2010/09/09(木) - 16:15
8月17日より22日、2010UCIパラサイクリングロード世界選手権がカナダ・ケベック州ベコモで行われ、日本は3名が出場。19日のタイムトライアル[障害クラス男子H3]では、ハンドサイクルの奥村直彦(風輪道)が10位に入りポイントを獲得、パラサイクリング日本チームはロンドンに向けての一歩を踏み出した。
会場はケベック郊外の町、ベコモ
ベコモはモントリオールからプロペラ機で北に2時間ほど行った、静かな郊外の町だ。東京の調布空港を思わせるこじんまりしたベコモ空港から、大型スーパーやモーテルが並ぶ幹線道路を北へ約30分。ベコモにはこの道路沿いに南北2つの市街地があり、北の街にあるラサール広場が、今回のスタート・フィニッシュ地点だ。
TTとロードレースのコースは基本的に同じで、大きな8の字状の1周約11.4kmを周回するもの。ヨーロッパ風のカフェやホテルの並ぶ広場を、町の人の声援に送られてスタート。コース南側の前半のループは、別荘地のような家々の並ぶ住宅地だ。ゆるやかなアップダウンを抜けスタート付近の交差点へ。次に後半のループに入って町の北側の丘を2kmほどのぼり、港を見下ろす海沿いの道を一気にくだる。アップダウンの連続やテクニカルなコーナーというよりも、「大きなループを一気に登って一気に下る」というコースレイアウトだ。
クラスによって周回数は異なるが、南側ループのみを使用するハンドサイクルリレー以外には同じコースが使用され、ハンドサイクルも三輪も、登りを着実に力強くクリアしてフィニッシュへ向かう。
17日からの障害クラス分けチェック、18日の開会式に続いてレースは19日からの4日間。19、20日にロードタイムトライアル、21、22日にロードレースが行われた。
日本はトラブルにもめげず完走
19日のタイムトライアル[男子H3]では、ハンドサイクルの奥村直彦(風輪道)が10位と健闘。ロンドンパラリンピック出場枠の決定にかかわる国別ポイントを獲得。個人別ランキングでも、8月25日付の2010年UCIランキングで男子H3の26位にランクインした。
世界選手権出場は、07年のフランス・ボルドー大会に続いて2回目となる奥村。急激に競技性を高めていくパラサイクリングの世界の変化の速さを、肌で実感しているひとりだ。
「フランスのときよりもみんなレベルがすごく上がっていて…超ショックです。姿勢などバイクのセッティングも皆すごく研究していて、自分はただ走っているだけ、みたいに感じました。練習方法も今後の課題です。登りでスピードが落ちてしまって。もっと回転数なども考えないと…。」と知性派の奥村らしいコメント。
北京パラリンピックの男子LC3クラスロードTT銅メダリストの藤田征樹(チームチェブロ/日立建機)は、20日のロードTT[男子C3]、ロードレース[男子C3]ともに11位。チェーン外れなどでのタイムロスもあり、ポイント獲得はならなかったが、今年からの新クラス分けでも上位を狙える可能性を感じさせるレースとなった。
21日のロードレース[男子C3]では、スタート直後の落車で足止めされた藤田はまたもチェーンがかからず出遅れるが、気持ちを切り替えまもなく先頭集団に復帰。終盤は5番手に位置して周回に入るが、最後はSteffen Warias(ドイツ)、ロベルト・バグニャ(イタリア)、ジャッキー・ギャルトー(フランス)3人のスプリント勝負となってWariasが優勝した。
レース後「こんな順位で、すみません…。早く帰って練習したい!」と悔しそうな笑みを浮かべていた藤田。人一倍負けず嫌いの藤田にとって、この時期に得たこの体験は、貴重な糧となりそうだ。
22日のロードレース[男子C5]では、国内では健常者チームに所属、実業団のBR1で走っている阿部学宏(スペードエース/銚子屋本店)は、昨年のUCIパラサイクリングトラック世界選手権に続き、今回ロードにも初出場。このレースでは負傷しつつも粘り強い芯の強さを発揮した。
障害のため右手に握力がほとんどない阿部だが、レース序盤での落車に巻きこまれ、障害者自転車協会のwebによれば、頼りの左手も骨折していたことがレース後に判明。登り、ギアチェンジ、と苦闘しながらのレースとなった。最下位での”一人旅”でも気持ちを切らさず、必死の表情で周回を重ねていく。アップダウンのある7周79.8kmを無事完走し、会場の大きな拍手に迎えられてフィニッシュした。
2010年新クラス分けでの初の世界選手権
2010年から新規定が適用された、UCIのパラサイクリングの障害クラス分け。UCIパラサイクリング世界選手権としては、これが新クラス分けでの最初の大会となった。ハンドサイクル、三輪、タンデムを使用するクラスには大きな考え方の変更はないが、二輪を使用するクラスには、従来の切断や麻痺といった選手の障害の種類別ではなく、運動機能を中心にする考え方に基づいての統合再編が行われた。
新しいクラスは、ハンドサイクル(Handcycle)のH1~H4、三輪(Tricycle)のT1~T2、二輪(Cycle)のC1~5、タンデム(Blind)のBの12クラスで、男女あわせて計24クラス。数字が小さいほうがより障害の重いクラスだ。
選手たちは、専門医などで構成されるUCIクラス分けパネルにより、大会前のメディカルチェックや大会中の競技観察などを経てクラスを認定される。今大会は日本チームにとって、旧クラスでの有力選手がどのクラスとなるかを確認する”顔合わせ”の機会ともなった。
健常者コンチネンタルチーム級の選手もずらり
顔ぶれを改めて眺めると、C5やC4には一般健常者エリートと互角に闘える選手たちが揃う。例えば、義足のチェコ選手、イェリ・イエジェク[C4]は2010年、Tusnad cycling teamに障害者選手としてではなくエリートライセンスの選手として所属している。サポート選手としてチームのエースを支え、2010年のツール・ド・モロッコ(仏語読みではツール・デュ・マロック)ではイェリ自身も第6ステージで10位に入っている。
ちなみに、この第6ステージでの5位はTEAM NIPPOの中島康晴だ。ほかにも、健常者のプロチームに所属したりサポートを受ける選手は珍しくない。
阿部のC5は二輪では一番障害の軽いクラス。強豪揃いの「タフなクラス」だ。エリートには名を連ねていないが同じくTusnad cycling teamに所属するマイケル・ギャラガー(オーストラリア)、92年バルセロナ大会からパラリンピック5大会連続メダリストであるヴォルフガング・アイベック(オーストリア)、長身のダイナミックな走りが印象的なヴォルフガング・サッハ(ドイツ)など、貫禄ある選手たちが名を連ねる。また、今大会TTで優勝したアンドレア・タルラオ(イタリア)も要注目だ。
そして注目すべきがブラジル勢。昨年のLC1クラスロードレース優勝者ゴア・ソエリトらブラジルチームはロードレースで1、2、3位を独占。なお、未確認ながら、ゴアは2010年度のUCIプロコンチネンタルチーム(UCIサイトによると8月より保留中=詳細不明)「スコット・マルコンデスセサル・サンホセドスカンポス」所属のエリート選手だという情報も。
藤田の新クラスはC3。二輪使用選手のなかでは障害の程度が”中ぐらい”のクラスだ。北京パラリンピックトラック種目メダリストのリック・ワドン(英国、旧CP3)やパオロ・ビガノ(イタリア、旧LC4)など昨年までの各クラスの表彰台でおなじみの選手たちのほか、今回ロードレースで優勝したSteffen Warias(ドイツ)は藤田と同じ齢の若手選手だ。
奥村と同じH3クラスでは今回、アテネパラリンピックの車いす陸上競技で2個のメダルを獲得した陸上のスター選手ジョエル・ジャノ(フランス)が表彰台に上がり、ハンドサイクルでもその実力のほどをアピールした。
パラサイクリング世界選手権では07年ボルドー大会で20位台だったジョエルは、昨年のイタリア・ボゴーニョ大会では9位、そして今大会ではTTで優勝・ロードレース2位と着実に順位をあげてきた。
ハンドサイクル各クラスの上位には、ほかにも車いす陸上界のスーパースターが活躍する姿が目立つ。大分国際車いすマラソンでも昨年までに14回優勝している”超人”ハインツ・フライ[H2](スイス)、ボストンマラソン車いすの部で2001年から2010年までに9回優勝しているエレンスト・ヴァン・ダイク[H4](南アフリカ)は、パラサイクリングでも実力を発揮、表彰台の常連だ。
そのほか話題の選手として、H4クラスに出場している義足のレーシングドライバー、アレッサンドロ・ザナルディ(イタリア)も現地メディアの注目を集めた。01年のレース中の事故で両足を膝上切断、のちレーサーとして復帰。UCIパラサイクリングロード世界選手権には、09年のボゴーニョ大会でデビューした。タイム的にはH4クラス中堅の選手だが、下りのテクニカルなカーブがあるようなコースでは、極限までのライン取りと鮮やかな体重移動で、まさに芸術品のようなコーナリングを見せてくれる。
波乱の2010年スケジュール
2010年のパラサイクリングの大会予定としてUCIは当初、8月にコロンビア・カリでのロード・トラック同時開催での世界選手権、および、今年からW杯を開催しフランス・コレーズなどでロードW杯3戦を行う、と発表していた。のちに経済的な理由などから、世界選手権は8月にカナダ・ベコモでロードのみ、W杯は6月のスペイン・セゴビアの1大会のみに変更、開催された。(フランス・コレーズ大会はW杯より格下の<P1>格の地域大会に変更して開催)。
また、2010年トラック世界選手権の日程や場所はいまのところ発表されておらず、チーム関係者の間では2011年初めになるのではと言われている。また、トラックW杯のスタート時期は、ロンドン大会の後まで延期されそうだ。
2010年のスケジュール変更にともなって7月、UCIはロンドンパラリンピックの出場枠を決める方法について、UCIのwebに新たに修正した方針を発表した。詳細はこちら(外部リンク)で確認できる。
ロンドン大会では、複数クラス混合のレースに新しい係数(選手間の障害の程度の差を補正して順位を決定するために実タイムにかけあわせる数値)を導入する、などの方針も示されているが、係数の具体的な内容の正式な発表は、2012年2月以降になる予定。
各クラスの世界記録を基準として係数が設定された場合に「不利になることを避けようと、ロンドンまでの間、選手がベストタイムを出そうとしなくなる」懸念も指摘されていたが、今大会のチームミーティングでは「いろいろな大会のデータを考慮して決定する。好記録を出した選手を計算上不利にするようなものにはしない」との説明がUCIの技術代表からされているという。
2010年は、トラックに照準をあわせてきた各国のトラック選手たちにとっては特に、スケジュールの焦点を定めにくい苦しい年となったようだ。
なお、来年のUCIパラサイクリングロード世界選手権については、デンマークのロスキルデで9月5~12日に開催が予定され、順調に準備が進んでいる模様だ。
【日本チーム】
選手:
藤田征樹[障害クラス男子C3]
阿部学宏[男子C5]
奥村直彦[男子H3]
スタッフ:
辻本誠(メカニック)
石田宗男(トレーナー)
栗原朗(チームリーダー)
【日本の結果】
奥村直彦
19日ロードTT[男子H3]10位
21日ロードレース[男子H3]12位
藤田征樹
20日ロードTT[男子C3]11位
21日ロードレース[男子C3]11位
阿部学宏
20日ロードTT[男子C5]23位
22日ロードレース[男子C5]23位
同大会の動画の一部は、大会パートナーに名を連ねるescapades.tvの下記サイトでも公開されている。
動画「Resume images Cnampionnats du Monde...」
http://www.escapades.tv/video/viewvideo/102/resume-images-championnats-…
(photo/text:Yuko SATO)
会場はケベック郊外の町、ベコモ
ベコモはモントリオールからプロペラ機で北に2時間ほど行った、静かな郊外の町だ。東京の調布空港を思わせるこじんまりしたベコモ空港から、大型スーパーやモーテルが並ぶ幹線道路を北へ約30分。ベコモにはこの道路沿いに南北2つの市街地があり、北の街にあるラサール広場が、今回のスタート・フィニッシュ地点だ。
TTとロードレースのコースは基本的に同じで、大きな8の字状の1周約11.4kmを周回するもの。ヨーロッパ風のカフェやホテルの並ぶ広場を、町の人の声援に送られてスタート。コース南側の前半のループは、別荘地のような家々の並ぶ住宅地だ。ゆるやかなアップダウンを抜けスタート付近の交差点へ。次に後半のループに入って町の北側の丘を2kmほどのぼり、港を見下ろす海沿いの道を一気にくだる。アップダウンの連続やテクニカルなコーナーというよりも、「大きなループを一気に登って一気に下る」というコースレイアウトだ。
クラスによって周回数は異なるが、南側ループのみを使用するハンドサイクルリレー以外には同じコースが使用され、ハンドサイクルも三輪も、登りを着実に力強くクリアしてフィニッシュへ向かう。
17日からの障害クラス分けチェック、18日の開会式に続いてレースは19日からの4日間。19、20日にロードタイムトライアル、21、22日にロードレースが行われた。
日本はトラブルにもめげず完走
19日のタイムトライアル[男子H3]では、ハンドサイクルの奥村直彦(風輪道)が10位と健闘。ロンドンパラリンピック出場枠の決定にかかわる国別ポイントを獲得。個人別ランキングでも、8月25日付の2010年UCIランキングで男子H3の26位にランクインした。
世界選手権出場は、07年のフランス・ボルドー大会に続いて2回目となる奥村。急激に競技性を高めていくパラサイクリングの世界の変化の速さを、肌で実感しているひとりだ。
「フランスのときよりもみんなレベルがすごく上がっていて…超ショックです。姿勢などバイクのセッティングも皆すごく研究していて、自分はただ走っているだけ、みたいに感じました。練習方法も今後の課題です。登りでスピードが落ちてしまって。もっと回転数なども考えないと…。」と知性派の奥村らしいコメント。
北京パラリンピックの男子LC3クラスロードTT銅メダリストの藤田征樹(チームチェブロ/日立建機)は、20日のロードTT[男子C3]、ロードレース[男子C3]ともに11位。チェーン外れなどでのタイムロスもあり、ポイント獲得はならなかったが、今年からの新クラス分けでも上位を狙える可能性を感じさせるレースとなった。
21日のロードレース[男子C3]では、スタート直後の落車で足止めされた藤田はまたもチェーンがかからず出遅れるが、気持ちを切り替えまもなく先頭集団に復帰。終盤は5番手に位置して周回に入るが、最後はSteffen Warias(ドイツ)、ロベルト・バグニャ(イタリア)、ジャッキー・ギャルトー(フランス)3人のスプリント勝負となってWariasが優勝した。
レース後「こんな順位で、すみません…。早く帰って練習したい!」と悔しそうな笑みを浮かべていた藤田。人一倍負けず嫌いの藤田にとって、この時期に得たこの体験は、貴重な糧となりそうだ。
22日のロードレース[男子C5]では、国内では健常者チームに所属、実業団のBR1で走っている阿部学宏(スペードエース/銚子屋本店)は、昨年のUCIパラサイクリングトラック世界選手権に続き、今回ロードにも初出場。このレースでは負傷しつつも粘り強い芯の強さを発揮した。
障害のため右手に握力がほとんどない阿部だが、レース序盤での落車に巻きこまれ、障害者自転車協会のwebによれば、頼りの左手も骨折していたことがレース後に判明。登り、ギアチェンジ、と苦闘しながらのレースとなった。最下位での”一人旅”でも気持ちを切らさず、必死の表情で周回を重ねていく。アップダウンのある7周79.8kmを無事完走し、会場の大きな拍手に迎えられてフィニッシュした。
2010年新クラス分けでの初の世界選手権
2010年から新規定が適用された、UCIのパラサイクリングの障害クラス分け。UCIパラサイクリング世界選手権としては、これが新クラス分けでの最初の大会となった。ハンドサイクル、三輪、タンデムを使用するクラスには大きな考え方の変更はないが、二輪を使用するクラスには、従来の切断や麻痺といった選手の障害の種類別ではなく、運動機能を中心にする考え方に基づいての統合再編が行われた。
新しいクラスは、ハンドサイクル(Handcycle)のH1~H4、三輪(Tricycle)のT1~T2、二輪(Cycle)のC1~5、タンデム(Blind)のBの12クラスで、男女あわせて計24クラス。数字が小さいほうがより障害の重いクラスだ。
選手たちは、専門医などで構成されるUCIクラス分けパネルにより、大会前のメディカルチェックや大会中の競技観察などを経てクラスを認定される。今大会は日本チームにとって、旧クラスでの有力選手がどのクラスとなるかを確認する”顔合わせ”の機会ともなった。
健常者コンチネンタルチーム級の選手もずらり
顔ぶれを改めて眺めると、C5やC4には一般健常者エリートと互角に闘える選手たちが揃う。例えば、義足のチェコ選手、イェリ・イエジェク[C4]は2010年、Tusnad cycling teamに障害者選手としてではなくエリートライセンスの選手として所属している。サポート選手としてチームのエースを支え、2010年のツール・ド・モロッコ(仏語読みではツール・デュ・マロック)ではイェリ自身も第6ステージで10位に入っている。
ちなみに、この第6ステージでの5位はTEAM NIPPOの中島康晴だ。ほかにも、健常者のプロチームに所属したりサポートを受ける選手は珍しくない。
阿部のC5は二輪では一番障害の軽いクラス。強豪揃いの「タフなクラス」だ。エリートには名を連ねていないが同じくTusnad cycling teamに所属するマイケル・ギャラガー(オーストラリア)、92年バルセロナ大会からパラリンピック5大会連続メダリストであるヴォルフガング・アイベック(オーストリア)、長身のダイナミックな走りが印象的なヴォルフガング・サッハ(ドイツ)など、貫禄ある選手たちが名を連ねる。また、今大会TTで優勝したアンドレア・タルラオ(イタリア)も要注目だ。
そして注目すべきがブラジル勢。昨年のLC1クラスロードレース優勝者ゴア・ソエリトらブラジルチームはロードレースで1、2、3位を独占。なお、未確認ながら、ゴアは2010年度のUCIプロコンチネンタルチーム(UCIサイトによると8月より保留中=詳細不明)「スコット・マルコンデスセサル・サンホセドスカンポス」所属のエリート選手だという情報も。
藤田の新クラスはC3。二輪使用選手のなかでは障害の程度が”中ぐらい”のクラスだ。北京パラリンピックトラック種目メダリストのリック・ワドン(英国、旧CP3)やパオロ・ビガノ(イタリア、旧LC4)など昨年までの各クラスの表彰台でおなじみの選手たちのほか、今回ロードレースで優勝したSteffen Warias(ドイツ)は藤田と同じ齢の若手選手だ。
奥村と同じH3クラスでは今回、アテネパラリンピックの車いす陸上競技で2個のメダルを獲得した陸上のスター選手ジョエル・ジャノ(フランス)が表彰台に上がり、ハンドサイクルでもその実力のほどをアピールした。
パラサイクリング世界選手権では07年ボルドー大会で20位台だったジョエルは、昨年のイタリア・ボゴーニョ大会では9位、そして今大会ではTTで優勝・ロードレース2位と着実に順位をあげてきた。
ハンドサイクル各クラスの上位には、ほかにも車いす陸上界のスーパースターが活躍する姿が目立つ。大分国際車いすマラソンでも昨年までに14回優勝している”超人”ハインツ・フライ[H2](スイス)、ボストンマラソン車いすの部で2001年から2010年までに9回優勝しているエレンスト・ヴァン・ダイク[H4](南アフリカ)は、パラサイクリングでも実力を発揮、表彰台の常連だ。
そのほか話題の選手として、H4クラスに出場している義足のレーシングドライバー、アレッサンドロ・ザナルディ(イタリア)も現地メディアの注目を集めた。01年のレース中の事故で両足を膝上切断、のちレーサーとして復帰。UCIパラサイクリングロード世界選手権には、09年のボゴーニョ大会でデビューした。タイム的にはH4クラス中堅の選手だが、下りのテクニカルなカーブがあるようなコースでは、極限までのライン取りと鮮やかな体重移動で、まさに芸術品のようなコーナリングを見せてくれる。
波乱の2010年スケジュール
2010年のパラサイクリングの大会予定としてUCIは当初、8月にコロンビア・カリでのロード・トラック同時開催での世界選手権、および、今年からW杯を開催しフランス・コレーズなどでロードW杯3戦を行う、と発表していた。のちに経済的な理由などから、世界選手権は8月にカナダ・ベコモでロードのみ、W杯は6月のスペイン・セゴビアの1大会のみに変更、開催された。(フランス・コレーズ大会はW杯より格下の<P1>格の地域大会に変更して開催)。
また、2010年トラック世界選手権の日程や場所はいまのところ発表されておらず、チーム関係者の間では2011年初めになるのではと言われている。また、トラックW杯のスタート時期は、ロンドン大会の後まで延期されそうだ。
2010年のスケジュール変更にともなって7月、UCIはロンドンパラリンピックの出場枠を決める方法について、UCIのwebに新たに修正した方針を発表した。詳細はこちら(外部リンク)で確認できる。
ロンドン大会では、複数クラス混合のレースに新しい係数(選手間の障害の程度の差を補正して順位を決定するために実タイムにかけあわせる数値)を導入する、などの方針も示されているが、係数の具体的な内容の正式な発表は、2012年2月以降になる予定。
各クラスの世界記録を基準として係数が設定された場合に「不利になることを避けようと、ロンドンまでの間、選手がベストタイムを出そうとしなくなる」懸念も指摘されていたが、今大会のチームミーティングでは「いろいろな大会のデータを考慮して決定する。好記録を出した選手を計算上不利にするようなものにはしない」との説明がUCIの技術代表からされているという。
2010年は、トラックに照準をあわせてきた各国のトラック選手たちにとっては特に、スケジュールの焦点を定めにくい苦しい年となったようだ。
なお、来年のUCIパラサイクリングロード世界選手権については、デンマークのロスキルデで9月5~12日に開催が予定され、順調に準備が進んでいる模様だ。
【日本チーム】
選手:
藤田征樹[障害クラス男子C3]
阿部学宏[男子C5]
奥村直彦[男子H3]
スタッフ:
辻本誠(メカニック)
石田宗男(トレーナー)
栗原朗(チームリーダー)
【日本の結果】
奥村直彦
19日ロードTT[男子H3]10位
21日ロードレース[男子H3]12位
藤田征樹
20日ロードTT[男子C3]11位
21日ロードレース[男子C3]11位
阿部学宏
20日ロードTT[男子C5]23位
22日ロードレース[男子C5]23位
同大会の動画の一部は、大会パートナーに名を連ねるescapades.tvの下記サイトでも公開されている。
動画「Resume images Cnampionnats du Monde...」
http://www.escapades.tv/video/viewvideo/102/resume-images-championnats-…
(photo/text:Yuko SATO)
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