「私の目標は、常にツール・ド・フランス出場レベルのチームをサポートすることです」。

と、ファクターの創業者でありオーナーのロブ・ギティス氏は言う。彼のものづくりに対する真摯な姿勢は、ブランド立ち上げ初年度から世界トップチームとの契約を結ぶという、前代未聞の快挙として形になった。

「プロレースとの関係性はとても大事。彼らの意見が性能を引き上げてくれるから」とギティス氏は言う photo:So Isobe

彼の情熱は、ファクターブランドを立ち上げてから10年を迎えようとしている今も全く衰えていない。最新ロードモデル「MONZA」を筆頭に、これから続々デビューするというニューモデルや、「オールインハウス」だからこそ可能な研究開発体制とは。業界を知り尽くした彼の目に映る、今後のスポーツバイクの未来とは。本記事では、ギティス氏のスポーツバイクに対する想いに迫る。



ブランド独立初年度からAG2Rをサポート。ロマン・バルデ(フランス)のステージ優勝と総合3位を獲得した photo:Tim de Waele / TDWsport

常にツール・ド・フランス出場レベルのチームをサポートすること」。それがギティス氏の目標だ。それは単にマーケティング用のPRではなく、トッププロ選手が満足し得るバイクを作るという信念を現した言葉だが、その想いはブランド立ち上げ初年度からフランスのトップチームであるAG2Rラモンディアルに供給し、ロマン・バルデがツール・ド・フランスで総合3位を獲得するという形に結びついた。

「そんな快挙を実現したブランドは今も過去にもありません」とギティス氏は胸を張る。ツールに出場しなかったのはBF1から独立しからたった1年だけ。加えてトップチームやビッグレースだけではなく、クラブチームからトップ選手まで幅広い層を支えてフィードバックを得たいという思いが根底にある。

女子チームのヒューマンパワードヘルスや、アメリカのクリテリウム専門チームであるリージョン・オブ・ロサンゼルス、日本のチーム右京、アフリカの自転車熱に支えられるグラスルーツチーム「チームアマニ」もそう。女子ロード界を席巻しているデミ・フォレリングやロレーナ・ウィーベスも、かつての所属チームでファクターに乗り、開発陣はそのフィードバックを集めてきたという。

披露されたMONZA。OSTROの弟分にあたるレーシングモデルだ photo:So Isobe

その上で、最新ロードバイク「MONZA(モンツァ)」のデビューは大きな意味を持つ。

「OSTROは素晴らしいバイクではありますが、整備性や価格、タイヤクリアランスといった面で”道具”として使い倒すには少し厳しい面がある。MONZAはそれら負担ができるだけないように、かつ、できるだけ性能をスポイルしないように開発したモデルです。最高級カーボンをふんだんに使ったOSTROとは素材も異なりますが、レーサーに求められる剛性値は一緒。育成チームやナショナルチーム、クラブチームをサポートするのに最適なバイクだと考えています。私もかつて選手だったから若い選手を応援したいんです。上を目指して頑張ってほしいという思いからMONZAを作りました」と言う。

ファクターのイメージは、とても独立後10年が経たないブランドとは思えないほどに鮮烈だ。ただひたすらに理想を追い求めたハイエンドモデルばかりを作り続ける姿勢は、コアで「いいモノ」を求めるサイクリストから確固たる信頼を得るに至っている。

「それはおそらく、自転車を本当に好きな人たちが、ファクターの本質を理解してくれたからでしょう。我々が我々のバイクについて話す時、本当のことしか伝えません」。とギティス氏は続ける。

「マーケットに対するレスポンスの早さも我々のユニークな部分。それはひとえに設計から開発、生産、デザイン、塗装まで、全て我々で担うことができるからです。例えば初音ミクエディションが良い例です。塗装を外注しているほとんどのメーカーなら、一つの特別デザインを50だけオーダーするなんてことは不可能です。直近で言えばアマニコレクションもそう。小ロットで生産するのは、我々だからこそできることなのです」。

発表されたばかりのTeam Amani x ラファカラーのOSTRO GRAVEL photo:So Isobe

「これからのロードバイクがどうなっていくか?」そう尋ねると、ギティス氏は少し笑って、こんな話を始めた。

「数年前、アメリカのブランド各社が、エアロモデルと軽量モデルを統合しましたよね。でも、私たちはOSTROとO2を両方ラインナップしています。言いたいことはわかりますよね(笑)?。これから先、出てくるであろうと考えているのは、重量を気にせず空力だけに特化したバイク。ニーズは少なからずありますし、そのスペースも空いていると考えています。

それと、もう一つ大事なことが、システム統合。特にエレクトロニクス面ですね。今のロードバイクはどれも本当に美しい。でも、そこに前後ライトやレーダーがぶら下がっている姿は寒気がするほど嫌い。それらは外装ではなく、内装されるべきです。しかも、ひとつのバッテリーで全部がスマートに給電されるようなもの。そんな未来がもうすぐ実現されるでしょう」

スポーツバイク、特にロードバイクの性能向上がある種「閾値」に達していると言っても過言ではない状況だが、「スポーツバイクの性能を上げるキャパシティは、まだまだ十分に残っている」とギティス氏は言う。ただし、そこにたどり着くためには「生産体制」が重要だとも。

「他のブランドが抱えている問題は、生産をOEM先に任せていることです。『これをやってくれ』『いつまでに』『いくらで』……開発レベルが上がっているからこそ、そんなオーダーがもう通りにくい時代になっています。でも、ファクターは違う。

私たちは自分たちのファクトリーで、満足いくまで性能を突き詰めることができる。これは、ものすごく大きなメリットです。OEM生産を請け負っていた時、私が『その条件じゃ無理だよ』と断ることも多かったんです。でも、今は違う。極端に言えば無限に自分の人件費を使えるから、いいモノを追い求めることができるんです。それって、エンジニアとして本当に幸せなことなんですよ」。

京都で行われた展示会でギティス氏にインタビューを行った。その口ぶりから熱い情熱を感じ取ることができた photo:Factor Bikes

「これからのファクターが目指すもの?」ギティス氏は、迷いなく答えた。「今のまま、品質至上主義を貫くこと。これに尽きます。私たちは、これまでも、そしてこれからも世界最高のレースバイクを作ることだけに集中していきます」

その視線の先にあるのは、決してマーケットを広げることや、多様化することではない。

「キッズバイク、カーゴバイク、Eコミューター。そういった実用車には、まったく興味がありません。私たちは、“プレミアムパフォーマンスブランド”として、どこまでも性能を突き詰める。そのスタンスを、これからも絶対に変えません」。

「最高のバイクを作ることに、ひたすら集中する」それが、ファクターのこれからだ。
ギティス氏の言葉には、一切の迷いもブレもなかった。

interview:So Isobe