2024/10/20(日) - 17:00
秋晴れの宇都宮森林公園特設コースで繰り広げられた全力勝負。古賀志林道で抜け出した5名による心理戦を制したのは「スプリントに自信があった」と振り返るニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)。来日した家族の前で2022年に続くジャパンカップ2勝目を掴み取った。
穏やかな秋晴れのシーズン最終戦。1990年開催の世界選手権のメモリアルレースとして1992年に初開催された宇都宮ジャパンカップも今年で31回目を迎えた。1996年にはワールドカップシリーズ最終戦に組み込まれ、近年は欧州勢もこぞって一軍選手を揃えて参戦する伝統の戦いが、佐藤栄一市長による号砲で幕を開けた。
宇都宮森林公園の特設コースは風こそ冷たいものの、基本的には穏やかな晴れ時々曇り。名勝負を生み出してきた古賀志林道(釣堀〜頂上間1.14km/平均勾配8.4%)を含む1周回10.3kmのコースを合計14周する144.2kmで、獲得標高は2,660m(1周回当たりの獲得標高は190m)に及ぶ。この日はスタート直後からビッグネームが動きを見せた。
「かなり体調が悪かったので、成績狙いではなく逃げに乗る作戦だったんです」と言う入部正太朗(シマノレーシング)が1周目の古賀志林道を先頭付近で越え、頂上通過後のダウンヒルではアンドレア・パスクァロン(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)が飛ばしに飛ばす。「あまりにも速くて必死にしがみついた」と入部が振り返る超速ダウンヒルによって、すぐ25秒ほどのタイム差が生まれた。
パスクァロンと入部に続いたのはサイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー)とゲオルグ・シュタインハウザー(ドイツ、EFエデュケーション・イージーポスト)、山本大喜(JCLチーム右京)、そしてハミッシュ・ビードル(ニュージーランド、ノボ ノルディスク)。元全日本王者2名が含まれた5名逃げをメイン集団は一時的に見送った。
押しも押されぬ世界屈指のクライマーであるイェーツと、22歳ながら今年のジロ・デ・イタリアの頂上フィニッシュを制したシュタインハウザーが刻む快速ヒルクライム。2周目の古賀志林道で入部とビードルが千切れ、4名となった逃げグループに対し、リドル・トレックが45秒というタイトギャップでメイン集団をコントロールした。
一発ジャンプが可能な距離だけに、4周目に入ってメイン集団からクリテ覇者トムス・スクインシュ(ラトビア、リドル・トレック)を含むアタックが続いた。次々と選手たちが先行して逃げグループを捉え、小石祐馬(JCLチーム右京)たちが動いた末にアントニー・ペレス(フランス、コフィディス)の一人逃げに切り替わる。入部と共に最後尾をひた走っていた畑中勇介(キナンレーシングチーム)はファンの声援に応えながら残り11周回でレースから離脱。欧州挑戦や全日本タイトル獲得、ジャパンカップ5位を含む長い現役生活に終止符を打っている。
単独逃げたペレスは6周目の山岳賞を獲ったのちに引き戻され、優勝候補に挙げられていたマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)もレースから離脱。激しく動くメイン集団からはスーダル・クイックステップのイラン・ファンウィルデルとマウリ・ファンセヴェナント、ピーター・セリー(ベルギー)、昨日10月19日に30歳の誕生日を迎えたマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)が抜け出す場面もあったが、やはりメイン集団を振り切ることは叶わない。ワールドチーム勢が主導するアタックと追走、吸収、そして牽制を続けるメイン集団からは、アシスト役を担った新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)らもこぼれていった。
残り6周回突入時点で逃げはなく、メイン集団に残ったのは45人。下りの名手マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)によるダウンヒルアタックも功を奏さず、一時的にカウンターで小石や留目夕陽(EFエデュケーション)や石上優大(愛三工業レーシングチーム)が含まれた逃げが先行したものの、マイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック)の無線指示を受けたブレイディ・ギルモア(ニュージーランド)が古賀志林道でキャッチ。ウッズのカウンターアタックも決定打に欠け、人数を減らしたのみに留まった。
大きな動きが生まれたのは11周目(残り4周)の古賀志林道だった。前日クリテで好調ぶりを伺わせていたニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)のアタックにウッズが反応し、登りで遅れたモホリッチとスーダルのファンウィルデルとファンセヴェナントがダウンヒルで合流した。
好調パウレスと、登坂を得意とするウッズ、スーダルのファンウィルデルとファンセヴェナントにモホリッチ。優勝候補に挙げられる実力者ばかりの5名グループが、必死に追走するアクセル・ジングレ(フランス、コフィディス)やスクインシュを振り切って巡航。淡々とローテーションを回す5名は残り3周、残り2周の古賀志林道も無難にこなして最終周回へ。
最終周回の古賀志序盤。ウッズとパウレスがアタックとハイペースを刻んでモホリッチとファンウィルデルを振り落としたものの、モホリッチが得意の下りで合流し、ファンセヴェナントが「チームメイト待ち」でローテーションを拒みペースダウンしたことで田野町交差点通過後にファンウィルデルも合流&アタック。吸収とウッズのカウンターを経て5名は牽制状態に陥った。
勝負はゴールスプリントへと持ち込まれるかと思われたが、ラスト1kmを切ってファンセヴェナントがアタック。これを好機として掴んだのはパウレスだった。
「スプリントには自信があったけど、スーダルは2人いたし状況的に難しかったんだ。ファンセヴェナントの加速はタイミング的にも完璧で、彼のドラフティングを使って捕まえて、残り300mからスプリントしたんだ。長い距離だったけど脚にはまだ力があった」と言うパウレスが、後続を振り切ってガッツポーズ。心理戦を経て2022年に続くジャパンカップ2勝目を掴み取った。
秋のグランピエモンテで43km独走勝利を掴み、イル・ロンバルディアで8位に入った好調そのまま宇都宮に乗り込んだパウレスの勝利。「ジャパンカップは大好きなレース。今回は家族と一緒に戻ってくることができて良かった。もちろん(まだ小さな)子供は今日のことを覚えていないと思うけど、妻と子供と3人で撮った写真はずっと残るんだ。とても嬉しいよ」と、フィニッシュ後に呼び寄せた家族と共にインタビューに答えた。
最後にアタックしたファンウィルデルが2位に入り、ウッズをスプリントで下したモホリッチが3位表彰台獲得。積極的に登坂アタックを繰り返したウッズは悔しい4位だった。
海外勢による全力勝負が繰り広げられた結果、完走したのは54名。積極的なアシストが目立ったルーカス・ネウルカー(イギリス、EFエデュケーション・イージーポスト)がU23最上位、14位でフィニッシュした愛三工業レーシングチームの岡本隼がベストアジアンライダー賞を受賞している。
選手たちのコメントは別記事をお待ち下さい。
穏やかな秋晴れのシーズン最終戦。1990年開催の世界選手権のメモリアルレースとして1992年に初開催された宇都宮ジャパンカップも今年で31回目を迎えた。1996年にはワールドカップシリーズ最終戦に組み込まれ、近年は欧州勢もこぞって一軍選手を揃えて参戦する伝統の戦いが、佐藤栄一市長による号砲で幕を開けた。
宇都宮森林公園の特設コースは風こそ冷たいものの、基本的には穏やかな晴れ時々曇り。名勝負を生み出してきた古賀志林道(釣堀〜頂上間1.14km/平均勾配8.4%)を含む1周回10.3kmのコースを合計14周する144.2kmで、獲得標高は2,660m(1周回当たりの獲得標高は190m)に及ぶ。この日はスタート直後からビッグネームが動きを見せた。
「かなり体調が悪かったので、成績狙いではなく逃げに乗る作戦だったんです」と言う入部正太朗(シマノレーシング)が1周目の古賀志林道を先頭付近で越え、頂上通過後のダウンヒルではアンドレア・パスクァロン(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)が飛ばしに飛ばす。「あまりにも速くて必死にしがみついた」と入部が振り返る超速ダウンヒルによって、すぐ25秒ほどのタイム差が生まれた。
パスクァロンと入部に続いたのはサイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー)とゲオルグ・シュタインハウザー(ドイツ、EFエデュケーション・イージーポスト)、山本大喜(JCLチーム右京)、そしてハミッシュ・ビードル(ニュージーランド、ノボ ノルディスク)。元全日本王者2名が含まれた5名逃げをメイン集団は一時的に見送った。
押しも押されぬ世界屈指のクライマーであるイェーツと、22歳ながら今年のジロ・デ・イタリアの頂上フィニッシュを制したシュタインハウザーが刻む快速ヒルクライム。2周目の古賀志林道で入部とビードルが千切れ、4名となった逃げグループに対し、リドル・トレックが45秒というタイトギャップでメイン集団をコントロールした。
一発ジャンプが可能な距離だけに、4周目に入ってメイン集団からクリテ覇者トムス・スクインシュ(ラトビア、リドル・トレック)を含むアタックが続いた。次々と選手たちが先行して逃げグループを捉え、小石祐馬(JCLチーム右京)たちが動いた末にアントニー・ペレス(フランス、コフィディス)の一人逃げに切り替わる。入部と共に最後尾をひた走っていた畑中勇介(キナンレーシングチーム)はファンの声援に応えながら残り11周回でレースから離脱。欧州挑戦や全日本タイトル獲得、ジャパンカップ5位を含む長い現役生活に終止符を打っている。
単独逃げたペレスは6周目の山岳賞を獲ったのちに引き戻され、優勝候補に挙げられていたマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)もレースから離脱。激しく動くメイン集団からはスーダル・クイックステップのイラン・ファンウィルデルとマウリ・ファンセヴェナント、ピーター・セリー(ベルギー)、昨日10月19日に30歳の誕生日を迎えたマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)が抜け出す場面もあったが、やはりメイン集団を振り切ることは叶わない。ワールドチーム勢が主導するアタックと追走、吸収、そして牽制を続けるメイン集団からは、アシスト役を担った新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)らもこぼれていった。
残り6周回突入時点で逃げはなく、メイン集団に残ったのは45人。下りの名手マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)によるダウンヒルアタックも功を奏さず、一時的にカウンターで小石や留目夕陽(EFエデュケーション)や石上優大(愛三工業レーシングチーム)が含まれた逃げが先行したものの、マイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック)の無線指示を受けたブレイディ・ギルモア(ニュージーランド)が古賀志林道でキャッチ。ウッズのカウンターアタックも決定打に欠け、人数を減らしたのみに留まった。
大きな動きが生まれたのは11周目(残り4周)の古賀志林道だった。前日クリテで好調ぶりを伺わせていたニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)のアタックにウッズが反応し、登りで遅れたモホリッチとスーダルのファンウィルデルとファンセヴェナントがダウンヒルで合流した。
好調パウレスと、登坂を得意とするウッズ、スーダルのファンウィルデルとファンセヴェナントにモホリッチ。優勝候補に挙げられる実力者ばかりの5名グループが、必死に追走するアクセル・ジングレ(フランス、コフィディス)やスクインシュを振り切って巡航。淡々とローテーションを回す5名は残り3周、残り2周の古賀志林道も無難にこなして最終周回へ。
最終周回の古賀志序盤。ウッズとパウレスがアタックとハイペースを刻んでモホリッチとファンウィルデルを振り落としたものの、モホリッチが得意の下りで合流し、ファンセヴェナントが「チームメイト待ち」でローテーションを拒みペースダウンしたことで田野町交差点通過後にファンウィルデルも合流&アタック。吸収とウッズのカウンターを経て5名は牽制状態に陥った。
勝負はゴールスプリントへと持ち込まれるかと思われたが、ラスト1kmを切ってファンセヴェナントがアタック。これを好機として掴んだのはパウレスだった。
「スプリントには自信があったけど、スーダルは2人いたし状況的に難しかったんだ。ファンセヴェナントの加速はタイミング的にも完璧で、彼のドラフティングを使って捕まえて、残り300mからスプリントしたんだ。長い距離だったけど脚にはまだ力があった」と言うパウレスが、後続を振り切ってガッツポーズ。心理戦を経て2022年に続くジャパンカップ2勝目を掴み取った。
秋のグランピエモンテで43km独走勝利を掴み、イル・ロンバルディアで8位に入った好調そのまま宇都宮に乗り込んだパウレスの勝利。「ジャパンカップは大好きなレース。今回は家族と一緒に戻ってくることができて良かった。もちろん(まだ小さな)子供は今日のことを覚えていないと思うけど、妻と子供と3人で撮った写真はずっと残るんだ。とても嬉しいよ」と、フィニッシュ後に呼び寄せた家族と共にインタビューに答えた。
最後にアタックしたファンウィルデルが2位に入り、ウッズをスプリントで下したモホリッチが3位表彰台獲得。積極的に登坂アタックを繰り返したウッズは悔しい4位だった。
海外勢による全力勝負が繰り広げられた結果、完走したのは54名。積極的なアシストが目立ったルーカス・ネウルカー(イギリス、EFエデュケーション・イージーポスト)がU23最上位、14位でフィニッシュした愛三工業レーシングチームの岡本隼がベストアジアンライダー賞を受賞している。
選手たちのコメントは別記事をお待ち下さい。
ジャパンカップ2024 結果
1位 | ニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) | 3:30:30 |
2位 | イラン・ファンウィルデル(ベルギー、スーダル・クイックステップ) | |
3位 | マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) | |
4位 | マイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック) | |
5位 | マウリ・ファンセヴェナント(ベルギー、スーダル・クイックステップ) | +0:04 |
6位 | ジュリアン・ベルナール(フランス、リドル・トレック) | +4:16 |
7位 | アクセル・ジングレ(フランス、コフィディス) | +4:26 |
8位 | トムス・スクインシュ(ラトビア、リドル・トレック) | +4:35 |
9位 | ルーカス・ネウルカー(イギリス、EFエデュケーション・イージーポスト) | |
10位 | エドアルド・ザンバニーニ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) |
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