平均時速50.9kmというツール史上最速のステージを制したのは、ソーレン・ヴァーレンショルト。残り250mの大型ビジョン前では、手製Tシャツを着たノルウェー人6人が絶叫。本人も「奇妙」と認めたスプリント、歴史的な高速レース、そしてフィニッシュ後まで続いた判定騒動を現地から追った。



雨のなか行われたチームプレゼンテーションでもセクサスに大きな歓声が富んだ photo:Sotaro.Arakawa

スタート地点であるビシーを表わす、お手製のバイキング風カブトで応援 photo:Sotaro.Arakawa
インスタグラムで行っている宿泊するホテルのレビューが好評のマグナス・コルト(デンマーク、ウノエックス・モビリティ) photo:Sotaro.Arakawa


第8ステージで出会ったソーレン・ヴァーレンショルト(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ)の応援団 photo:Sotaro.Arakawa

彼らを初めて見かけたのは、ティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)が2勝目を飾った第8ステージだった。

胸元にソーレン・ヴァーレンショルト(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ)の名前を書いた手製Tシャツを着る、ノルウェーから来た6人組。フェンスから身を乗り出して応援するのではなく、彼らの定位置はフィニッシュに最も近い大型ビジョンの前だった。そしてこの日も6人は、残り250m地点に設置されたビジョンの前に陣取り、フィニッシュの動向を見守っていた。

フェンスを叩く音がウェーブのように近づき、先頭を争う選手たちが一瞬で目の前を通り過ぎていく。ただし、フィニッシュラインは緩い左コーナーの先。勝者を知るためには、数秒遅れて映し出される大型ビジョンを見るしかなかった。

画面に映ったのは、ケース・ボル(オランダ、デカトロンCMA CGM)を抜き、先頭に躍り出るヴァーレンショルトの姿。そしてフィニッシュラインを通過した瞬間、6人の絶叫が半径50mほどの観客の視線を一斉に集めた。

興奮冷めやらぬまま、表彰台へと足早に移動する彼らに話を聞いた。もちろん出身はノルウェー。今回は最初のスプリントステージである大会5日目から12日目まで観戦する予定で、翌日が最終日なのだという。遠く離れたノルウェーから応援団を引き寄せる、母国を代表するスプリンター。その勝利を、彼らは旅の終わりを前にして目撃したのだ。

多くの声援が飛んだヌヴェールのフィニッシュ地点 photo:Sotaro.Arakawa

雄叫びを上げながら足早に表彰台へと向かうヴァーレンショルト応援団 photo:Sotaro.Arakawa

レース直後のヴァーレンショルト自身も「奇妙だった」と認めるスプリント勝利だった。残り400mからボルが先頭に立つと、ぐんぐんとスピードを上げていく。しかし、その背後にエーススプリンターであるオラフ・コーイ(オランダ)の姿はない。コース右側から先んじて踏み込んだヴァーレンショルトが一気に追いつき、その背後に滑り込む。ひと呼吸置いて再加速すると、ボルを抜き去り、先頭のままフィニッシュラインを駆け抜けた。

この、本人も「奇妙」と認めるスプリントについて、ヴァーレンショルトはそれまでのキャリア最大の勝利だった2025年のオムロープ・ヘットニュースブラットを引き合いに出した。

あの時も集団前方の5番手あたりにいたヴァーレンショルトの前が突然開き、腰を上げて加速。ポール・マニエやヤスペル・フィリプセンらを退けて勝利した。リプレイや上空からの映像を見返さなければ、展開を理解することが難しい勝ち方だった。

チームに今大会初勝利を献上したソーレン・ヴァーレンショルト(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ) photo:A.S.O.

ヴァーレンショルトは2000年生まれの26歳。母国ノルウェーのコンチネンタルチームを経て、2021年にプロデビュー。特徴的なのは、身長195cmという長身を折りたたむようにして進む、極端に低いスプリントフォームだ。その源泉を記者会見で聞かれると、こう説明した。

「14歳の時に見た、前輪に顔がくっつくぐらい前傾でもがくマーク・カヴェンディッシュの影響かな」。

スーダル・クイックステップらがメイン集団を牽引。与えたリードは1分半というタイトコントロールを行なった photo:A.S.O.

このステージではヴァーレンショルトのツール初勝利に加え、もう1つの記録が生まれた。161.3kmコースの平均時速は50.9km/h。個人タイムトライアルとチームタイムトライアルを除くステージとして、ツール・ド・フランス史上最速だった。

その理由について、マイヨジョーヌを着るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)は簡潔に説明する。「強力な逃げ集団には逃げ切りのチャンスもあったので、スプリンターチームが懸命に追いかけていた。それに、終始追い風が吹いていたからね」。

これまでの最速記録は、マリオ・チッポリーニ(イタリア)が勝利した1999年第4ステージの平均50.356km/h。2位は、メルリールが制した2025年第9ステージの50.013km/hだった。

機材やトレーニング、栄養管理が進化するなか、1999年と1993年のステージが今なお上位に残っているのは意外な結果。新たな平均時速ランキングは以下の通り。

1位:50.91km/h(2026年第11ステージ)
2位:50.356km/h(1999年第4ステージ)
3位:50.013km/h(2025年第9ステージ)
4位:49.94km/h(2003年第18ステージ)
5位:49.42km/h(1993年第6ステージ)


ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル、モビスター)やジュリアン・アラフィリップ(フランス、チューダープロサイクリング)による逃げ。追い風に乗って50km/hオーバーで逃げ続けた photo:A.S.O.

フィニッシュ後には、もう1つの騒動もあった。3位に入ったヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・プレミアテック)に一時、集団の最後尾(119位)への降格処分が言い渡され、その後チームの抗議によって取り消された件について。

フィリプセンはスプリントの際にパヴェル・ビットネル(チェコ、ピクニック・ポストNL)と肩が接触。しかしアルペシン・プレミアテックのクリストフ・ルードホフト代表はその判断の根拠を確かめるべく、審判団のもとを訪れた。そして協議の結果、降格処分が取り消されたのだ。ルードホフト氏はメディアに対し、「最初の降格処分は正しい判断ではなかったが、彼らもそれを理解してくれた。自分たちの誤りを認めたのは非常にフェアだと思う。自分たちの立場を変えずに押し通すこともできたのに、彼らはそうしなかった」とコメントしている。

text&photo:Sotaro.Arakawa in Nièvre, France

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