イタリア・ミラノ近郊で開催されたUCIマスターズ・シクロクロス世界選手権に日本から増田謙一、中谷聡、矢野大介の3名の選手が出場、MM65-69クラスで増田が2位になり、日本人としては2011年に優勝した荻島美香ぶりの表彰台に上がる快挙を達成。3人の参戦レポートでお伝えする。




アップする増田謙一(SHIDO-WORKS)と矢野大介、中谷聡

日本人選手と出場クラス
•MM50-54 矢野大介(八ヶ岳CYCLING CLUB)
•MM60-64 中谷聡(HOKURIKU DOROTABOU)
•MM65-69 増田謙一(SHIDO-WORKS)
※太田好政(AX cyclocross team)は渡航直前のCXレースで負傷し、渡航を取り止め、出場が叶わなかった。

イタリア・ヴァレーゼのマスターズ・シクロクロス世界選手権2025会場



MM65-69 増田謙一(SHIDO-WORKS)
リザルト:2位


65歳となる今シーズン、例年になく踏めており だったら今の走りが世界戦でどこまで通用するか確かめたくMM65-69クラスにエントリーした。過去リザルトをもとにクラス別のタイム比較を行なったが、私が参加するMM65のレベルも全く分からず、不安のまま現地に乗り込んだ。しかし目標はポディウム登壇以上だ。

試走の用意を進める中谷聡(HOKURIKU DOROTABOU)と増田謙一(SHIDO-WORKS)

今回の遠征は現地3泊5日。到着した1日と翌日午前はミラノ観光、午後にヴァレーゼに移動してコース試走を行った。同行したのは中谷聡さん(HOKURIKU DOROTABOU)。

Liv BRAVA&ジャイアントTCXの2台のバイクを持ち込んだ

機材損傷/ロストバゲージのリスク低減のため、昨年就航したANA羽田〜ミラノ直行便を利用。遠いイタリアまで行くので、メカトラや泥コンディションも考慮して2台のバイク(Liv BRAVA&ジャイアントTCX)を持ち込んで、万全な体制とした。

マスターズ・シクロクロス世界選手権2025 ヴァレーゼ競馬場特設コース

レース会場はミラノ・マルペンサ空港から40キロほど離れたヴァレーゼ競馬場特設コース。マスターズ大会のためかテクニカルセクションは少なく、芝メインのパワーコース(砂エリア2箇所、階段/フライオーバーは1箇所ずつ、難しくないキャンバー上り下りが2箇所)。ただし競馬場中央の土壌部は、朝方凍った部分が溶けると野辺山のような泥セクションとなり、ここをミスなくクリアしたいところ。

ゼッケンNoは抽選で、なんとゼッケン7番で最前列スタートに。そして最前列の中央部付近を確保してスタートした。

1周目をトップ通過する増田謙一(SHIDO-WORKS)

最初のコーナーを左に曲がったサンドセクションを2番手で通過し、1周目はトップ通過。全てのコーナーの立ち上がりを踏み踏みで加速し、後続を引き離したいところだが、世界戦に出てくる百戦錬磨のオッちゃん達は甘くなく、3〜4人パックで周回を重ねる。

MM65-69 2位を走る増田謙一(SHIDO-WORKS)

そこから少しずつメンバーが変わり、いよいよ後方スタートの強豪たちが現れ、最終周はJos BOGAERTS選手(オランダ)との一騎討ちとなる。

トップ争いをする増田謙一(SHIDO-WORKS)

そして泥セクション。オランダのBOGAERTS選手が先行して私が続く。しかし私がやってしまった。滑りやすいコーナーで私がミス!(フロントが滑り、足着きストップ)。そこから持てる限りのパワーで踏んだけれど4秒届かず。私の初のマスターズ世界戦は2位で終わりました。優勝したBOGAERTS選手は泥セクションでの走りも上手く、かなり走れる選手でした。

前を行くJos BOGAERTS選手(オランダ)との一騎討ちとなる

今回マスターズ世界チャンプの夢は叶いませんでしたが、来年以降の老後の楽しみにしておきたいと思います(笑)。

ピットサポート&アドバイスをして頂いた矢野さん、羽田から同行して頂いた中谷さん達、そして日本から応援して頂いた皆様、本当にありがとうございました。

MM65-69 で2位の増田謙一(SHIDO-WORKS)

表彰式で銀メダルを授与された増田謙一(SHIDO-WORKS)

レース使用車 Liv BRAVA
Fタイヤ:デュガス Typhoon(1.2bar)
Rタイヤ:デュガス Rino(1.25bar)

もしFタイヤもマッドタイヤのRinoにしておけば滑らず、チャンスがあったかな?と、帰りの飛行機で酔っ払いなが瞑想するのもマスターズの楽しみかもしれません。マスターズ世界選手権は来年も同じヴァレーゼで行われます。ミラノ直行便もできて益々便利になっていますから、来年は大勢で参加したいものです。迷っているあなた、是非一緒に参加しましょう!

2位の銀メダルとゼッケン




MM60-64 中谷聡(HOKURIKU DOROTABOU)
リザルト:41位


シクロクロス世界選手権への出場は、11年ぶりになります。ヴァレーゼ競馬場内の特設コースはおそらく75歳以上も走る大会なので危険な個所はなく、シンプルなレイアウト。ぬかるんだコーナーがポイントでした。

MM60-64で41位だった中谷聡(HOKURIKU DOROTABOU)

MM60-64クラスは85名の最大参加人数で、くじ引きの結果、私は78番目のスタート順...。世界戦といえども参加者のレベルはまちまちで、日本でいうとE1からE3までまんべんなく参加している感じです。なのでスタート直後はイージーな箇所でも渋滞が発生し、案の定最初の砂区間とシングルトラックの下りでは降車を余儀なくされました。

2度のスリップ転倒もあり、40人以上抜きましたがタイムはトップと5分差の41位。しかし日本でE1やE2上位の実力があれば十分勝負できると感じました。

MM60-64を走る中谷聡(HOKURIKU DOROTABOU)

今回、増田さんが歴史をつくってくれました。荻島美香さん以来になるアルカンシェルを、日本のマスターズの皆さんも狙って参加しませんか?

増田さんの表彰台が見られて興奮しました。レンタカーに増田さんを乗せて運転するのはレースより緊張しました(笑)。ピットサポートしていただいた矢野さんには厚くお礼申し上げます。矢野さんおすすめのレストランもサイコーでした。

アパートメントの家主と一緒に

今回のヴァレーゼはマルペンサ空港からレンタカーで40分くらいのアクセスの良い土地です。ミラノー羽田の直行便もあります。イタリアは食べ物も美味しいし、お酒も美味しいので、色々楽しめます。

海外遠征は言葉も大事ですが、人数が多ければできることが何倍にもなるので安心だと思います。我々は3人で行動しましたが、荷物を積む、ナビゲーション、荷物の番など、作業を分担して効率的に動くことができました。これが1人だとかなり大変だと思います。複数人で行くことをお勧めします。

レースを控えた会場は夕陽が美しかった
宿は複数部屋のあるアパートメント。キッチン、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジつき



車はユーロップカーでメルセデスベンツVITOをレンタルしました。シートを畳んで3人乗車、自転車4台(ケースごと)、スーツケース3個が余裕で載りました。宿は複数部屋のあるアパートメント。キッチン、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジがついていて、みんなで集まれる部屋があって、安価です。数日滞在するのに良いと思いました。

世界選手権といっても選考レースがあるわけでなく、JCF国際ライセンス登録すれば誰でも出られる大会です。参加者のレベルも幅広かったです。初心者だから出場できないわけではありません。コースもマスター用にイージーです。観光をあわせると最高に楽しい遠征になると思います。

国内に戻ってからですが、羽田で自転車の荷物を開けるように言われ、チェーンオイルを没収させられそうになりました。フィニッシュラインのサイトから安全データシート(Safety Data Sheet)を見せたらOKでした。事前に使用ケミカル類のSDSを準備しておくと良いでしょう。

MM50-54 矢野大介(八ヶ岳CYCLING CLUB)
リザルト:29位(-1LAP)


日本のシクロクロス界でもマスターズで年齢式カテゴリー分けが浸透し、全日本選手権では参加人数が多くなり、走りごたえが増してきたころ、2021年のイギリス大会で初めてマスターズ・シクロクロス世界選手権へ参加しました。

それまでの海外レース遠征は10月にアメリカのUCIレースを中心に若手レーサーを連れていく形でしたが、ヨーロッパは初めてのことでした。それから4年。またの参加機会を考えていたところイタリア北部のヴァレーゼで行われるというアナウンスがあったと同時に妻と予定を立て始めました。せっかくのイタリアなのでレースの数日滞在だけではもったいなく、私たちはレース1週間前にイタリア入りすることにしました。妻は旅行の行程、私は逆算してトレーニングの計画を進めました。

生ハムとチーズの街パルマ近郊を走る
ワインで有名なブドウ畑の道を縫うように走る



行程はトリュフで有名な小さな街アルバで2泊、生ハムとチーズの街パルマで3泊してから、レース2日前の金曜日にヴァレーゼ入りして4泊の行程でした。イタリアに着いてからもトレーニングするのですが、アルバ周辺では葡萄畑の風景が世界遺産となっており、バローロにバルバレスコと、ワイン通かのように有名どころのワイン畑を縫うように通るルートを引いて、丘陵地帯のグラベルロードと農道を中心に走りました。それは、いうまでもなく息をのむような風景が続く絶景ライドなトレーニングでした。

素晴らしかったパルマの田舎道

ヴァレーゼの中心部から北に数キロと便利な場所にある競馬場が会場。野辺山シクロクロスの方が規模がしっかりしているのではないかと感じたイギリス大会の感覚からすれば、ヴァレーゼの主催者はとてもレベルが高く、会場もワールドカップ並みのしっかりとした設備と内容でした。ほぼ芝生のコースは、ほぼ砂のベルギーのモル以外では典型的です。70、80代のレーサーも参加するのでコースがシンプルになるのは必須です。つまりは私が最も苦手とするピュアパワーコースです。

ウォームアップする矢野大介(八ヶ岳CYCLING CLUB)

当初、私のレースがある日曜日は雨予報だったので、なんなら雨でも降ってくれと願っていたが、叶うことはありませんでした。ただ、最低気温が氷点下で地面が凍るので、日が昇ると所々で水分を含んだ土が溶けだしマッドコンディションとなるコース。下地の凍土が硬いまま表面だけが徐々に溶けていくタイプはタイヤチョイスに関係なく滑ります。

土曜のレースで確認したのは、午後は路面がほぼ乾きラインができるが、私のレース時間の午前中はかなり泥がまとわりつく感じでした。実際に午後レースだった増田さんと中谷さんは、他のレーサー同様ピットに入ることはありませんでした。

スタート後の第一コーナー

Men’s 50-54カテゴリーのスタートは10:15。気温は5℃程度とかなり冷え込んだ状態で、エンブロケーション(ホットクリーム)をたっぷり塗ってのスタート。23番グリッドで右端のグリッドに入りました。第一コーナーが左で、その後の右コーナーを内側で通りたかったからです。

スタートは海外でも比較的得意だと自覚していましたが、特別に広くもなく下り基調のホームストレートはとても速く、15番手ほどまで上がるのが精一杯でした。ただ広いぬかるんだ芝生セクションまでは詰まることなく無事に抜けて後はひたすら50分我慢して漕ぐだけ…。

典型的な芝生のワイドコース。馬力さえあればどこでも抜けるパワーが正義なコース

やはり空気の冷たさが膝の動きを鈍らせている感覚もあり、ニーウォーマーくらい装着すればよかったと感じました。とにかく横方向によく滑るトリッキーな泥は、リスク回避モード走行に徹してロスなくこなせたのは良かった。

フライオーバーは2箇所。うち1個はステップアップだ

重たく感じる脚をどうにかしたいと思いながら3周こなすうちに30番半ばくらいまでズルズルと後退し、いいイメージを全く持てませんでした。バイクも泥のまとわりつきがひどくなり、パワーに対して明らかに進みが鈍くなってきていました。そしてピットが忙しいな、というのも通過するたびに確認できました。唯一の救いは「何人いるんだ?」と思わせるくらい、いろんなところから聞こえてきた妻の応援でした。

フロントストレートは砂場を跨ぐが、よく締まっていて乗っていけた

私のレースではピットクルーがいなかったので、すぐピットインしてしまうとその後が辛くなると考え、入るのは1回と決めていました。予定通りレース半分で入り、スペアバイクをセルフで交換(予めフェンスに立てておき、自分で取りにいくため時間がかかる)。スペアバイクの軽さは衝撃的でした!

ピットイン後のバイクは泥まみれだ

気温も上がり、脚も慣れてきてピットインで置いていかれた選手にすぐに追いつき、フィニッシュに向けてモチベーションもあがり、とにかく挽回を試みました。

硬く凍った路面が徐々に溶けるコンディション。滑るので安全なアウト側から攻めた

50分のレースは7周回になり、後半は抜く方が増えてラストラップでもう2、3人いけるかな、とイメージしていたら、ラストコーナーでなんとラップされ、レースは1周短く突然フィニッシュ。

29位という順位よりラップされたのが悔しかったですが、ベストを尽くしたレース後のリザルトは引きずらず、一緒に走った選手たちと「well done」と称えるようにしています。

レース中あちこちで声援を送ってくれた妻と

終わってみると、理想としては毎周回のバイク交換です。バイク自体と漕ぎが重くなるのは2周でも良かったのですが、泥質がヌテッラのようにまとわりつくペースト状でタイヤのトレッドの溝を埋めてスリックタイヤみたいになり、グリップが低下してしまうのでフレッシュなタイヤが好ましかったです。ただ今回は右降り方向のピットだったのでピットクルーはピットレーンを毎回横断する必要があり、より経験が問われる設定でした。そしてピットインしたバイクは実は妻がピットに駆け込んで洗車してくれていたので、もう一回交換ができていた、と後で知りました。

今回の遠征はバイクは2台、スペアホイールを1セットがメインでした。その他、ウォームアップ用にフィードバックスポーツのローラーが大きな荷物となります。さらにはケルヒャーのバッテリー式高圧洗浄機と小型電動ポンプと、ちょっと前の海外遠征では大変だったアイテムがとても楽になりました。妻と2人で行ったため、チェックイン時の荷物のエクストラチャージは無しで済みました。

タイヤはFMB製、マッドのGrippo(スタートで使用)、セミスリックのSprint、オールラウンドのSlalom(スペアバイクにセット)と3種類揃えることができました。結構地面がガタガタだったので、空気圧は前1.5 bar、後1.4 bar。ヴァレーゼ入り前の練習も全部セミスリックのチューブラータイヤでこなしています。

その他、シューズは紐式のGiro Empireですが、特に海外遠征では絶対にダイアルタイプを使わないようにしています。練習やレースの落車で壊れたら使えるシューズが無くなるからです。もちろんスペアを持っていればいいのですが、レース中に起きたらスペアシューズも必要になります。スキンスーツは半袖、長袖(今回使用)、そしてサーマルの3種類を持っていきました。

来年も同じヴァレーゼでの開催となります。私達3人のことは当然主催者も印象に残っているので覚えてくれているはずです。私が野辺山シクロクロスを主催していた時に遠くからやってくる選手達は全員印象に残るのと同じです。

共に闘った仲間たちと健闘を讃えあう増田謙一(SHIDO-WORKS)

そして増田さんの2位はレーサー間でも強い印象を残しています。リスペクトはスーパーアウェイな場所へ出向き、色んなレーサー仲間と接してレースする姿を見せて初めて得るものです。結果を残せたらなおさらです。

私の中で表彰台狙える日本人選手は数人思い浮かびます。是非狙っていただきたいと思います。UCI認定の世界タイトルですよ!

そして、なによりもサイクリストとしての経験値がグッとあがり、視野が広くなり、人としての成長をこの歳になっても感じることができます。そしてストーリーがまた一つ増えて帰ってこれます。

マスターズやシクロクロスに限らず、どの種目でも、1人でも多くのサイクリストが色んな国でレースやライドを体験していただきたいと思います。気になるコスト的な面も質問してください。イタリアは日本と比べて平均的に裕福な国ではありません。キッチン付きアパートを借りてローカルスーパーで食材を買い自炊すれば日本と変わりません。来年、ヴァレーゼの会場で一緒にレースしましょう!