2024/09/27(金) - 18:19
オランダに住み、シクロクロスとパラトライアスロン選手として活動してきた梶鉄輝が立ち上げたMTB/CX参戦プログラムが「オランダベース」だ。競技熱盛んなオランダを拠点に日本人選手を受け入れ、今年からはCXチームとしても活動するという。AJOCC(日本シクロクロス競技主催者協会)代表理事、影山善明さんによるインタビューで紹介したい。
シクロクロスファンの皆さま、こんにちは。AJOCC代表理事の影山善明です。
シーズン開幕が迫る8月16日、海外シクロクロス情報サイト「シクロクロス24」に、日本人選手が所属する新UCIシクロクロスチームが掲載されたことに、驚いた方も多いのではないでしょうか?
「Olanda Base/Watersley」
日本人選手とオランダ人選手が在籍?
Olanda Base?オランダベース?
Watersley?ウォーター・・・なんとか・・・なんて読むんだ?
このチームの関係者が私が住まう茨城にいました。古谷寛世(ふるやかんせい)さん。茨城や千葉のシクロクロスで大会スタッフとして尽力してくれた方です。
古谷さんは昨年から「オランダベース」を拠点に活動しています。この夏に帰国中だった古谷さんに今回のチーム発足とオランダベースでの活動について話を聞き、私は大きな興味と期待を感じました。
そこで、現地オランダに住み活動する、チーム発起のキーマンである梶鉄輝(かじてつき)選手にZoomを繋いでさらに深く話を聞くことに。最近耳にすることが増えてきた「オランダベース」についてとその理念、そしてチーム発足の経緯について話を聞くことにしました。
影山「梶さん、今日はお忙しいところありがとうございます。日本は夕方ですが、そちらはお昼どきですね。こんな時間にすみません。いろいろ伺わせてください。」
梶「こちらこそありがとうございます。今オランダはサマータイムなので、日本との時差はマイナス7時間。こちらは午前中になりますね。」
影山「私が梶さんを知ったのは、パラトライアスロンの選手として、そして海外でシクロクロスレースを走る日本人としてですが、この2つの側面がいまいちフィットしなくてずっと謎の人物だったんです。これまでの競技との関わりを教えていただけませんか?」
梶「これまでロード、トラック、MTB、そしてトライアスロンと、ほとんどの自転車競技に取り組んできました。人生初の自転車競技は小学生2年生の冬、カンクロ(関西シクロクロス)の日吉ですね。」
影山「おぉ、やっぱりシクロクロス。関西シクロクロスに歴史ありですね。」
梶「中学1年の時、ロードバイクでトレーニング中に車との事故に巻き込まれまして・・・。右肩から頭にかけて大きな怪我を負いました。そのとき肩の神経を切っているので、腕に十分な力が入らなくなっていて。イメージで言うと、3割から4割くらいの自由度と可動域です。今でも、右手の握力は10くらいしかないです。」
影山「えっ!そんなに低い?自転車持ち上げるのって・・・?」
梶「シクロクロスの担ぎはそれもあって逆降り(左腕で担ぐ)にしていますね。それでも自転車競技に復帰してからは、国体やインターハイに健常者として出場していました。」
影山「中学からロードに乗っていたのもスゴイし、そんな事故からの復帰もスゴイ。」
梶「ふと高校3年のときに、自分って障害あるけど、パラの種目に出たことないな・・・と気づきまして。もともとトライアスロンは年に数回は参戦していたので、日程の合うパラトライアスロンに参加してみたら、これがはまって。ちょうど東京(2021年東京オリンピック)の開催も決まっていて、周囲のすすめもあって、もしかしたらパラリンピックでメダルを目指せるのでは?可能性のある競技にかけてみては?ということで、高校を卒業してからはトライアスロンのアスリート社員として、JPF(日本写真判定)に入社して活動してきました。」
影山「それで夏はトライアスロン、冬はシクロクロスという活動形態になったのですね。」
梶「そうですね。季節を分けて活動できますし、やっぱり一番最初に出た種目がシクロクロスなので(笑)。何より、それぞれの種目のレベルアップに生かせる種目同士です。」
影山「確か今年の1月、パラトライアスリートとしての活動を2024年夏に一区切り・・・と自身のSNSで発表されていましたね。」
梶「はい、障害のカテゴリー的に、目指していたカテゴリーとは違う、ほぼ健常者に近いところにクラス分けされるようになってしまって、自分的には厳しいなと。ちょうどパリの代表選考にも漏れてしまったので、会社にも正直に自分の気持ちと、オランダでこれからやっていきたいことを伝えました。」
影山「それがオランダベースという事業に?」
梶「はい、もともと2022年にオランダに引っ越していたので、すでに数シーズンが経過している事業です。オランダベースの現在の事業としては、日本からの選手を受け入れて、宿泊拠点とトレーニング拠点を紹介する、そして現地でのレース遠征サポートが主な内容です。」
影山「古谷さんからは、オランダベースの拠点がとんでもなく自転車競技熱が高いところと聞いています。」
古谷「オランダの中でも南にあるリンブルグ州の、シッタードという街に拠点を置いています。私の住んでいたシェアハウスの向かい側は、Team Visma-Lease a Bike(ビスマリースアバイク)の育成チームの拠点でした。
南に20kmほどにあるファルケンベルグはアムステルゴールドレースで有名な『カウベルフの急坂』がありますし、その地元のパークホテルチームは過去に平塚吉光選手や阿部嵩之選手が所属していたことでも有名です。シッタードはドイツとの国境沿いの街で、私の住んでいるシェアハウスからは歩いて5分でドイツに入れますね(笑)。ドイツだけではなくベルギーにもアクセスが良く、車で10分も走れば行けます。
シクロクロスやモータースポーツでおなじみのゾルダーサーキットまで車で40分ほど、これまたシクロクロスではおなじみのナミュールへ1時間半、アントワープへ1時間ほどで到着できるので、移動の負担が少なくて済みます。ロードもシクロクロスも、走る環境は桁違いによいので『自転車の都』と言っても過言ではないです。」
梶「ここは走る環境がよいというのもありますし、あと実はオランダはビザが取りやすい。今の自分は個人事業主ビザというもので住まわせてもらっています。日蘭通商航海条約って、歴史の授業で出てきたかもしれませんが、100年以上前に締結されたこの条約おかげで、日本人とアメリカ人は長期滞在ビザの面で優遇されているんです。」
影山「その条約の名前をここで聞くとは思わなかったです(笑)。観光ビザや就労ビザだけではないのですね。」
梶「はい、これはもっと知ってほしいメリットですね。選手として欧州に渡って、オランダで数ヶ月走ってみて水が合うな!と思ったらワーキングホリデーも使えるし、選手を引退しても住み続けたかったら起業して滞在し続けることが出来る。まあ物価と税金が高いので、それなりに大変なのですけれど(笑)」
影山「いまの梶さんはオランダベースとして現地起業して、その状態にあるのですね?」
梶「その通りです。この事業を通じて、自分が高校生の時から感じてきたジレンマを解消して、日本の競技発展に役立てたいと思っています。自分ももちろん走りますが、将来的には一線を退いた選手がたくさんの滞在拠点をサポートしていければと思っています。」
影山「滞在拠点かあ。確かに今の日本に足りていない、もっとあっていい部分ですね。先ほど出たコメントで、梶さんのおっしゃる ”感じてきたジレンマ” とは一体どんな?」
梶「高校3年の冬に、”トビタテ留学ジャパン”という奨学金を得て、初めてベルギーに渡りました。
アメリカ人とシェアハウスして、2ヶ月間で17レース。走ってみて衝撃を受けました。もうワクワク感が半端ではない。Bクラスという、いわゆるUCIレースではないシクロクロスレースが週に1〜2回。UCIクラス2のレースでは、スタートラインに並べば眼の前に世界チャンピオンがいる。レースの質も量もワクワク感もレースのレベルも衝撃的でした。ここでやっていこうって心に決めて、翌年も渡欧しました。奨学金は一度きりのものなので、翌年以降は自分でお年玉やお小遣いを少しづつ貯めて渡航費に充てました。」
「奨学金を得る過程でいろいろ調べて感じたのが、他のメジャー競技・・・たとえばサッカーなんかでは、奨学金はもちろん、組織としての留学制度がたくさんあります。マイナー競技では、ステイ先を探す、大会を探す、それだけでもかなりの労力で参ってしまう、諦めてしまう選手も多いんだろうと感じました。」
「日本人の海外挑戦って、ある程度のレベルになってから行くべき、さらに言えばチャンピオンを獲ってから海外へいくべきみたいな雰囲気があったんですよね。ただ僕が行ってみて感じたのは、海外を走る経験は早いほうがいいということ。それこそ、U17やU19の世代から体感してほしいと思います。」
「僕自身、全日本チャンピオンを穫りたい気持ちはありますが、今はそのレベルにありません。例えば、梶ってやつがオランダで走っていて、そいつが日本に戻ってレースを走るとこのくらいの順位で走れる、だったらオレならどのくらいのレベルで走れるかな?っていう指標になる選手がいてもよいと思っています。そのためには誰か一人でも欧州で走っていないといけませんし、その指標になる選手は多いほうがいいはずです。」
「もちろん、池本さん、辻浦さん、竹之内さんをはじめ、他にもたくさんの方々の挑戦と環境づくりがあって今があるのは確かです。ただ、ここオランダで海外とのレベル差がどんどん広がる現実を見るにつけ、もっと日本人に海外参戦の機会を提供したいと思うようになりました。」
影山「若者の挑戦する機会のバックアップ、梶さん自身が感じてきた壁を超えるバックアップ、それをオランダベースで行っていることは理解できました。」
「ところでさきほど古谷さんから、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのチーム、Team Visma-Lease a Bike(ビスマリースアバイク)の育成チーム拠点が近くにある・・・と聞きましたが、お二人が住んでいる拠点はいったいどんな施設なのですか?どんなチームや選手、国籍の選手がいるのでしょうか?」
梶「Watersley Sports & Talent Park (通称:ウォータスレイ)は、もともと修道院だった建物やリハビリ所だった施設をリノベーションして、敷地一帯をアスリートが滞在してトレーニングできる環境にしています。オランダのトライアスロンナショナルチームの強化拠点にもなっていることから、トライアスロン選手時代にご縁があって僕はこの施設を知りました。
敷地内には、ジムはもちろんのことパンプトラックやMTBのコースもあります。このMTBコースがUCI公認をとっていて、大きくはありませんがUCIレースが開催されていたりします。
施設にいる選手層は自転車選手がほとんどですが、ほかにもサッカー、アイスホッケー、ハンドボール、トライアスロン選手などが滞在しています。日本のサイズ感に例えると、一軒家が10棟くらいあって、それぞれに5~8人が滞在できます。USAサイクリングなんかは常時一棟借り切っている状態ですね。そこに若手選手がひっきりなしに入れ替わりで来ています。USAは機材倉庫は別に借りているみたいで、やっていることの規模が大きい印象です。」
「そうそう、一般の方向けのホテルもあるので、自転車好きの人やレース観戦に来られている方もいますよ。宣伝ですが、レース観光や、欧州取材の拠点としてもいかがですか?」
古谷「私の住んでいるのは、同じウォータスレイの中でも梶が住んでいる所とは違ってミックスハウス(シェアハウス)になります。ウォータスレイはロードチームを持っており、そこに所属している選手とハウスメイトになることが多かったですね。ハウスメイトの国籍は様々で、オランダ、ドイツ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなど、世界各国から集まってきていましたね。ワールドツアーチームの選手は何人も同じ施設に住んでいるので、チームカーが駐車場にしょっちゅう停まっています(笑)。」
影山「これまでにウォータスレイを利用した日本人選手と競技種目、年齢層なんかはどんな具合ですか?」
梶「2024年夏までで、延べ25名の日本人選手を受け入れました。ロード選手もいますが、割合としてはシクロクロスとMTBの選手が多いですね。年齢は最年少で14歳。ほとんどの選手が10代後半〜20代前半です。」
影山「なるほど、梶さんのおっしゃっていた若いうちから欧州経験を・・・が形になっているのですね。さて、今日のインタビューの本丸となるのですが、そんな梶さんたちが現地オランダでチームを起ち上げた意義、そしてチームの概要を教えていただけませんか?」
梶「自分たちがジュニア、あるいはU23の時に、こんな場所があったらいいな、必要だよねという理想を形にするために、チーム OlandaBase/Watersley として立ち上げました。
本チームはヨーロッパで活動する選手のためのチームで、今シーズンはU23とエリートの日本人とオランダ人選手が走ります。非欧州の選手が継続してオランダに滞在する・・・そのときに必要になるメカニック、ピットクルー、そして機材などを包括的にサポートする必要があります。それならば自分たちで整えてみようと。
今後はオーストラリア、ニュージーランド、スウェーデンなどの選手も受け入れて、インターナショナルなチームに成長させ、脚力や語学力も含めて世界レベルに近づくことを目指します。今シーズンはオランダのシッタードを拠点に、オランダ、ベルギーをはじめ、ドイツやフランスなどの隣国にもレースに行く予定です。」
梶「今シーズンは、Watersley Sports&Talent Park から協賛していただいております。
ジャージはBioracer Japan、リカバリーオイルやアップオイルは NAQI Japan、補給食はMag-on(セロトーレ株式会社)、タイヤはVittoria Dugast(本国)、工具はVESSEL、以上が現在のサプライヤー企業様です。
近年ロードレースではチューブレスなどが主流になっていますが、シクロクロスはチューブラーがメインで使用されており、UCIレースでは使用率は100%。ここの現地サポートがあるのはたいへんありがたい環境です。
チームの遠征先は隣国とはいえども、機材の消耗が激しいのがシクロクロスです。チーム規模が大きくなるにつれて、必要となる機材も増え、移動費をはじめとして資金も必要になってきます。私たちのチームと一緒に成長できる企業さまを、ただいま絶賛募集しております!
正直に言いますと、日本人が現地で動いていると、お前たちには日本企業からのサポートはないのか?スポンサーはないのか?と当たり前のように言われるのが悔しい・・・。チーム初年度は見切り発車となりますが、ぜひ長期的にバックアップいただける企業さまとパートナーシップを結べたらと思います。
チーム OlandaBase/Watersle の現在の所属メンバーは、僕を含め男子3人、女子1人。既にヨーロッパでMTBやロードも走った経験がある 岡山優太 選手。ヨーロッパでシクロクロスをはじめた 遠藤紘介 選手と、今年から女子U23カテゴリーになる Meadow Willems 選手。全員が1シーズン以上、ヨーロッパで競技活動を行なったことのある選手です。」
影山「最後に・・・シクロクロスのシーズンインは目前ですが、いま日本の人たちに伝えたいことを一言!」
梶「一度オランダ、ベルギーに来てみてください。来て走ってみるだけで、きっと世界が変わります。言葉にするのは難しいのですが、この自転車大国で走ることの楽しさや、チャレンジする姿勢が沢山の日本人に届いて欲しいなと思います。特に、若い選手にはたくさんレース経験を積んで、ヨーロッパで走れるようになるための引き出しを増やすきっかけに繋がればいいなと思います。オランダベースのインスタグラムから気軽にメッセージをください!いつでも待っています。ああっ、そろそろ夕方、選手が練習から戻る時間です。迎えに行ってきます!」
なんともライブ感のあるインタビューの幕切れとなりました。今後もオランダベース、そしてチームの活動をSNSでチェックしていこうと思う。
このシーズン中に、どんな日本人選手が現地で活動し、成長していくのか。今年の楽しみがまた一つ増えました。
https://www.instagram.com/olandabase/ olandabase Instagram
https://www.uci.org/team-details/20206 team UCI HP
https://watersley.com/en/ Watersley Sports & Talent Park HP
シクロクロスファンの皆さま、こんにちは。AJOCC代表理事の影山善明です。
シーズン開幕が迫る8月16日、海外シクロクロス情報サイト「シクロクロス24」に、日本人選手が所属する新UCIシクロクロスチームが掲載されたことに、驚いた方も多いのではないでしょうか?
「Olanda Base/Watersley」
日本人選手とオランダ人選手が在籍?
Olanda Base?オランダベース?
Watersley?ウォーター・・・なんとか・・・なんて読むんだ?
このチームの関係者が私が住まう茨城にいました。古谷寛世(ふるやかんせい)さん。茨城や千葉のシクロクロスで大会スタッフとして尽力してくれた方です。
古谷さんは昨年から「オランダベース」を拠点に活動しています。この夏に帰国中だった古谷さんに今回のチーム発足とオランダベースでの活動について話を聞き、私は大きな興味と期待を感じました。
そこで、現地オランダに住み活動する、チーム発起のキーマンである梶鉄輝(かじてつき)選手にZoomを繋いでさらに深く話を聞くことに。最近耳にすることが増えてきた「オランダベース」についてとその理念、そしてチーム発足の経緯について話を聞くことにしました。
影山「梶さん、今日はお忙しいところありがとうございます。日本は夕方ですが、そちらはお昼どきですね。こんな時間にすみません。いろいろ伺わせてください。」
梶「こちらこそありがとうございます。今オランダはサマータイムなので、日本との時差はマイナス7時間。こちらは午前中になりますね。」
影山「私が梶さんを知ったのは、パラトライアスロンの選手として、そして海外でシクロクロスレースを走る日本人としてですが、この2つの側面がいまいちフィットしなくてずっと謎の人物だったんです。これまでの競技との関わりを教えていただけませんか?」
梶「これまでロード、トラック、MTB、そしてトライアスロンと、ほとんどの自転車競技に取り組んできました。人生初の自転車競技は小学生2年生の冬、カンクロ(関西シクロクロス)の日吉ですね。」
影山「おぉ、やっぱりシクロクロス。関西シクロクロスに歴史ありですね。」
梶「中学1年の時、ロードバイクでトレーニング中に車との事故に巻き込まれまして・・・。右肩から頭にかけて大きな怪我を負いました。そのとき肩の神経を切っているので、腕に十分な力が入らなくなっていて。イメージで言うと、3割から4割くらいの自由度と可動域です。今でも、右手の握力は10くらいしかないです。」
影山「えっ!そんなに低い?自転車持ち上げるのって・・・?」
梶「シクロクロスの担ぎはそれもあって逆降り(左腕で担ぐ)にしていますね。それでも自転車競技に復帰してからは、国体やインターハイに健常者として出場していました。」
影山「中学からロードに乗っていたのもスゴイし、そんな事故からの復帰もスゴイ。」
梶「ふと高校3年のときに、自分って障害あるけど、パラの種目に出たことないな・・・と気づきまして。もともとトライアスロンは年に数回は参戦していたので、日程の合うパラトライアスロンに参加してみたら、これがはまって。ちょうど東京(2021年東京オリンピック)の開催も決まっていて、周囲のすすめもあって、もしかしたらパラリンピックでメダルを目指せるのでは?可能性のある競技にかけてみては?ということで、高校を卒業してからはトライアスロンのアスリート社員として、JPF(日本写真判定)に入社して活動してきました。」
影山「それで夏はトライアスロン、冬はシクロクロスという活動形態になったのですね。」
梶「そうですね。季節を分けて活動できますし、やっぱり一番最初に出た種目がシクロクロスなので(笑)。何より、それぞれの種目のレベルアップに生かせる種目同士です。」
影山「確か今年の1月、パラトライアスリートとしての活動を2024年夏に一区切り・・・と自身のSNSで発表されていましたね。」
梶「はい、障害のカテゴリー的に、目指していたカテゴリーとは違う、ほぼ健常者に近いところにクラス分けされるようになってしまって、自分的には厳しいなと。ちょうどパリの代表選考にも漏れてしまったので、会社にも正直に自分の気持ちと、オランダでこれからやっていきたいことを伝えました。」
影山「それがオランダベースという事業に?」
梶「はい、もともと2022年にオランダに引っ越していたので、すでに数シーズンが経過している事業です。オランダベースの現在の事業としては、日本からの選手を受け入れて、宿泊拠点とトレーニング拠点を紹介する、そして現地でのレース遠征サポートが主な内容です。」
影山「古谷さんからは、オランダベースの拠点がとんでもなく自転車競技熱が高いところと聞いています。」
古谷「オランダの中でも南にあるリンブルグ州の、シッタードという街に拠点を置いています。私の住んでいたシェアハウスの向かい側は、Team Visma-Lease a Bike(ビスマリースアバイク)の育成チームの拠点でした。
南に20kmほどにあるファルケンベルグはアムステルゴールドレースで有名な『カウベルフの急坂』がありますし、その地元のパークホテルチームは過去に平塚吉光選手や阿部嵩之選手が所属していたことでも有名です。シッタードはドイツとの国境沿いの街で、私の住んでいるシェアハウスからは歩いて5分でドイツに入れますね(笑)。ドイツだけではなくベルギーにもアクセスが良く、車で10分も走れば行けます。
シクロクロスやモータースポーツでおなじみのゾルダーサーキットまで車で40分ほど、これまたシクロクロスではおなじみのナミュールへ1時間半、アントワープへ1時間ほどで到着できるので、移動の負担が少なくて済みます。ロードもシクロクロスも、走る環境は桁違いによいので『自転車の都』と言っても過言ではないです。」
梶「ここは走る環境がよいというのもありますし、あと実はオランダはビザが取りやすい。今の自分は個人事業主ビザというもので住まわせてもらっています。日蘭通商航海条約って、歴史の授業で出てきたかもしれませんが、100年以上前に締結されたこの条約おかげで、日本人とアメリカ人は長期滞在ビザの面で優遇されているんです。」
影山「その条約の名前をここで聞くとは思わなかったです(笑)。観光ビザや就労ビザだけではないのですね。」
梶「はい、これはもっと知ってほしいメリットですね。選手として欧州に渡って、オランダで数ヶ月走ってみて水が合うな!と思ったらワーキングホリデーも使えるし、選手を引退しても住み続けたかったら起業して滞在し続けることが出来る。まあ物価と税金が高いので、それなりに大変なのですけれど(笑)」
影山「いまの梶さんはオランダベースとして現地起業して、その状態にあるのですね?」
梶「その通りです。この事業を通じて、自分が高校生の時から感じてきたジレンマを解消して、日本の競技発展に役立てたいと思っています。自分ももちろん走りますが、将来的には一線を退いた選手がたくさんの滞在拠点をサポートしていければと思っています。」
影山「滞在拠点かあ。確かに今の日本に足りていない、もっとあっていい部分ですね。先ほど出たコメントで、梶さんのおっしゃる ”感じてきたジレンマ” とは一体どんな?」
梶「高校3年の冬に、”トビタテ留学ジャパン”という奨学金を得て、初めてベルギーに渡りました。
アメリカ人とシェアハウスして、2ヶ月間で17レース。走ってみて衝撃を受けました。もうワクワク感が半端ではない。Bクラスという、いわゆるUCIレースではないシクロクロスレースが週に1〜2回。UCIクラス2のレースでは、スタートラインに並べば眼の前に世界チャンピオンがいる。レースの質も量もワクワク感もレースのレベルも衝撃的でした。ここでやっていこうって心に決めて、翌年も渡欧しました。奨学金は一度きりのものなので、翌年以降は自分でお年玉やお小遣いを少しづつ貯めて渡航費に充てました。」
「奨学金を得る過程でいろいろ調べて感じたのが、他のメジャー競技・・・たとえばサッカーなんかでは、奨学金はもちろん、組織としての留学制度がたくさんあります。マイナー競技では、ステイ先を探す、大会を探す、それだけでもかなりの労力で参ってしまう、諦めてしまう選手も多いんだろうと感じました。」
「日本人の海外挑戦って、ある程度のレベルになってから行くべき、さらに言えばチャンピオンを獲ってから海外へいくべきみたいな雰囲気があったんですよね。ただ僕が行ってみて感じたのは、海外を走る経験は早いほうがいいということ。それこそ、U17やU19の世代から体感してほしいと思います。」
「僕自身、全日本チャンピオンを穫りたい気持ちはありますが、今はそのレベルにありません。例えば、梶ってやつがオランダで走っていて、そいつが日本に戻ってレースを走るとこのくらいの順位で走れる、だったらオレならどのくらいのレベルで走れるかな?っていう指標になる選手がいてもよいと思っています。そのためには誰か一人でも欧州で走っていないといけませんし、その指標になる選手は多いほうがいいはずです。」
「もちろん、池本さん、辻浦さん、竹之内さんをはじめ、他にもたくさんの方々の挑戦と環境づくりがあって今があるのは確かです。ただ、ここオランダで海外とのレベル差がどんどん広がる現実を見るにつけ、もっと日本人に海外参戦の機会を提供したいと思うようになりました。」
影山「若者の挑戦する機会のバックアップ、梶さん自身が感じてきた壁を超えるバックアップ、それをオランダベースで行っていることは理解できました。」
「ところでさきほど古谷さんから、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのチーム、Team Visma-Lease a Bike(ビスマリースアバイク)の育成チーム拠点が近くにある・・・と聞きましたが、お二人が住んでいる拠点はいったいどんな施設なのですか?どんなチームや選手、国籍の選手がいるのでしょうか?」
梶「Watersley Sports & Talent Park (通称:ウォータスレイ)は、もともと修道院だった建物やリハビリ所だった施設をリノベーションして、敷地一帯をアスリートが滞在してトレーニングできる環境にしています。オランダのトライアスロンナショナルチームの強化拠点にもなっていることから、トライアスロン選手時代にご縁があって僕はこの施設を知りました。
敷地内には、ジムはもちろんのことパンプトラックやMTBのコースもあります。このMTBコースがUCI公認をとっていて、大きくはありませんがUCIレースが開催されていたりします。
施設にいる選手層は自転車選手がほとんどですが、ほかにもサッカー、アイスホッケー、ハンドボール、トライアスロン選手などが滞在しています。日本のサイズ感に例えると、一軒家が10棟くらいあって、それぞれに5~8人が滞在できます。USAサイクリングなんかは常時一棟借り切っている状態ですね。そこに若手選手がひっきりなしに入れ替わりで来ています。USAは機材倉庫は別に借りているみたいで、やっていることの規模が大きい印象です。」
「そうそう、一般の方向けのホテルもあるので、自転車好きの人やレース観戦に来られている方もいますよ。宣伝ですが、レース観光や、欧州取材の拠点としてもいかがですか?」
古谷「私の住んでいるのは、同じウォータスレイの中でも梶が住んでいる所とは違ってミックスハウス(シェアハウス)になります。ウォータスレイはロードチームを持っており、そこに所属している選手とハウスメイトになることが多かったですね。ハウスメイトの国籍は様々で、オランダ、ドイツ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなど、世界各国から集まってきていましたね。ワールドツアーチームの選手は何人も同じ施設に住んでいるので、チームカーが駐車場にしょっちゅう停まっています(笑)。」
影山「これまでにウォータスレイを利用した日本人選手と競技種目、年齢層なんかはどんな具合ですか?」
梶「2024年夏までで、延べ25名の日本人選手を受け入れました。ロード選手もいますが、割合としてはシクロクロスとMTBの選手が多いですね。年齢は最年少で14歳。ほとんどの選手が10代後半〜20代前半です。」
影山「なるほど、梶さんのおっしゃっていた若いうちから欧州経験を・・・が形になっているのですね。さて、今日のインタビューの本丸となるのですが、そんな梶さんたちが現地オランダでチームを起ち上げた意義、そしてチームの概要を教えていただけませんか?」
梶「自分たちがジュニア、あるいはU23の時に、こんな場所があったらいいな、必要だよねという理想を形にするために、チーム OlandaBase/Watersley として立ち上げました。
本チームはヨーロッパで活動する選手のためのチームで、今シーズンはU23とエリートの日本人とオランダ人選手が走ります。非欧州の選手が継続してオランダに滞在する・・・そのときに必要になるメカニック、ピットクルー、そして機材などを包括的にサポートする必要があります。それならば自分たちで整えてみようと。
今後はオーストラリア、ニュージーランド、スウェーデンなどの選手も受け入れて、インターナショナルなチームに成長させ、脚力や語学力も含めて世界レベルに近づくことを目指します。今シーズンはオランダのシッタードを拠点に、オランダ、ベルギーをはじめ、ドイツやフランスなどの隣国にもレースに行く予定です。」
梶「今シーズンは、Watersley Sports&Talent Park から協賛していただいております。
ジャージはBioracer Japan、リカバリーオイルやアップオイルは NAQI Japan、補給食はMag-on(セロトーレ株式会社)、タイヤはVittoria Dugast(本国)、工具はVESSEL、以上が現在のサプライヤー企業様です。
近年ロードレースではチューブレスなどが主流になっていますが、シクロクロスはチューブラーがメインで使用されており、UCIレースでは使用率は100%。ここの現地サポートがあるのはたいへんありがたい環境です。
チームの遠征先は隣国とはいえども、機材の消耗が激しいのがシクロクロスです。チーム規模が大きくなるにつれて、必要となる機材も増え、移動費をはじめとして資金も必要になってきます。私たちのチームと一緒に成長できる企業さまを、ただいま絶賛募集しております!
正直に言いますと、日本人が現地で動いていると、お前たちには日本企業からのサポートはないのか?スポンサーはないのか?と当たり前のように言われるのが悔しい・・・。チーム初年度は見切り発車となりますが、ぜひ長期的にバックアップいただける企業さまとパートナーシップを結べたらと思います。
チーム OlandaBase/Watersle の現在の所属メンバーは、僕を含め男子3人、女子1人。既にヨーロッパでMTBやロードも走った経験がある 岡山優太 選手。ヨーロッパでシクロクロスをはじめた 遠藤紘介 選手と、今年から女子U23カテゴリーになる Meadow Willems 選手。全員が1シーズン以上、ヨーロッパで競技活動を行なったことのある選手です。」
影山「最後に・・・シクロクロスのシーズンインは目前ですが、いま日本の人たちに伝えたいことを一言!」
梶「一度オランダ、ベルギーに来てみてください。来て走ってみるだけで、きっと世界が変わります。言葉にするのは難しいのですが、この自転車大国で走ることの楽しさや、チャレンジする姿勢が沢山の日本人に届いて欲しいなと思います。特に、若い選手にはたくさんレース経験を積んで、ヨーロッパで走れるようになるための引き出しを増やすきっかけに繋がればいいなと思います。オランダベースのインスタグラムから気軽にメッセージをください!いつでも待っています。ああっ、そろそろ夕方、選手が練習から戻る時間です。迎えに行ってきます!」
なんともライブ感のあるインタビューの幕切れとなりました。今後もオランダベース、そしてチームの活動をSNSでチェックしていこうと思う。
このシーズン中に、どんな日本人選手が現地で活動し、成長していくのか。今年の楽しみがまた一つ増えました。
https://www.instagram.com/olandabase/ olandabase Instagram
https://www.uci.org/team-details/20206 team UCI HP
https://watersley.com/en/ Watersley Sports & Talent Park HP
関連ファイル
チームオランダベース概要(日本語)
(5.01 MB)
Amazon.co.jp