ファクターが誇る軽量オールラウンダー「O2 VAM」をインプレッション。現代のロードバイクには欠かせないエアロダイナミクスを取り入れ、登坂レースで隙のない性能を発揮するバイクとなった。



ファクター O2 VAM


航空宇宙産業とレーシングカーの研究開発を行うエンジニアリングカンパニーに端を発するバイクブランドのファクター。エアロダイナミクスやカーボンファイバーへの深い造詣を有し、革新的なバイクを生み出してきたブランドだ。

ラインアップの中核となるシリーズが軽量ロードのO2だ。2016年にデビューした初代はアジェードゥーゼルの選手と共にグランツールの超級山岳ステージや石畳のクラシックで活躍。そして2019年にはO2 V.A.M(以下VAM)というアップデートモデルで、フレーム重量630gを達成した。

シートステーも非常に薄く作られている
シートチューブも扁平として快適性を高めている
クライミングバイクらしい細身のフォークが採用される



そして、2023年にモデルチェンジが行われた現行モデルは「最速の軽量バイク」を目指し、エアロダイナミクスを手に入れた。新型ではOSTRO Gravelの開発で得た、低レイノルズ数の気流挙動に関する知見を応用。「層流剥離泡」の形成と、その後の気流の再付着を巧みにコントロールすることで、無風からわずかな風の条件下でもエアロ効果が発揮されるバイクを実現した。

その結果、クライミングバイク然とした細身のルックスながら、前作比で空気抵抗を50%も削減。ファクター最速のエアロロード「OSTRO VAM」とわずか5ワットの差まで迫った(時速48km、風向±5°)。

トップチューブは最薄部10mmに作られている
ブラックインクのステム一体型ハンドルが付属する


ダウンチューブは非常に扁平している
ファクターが研究開発の粋を結集したO2 VAM



エアロ性能を大幅に強化しつつ、フレーム重量は54サイズで700g、DURA-ACE DI2完成車では6.4kgと前作と同等の重量スペックを維持。しかし、エアロシェイプや重量比剛性を改善させるために、ファクターは新たな製造方法を開発し、最先端の工場を建設するほどの投資を行った。ボロンを用いたシートポストなど、最高グレードの素材も惜しみなく投入されている。

さらに軽量、剛性、エアロという要素だけではなく、快適性も追求されている。シートマスト式のISP、最薄部がわずか10mmに成型されたトップチューブや、ドロップドシートステーによって、サドル周辺に微妙なたわみを生み出す。これにより、荒れた路面からの衝撃を効果的に吸収し、ライダーの疲労を軽減する。

フロントセクションはエアロを意識した形状が採用される
ボトムブラケットのベアリングはセラミックスピード製だ



ジオメトリーの最適化にも余念がない。数千人ものユーザーとプロライダーのポジションデータを分析し、スタックハイトを10mm引き上げることで、より多くのライダーが理想的なフィッティングを実現できるよう配慮されている。

またオフセットの異なる4種類のフォークを用意し、全サイズで共通のトレイル値を実現。クライミングバイクとして求められる軽快なハンドリングと、ダウンヒルでのコントロール性を高めることで、高速化する現代のレース展開に対応する。

シートマスト式のISPが採用されている
ダウンチューブのボトムブラケット周辺はワイドな設計だ
セラミックスピード製のヘッドセットがアセンブルされる



加えて、専用設計された新型ホイール「Black Inc 28//33」も、前後セット1,146gという重量でO2 VAMのポテンシャルを余すことなく引き出す。前後で異なるリムハイト、そして最新のトレンドであるカーボンスポークを採用し、空力性能と軽量性、剛性を高次元で両立した一本だ。

ファクターの技術の結晶たるO2 VAMをテスト。Black Inc 28//33ホイールを組み合わせたクライミングバイクの実力に、なるしまフレンドの小畑郁とシクロワイアード編集部の高木三千成が迫る。



ーインプレッション

「全てが軽い。誰でも扱いやすく、完成度が高い一台」小畑郁(なるしまフレンド)

「全てが軽い。誰でも扱いやすく、完成度が高い一台」小畑郁(なるしまフレンド)

第一印象はとにかく軽いです。重量、ペダリングフィール、ハンドリングの振り全てが軽い。リムブレーキ時代の軽快なバイクの特性が、ディスクブレーキバイクのスルーアクスルによる剛性感など美点を維持しながら再現されていました。

全ての完成度が高く、フレームのウィップも狙いどころで収まり、思うがままに加速してくれます。シルエット的には細身に見えるフォークですが、適度な剛性を確保しており、ブレーキング時の弱さも感じられません。

フレーム設計の特徴として、横から見ると非常に薄いシルエットながら、上から見るとボリュームのある横幅を持っています。この設計により、適度な剛性を確保しながらも、優れた乗り味を実現しています。ボトムブラケット周りも薄いカーボンを使いながらも、造形のボリュームで性能を確保する巧みな設計です。

O2のシルエットは乗り味にクセがありそうですが、実際に乗ってみたらオーソドックスなロードレーサーという感覚を抱きました。ペダリングパワーはフレームがウィップしながら受け止めてくれるので、剛性過多で足が疲れやすいということはありません。

「フレームのウィップも狙った性能が出ている」小畑郁(なるしまフレンド)

例えばヒルクライムで重いギアを使っていても最後までペダルを踏み抜かせてくれるような印象です。とはいえフレームが柔らかいわけでは決してないので、剛性で物足りなさを感じることは少ないでしょう。誰でも乗りこなしやすいフレームに仕上がっていると思います。

もしかしたらド平坦で超高速を維持するために重いギアを踏んでいる時に、物足りなさを感じるのか、足にストレスがない良さを感じるのかという好みが出てくる可能性はありますね。エアロが足りないという感触であればディープリムホイールを装着することで対応可能です。

シートステーは細身で乗り心地の良さを確保しながら、剛性面でネガティブな印象はありませんでした。衝撃吸収に関しては、装備するタイヤの標準サイズが太くなってきているので、それも快適さを高めている要因だと思います。ただタイヤ重量が上がる中で、走りの軽快さを感じられるのはフレームが優れていることのあらわれです。

このバイクは、険しい登りを好む軽量級のライダーや、ディスクブレーキバイクの重量感に抵抗がある人に特におすすめです。レース向きの性能も十分に備えており、レーシング志向のライダーにも満足いただける一台と言えるでしょう。

「フレームのウィップで跳ねるように加速するハイエンドマシン」高木三千成(シクロワイアード編集部)

「フレームのウィップで跳ねるように加速するハイエンドマシン」高木三千成(シクロワイアード編集部)

新型O2 VAMはリムブレーキバイクのハイエンドモデルのような軽快さがありました。重量が軽いフラッグシップバイクらしい乗り味で、ダンシング時にバイクを左右に振りやすく、ペダリングのリズムを捉えやすかったです。また前作と比較するとハンドリングのクセが改善され、自然な操作感を実現しています。

加速性能が非常に好感触で、フレーム全体がしなりながら、その反発で跳ねるように加速していきます。特に低速からの加速時に際立つものがありました。ただ大柄でハイパワーを出力するライダーの場合は物足りなさを感じてしまう可能性もあります。

フォークとリア周りは良い意味でリズミカルに動き、路面からの情報を適度に伝えてきます。例えば荒れた路面でも、衝撃が直接伝わるのではなく、ワンテンポ遅れて伝わってくるような特性があります。

ISPによる座り心地の良さも特徴的でした。一般的なシートポストの場合はクランプ部が支点になって衝撃を受ける感覚がありますが、ISPの場合はフレーム全体が衝撃をいなしているようです。路面が悪くてもライダーがサドルに押し返されないので、ペダリングにもいい影響を与えています。さらにISPはダンシングの軽さにも効いていますよね。

「誰でも扱いやすいバイクに仕上がっている」高木三千成(シクロワイアード編集部)

対してブラックインクのハンドルやホイールの剛性が高く、フォーク周りの撓みは感じ取りやすかったです。コーナリング中やブレーキング時にフォークがしなりますが、コントロールできる範囲内ですし、超高速ダウンヒルにならないレース環境では問題ありません。

フレーム全体がウィップする特性は軽量級のライダーにはフィットすると思います。女性ライダーでも乗りこなしやすいはずなので、お勧めできますね。

ファクター O2 VAM

ファクター O2 VAM
重量:700g(サイズ54)
スルーアクスル:フロント φ12x100mm リアφ12x142mm
フレームカラー: STORM GREY、RED VELVET、CHROME
フレームサイズ :45/49/52/54/56/58/61
シートポスト:3種のシートポストハイトとオフセット(25mm)の6オプション
フレームセット価格:885,500円(税込)



インプレッションライダープロフィール

小畑郁(なるしまフレンド)
小畑郁(おばたかおる)
圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高い、なるしまフレンドの技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。2020年以来、ベルマーレレーシングチームの一員として国内レースを走る。

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高木三千成(シクロワイアード編集部)
高木三千成(シクロワイアード編集部)

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。



text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto AYANO、Naoki Yasuoka