「Speed Dreams」をキャッチフレーズに掲げ、第4世代へと進化したキャニオンAeroad。前回は、その最高峰となる「Aeroad CFR」を試乗した。今回はその下に位置する「Aeroad CF SLX」の走りを、自転車ジャーナリストの吉本司が上位モデルとの走りの違いを踏まえつつお届けする。



より存在感が増すであろうSLXグレード

キャニオンのAeroad CF SLXをテスト。アルテグラDi2とDTスイスのARC1400ダイカットホイールを搭載した「Aeroad CF SLX7 Di2」に乗った photo:So Isobe

近ごろホビーサイクリストとの会話で折に触れて挙がる話題といえば、高騰する製品価格である。キャニオンはユーザー直販の形態につき、他社よりも価格がかなり抑えられているとはいえ、前回に試乗記事を掲載した新型のAeroad CFR(以下CFR)は、142万9000円(デュラエースコンポ搭載車)。誰もがやすやすと購入できるものではない。

コンポであればアルテグラDi2がそうであるように、プロユースモデルの下に位置づけられるグレードのバイクは、ホビーサイクリストにとっての〝実質的な最高峰〟となってきた。それ故、各社のセカンドグレードは、われわれはもちろんのこと、バイクメーカーにとっても以前に増して重要な意味を持つようになり、性能と価格のさらなる高バランスが求められていると言えるだろう。

さて、少々前置きが長くなったが、本題となる「Aeroad CF SLX」(以下SLX)である。このモデルは先述したCFRの下に位置づけられる。先代のAeroadは、SLXの下にワイヤ類をフル内臓式としないSLグレードを展開していたが、今作ではそれが設定されない。その理由をキャニオンのプロダクトマネージャー、スベン・ロイター氏は以下に語る。

「エアロードのコンセプトは、高性能を追求するレースバイクであり、その観点から外に露出するケーブル類や機械式コンポの選択肢は、そもそも開発時からありませんでした。だから、SLグレードを廃止してSLXまでとしたのです」。

より手ごろな価格でAeroadに乗りたい人には残念な話だが、確かにAeroadの本質を考えれば外装式ケーブルは非合理であり、キャニオンの判断も納得できる。特に今作のAeroadは、同社のロードラインアップで最もレースに適した機材として位置づけられるのでなおのことだ。ちなみにスベン氏によれば、軽量車のアルティメイトシリーズは、今や空力が重視されるプロレースへの投入は少なくなり、軽量性を重視するアマチュアロードサイクリスト向けのモデルとして位置付けが変わりつつあるという。

フレームセットで114gの軽量化を達成しつつ堅牢性も向上

フレーム形状はCFRと同じで、カーボン素材が異なる。フレーム単体重量は1050g、フォークは416gだ photo:So Isobe

戦闘的なフォルムはCFRと全く共通。完成形に達した先代モデルからアップデートが施された photo:So Isobe
本作では弟分のSLグレードが存在しない。レースマシンとしての立ち位置を強化した結果だ photo:So Isobe



話をAeroad SLXに戻すと、今作も前作に引き続きCFRとは一卵性双生児だ。CFRとフレーム形状は同様で、カーボン素材の違いにより重量差が生まれている。もちろん新たなフレーム形状に合わせてカーボンのレイアップも見直されており、新型SLXのフレーム単体重量は1050g、フォークは416gに仕上げられている。旧型の重量はそれぞれ1150gと430gだったので、フレームセットで114gの軽量化を実現している。それだけでなく堅牢性も向上しているという。これはCFR同様、トップチューブをはじめ、落車でフレームの破損を受けやすい部分へのカーボンの積層を最適化したためだ。

SLXのラインアップは「SLX8」と「SLX7」という2グレードがあり、それぞれにシマノとスラムのコンポを搭載した合計4モデルを展開する。最も手ごろなモデルは、スラム・ライバルAXS「Aeroad CF SLX7 AXS」(59万9000円)。シマノ・105 Di2を搭載した「Aeroad CF SLX7 Di2」は68万9000円で、SLX7グレードとなれば、多くのサイクリストにとって購入がかなり現実的な価格設定と言えるだろう(ともにDTスイス製のカーボンホイールを装備するのも嬉しい)。そして今回、試乗をするのは、シマノ・アルテグラDi2とDTスイスのカーボンホイールARC1400ダイカットを搭載した「Aeroad CF SLX7 Di2」だ。恐らく新型Aeroad全シリーズにおいて売れ筋となるモデルであり、最も優れたコストパフォーマンスが期待される存在でもある。



Aeroadの魅力をさらに引き出す心地よいペダリングフィール

今回のSLXの試乗は、すでに掲載した新旧CFRグレードと同時に行った。残念ながらSLXの新旧を同時に乗ることは叶わなかったものの、筆者は以前に前作SLXにも試乗経験がある。当時のSLXの試乗レポートを振り返ると「ソリッドな剛性感で〝踏める〟ライダーの方が満喫できるフレーム特性だが、速さを求めるのであれば、それも許容できる範囲だろう」と記していた。

ペダリングは非常にスムーズ。扱いやすく、高速域への「伸び」を心地よく体験できる photo:So Isobe

それからすると新型SLXは、〝脚当たり〟が良くなっている。前作が悪かったというわけではないが、ペダリングの上死点で踏み込むような意識を多少なりとも持つ方が、特に高負荷域で推進力を得やすかった記憶だった。しかし新型の方はそれをさして意識せずとも、いい意味で〝ルーズ〟に踏むことができて、上死点から下死点へと脚がより自然に落ちていく。それはCFRでも得られるので、この感覚は新型Aeroadの一つの特性なのだろう。ナチュラルさを増したSLXのペダリングフィールは、ピュアレーサーにとってはレース後半でも脚を温存しやすいし、筆者のようなノンレースのホビーサイクリストであっても扱いやすさが増している。故に高速域での巡航性能、中速域から高速への加速性能という、Aeroadの走りがもっと輝くであろう領域を、より攻撃的に、そして心地よく体験できるようになった印象を受ける。

速さを後押しする安定性・快適性の向上

安定感が高まったことで、極端なフレアハンドルでも直進安定性が良い。安心して乗れるバイクだと感じる photo:So Isobe

さらにダンシングでバイクを振った際、突っ張るような挙動を示さずバイクが自然に倒れ込んでくれるのも、スムーズにしてシャープな加速感を促してくれる。特にAeroadのように極端なフレアセッティングができるハンドル形状を装備すると、どうしてもダンシング(ブラケットを握った際)でバイクの挙動が乱れやすい面もある。そこで突っ張るような感覚が強いバイクだと、ダンシングのスムーズさを失い失速しやすくなる。もちろんノーマルのハンドルとは異なるクイックな操作感に慣れる必要があるとはいえ、SLXはフロントまわりが必要以上に固くない、さらにフレーム全体の剛性が適切なためなのか、極端なフレアハンドルのセッティングでも筆者が想像しているよりもずっと扱いやすい印象を受けた。
 
ナチュラルなハンドリングもそうだが、扱いやすさという点においても旧型よりも進歩しているように思う。突き上げ感はマイルドになり、荒れた路面で跳ねにくくなり、走りの安定感が増している。恐らく刷新されたフレーム形状によりシートステーとシートチューブの前後幅が抑えられたこと、さらにはカーボンレイアップが見直されたことによる100g以上の軽量化が功を奏して、フレーム全体で路面からの不快な振動を、今まで以上にきれいに散らせるようになったのだろう。

ロードバイクのロマンである速さを、自然と求めたくなるバイク photo:So Isobe

こうした安定性や快適性の向上は、CFRでも得られる感覚なので、恐らくキャニオンも意図して目指したものなのだろう。最新のレースバイクは前乗りで走らせる方が推進力を発揮しやすい。その一方、前荷重となることでバイクの安定性が損なわれやすくなる面もある。もちろん太幅タイヤや空気圧を低くできるチューブレスレディタイヤで補完している面もあるが、やはりフレーム側で振動吸収して路面追従性を高めることも重要である。Aeroadおよび新型SLXは、前乗りと加速性能、そして安定性というバランスがうまく取られており、それがAeroadの目指す〝速さ〟を絶妙に後押ししていると言えるだろう。

プロライダーをも納得させるであろう一線級の走り

別日には上級グレードの完成車も試乗。どんなホイールにも合う素性の良さを体感した photo:Naoki Yasuoka

周知の通り、AeroadにはCFRというフラッグシップがあり、筆者もさることながら、特にSLXの購入を考えるサイクリストにとって両者の性能差は、どうしても気になるものである。今回は同時に3モデル(新旧CFRと新型SLX)を乗り比べたわけだが、当然ながらCFRとSLXには明確に走りの違いがある。それは乗り比べれば誰もが分かるはずだ。特に顕著な差として感じられるのは、新型CFRが最も進化したとも言える中低速域の加速性能と登坂性能であり、CFRの方がシャープさは際立っている。そのフィーリングは、上下グレードでホイールやコンポ同一ではないものの、明らかにフレームとしての違いから生まれてくるものである(フレームセットの重量差は103g)。さらに言えば、巡航域の走りでも、やはりCFRはペダリングフィールやバイクの動きに軽やかさがある。さすがに50万円以上の価格差だけのことはある。

今回、新型CFRの試乗の過程において、旧型CFRと新型SLXの乗り比べもできたのだが、新型SLXはコンポとホイールのグレードが低いにもかかわらず、新型CFR程の性能差を感じにくかった。新型と同じく加速感にやや旧型CFRに歩があるとは言え、巡航域の走りは肉薄しているというのが正直な感想である。ちなみに両者のフレームセットの重量差は41gでしかなく、パーツ類の重量差等を考えれば、恐らくSLXの性能はかなり肉薄しているのではないかと想像する。

先のキャニオンのプロダクトマネージャーの言葉を借りればマチュー・ファンデルプールをはじめアルペシンの選手達は、旧型のCFRの性能にかなり満足しており、今回のAeroadのモデルチェンジが前作の基本コンセプトを踏襲した理由はそこにある。であれば旧型ではあるとはいえ、CFRへと相当に肉薄する今回のSLXの走行性能というのは、やはり一線級にあると言っていいはずだ。

もちろんそんな比較をせずとも、SLXの走りは最新エアロロードのカテゴリーにおいて上位に位置するトータルバランスを持っている。そしてペダルを踏めば、新型Aeroadのキャッチフレーズである「Speed Dreams」という、ロードバイクのロマンである〝速さ〟を自然と求めたくなるはずである。

ホビーサイクリストにとって等身大となるエアロロード

幅を調節でき、フレアドロップが追加されたハンドルはホビーサイクリストがエアロロードを買う意欲を押してくれる photo:So Isobe

新型Aeroadの進化は動的性能もそうだが、もう一つの柱としてユーザビリティの向上が挙げられる。ドロップが交換しやすくなったエアロコックピット、耐久性が向上したヘッドシステム、落車時の耐衝撃性を高めたカーボンレイアップ、そしてトルクスレンチに統一した調整ボルト類など、それらはプロチームにとって有益なのはもちろんのことだが、実は1台のバイクを数年単位で乗り続けるわれわれホビーサイクリストこそ享受できるメリットは大きいと言えるだろう。

また、筆者の個人的な話で恐縮だが、ステム一体型のエアロハンドルを搭載したエアロロードの購入を思い留まるのは、メーカーが用意するステムの突き出し寸法とハンドル幅が合わないという理由がある。多くの日本人の場合、海外メーカーの完成車では、フレームサイズに対してハンドル幅が広すぎるという問題がある。トラディショナルなハンドルセットならハンドルバーの幅を交換すれば出費を抑えられるが、一体型ハンドルの場合は下手をすると10万円近くかかってしまう。そうした事情を考えると安易に最先端のエアロロードに踏み切れない。したがってハンドル幅を調節できて、新たにフレアタイプのドロップ形状が追加されたキャニオンのエアロコックピットは、ホビーサイクリストにとってメリットしかない。

「Aeroad SLXは、ホビーサイクリストに最適なエアロロードの一つ」 photo:So Isobe

Aeroad CF SLXは、その抑えられた価格(SLX7なら50万円台!)、プロモデルに迫る高いライドパフォーマンス、そして優れたユーザビリティーが絶妙なバランスで成り立っている。コスパという言葉を安直に使いたくはないが、冷静になって考えれば考えるほどに、われわれホビーサイクリストにとって最適なエアロロードの一つとして最右翼となるのは間違いない。Aeroad CF SLXは〝僕たちのエアロロード〟と言えるだろう。

テスト:吉本司(よしもと つかさ)
フリーの自転車ジャーナリスト。40年におよぶ自転車歴において数々のカテゴリーのバイクに乗り、多様な楽しみ方を経験。その豊富なキャリアから、機材、競技、市場動向に至るまで、スポーツバイクシーンに幅広い見解を持つ。キャニオンは日本で販売が始まる以前の2007年に購入して以来、5台を乗り継ぐ。同社のプロダクツの変遷をつぶさに見てきた。

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