2010/08/01(日) - 09:04
FUJIは創業1899年(明治32年)という111年の歴史を誇る老舗ブランドだ。そして日本初の競技用自転車の第1号を製作するという偉業を成し遂げている。日本起源のアメリカブランドになったFUJI。世紀をまたいで、その精神は今もなお受け継がれているのだ。
今回紹介するSST1.0は2010年に大幅リニューアルしロードバイクシリーズの頂点に君臨する。今季はフットオン・セルヴェットにバイク供給を行い、ツール・ド・フランスでも活躍をみせた。連日にわたるエスケープのための積極的な走りは印象深いはずだ。日本国内でもプライベートチームがレース活動を行っている。
SSTシリーズは3タイプ用意されており、1.0が最上位モデルとなる。続く2モデルだがモジュールは同様ながらもカーボン素材やパーツアッセンブルを変更しSSTシリーズをお手頃な価格で提供している。
SSTに続きヒルクライムなどで強い味方となる軽量フレームのSL-1が控える。ミドルグレードにはアルミフレームにカーボンバックを搭載したACRシリーズ、入門モデルとしてフルアルミモデルのルーベシリーズ、ニューエストシリーズと続く。そして別ラインにはタイムトライアル専用フレームとしてD-6シリーズをラインナップする。
このSSTフレームは、高弾性率を誇るFUJIオリジナルのカーボンファイバーであるC-7+を用いたことで、カーボンの使用量を最小限にとどめながらも適正な剛性レベルを実現し、ボリューム感がありながらも非常に軽量に仕上がっている。
この高弾性カーボンファイバーを用いるのはもちろんのこと、その構造設計にも秘密がある。
目を引くオーバーサイズのダウンチューブとフロントフォークは、I-BEAM構造と呼ぶ補強リブを内蔵した構造である。この補強チューブを採用したことで、ねじれ剛性とトータルでの軽量化に成功している。反面横方向へ偏平し、緩やかにラウンドしたトップチューブは柔軟性に富んだイメージ。乗り心地の向上が見込めそうだ。
またコーナリング性能を高めるために、上下異径ベアリングを採用したテーパードヘッドを導入している。性能を高めるためには有効なトレンドだ。
さらにペダリング効率を高めパワーロスを最小限にとどめるために、ボトムブラケットは独自の方法でフレームに内蔵するプレスインインテグレーテッドシステムを実用化している。
この方法をとればハンガーシェルぎりぎりまでチューブ口径を増加させるような設計が可能となり、よりフレーム剛性を高めることができる。よってチューブの肉厚を薄くすることが可能となり、結果的に軽量化にも貢献するのだ。
さらに迫力あるインテグラルシートポストを採用。シートクランプはリッチー製だが、前後移動幅がかなり豊富なので、タイムトライアルポジションも容易に実現することができる。
第一印象ではエアロダイナミクスに傾倒したバイクかと思われるが、完成車重量にして、6.69kg(カタログ値)と驚異的な軽さも特徴である。
グランツールを戦い抜いたSST1.0。このマッシヴなロードバイクを2人のインプレライダーはどのような印象を受けたのだろうか。早速インプレッションをお送りしよう。
―インプレッション
「踏んだ力はロスなく前方に抜けていく」 鈴木祐一(Rise Ride)
この豪快なボリュームを感じさせないフレーム重量の軽さ。これは高く評価したい。
うれしくなるくらいに踏み出しが軽い。思わず笑みがこぼれてしまった。軽量さに加え、加速したときの踏み出し軽さ、バイクコントロール時の軽さという、あらゆる軽さを全面に押し出したような優れた性能のバイクといえる。
軽さの質感はどちらかといえば「カンカン」と乾いた軽さだろう。このバイクの特徴といえる感触で、踏んだ力はロスなく前方に抜けていく感じがある。
重量の軽さも十分に機能的な部分であるが、なんといっても走りの軽さを求めている人に乗ってもらいたい。
ダンシングフォームでのバイクの振りは軽く、コーナリングの旋回性能も高い。軽いバイクに乗り馴れていない方は、「軽すぎる」ゆえに違和感を感じるかもしれないが、それも慣れだと思うので、時間が解決してくれるだろう。
デメリットとして強いて挙げるなら、悪路での走行時に路面から弾かれる感じがすること。ショックアブソーバーの役割も担うタイヤをコース条件によって選ぶことが改善策として挙げられる反面、ゆとりはタイヤしかないようなイメージをもたせるくらいに軽さと硬さを追求しているバイクだ。
路面からの突き上げはフレーム自体が弾かれるような感じで伝わってくる。悪路では路面追従性に影響が生じる場面もあった。コーナリングではブレーキングフィールがシビアになったり、ヒルクライムでは弾かれて振動で上方にパワーが逃げてしまう感覚がある。タイヤやホイールのチョイスである程度緩和できそうなので調整してみたい。
例えば、太めの25Cタイヤを履かせてみるなどの工夫をしてみると、ショック吸収性を高めることができるだろう。このフレームにマッチしないアッセンブルのように感じるが、シチュエーションによってはそんなチョイスをしてもいいだろう。
迫力あるインテグラルシートポストは数センチの上下調整幅もあり、大幅な前後移動も可能だ。ポジションを調整すればタイムトライアルバイクとしても活躍が期待できる多目的フレームといえる。
日本のレースシーンではサーキットレースが圧倒的に多いので、こういったレーシング系のバイクは強い武器になるだろう。レースのために存在するようなスペックのバイクだ。
「これまでのイメージを一新する意欲作」 山本健一(バイクジャーナリスト)
SST1.0を初めて見たとき、FUJIに抱いていたイメージとはまったく異なるヴィジュアルに少々戸惑いながらも、期待を寄せてしまうような気持ちが混じり合った複雑な気分になった。
この迫力あるエアロフレームからはブレの無い設計思想が見て伺える。反面、このボリュームに似合わない軽さは、運動性能に直結しないようなネガティブな印象だったが、実際の走りは想像以上の完成度の高さだった。
踏み出しの伸びの良さは誰にでも味わえるようなクセのない乗り心地。ステアリングフィールも素直で、コントローラブルだ。狙ったラインをスムーズにトレースできるハンドリングは、下りなどで攻める気にさせる。
しかしながら、高い出力でこそその能力を発揮できるような質感にはプロスペックの片鱗を感じる。パワーを注入すればするほど、さらに加速を要求されるようなポテンシャルの高さが特徴だろう。
フレーム全体の剛性感は高いものの、ペダリングにシンクロするほどよいウィップが生じているのがわかる。踏み込むようなペダリングも高回転のペダリングでも気持ちよく走れるが、個人的にはじっくりと踏み込むように走ると心地よい。
重量の軽さもありヒルクライム性能は言うまでもなく優れているが、緩勾配でギヤをかけるような走りがフィットしていると思う。キレのよい加速感は、勝負どころのアタックなどに有効だろう。
乗り心地は悪いレベルではない。むしろ長時間のライディングに適するようなフレームの質感だろう。見た目から想像するほど脚への反発感は抑えられており、あらゆる性能のバランスが撮れたオールラウンドフレームであると読み取れた。
足回りをコンフォートなアッセンブルへと変更すればさらに快適なフィーリングを得られるので、ゆったりと乗るならオススメ。レースを目指すなら現状のまま乗りこなしていきたいところ。
2010年モデルの中でもひときわ優れたバリュープライスといえるフレーム価格はレースに打ち込むサイクリストにとって親切な設定だ。23万円というロープライスは、落車などの機材トラブルとつねに背中合わせのレーサーにとっては活動資金のセーブにもつながる。
レースからトレーニングまで思う存分使い倒せるフレームといえるだろう。タイムトライアルバイクとしても活用できることも付け加えたい。やる気にさせる一台だ。
FUJI SST1.0
フレームマテリアル:ハイモジュールC-7カーボン
フォーク:フジ・FC-330カーボンモノコック
コンポーネント:シマノ・デュラエース
ホイール:マヴィック・キシリウムSL
タイヤ:シュワルベ・アルトレモR 700×23c
ハンドルバー:リッチー・カーボンWCS EVO
ステム:リッチー・WCS 4Axlsカーボン
サドル:プロロゴ・C.ONE50-Ti
シートポスト:IST-インテグレーレッドシートチューブ
カラー:ホワイト/カーボン
サイズ:50、52、54、56cm
カタログ値参考完成車重量:6.69kg
希望小売価格:92万4,000円(シマノ・デュラエース完成車)
23万1,000円(フレームセット)
インプレライダーのプロフィール
鈴木 祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
山本健一(バイクジャーナリスト)
身長187cm、体重68kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質はどちらかといえばスピードマンタイプで上りは苦手。1000mタイムトライアル1分10秒(10年前のベストタイム)がプチ自慢。インプレッションはじめ製品レビューなどがライフワーク的になっている。インプレ本のバイブル、ロードバイクインプレッション(エイ出版社)の統括エディターもつとめる。
ウェア協力:ETXE ONDO(サイクルクリエーション)
http://www.etxeondo.jp/
text:Kenichi.YAMAMOTO
photo:Makoto AYANO
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