スピードを求めるロードサイクリストの願いを叶えるべく、その性能にさらなる磨きをかけ、第4世代へと進化を果たしたキャニオンAeroad。今回は自身もキャニオンのバイクを数々購入するなど、同社の進化をつぶさに目にしてきた自転車ジャーナリストの吉本司氏が、第3世代と同条件で乗り比べをしつつ新型Aeroadの魅力を探る。



今のプロレースに必要な性能を冷静に判断した上での進化

フルモデルチェンジを遂げたAeroad。最上級グレードのCFRをテストした photo:Naoki Yasuoka

振り返ると前作のAeroadの登場は衝撃的だった。ドロップ部が分割されて、なおかつハンドル幅を可変できるハンドルセット。しかもそのステム部分は、クイル式とアヘッド式を融合させた独創的な構造。そして、実際に走らせてみると高性能。こんな面倒な作りを、よくも性能を破綻させずまとめたなと、改めて同社の技術力の高さに感心させられることしきりだった。そんな〝攻め〟の前作を知るだけに、一見すると前作と大きなフォルムの違いのない第4世代のAeroadの姿は、少々肩透かしを食らったロードサイクリストも多いだろう。さらに言えば、スペシャライズドのTarmacや先ごろ発表されたトレック Madone Gen.8のように、エアロロードと軽量ロードを一本化したモデルへのシフトを期待する人もいたに違いない。そんな声に対してキャニオンのロードプロダクトマネージャーであるスベン・ロイター氏は、以下のように答える。

「もちろんモデルチェンジに際して(新たな形状など)いろいろ検討はしました。しかしながら(第3世代)Aeroadは他社製品と比較してエアロ性能は優れていますし、重量面でも高いレベルにあります。選手からも根本的な性能への不満はなく、したがって大きく何かを変える必要はないという判断を下しました。もちろんエアロや重量など改善できる点には取り組んでいますが、それに加えてメカニックの整備性やユーザーの扱いやすさなどにも焦点も当て、進化を果たすことが大切だと考えました」

基本フォルムは先代と似通ったもの。開発者は「正常進化が最も求められていることだった」と振り返る photo:Naoki Yasuoka

「(エアロと軽量化を融合させる)そうした意見は社内にも私にもありました。しかし軽量なものを作るとエアロは弱くなり、エアロを優先すると軽さが損なわれる。つまり他社(のオールラウンドモデル)はどこかを妥協しているのです。さらに言えば最近のロードレースはより高速化しているので、エアロ性能が何より重要になっています。私たちはマチュー(ファンデルプール)やヤスペル(フィリップセン)を擁するプロチームにバイクを供給する必要もあり、エアロ性能を重視することが正しい選択なのです。もちろんそれだけでなく、重量も削減もされており、UCIの最低重量規定に近い数値を可能にしています。また、空力性能も新たなドロップ形状を加えるなどして向上させています」

シルエットは酷似するが、同じ形は一つとしてない

先代よりも薄く、ワイド化されたフロントフォーク。空力向上に寄与する photo:Naoki Yasuoka

空力改善に成功したヘッドチューブ周辺。ダウンチューブは長く、そして薄くなった photo:Naoki Yasuoka
先代モデルのヘッドチューブ周辺形状 photo:Naoki Yasuoka



キャニオンのウェブページで新旧モデルの写真を見比べると〝うりふたつ〟と言えるほどだが、実車を前にして両者を細かく見ると、同じ形はどこにもない。金型は完全に新規で興す必要のあるレベルだ。チューブの肉厚も各部を指で弾いてみると、新旧で肉厚が違う音色がする。フレームの部位による違いはあるかもしれないが、新型の方が少々肉薄になった印象を受ける。

スベン氏によれば、今回使用するカーボンのグレードは同じだが、レイアップを見直し、最新の製造技術を用いてフレームを作られているという。これにより振動減衰性が向上し、石畳などの悪路でもバイクが跳ねにくく、乗り心地や安定性が増している。また、強度面も落車などで破損しやすい部分(トップチューブ中央部など)を的確に補強することで耐久性が向上したという。ちなみにBBエリアなどフレーム剛性は前作と同レベルの数値に仕上げられている。

シートステー周辺は顕著に変わったポイントの一つ。ステーはスリム化され、チューブとの接合形状も変化した photo:Naoki Yasuoka
先代のステー集合部 photo:Naoki Yasuoka


先代モデルのチェーンステー周辺形状 photo:Naoki Yasuoka
チェーンステーは反応性を上げるために短縮された photo:Naoki Yasuoka



18度のフレア角が与えられたPace Arero Drops(350mm幅でセット) photo:Naoki Yasuoka

詳細な進化のポイントは前回の新型Aeroadの紹介記事で確認してほしいが、新型の進化を数的に見ると、空力はフレームセットで1.6W、新たに加わったフレア形状のドロップ部(Pace Arero Drops=ペースエアロドロップ)を装備するとさらに14Wの削減が可能になり、最大15.6Wの削減。重量はフレームセットが48g軽い974g、フロントフォークは37g軽い393gで、トータル85gの軽量化を達成している。数字だけを見ると小幅に思える。とはいえ最新のエアロロードでは空力や軽量化が極まっており、もはや劇的な向上は難しいものだ。さらに言えば前作Aeroadの完成度の高さ故でもある。ぱっと見だけでは〝マイナーチェンジ〟かと思える新型だが、進化した部分を理解し、実車をつぶさに見ると〝モデルチェンジ〟とキャニオンが謳うたうのも、まあ納得である。

加速のキレに磨きがかかり守備範囲が大きくなった

さて、今回の試乗だが、新旧同サイズ、同コンポ(デュラエース)のAeroad CFRで試乗を行った。ホイールは新型のAeroad CFR Di2に装備されるDTスイス・ARC1100ダイカットdbに統一した。また、ハンドルセットについては、新型はフレアタイプを装備している。

先代との差は歴然。低速域からの加速に磨きが掛かった photo:Naoki Yasuoka

筆者は前作のAeroad CFRにも以前に試乗しているが、エアロロードらしい巡航域での滑らかに軽く流れていく走り、そこからさらに加速したときの走りの力強さなど、その性能に何ら不足はなかった。ターマックなどの万能系モデルに比べると、低速域での加速のキレや登坂力は及ばない印象もあるが、エアロロードとして相当に高度な走りを備えていると感じた。対する新型は、その形状が旧型と見た目には大きく変わらないこと、さらには重量や空力が劇的に向上しているわけではないので、どれだけ走りの違いを感じられるか筆者は不安であった。しかし心配は無用。ペダルを踏めば前作との違いは歴然だ。

特に新型は、加速が低速からびんびんと響くようになったのが、まず大きな違いだ。旧型の低速における加速のキレは他社の万能系モデルと比べて物足りないと先述したが、新型はそうした感覚をふっしょくするに十分な性能がある。そして、このかかりの良さは集団からの飛び出し、逆にアタックをした選手を捕まえるなど、コンマの反応性の違いが勝負を分けるような場面で大きな利点となるだろう。さらにコーナーを抜けて風向きが少し変わる、勾配がちょっときつくなるような、いわゆる〝ちょい踏み〟をするような場面でも、バイクの動きが軽いので無駄脚を使いにくい。

ペダリングは非常に軽やか。選手向けモデルとはいえペダリング感も絶妙だ photo:Naoki Yasuoka

そして、ペダリングも軽やかさが増している。フレームの全体的な剛性はしっかりしているものの、ペダリングはわずかな踏みしろも感じられるのでパワーをかけやすい。ダウンチューブの中央部分は前作よりも肉薄になっているのだが(チューブを指で弾くと薄さを感じる)、おそらくそれがうまく作用しているのかもれない。先の加速の軽さと相まって、ヒルクライム性能も向上していると感じた。もちろん同社のアルティメットには及ばないものの、エアロロードのカテゴリーであればトップレベルだし、Aeroad CFRに及ばない万能モデルも結構あるかもしれない。

ホビーサイクリストがエアロロードのように剛性のしっかりしたバイクに乗ると、上りでパワーを出せなくなるとシッティングで如実に踏めなくなり、ダンシングがパタパタしてバイクの進みがガクンと鈍るのだが、Aeroad CFRはそんな感覚も少なく、ライダーの脚力のギリギリのレベルで粘るような状態でも走らせやすいのだ。

明らかに向上した加速性能について、その理由をスベン氏に聞くと、トップチューブの断面積が前作よりも大きくなり、これによりヘッドまわりの剛性が増したためだという。さらにこの仕様は、ハンドリングをはじめとするバイク全体の安定性の向上にもつながっているという。ちなみにトップチューブは、落車などでハンドルが当たった場合でも破損を防ぐためのカーボンの積層が施されている。前作のAeroadはハンドルの切れ角に制限があったが、今作ではそれがなくなったがゆえの措置である。

さらに増したエアロロードとしての魅力

Pace Arero Dropsは明らかに速い。マインド面にも大きな効果を与えてくれる。 photo:Naoki Yasuoka

新型のAeroad CFRは、エアロロードの最も魅力とされる巡航性能や高速域のパフォーマンスにおいても進化が見られる。もともと前作の巡航域の走りは、滑らかにバイクが転がりパワーをセーブしながら走れる印象が強いのだが、新作はペダリングフィールの軽さと、絶妙な剛性感ゆえかペダルが上死点からすとんと脚が落ちていき、下死点から上死点までのつなぎも、よりスムーズさを増している。以前にも増してリズミカルで軽いペダリングができるので、それゆえにパワーの伝達効率も増している印象で、バイクが淀みなく流れてゆくエアロロードの魅力を、ライダーがより無理なく発揮できる感覚に長けている。

そのフレーム側から生み出されるスピードに、さらなる速さをプラスしてくれるのが、新たにラインアップに加わった18度のフレア角が与えられた「Pace Arero Drops」だ。試乗車は350mmにセットされていたが(350/375/400mmで調節可)、ブラケット部分を握ってクラウンチングフォームをとると、明らかに空気抵抗が小さくなることが分かる。

そして、このハンドルバーはライダーのマインド面にも大きな効果を与えてくれると筆者は強く感じた。それはクルマに例えるのならフルバケットシートのようなものに思える。フルバケットシートはそこに座った瞬間、ドライバーへ「このクルマは速く走るもの」という気持ちに誘う。フレアハンドルもまさしくそれで、ブラケット部を握ると、筆者は自然とクラウチングポジションを強めてギヤ比を高めスピードを上げていた。このハンドルはレーサーなら速さに直結するものだが、ホビーサイクリストにとってはそれだけでなく「やる気スイッチ」が入る情緒面に効いてくるのも、大きな魅力だと感じた。

14Wの削減が可能というPace Arero Dropバー photo:Naoki Yasuoka
Pace Arero Dropsはフレア角18度。6度のクラシックハンドルと比べても差は顕著 photo:Naoki Yasuoka



とはいえ、このエアロハンドルは万人に薦められるわけではない。やはり、かなりハンドリングは癖がある。キャニオンは基本的にナチュラルな挙動を示す味付けのハンドリングで、Aeroadもエアロロードとしては極めて扱いやすい運動性能ではある。しかしながら、今までのダンシングで走らせるとバイクはふらつきやすい。それを正すにはバイクの左右の振幅を抑えて、しっかりと体幹を意識し、そこでバイクをコントロールするような感覚が必要だ。イメージとしてはタデイ・ポガチャルのようなダンシングだ。このハンドルを使いこなすには、ライディングフォームの修正と慣れが必要になるだろう。

しかしながら、先述したが、実質的な速さ、そしてライダーのモチベーションを高めてくれる効果があるので、筆者は新型Aeroadに乗るのなら、このフレアハンドルのセットアップを取り入れたい。しかもこのハンドルはドロップ部がコンパクトに設計されているので、この部分を握ったときのライディングポジションも作りやすい。

ブラケットポジションのダンシングは慣れが必要。体幹を意識したコントロールが求められる photo:Naoki Yasuoka

標準で装備されているハンドルはトラディショナルなタイプだが、フレアタイプは3万2900円でプラスできるので、カーボンハンドル1本分として考えれば、Aeroad CFRを購入する予算のあるサイクリストなら決して高くないだろう。しかも、このドロップ部の交換作業は、油圧ディスクのオイルラインを抜かなくても行えるように今作からアップデートされている。総合的に見て、このフレアハンドルは価値があるオプションだ。

加速をはじめとする動的性能、エアロ性能以外の部分でも新型Aeroad CFRは、しっかりと熟成されている。路面からの衝撃もフレーム全体で散らすような雰囲気が強くなり、特に荒れ気味の路面ではバイクがより弾かれにくくなっている。もちろん乗り心地もエアロロードとしてはかなり高レベルである。

エアロロードの魅力である高速巡航域の性能を伸ばしつつ、万能系モデルに対してビハインドであった低速域の加速や登坂性能に磨きをかけた新型Aeroad CF。その走行性能における弱点は極めて少なくなり、あまたあるエアロロードの中でトップクラスのユーティリティ性能を手にした。正直なところ、レーサーのみならずホビーのロードサイクリストでも、これ1台あれば良いのではという気にさせられる。見た目にはドラステックな変化はないにもかかわらず、しっかりと走行性能を向上させることができるのは、Aeroadの基本性能の高さもさることながら、キャニオンの高度にして緻密なエンジニアリングの賜である。

ドイツブランドらしい、細部にまで行き届いた仕様

ヘッドセットには防水シールを追加。パリ〜ルーベなどクラシックレースから得たフィードバックを活かしたものだ photo:Naoki Yasuoka

下玉押しには金属製インサートを追加。耐久性を上げている photo:Naoki Yasuoka
スルーアクスル回しにはT25トルクスも装備。各部ボルトをT25に統一し合理性を向上させている photo:Naoki Yasuoka



フロントホイールを外した際にダメージを防ぐパーツを装備(写真はSLXグレード) photo:Naoki Yasuoka
トライアスロン用途を考えた「GEARグルーブエアロエクステンション」。ボルトを締めるだけで脱着が可能だ photo:Naoki Yasuoka



交換作業を大幅に簡略化するドロップ部を筆頭にして新型Aeroadの進化は、走行性能だけでなくユーザービリティの向上が大きなテーマだ。実際にプロショップのメカニックに聞いても、特にハンドル部の交換作業が大幅に向上した点は大絶賛である。他にもハンドルやシートまわりのパーツを全てトルクスレンチで締め付けできたり、下側のヘッドベアリングを受けるフォークコラムの根元にチタン製のパーツを挿入するなどのきめ細かな仕様は、合理性と精密さを大切にするドイツブランドらしいアプローチと言えるだろう。

とはいえ、ただ一つ筆者が疑問に感じたのはBBシェルの規格だ。昨今はプレスフィット式からT47規格などのねじ切り式シェルを採用に回帰しているが、新型Aeroadは引き続きPF86としている。これについてスベン氏に問うと「プロチームでもメカニカルトラブル(音鳴りなど)はなかったことから、特に見直す必要性はないと判断した。ねじ切りの仕様よりも軽量化もできる優位性もある」とのことだった。

ロードバイクの魅力である〝速さ〟を無邪気に楽しめる

〝ロードバイク〟という言葉が持つ意味は、今と昔ではだいぶ変わったように思う。かつてはロードバイク(昔はロードレーサーと呼んでいたものだ)は、レースの勝利に向けて純粋に速さを追求する機材だった。しかし現在のロードサイクリストの実情を見るとレースに興じる者は極めて少なくなった。でありながら筆者をはじめ我々ホビーのロードサイクリストが、エアロロードをはじめとするコンペティティブロードに乗っているのは、他人と争うことを主とせず、自分の中にある〝速さ〟を求め、その瞬間に大いなる興奮を覚えるからである。それ故、今回の新型Aeroadが掲げる「Speed Dreams」というキャッチフレーズは、筆者としても思わず納得させられてしまった。

「スピードに興奮を覚えるロードサイクリストを、無邪気にスピードへと誘ってくれる」 photo:Naoki Yasuoka

新型Aeroad CFRは、運動性能の面において前作から特に加速とエアロ(特にPace Arero Dropsを装備した状態)に磨きをかけた。この2つはロードサイクリストにとって永遠のロマンである〝速さ〟を最も直感的に得やすい要素であり、コンペティティブロード、そしてエアロロードに乗る魅力がシンプルに表現されている。そして、筆者はAeroad CFRに跨がると遮二無二にペダルを踏み、試乗という目的を忘れてスピードを求めていた。スピードに興奮を覚えるロードサイクリストを、無邪気にスピードへと誘ってくれる相棒、それが新型Aeroad CFRという存在なのだろう。

レーサーの勝利のための1台は言うに及ばず、最近ライドに退屈感を覚えているロードサイクリストであっても、このバイクを手にすれば、再びライドのテンションを上げてくれる〝回春材〟にもなってくれる存在でもある。

テスト:吉本司(よしもと つかさ)
フリーの自転車ジャーナリスト。40年におよぶ自転車歴において数々のカテゴリーのバイクに乗り、多様な楽しみ方を経験。その豊富なキャリアから、機材、競技、市場動向に至るまで、スポーツバイクシーンに幅広い見解を持つ。キャニオンは日本で販売が始まる以前の2007年に購入して以来、5台を乗り継ぐ。同社のプロダクツの変遷をつぶさに見てきた。

開発者:スヴェン・ロイター
ジュニア時代は、ドイツナショナルチームの一員として、2014年の世界選ロードに出場。プロコンチネンタルチームで活動した経験も持つ。23歳で選手を引退した後、26歳でキャニオンに入社。ロードモデルのプロダクトマネージャーとしてAeroad、CXバイクのinfliteの開発に携わる。

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