2024/10/16(水) - 15:33
北海道ニセコに世界クラスの公共トレイルネットワーク、ツインピークス・バイクパークがオープンしてから1年。新たに完成するトレイルを祝い、試乗会を兼ねたイベントが9月27〜29日に開催された。招待ライダーに井本はじめと九島勇気選手が名を連ね、彼らと一緒に走れるだけでなく女性ライダーを対象にしたグループライドも行われた。
主催はNPO法人ニセコエリア・マウンテンバイク協会(以下NAMBA)とサンタクルズの輸入代理店であるウィンクレル。同社が命名権を購入し、今回一部オープンしたトレイルの名は「クルーズ・コントロール(Cruz Control)」で、サンタクルズ(SantaCruz)のブランド名をもじった形だ。その名が示すトレイルとは果たしてどんなものか? 昨年のツインピークス・バイクパーク オープン時のレポートに続き、今回もプロMTBライダー・西脇仁哉が現地の様子を紹介する。
1年ぶりに訪れたツインピークス・バイクパーク。この期間で約3.2kmのトレイルが完成していた。先述のクルーズ・コントロール、滝トレイル、滝テック、チョンマゲ・リンクの4本である。オープニングイベント初日は国内販売店やフィリピンと韓国の代理店関係者が参加。2日目以降は地元住民をメインに一般ライダーが集まった。
まずはツインピークスの麓から頂上まで、自走で30分弱の上りが待ち構えるが、今回は強力な相棒をゲットした。ウィンクレルが国内導入を決定したE-MTBのHeckler(ヘックラー)だ。
お馴染みのVPPフレームはリア150mmストロークを備え、シマノ製EP801モーターと720Whのバッテリーを搭載。モードはブースト、トレイル、エコ、ウォーク(歩行アシスト)の4種類で、最大で600Wの出力と85Nmものトルクを発揮する。
この強烈なパワーに物を言わせ、5kg以上のカメラバッグを背負った状態でも息を乱すことなく、スルスルと上っていけた。E-MTBをトレイルで乗るのは初めてだったが、上りで風を切り、かつスイッチバックの法面をバームに見立てて曲がっていける感覚は実に新鮮。あまりにもペダリングの負荷が少ないため、まるで大画面でゲームを楽しんでいるかのようだった。
肝心のバッテリーの減り具合だが、ブーストとトレイルモードで約45kmを走り、40%ほど残す結果となった。ツインピークスを3回と、隣接する東急グラン・ヒラフの急な作業道を上って同スキー場のMTBコースを下ったことを考えれば、十分長持ちと言える。
なお、Hecklerは日本国内のE-BIKE関連の法規に適合しないアメリカ仕様であるため、走行フィールドはMTB専用トレイルなどに限られ、一般公道は走行できない。購入を検討する際は注意が必要である。
上りを軽快に走っていてふと気づく。路面の荒れ具合が去年から変わっておらず、スムーズなままなのだ。これはツインピークスがウェットコンディションでパーク全体をクローズするのと、専任のトレイルビルダーによる雨水に配慮した設計やこまめな補修の賜物だろう。
あっという間に頂上に着き、お待ちかねの新トレイル「クルーズ・コントロール」へと向かった。新たに建てられたトレイルサインの先では、切り拓かれた深い熊笹の中に、細かなコブとともにバームが右へ左へと延びていた。
地形を巧みに利用したこのトレイルは、無理なブレーキングをライダーに強いることなく、起伏によって自然と減速を生じさせる。ライダーはコブでプッシュの強弱を調整して速度を加減するだけでいい。ブレーキング操作のストレスが減り、バームに吸い込まれるかのように身体ごとバイクを預ける感覚がやみつきになった。
「ライダーが意識しなくても、バームが待っていてくれる」とは、全日本DHチャンプ・井本はじめ選手の言葉。トレイルがライダーの速度を地形で制御し、ライダーをステアリング操作に専念させると考えれば、本来、自動車の運転支援機能を意味するクルーズ・コントロールという名前にも頷ける。
肝心のHecklerの下り性能はというと、フロント29インチ、リア27.5インチのマレット仕様も相まって、細かなターンの続くツインピークスでも走りは軽快そのもの。絶対的な重さは感じつつも、コブとコブをマニュアルやジャンプでつなげるのに特別な苦労はなかった。また、ロックセクションでは約22.4kgの車重が安定性を高めているようにも感じられた。バイクパーク以外に、ツインピークスのような上りも下りも揃ったフィールドでは頼もしい相棒になるだろう。
現段階では1.1kmのみがオープンしているクルーズ・コントロール。全長2.8kmのうち、残り1.7kmの完成を来シーズンに控えている。今回の取材時はこの未開通区間を担当するプロトレイルビルダーのトム・マレットさん案内のもと、着工済みの区間も走ることができた。
オーストラリアの首都キャンベラ出身のトムさんは、ツインピークスのトレイル造成を監修するスイス・アレグラ社と雇用契約を結び、ニセコを訪れた。プロトレイルビルダー歴は9年で、うち5年は重機オペレーターだという。オーストラリアを拠点に世界各地のトレイルビルドに携わり、同国ニューサウスウェールズ州ナルーマで1年に及ぶ公共トレイルの造成にも携わってきた。最近では、タスマニア島のメイデナ・バイクパークで行われたレッドブル・ハードラインの一部コースも手掛けたばかり。そんな筋金入りのビルダーであるトムさんに、ニセコでの作業について話を聞いた。
「このようなプロジェクトを始めるには時間がかかりますが、このペースで開発を進めてこられたのは大勢が一丸となった結果でしょう。ビルド自体はプロジェクトの最終局面であり、それまでの土地利用の交渉や資金集めが大変だからです。ツインピークスは笹薮が深く、麓にかけて岩が多く出る山なので、造成は大変でした」。
日本ならではのトレイル造成に関する厳格な法規制に馴染みがないトムさんは、道幅を1m未満とする規制に悩まされた様子だ。
「これにはバーム脇などに草を植えたり削り出した表土を戻したりして対応しています。裏を返せば、地形に溶け込み、景観の良いトレイル作りが求められるということ。オープン済みの区間を参考に、自分なりの味付けができたと思います。現地の日本人ビルダーたちのスキルの高さには驚かされたと同時に、自身の経験やスキルを伝えられる良い機会になりました。シーズン終了の10月末までニセコに滞在しますが、来年以降もまたビルドをしに戻りたいです」。
トムさんと一緒にビルドを行った金子大作さんにも話を伺った。グローバルチームに所属してワールドカップDHを転戦した経歴を持つ金子さん。現在はウィンクレルからサポートを受け、札幌市のばんけいスキー場でMTBコースビルダーとして活躍中だ。なお、同スキー場のMTBコースは残念ながら、今年11月をもって閉鎖が決まっている。
「週に数回、滝トレイルとクルーズ・コントロールの造成や既存ルートの修繕に携わりました。ばんけいスキー場では一人でビルドをしてきたため、その答え合わせをする形になりました。トムさんをはじめ、一流ビルダーの作業の様子を見るのはとても勉強になり、路面だけでなく景色も含めてデザインし、仕上げる必要性を学びました。テープやロープでルートを仕切るのは簡単ですが、MTBは自然の中で遊ぶもの。自然のアイテムを使ってルートとそれ以外を分けるのが重要だと思います。結果的に今までやってきたことは間違いではなく、今回の参加でより洗練されました。また、ビルダーたちからはMTBが好きなのが伝わり、作業が楽しかったです」。
特にテープなどによるルートの仕切りについては筆者も同意する。ツインピークスのトレイルにはテープなどが一切使われておらず、あるのはトレイルサインだけ。ルート外は造成されていないので走行が事実上不可能であるのに加え、人工物がないため景観が良いのだ。海外のコースやトレイルを数多く走ってきた井本はじめ選手と九島勇気選手の言葉も紹介しよう。まずは井本選手から。
「日本のトレイルやコースは、こうあるべきと認識しつつも形になってないものが多いなか、ツインピークスはわずか数年でしっかりと造られています。トレイルビルドは国内でも盛んですが、ツインピークスのトレイルは雨水の流れや地形や走行速度などをバランスよく仕上げた本場の芸術作品。しかも無料で利用でき、皆が未来に投資をしているのがいいですね。クルーズ・コントロールはバームの角度がすばらしく、どのレベルのライダーが走っても気持ちいいと感じられるはずです。北海道民以外にもぜひ来てほしいですね。バイクを買う代わりにツインピークスへの旅費に回す価値は十分にあります」。
次は九島勇気選手。去年のオープニングイベントでは手の怪我により乗れなかったが、今年は存分に楽しめたようだ。「想像以上にトレイルが広がっていて、気持ちいいフロートレイルがたくさんあり、海外のトレイルを走っている気分になれました。土質は日本特有のものですが、コーナーなどトレイルのクオリティは海外と比べても遜色がありません。E-MTBは登りがとても快適でしたが、ペダルバイクでも急勾配を避けて地形の流れを汲み取れれば楽しく上れます。トムさん監修のクルーズ・コントロールの未開通区間は、綺麗な造りで楽しく、気に入りました」。
イベントに参加したライダー3名にも感想を聞いてみよう。札幌市在住のタケシさんは、今回が3回目のツインピークス訪問。「環境も含めて気に入っているので通っています。上りはやはりE-MTBが欲しかったです。頂上から中級トレイルを下りました。上りで体力をつけつつ、下りのスキルアップを目指したいです」。
同じく札幌市在住の坂口さんは今回が3回目の訪問だ。「去年から通い出しました。今日は滝トレイルとショーグン・シンジケートを下りました。自分のバイクで上るのは辛かったですが、一周だけ試乗したE-MTBは最高でした。北海道一楽しい環境だと思います」と、絶賛の様子。
やはり立地的な事情もあり、一般参加は札幌市在住のライダーが多いように感じられた。そんな中、茨城県からこのイベントのためにニセコまで駆けつけたライダーもいる。バイクショップ・フォルツァに勤務する風間さんだ。
「来年以降に数泊のショップツアーを予定していて、その視察も兼ねてツインピークスを初めて訪れました。フロートレイルもテクニカルトレイルも想像以上の完成度でした。上りは辛いだけで、あっという間に下りてきてしまうのではなく、上った以上に下りが長く感じられ、周回を前提としたレイアウトが良かったです。上りトレイルにも上下の動きがあったりバームを使って曲がったりでき、楽しんでいるうちに頂上に着いていました。フルに楽しむならE-MTBがいいでしょう。グリーンシーズンの集客に対する本気度やNAMBAメンバーの団結力を感じられました。理想のトレイルネットワーク像を数年で完成させ、ビルダーという仕事が収入面含めて成り立っているのもすごいですね」。
現時点で週末をフルに費やして遊べる内容にまでエリアを拡大したツインピークス。今年オープン予定の5.4kmのうち、クルーズ・コントロールの未開通区間と、東急グラン・ヒラフのMTBパークと接続するチョンマゲ・リンクの完成が待たれる。これらが完成すると、ツインピークスを上って、東急のMTBパークを下って来られるようになり、その逆も然り。
同MTBパークの使用料は無料で、リフト料金のみが発生する。NAMBA共同設立者で副会長のロス・カーティーさん曰く、MTBも利用できるようにするとのこと。さらには、2026あるいは27年完成予定の東急ゴンドラは10人乗りの巨大なものになり、MTBにも対応するという。同氏にツインピークスの展望について伺った。
「ツインピークスの北に隣接するHANAZONOリゾートとも繋げようと、倶知安町に計画書を提出する予定です。全スキーリゾート対応のリフトパスを用意し、アクセス性を向上させつつ、各エリアにMTBパークを作り、地域全体を回れるようにしたいです」。
同じく同団体副会長を務める木村俊一さんにも今後の見通しを聞いてみた。「チョンマゲ・リンクの開発では、川に架ける橋の許可を取るのが大変でしたが、倶知安町は許認可に対して協力的な姿勢を見せています。東急グラン・ヒラフ、HANAZONOリゾート、アンヌプリ国際スキー場をウインターシーズンのように行き来できるようにしたいと思っており、これは将来的に実現できそうです」。
両氏とも、ウインターシーズンに迫る壮大な開発計画を抱いている。なお、来年は4,300万円の建設費を集め、上りトレイルやジャンプトレイルなど、さらに8.1kmのトレイル造成を計画する予定。完成すると、ツインピークスのトレイル総延長は27.7kmになる。
高級リゾート地として知られるニセコだが、数人集めればグリーンシーズンでも比較的安く滞在できる宿も多い。今や宿泊地にマイバイクを送るサービスもあるので、移動の手間もグンと減らせる。海外のMTBフィールドへ行くとなると、仕事を休む期間、予算、言語などハードルが高いが、国内で海外レベルのトレイルを数日もあれば楽しめるとしたらどうだろうか? 単純に走りに訪れるのはもちろん、トレイルデザインを学ぶのにもおすすめである。来年の雪解けまでに、ツインピークスへの遠征をぜひ計画してみてもらいたい。
photo&report:西脇仁哉(にしわき じんや)
1986年生まれ。小学生の頃からMTBを始め、大学卒業後にカナダ・ウィスラーで4シーズンにわたりMTB修行を積む。国内外のMTB雑誌やウェブサイトで取り上げられ、数々の写真や動画作品を制作。帰国後はフリーの翻訳家とフォトグラファーとして働き、海外の撮影クルーのアテンドも経験。
instagram @jingypsy
取材協力:ウィンクレル
主催はNPO法人ニセコエリア・マウンテンバイク協会(以下NAMBA)とサンタクルズの輸入代理店であるウィンクレル。同社が命名権を購入し、今回一部オープンしたトレイルの名は「クルーズ・コントロール(Cruz Control)」で、サンタクルズ(SantaCruz)のブランド名をもじった形だ。その名が示すトレイルとは果たしてどんなものか? 昨年のツインピークス・バイクパーク オープン時のレポートに続き、今回もプロMTBライダー・西脇仁哉が現地の様子を紹介する。
1年ぶりに訪れたツインピークス・バイクパーク。この期間で約3.2kmのトレイルが完成していた。先述のクルーズ・コントロール、滝トレイル、滝テック、チョンマゲ・リンクの4本である。オープニングイベント初日は国内販売店やフィリピンと韓国の代理店関係者が参加。2日目以降は地元住民をメインに一般ライダーが集まった。
まずはツインピークスの麓から頂上まで、自走で30分弱の上りが待ち構えるが、今回は強力な相棒をゲットした。ウィンクレルが国内導入を決定したE-MTBのHeckler(ヘックラー)だ。
お馴染みのVPPフレームはリア150mmストロークを備え、シマノ製EP801モーターと720Whのバッテリーを搭載。モードはブースト、トレイル、エコ、ウォーク(歩行アシスト)の4種類で、最大で600Wの出力と85Nmものトルクを発揮する。
この強烈なパワーに物を言わせ、5kg以上のカメラバッグを背負った状態でも息を乱すことなく、スルスルと上っていけた。E-MTBをトレイルで乗るのは初めてだったが、上りで風を切り、かつスイッチバックの法面をバームに見立てて曲がっていける感覚は実に新鮮。あまりにもペダリングの負荷が少ないため、まるで大画面でゲームを楽しんでいるかのようだった。
肝心のバッテリーの減り具合だが、ブーストとトレイルモードで約45kmを走り、40%ほど残す結果となった。ツインピークスを3回と、隣接する東急グラン・ヒラフの急な作業道を上って同スキー場のMTBコースを下ったことを考えれば、十分長持ちと言える。
なお、Hecklerは日本国内のE-BIKE関連の法規に適合しないアメリカ仕様であるため、走行フィールドはMTB専用トレイルなどに限られ、一般公道は走行できない。購入を検討する際は注意が必要である。
上りを軽快に走っていてふと気づく。路面の荒れ具合が去年から変わっておらず、スムーズなままなのだ。これはツインピークスがウェットコンディションでパーク全体をクローズするのと、専任のトレイルビルダーによる雨水に配慮した設計やこまめな補修の賜物だろう。
あっという間に頂上に着き、お待ちかねの新トレイル「クルーズ・コントロール」へと向かった。新たに建てられたトレイルサインの先では、切り拓かれた深い熊笹の中に、細かなコブとともにバームが右へ左へと延びていた。
地形を巧みに利用したこのトレイルは、無理なブレーキングをライダーに強いることなく、起伏によって自然と減速を生じさせる。ライダーはコブでプッシュの強弱を調整して速度を加減するだけでいい。ブレーキング操作のストレスが減り、バームに吸い込まれるかのように身体ごとバイクを預ける感覚がやみつきになった。
「ライダーが意識しなくても、バームが待っていてくれる」とは、全日本DHチャンプ・井本はじめ選手の言葉。トレイルがライダーの速度を地形で制御し、ライダーをステアリング操作に専念させると考えれば、本来、自動車の運転支援機能を意味するクルーズ・コントロールという名前にも頷ける。
肝心のHecklerの下り性能はというと、フロント29インチ、リア27.5インチのマレット仕様も相まって、細かなターンの続くツインピークスでも走りは軽快そのもの。絶対的な重さは感じつつも、コブとコブをマニュアルやジャンプでつなげるのに特別な苦労はなかった。また、ロックセクションでは約22.4kgの車重が安定性を高めているようにも感じられた。バイクパーク以外に、ツインピークスのような上りも下りも揃ったフィールドでは頼もしい相棒になるだろう。
現段階では1.1kmのみがオープンしているクルーズ・コントロール。全長2.8kmのうち、残り1.7kmの完成を来シーズンに控えている。今回の取材時はこの未開通区間を担当するプロトレイルビルダーのトム・マレットさん案内のもと、着工済みの区間も走ることができた。
オーストラリアの首都キャンベラ出身のトムさんは、ツインピークスのトレイル造成を監修するスイス・アレグラ社と雇用契約を結び、ニセコを訪れた。プロトレイルビルダー歴は9年で、うち5年は重機オペレーターだという。オーストラリアを拠点に世界各地のトレイルビルドに携わり、同国ニューサウスウェールズ州ナルーマで1年に及ぶ公共トレイルの造成にも携わってきた。最近では、タスマニア島のメイデナ・バイクパークで行われたレッドブル・ハードラインの一部コースも手掛けたばかり。そんな筋金入りのビルダーであるトムさんに、ニセコでの作業について話を聞いた。
「このようなプロジェクトを始めるには時間がかかりますが、このペースで開発を進めてこられたのは大勢が一丸となった結果でしょう。ビルド自体はプロジェクトの最終局面であり、それまでの土地利用の交渉や資金集めが大変だからです。ツインピークスは笹薮が深く、麓にかけて岩が多く出る山なので、造成は大変でした」。
日本ならではのトレイル造成に関する厳格な法規制に馴染みがないトムさんは、道幅を1m未満とする規制に悩まされた様子だ。
「これにはバーム脇などに草を植えたり削り出した表土を戻したりして対応しています。裏を返せば、地形に溶け込み、景観の良いトレイル作りが求められるということ。オープン済みの区間を参考に、自分なりの味付けができたと思います。現地の日本人ビルダーたちのスキルの高さには驚かされたと同時に、自身の経験やスキルを伝えられる良い機会になりました。シーズン終了の10月末までニセコに滞在しますが、来年以降もまたビルドをしに戻りたいです」。
トムさんと一緒にビルドを行った金子大作さんにも話を伺った。グローバルチームに所属してワールドカップDHを転戦した経歴を持つ金子さん。現在はウィンクレルからサポートを受け、札幌市のばんけいスキー場でMTBコースビルダーとして活躍中だ。なお、同スキー場のMTBコースは残念ながら、今年11月をもって閉鎖が決まっている。
「週に数回、滝トレイルとクルーズ・コントロールの造成や既存ルートの修繕に携わりました。ばんけいスキー場では一人でビルドをしてきたため、その答え合わせをする形になりました。トムさんをはじめ、一流ビルダーの作業の様子を見るのはとても勉強になり、路面だけでなく景色も含めてデザインし、仕上げる必要性を学びました。テープやロープでルートを仕切るのは簡単ですが、MTBは自然の中で遊ぶもの。自然のアイテムを使ってルートとそれ以外を分けるのが重要だと思います。結果的に今までやってきたことは間違いではなく、今回の参加でより洗練されました。また、ビルダーたちからはMTBが好きなのが伝わり、作業が楽しかったです」。
特にテープなどによるルートの仕切りについては筆者も同意する。ツインピークスのトレイルにはテープなどが一切使われておらず、あるのはトレイルサインだけ。ルート外は造成されていないので走行が事実上不可能であるのに加え、人工物がないため景観が良いのだ。海外のコースやトレイルを数多く走ってきた井本はじめ選手と九島勇気選手の言葉も紹介しよう。まずは井本選手から。
「日本のトレイルやコースは、こうあるべきと認識しつつも形になってないものが多いなか、ツインピークスはわずか数年でしっかりと造られています。トレイルビルドは国内でも盛んですが、ツインピークスのトレイルは雨水の流れや地形や走行速度などをバランスよく仕上げた本場の芸術作品。しかも無料で利用でき、皆が未来に投資をしているのがいいですね。クルーズ・コントロールはバームの角度がすばらしく、どのレベルのライダーが走っても気持ちいいと感じられるはずです。北海道民以外にもぜひ来てほしいですね。バイクを買う代わりにツインピークスへの旅費に回す価値は十分にあります」。
次は九島勇気選手。去年のオープニングイベントでは手の怪我により乗れなかったが、今年は存分に楽しめたようだ。「想像以上にトレイルが広がっていて、気持ちいいフロートレイルがたくさんあり、海外のトレイルを走っている気分になれました。土質は日本特有のものですが、コーナーなどトレイルのクオリティは海外と比べても遜色がありません。E-MTBは登りがとても快適でしたが、ペダルバイクでも急勾配を避けて地形の流れを汲み取れれば楽しく上れます。トムさん監修のクルーズ・コントロールの未開通区間は、綺麗な造りで楽しく、気に入りました」。
イベントに参加したライダー3名にも感想を聞いてみよう。札幌市在住のタケシさんは、今回が3回目のツインピークス訪問。「環境も含めて気に入っているので通っています。上りはやはりE-MTBが欲しかったです。頂上から中級トレイルを下りました。上りで体力をつけつつ、下りのスキルアップを目指したいです」。
同じく札幌市在住の坂口さんは今回が3回目の訪問だ。「去年から通い出しました。今日は滝トレイルとショーグン・シンジケートを下りました。自分のバイクで上るのは辛かったですが、一周だけ試乗したE-MTBは最高でした。北海道一楽しい環境だと思います」と、絶賛の様子。
やはり立地的な事情もあり、一般参加は札幌市在住のライダーが多いように感じられた。そんな中、茨城県からこのイベントのためにニセコまで駆けつけたライダーもいる。バイクショップ・フォルツァに勤務する風間さんだ。
「来年以降に数泊のショップツアーを予定していて、その視察も兼ねてツインピークスを初めて訪れました。フロートレイルもテクニカルトレイルも想像以上の完成度でした。上りは辛いだけで、あっという間に下りてきてしまうのではなく、上った以上に下りが長く感じられ、周回を前提としたレイアウトが良かったです。上りトレイルにも上下の動きがあったりバームを使って曲がったりでき、楽しんでいるうちに頂上に着いていました。フルに楽しむならE-MTBがいいでしょう。グリーンシーズンの集客に対する本気度やNAMBAメンバーの団結力を感じられました。理想のトレイルネットワーク像を数年で完成させ、ビルダーという仕事が収入面含めて成り立っているのもすごいですね」。
現時点で週末をフルに費やして遊べる内容にまでエリアを拡大したツインピークス。今年オープン予定の5.4kmのうち、クルーズ・コントロールの未開通区間と、東急グラン・ヒラフのMTBパークと接続するチョンマゲ・リンクの完成が待たれる。これらが完成すると、ツインピークスを上って、東急のMTBパークを下って来られるようになり、その逆も然り。
同MTBパークの使用料は無料で、リフト料金のみが発生する。NAMBA共同設立者で副会長のロス・カーティーさん曰く、MTBも利用できるようにするとのこと。さらには、2026あるいは27年完成予定の東急ゴンドラは10人乗りの巨大なものになり、MTBにも対応するという。同氏にツインピークスの展望について伺った。
「ツインピークスの北に隣接するHANAZONOリゾートとも繋げようと、倶知安町に計画書を提出する予定です。全スキーリゾート対応のリフトパスを用意し、アクセス性を向上させつつ、各エリアにMTBパークを作り、地域全体を回れるようにしたいです」。
同じく同団体副会長を務める木村俊一さんにも今後の見通しを聞いてみた。「チョンマゲ・リンクの開発では、川に架ける橋の許可を取るのが大変でしたが、倶知安町は許認可に対して協力的な姿勢を見せています。東急グラン・ヒラフ、HANAZONOリゾート、アンヌプリ国際スキー場をウインターシーズンのように行き来できるようにしたいと思っており、これは将来的に実現できそうです」。
両氏とも、ウインターシーズンに迫る壮大な開発計画を抱いている。なお、来年は4,300万円の建設費を集め、上りトレイルやジャンプトレイルなど、さらに8.1kmのトレイル造成を計画する予定。完成すると、ツインピークスのトレイル総延長は27.7kmになる。
高級リゾート地として知られるニセコだが、数人集めればグリーンシーズンでも比較的安く滞在できる宿も多い。今や宿泊地にマイバイクを送るサービスもあるので、移動の手間もグンと減らせる。海外のMTBフィールドへ行くとなると、仕事を休む期間、予算、言語などハードルが高いが、国内で海外レベルのトレイルを数日もあれば楽しめるとしたらどうだろうか? 単純に走りに訪れるのはもちろん、トレイルデザインを学ぶのにもおすすめである。来年の雪解けまでに、ツインピークスへの遠征をぜひ計画してみてもらいたい。
photo&report:西脇仁哉(にしわき じんや)
1986年生まれ。小学生の頃からMTBを始め、大学卒業後にカナダ・ウィスラーで4シーズンにわたりMTB修行を積む。国内外のMTB雑誌やウェブサイトで取り上げられ、数々の写真や動画作品を制作。帰国後はフリーの翻訳家とフォトグラファーとして働き、海外の撮影クルーのアテンドも経験。
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