ取りにいかなければならないシビアな場所だ。
今回の世界選手権U23に日本代表そして出場した3人には、ここで感じたことを忘れないで、ぜひチャンスをつかんで欲しい。そして、フミや幸也、土井に続く、世界で戦う新しい日本選手が出てくることをを願う。
別府 始
スポーツジャーナリスト
スポーツマネージメントを行う有限会社ブルーフォート代表。スポーツ専門TV局『J SPORTS』で放送されている自転車ロードレースの解説の他、執筆や講演なども手がける。実弟のチーム・レディオシャックの別府史之、愛三工業レーシングチームのマネジメントほか、愛三工業レーシングチームのアドバイザーも務める。
http://www.bluefort.co.jp
2001年リスボン大会から2006年ザルツブルグ大会まで6年間を現地に入り、レースを観てきた。それはフミがプロになるまでの道のりでもあった。
そもそもU23カテゴリーとはどんなカテゴリーかと言うと、参加資格は、年齢が19歳以上、23歳未満(=1991年~1988年生まれ)。加えてUCI Pro Teamに所属していないこと。スタジエ(※)の制度でUCI ProTeamに所属している選手は除く。
※スタジエ トレーニーとも言われるが8月1日から3人の選手(U23もしくはチームに所属していないエリートカテゴリーの選手)を訓練生としてチームに加えることができる。ただし、その選手はUCI Pro Tourとヒストリカルのレースには出場不可。
つまり、まだプロチームに所属していない選手たち=プロ予備軍が争うレースなのだ。
近年はU23カテゴリー対象年齢であってもプロデビューする選手が増えてきている。リクイガスのピーター・サガンのような逸材だ。ダミアーノ・クネゴ、アンディ・シュレクなどもU23カテゴリーを走っていない選手だ。
そもそもヨーロッパでは、このU23カテゴリーの期間にプロにならなければいけないと考えられている。
世界選手権はプロの大会と同時開催なので注目度も高く、プロチーム関係者なども、他のU23のレースよりも注目度が高い。プロにアピールする場としては絶好の場だ。
ただし、9月末~10月頭という世界選手権の開催時期は、各チームの翌年のメンバーはもう大方決まっている時期。U23の選手でも、すでに来季どこで走るか決まっている選手も多い。
世界選手権とは別に、ヨーロッパではU23カテゴリーの国際レースが多く開催されている。それらのレースにはコンチネンタルチームやクラブチーム、そしてナショナルチームが参加するのだが、それらのチームはほぼU23カテゴリーをターゲットにして活動している。
近年ではU23カテゴリー専門のチームというのは運営が難しいだろうと、ナショナルチームで参加するNations' Cupと呼ばれるシリーズ戦が開催されるようになっている。
※Nations’ Cup U23はヨーロッパを中心に年間7戦行われている。詳しくは下記リンク参照。
http://www.uci.ch/templates/UCI/UCI5/layout.asp?MenuId=MTUyNTk&LangId=1
今回優勝したマイケル・マシューズは今年のツアー・オブ・ジャパンを走り、プロローグとなる堺ステージで優勝して、リーダージャージを着用していたのが、記憶に新しい。
所属チームはオーストラリアのチームジェイコ・スキンズ(母体はAISという事実上U23のナショナルチーム)というチーム。このチームはオセアニア、アジア、ヨーロッパのレースを転戦している。
ツアー・オブ・ジャパンにも毎年参加していて、数多くのプロデビュー前の選手が来日している。アラン・デーヴィス(アスタナ)、マシュー・ロイド(オメガファルマ)、マシュー・ボス(HTC)、クリストファー・サットン(スカイ)、ジャック・ボブリッジ(ガーミン)、キャメロン・マイヤー(ガーミン)、リーハワード(HTC)など。
オーストラリアと同じようにスロベニアやコロンビア、オランダ、フランス、アメリカ、ドイツといった国はナショナルチームとして活動が活発だ。
もしくはラボバンク・コンチネンタルやトレック・リブストロングU23チームのようにプロチームの下部チームとしてコンチネンタルチーム登録をしているU23のチームもある。
レースでは、ツール・デ・フランドル・エスポワール(NCup)、リエージュ~バストーニュ~リエージュ・エスポワールやパリ~ルーベ・エスポワールなど、プロのレースのU23カテゴリー版をはじめ、ツール・ド・ラブニール(NCup)、ジロ・デル・レジオーニ(NCup)、ジロ・デッラ・ヴァッレ・ダオスタ、テューリンゲン・ツアー、ツール・ド・ロンドリザーなどといったレースがU23カテゴリー最高峰でプロへの登竜門レースと呼べるレースがある。
※エスポワールとはU23カテゴリーのことを指す。フランス語で“希望”という単語。
今回の世界選手権、上位の選手たちの経歴を見ても、多くの選手がこれらのレースで成績を残している選手だ。選手同士も顔なじみになっていて、ライバルという意識をすでに持っている。
今回の優勝者マイケル・マシューズと2位のドイツ人ジョン・デーゲンコルプは、9月初旬に行われたツール・ド・ラブニールでスプリント勝負をし、デーゲンコルプは2勝を挙げ、マシューズは2位と5位という結果になっている。
おそらくデーゲンコルプはスプリント勝負になれば優勝できるという自信を持っていたはずだ。
しかし、ふたを開けてみれば地元オーストラリアのマシューズが大差をつけての勝利となった。
日本ではU23カテゴリーは大学生にあたる。おそらく日本のU23の多くの選手の目標は、4年間で全日本選手権U23や学生選手権、インカレ優勝、あってもツール・ド・北海道でU23日本人最上位、世界選手権U23日本代表ぐらいだろう。
日本のロードレースが世界のロードレースの世界から遅れているのは、想像がしやすいと思う。日本では現在U23ナショナルチームの活動ができていない。かつてはそれをしていた時代もあったが、ナショナルチームが活動すれば道が拓けるかという単純なものではない。
日本の選手たちを否定をする訳ではないが、ヨーロッパのプロの世界を目標としているのであれば、やはり国際舞台で戦う必要がある。それはプロになっている選手の経歴を見ていくと、見えてくることでもある。どんなレースに出て、どんな活躍をしているか。
日本には多くのコンチネンタルチームも存在していることも、悪く言えば悪影響を与えている。そこに居場所が提供されてしまうために、ヨーロッパへ行く前に、まずは日本のチームに所属するという発想を生んでしまっている。
だからと言って、日本のコンチネンタルチームの存在を否定しているわけでもない。日本のロードレース界のためには、これらのチームの存在も絶対に必要だと思っている。
ただ、時間をかけて成長することができるようにみえるが、ヨーロッパのプロになりたいと思っている選手にとっては、その間に確実にチャンスを失っていることになる。その現実を知るべきだ。プロになる素質があれば、そんな心配をよそに道を開いてしまうだろうが、知らなかったことで埋もれてしまう才能もある。
今年のU23の日本代表の選手たちと話をし、「ヨーロッパプロになりたい」とは言っているが、あまりに現実が見えていなかった。もしそう思っているのならば、もっと焦らなければいけない。3選手は今年U23最後の年、たくさんのチャンスが転がっている、いわゆる「新人発掘世代」は終わりだ。
最後の世界選手権が終わって「これじゃあ、もうプロにはなれません。どうしたらいいのだろう?」ぐらいは言ってもいいと思う。次はないはずだ。
ちなみに今回の優勝したマイケル・マシューズやタイラー・フィニーははまだU23カテゴリー2年目の1990年生まれ、2位のデーゲンコルプも3年目。ほとんどの選手が3年目以下の選手で、さらに言えば来季プロチームへの加入が決まっている。
厳しいことだがそれが現実だ。しかし、完全にプロ選手の道が閉ざされた訳ではないのも事実。ごく僅かだが可能性は残っている。世界で戦う選手になりたいと思う選手や、そうなって欲しいと願っている関係者はもっと世界に目を向けなければいけない。
「プロになりたい」と思っているだけでなれるものではない。世界のトップアスリートが集まるところ、自らつかみ取りにいかなければならないシビアな場所だ。
今回の世界選手権U23に日本代表そして出場した3人には、ここで感じたことを忘れないで、ぜひチャンスをつかんで欲しい。そして、フミや幸也、土井に続く、世界で戦う新しい日本選手が出てくることをを願う。
別府 始
スポーツジャーナリスト
スポーツマネージメントを行う有限会社ブルーフォート代表。スポーツ専門TV局『J SPORTS』で放送されている自転車ロードレースの解説の他、執筆や講演なども手がける。実弟のチーム・レディオシャックの別府史之、愛三工業レーシングチームのマネジメントほか、愛三工業レーシングチームのアドバイザーも務める。
http://www.bluefort.co.jp
Amazon.co.jp