2024/08/19(月) - 17:53
能登半島を3日間で一周するロングライド「ツール・ド・のと」。1月1日に起こった能登半島地震の影響で今年の開催が危ぶまれていた。しかし未だ復興作業の途上ではあるが、9月15日に開催することを決めた。8月7日には試走会を開催、かつて能登で選手活動を送った唐見実世子さんがその想いを綴る。
ツール・ド・のととの出会い
私、唐見実世子は2001年〜2004年まで石川県を拠点としてレース活動を行っていた。今年で36回目を迎えるツール・ド・のとは、能登半島400kmを3日間かけて一周するロングライドイベントだ。
私がツール・ド・のとと出会ったのは、2001年に石川県のチームへ移籍した時だった。当時はサイクリングイベントでツール・ド・のとほど大規模なものは他にはなかったのではないか、と思う。
当初は「ツール・ド・のと400 ーサバイバル・サイクル」というイベント名だった。私は自転車選手なので、3日間で能登半島を一周することはそんなに大変ではないが、当時の参加者からすると、情報も、自転車サークルや仲間も少なかったのでとても特別で、その名のとおり「サバイバル」なイベントだったと思う。参加者の中には軽快車でツール・ド・のとを完走する人や、学生時代の思い出作りとしてチャレンジする初心者もおられた。
今でこそビワイチやシコイチなど、自転車でどこかの地域を一周することはそれほど珍しくなくなった。日本は自転車に優しい町づくりという面ではまだまだ多くの課題があるが、それでも道路にブルーラインが引かれていたり、路面も格段に良くなって、以前に比べるとロードバイクで走りやすくなってきた。そう考えると大会が始まった当初は能登半島を一周するというイベントは、だれもが思いつくわけでもなく、大会主催者側からしても大会を成功させること自体が「サバイバル」だったのではないかと思う。
魅力ある大会へ
ツール・ド・のとは能登半島にお住まいの方々の協力と大会を支え続けるスタッフの熱意、そして参加者の皆さんにも恵まれ、能登の秋の風物詩のような存在に成長していった。普段は生活道路として使用されている道は、ツール・ド・のとが開催される3日間は沿道の地元の方々もサイクリストを暖かく迎え入れてくれ、許容してくれた。
サポートライダーやゲストライダーとしての視線ではあるが、大会を支える実行委員会の献身的なサポートや参加者の皆様の完走を目指してひたむきにペダルを漕ぐ姿、能登を心から楽しんでいる笑顔、沿道の方の温かい応援を目の当たりにしてきて、自転車の上だからこそ、サイクリストだからこそ、ツール・ド・のとだからこそ共有できる感動を味わえる貴重な大会だと感じた。
ツール・ド・のとは大会主催者の北國新聞社をはじめ、地元のサイクリング愛好家やプロ選手、自転車ショップが主体となり大会を支えてきた。3日間走り切るための準備やノウハウ、機材サポートはもちろんのこと、参加者の皆さんが無事にゴールに辿り着けるようにあらゆる立場の地元スタッフが連携して、大会を成功に導いてきた。それを間近にみて、忘れかけていたことに気づくこともしばしばだった。そんな大会の雰囲気も相まって、日本を代表するトップ選手たちも素顔で参加者の皆さんと接して大会を盛り上げてくれる。これもツール・ド・のとの魅力の一つだ。
元旦に突然の地震が襲った
これまでも2007年に大きな地震が能登半島を襲い、輪島市を中心に甚大な被害を与えた。家屋は全壊し、道は塞がれてしまった。それでも大会は開催され、2007年のツール・ド・のとには延べ1,236人のサイクリストが大会に参加した。唯一、新型コロナの影響を受けた2年間は大会中止となってしまったが、実はこの2年間においても、地元サポートライダーが中心となり、ツール・ド・のとの歴史を終わらせないための活動は行われていた。
実は能登半島は、ツール・ド・のと以外にも全日本選手権個人タイムトライアル、全日本実業団ロードレース大会、内灘サイクルロードレースなど、多くの公道レースが開催され、自転車が盛んな地域の一つといえる。
私が昨年最後に能登に訪れたのは2023年12月、志賀町で行われた能登シクロクロスの時だった。その時は残念ながら天候不良で中止となってしまい、「能登の大自然には敵わないな」と実感したものの、翌年開催に希望を繋げ、いつものように「また来年、よいお年を。」と言って会場をあとにした。
しかしそれからほんの2週間後の2024年1月1日、能登半島地震がおきてしまう。関東でも少し揺れはしたものの、ニュースを見るまで事の重大さは分からなかった。
実際に能登半島へ行った事がある人はお分かりだろうが、同じ石川県でも半島の先(能登)と金沢市近辺(加賀)では文化の違いがあり、また物理的にも金沢市と輪島市は100km以上の距離がある。甚大な被害を受けた珠洲市はさらに先だ。
今回の地震はこのような能登半島の地形もあって、復旧にもまだまだ時間がかかり、作業も手こずっている現状がある。関東に住む私からすると、冬の厳しい寒さのなかの被災地の姿、そして暑い夏を迎えていまだに復旧作業が追いつかないなかの被災者の思い、両方とも想像する事すら難しく、ただただ無事に乗り切ってもらえるよう、祈る事しかできなかった。
そんな状況だから、今年9月のツール・ド・のとが開催されると聞いた時は耳を疑ってしまった。それと同時にツール・ド・のとの存在意義も考えさせられた。大事なことは文化や伝統を守り続けること。開催が難しいなら、できることを続けていく努力。そうやって40年近くもの長い間、能登路を舞台とするドラマは継続しているのだな、と。
実は私は、石川に行って被災地を目の当たりにする勇気すらなかった。しかし今年も大会を開催すると聞き「これはもう行くしかない」と思った。
試走会に参加して感じたもの
8月初旬の酷暑のさなか、地元サポートライダーが集結しコース試走を行った。雨に降られたり、灼熱の太陽が降り注いだが、サポートカーが付いて、細心の注意を払いつつ行われた。
被災地とサイクリストの思いの板挟みになっているサポートライダーたち。大会開催を決断したツールドのと実行委員会の方々。試走に集まってくださったスタッフの数だけ思いがあった。しかし一つだけ一致していたのは、どんな形であれ大会を継続させたいという強い思いだった。
復興というよりは復旧が急がれる能登。実際に走ってみると、被災箇所の道路は傾き、家屋は全壊し、土地は隆起したり陥没してしまっていた。
反面、能登の美しい景色や大自然、風土という側面からみると、いつもの大好きな能登と何も変わらなかった。実際に走ってみて、やはり今年もたくさんのサイクリストとツール・ド・のとというイベントを共有したい、と改めて感じた。
今年参加される皆様へ
今年のツール・ド・のとはワンデイイベントでの開催となる。往復約150kmのフルコース、約70kmのハーフコースから選べる。コースは平坦な道がほとんどで、スポーツバイクが安全に走れる道をチョイス。お楽しみのなぎさドライブウェイもコースに取り込まれ、綺麗な海岸線や田園風景、古い街並みの中を走れる。また例年通り、各地域に設けられたエイドステーションでのおもてなしが受けられます。
今年参加される方は、アップダウンが少ないぶん、ロードバイクを始めたばかりの方と、ご家族・友人との思い出づくりに。ツール・ド・のとと金沢観光を両方楽しむなど、ぜひ今年しかできない楽しみ方で石川県を満喫して欲しいと思います。そして楽しみながらも能登の置かれている状況に思いを馳せてください。
イベント自体はブラッシュアップを繰り返し、これからも能登の復興と共に歩んでいく。ツール・ド・のとがこれまでと変わらず存在する傍ら、能登復興と共に発展し、変化変容する様も見守り続けたい。
参加者は募集中だが、1日コース(約150km)はすでに定員に達したため、受付を終了。ハーフコースは引き続き参加受付中です。応募締切は8月26日です。ぜひ能登でお会いしましょう。
ツール・ド・のと2023大会映像 (制作:ツールドのと実行委員会)
text : 唐見実世子
ツール・ド・のととの出会い
私、唐見実世子は2001年〜2004年まで石川県を拠点としてレース活動を行っていた。今年で36回目を迎えるツール・ド・のとは、能登半島400kmを3日間かけて一周するロングライドイベントだ。
私がツール・ド・のとと出会ったのは、2001年に石川県のチームへ移籍した時だった。当時はサイクリングイベントでツール・ド・のとほど大規模なものは他にはなかったのではないか、と思う。
当初は「ツール・ド・のと400 ーサバイバル・サイクル」というイベント名だった。私は自転車選手なので、3日間で能登半島を一周することはそんなに大変ではないが、当時の参加者からすると、情報も、自転車サークルや仲間も少なかったのでとても特別で、その名のとおり「サバイバル」なイベントだったと思う。参加者の中には軽快車でツール・ド・のとを完走する人や、学生時代の思い出作りとしてチャレンジする初心者もおられた。
今でこそビワイチやシコイチなど、自転車でどこかの地域を一周することはそれほど珍しくなくなった。日本は自転車に優しい町づくりという面ではまだまだ多くの課題があるが、それでも道路にブルーラインが引かれていたり、路面も格段に良くなって、以前に比べるとロードバイクで走りやすくなってきた。そう考えると大会が始まった当初は能登半島を一周するというイベントは、だれもが思いつくわけでもなく、大会主催者側からしても大会を成功させること自体が「サバイバル」だったのではないかと思う。
魅力ある大会へ
ツール・ド・のとは能登半島にお住まいの方々の協力と大会を支え続けるスタッフの熱意、そして参加者の皆さんにも恵まれ、能登の秋の風物詩のような存在に成長していった。普段は生活道路として使用されている道は、ツール・ド・のとが開催される3日間は沿道の地元の方々もサイクリストを暖かく迎え入れてくれ、許容してくれた。
サポートライダーやゲストライダーとしての視線ではあるが、大会を支える実行委員会の献身的なサポートや参加者の皆様の完走を目指してひたむきにペダルを漕ぐ姿、能登を心から楽しんでいる笑顔、沿道の方の温かい応援を目の当たりにしてきて、自転車の上だからこそ、サイクリストだからこそ、ツール・ド・のとだからこそ共有できる感動を味わえる貴重な大会だと感じた。
ツール・ド・のとは大会主催者の北國新聞社をはじめ、地元のサイクリング愛好家やプロ選手、自転車ショップが主体となり大会を支えてきた。3日間走り切るための準備やノウハウ、機材サポートはもちろんのこと、参加者の皆さんが無事にゴールに辿り着けるようにあらゆる立場の地元スタッフが連携して、大会を成功に導いてきた。それを間近にみて、忘れかけていたことに気づくこともしばしばだった。そんな大会の雰囲気も相まって、日本を代表するトップ選手たちも素顔で参加者の皆さんと接して大会を盛り上げてくれる。これもツール・ド・のとの魅力の一つだ。
元旦に突然の地震が襲った
これまでも2007年に大きな地震が能登半島を襲い、輪島市を中心に甚大な被害を与えた。家屋は全壊し、道は塞がれてしまった。それでも大会は開催され、2007年のツール・ド・のとには延べ1,236人のサイクリストが大会に参加した。唯一、新型コロナの影響を受けた2年間は大会中止となってしまったが、実はこの2年間においても、地元サポートライダーが中心となり、ツール・ド・のとの歴史を終わらせないための活動は行われていた。
実は能登半島は、ツール・ド・のと以外にも全日本選手権個人タイムトライアル、全日本実業団ロードレース大会、内灘サイクルロードレースなど、多くの公道レースが開催され、自転車が盛んな地域の一つといえる。
私が昨年最後に能登に訪れたのは2023年12月、志賀町で行われた能登シクロクロスの時だった。その時は残念ながら天候不良で中止となってしまい、「能登の大自然には敵わないな」と実感したものの、翌年開催に希望を繋げ、いつものように「また来年、よいお年を。」と言って会場をあとにした。
しかしそれからほんの2週間後の2024年1月1日、能登半島地震がおきてしまう。関東でも少し揺れはしたものの、ニュースを見るまで事の重大さは分からなかった。
実際に能登半島へ行った事がある人はお分かりだろうが、同じ石川県でも半島の先(能登)と金沢市近辺(加賀)では文化の違いがあり、また物理的にも金沢市と輪島市は100km以上の距離がある。甚大な被害を受けた珠洲市はさらに先だ。
今回の地震はこのような能登半島の地形もあって、復旧にもまだまだ時間がかかり、作業も手こずっている現状がある。関東に住む私からすると、冬の厳しい寒さのなかの被災地の姿、そして暑い夏を迎えていまだに復旧作業が追いつかないなかの被災者の思い、両方とも想像する事すら難しく、ただただ無事に乗り切ってもらえるよう、祈る事しかできなかった。
そんな状況だから、今年9月のツール・ド・のとが開催されると聞いた時は耳を疑ってしまった。それと同時にツール・ド・のとの存在意義も考えさせられた。大事なことは文化や伝統を守り続けること。開催が難しいなら、できることを続けていく努力。そうやって40年近くもの長い間、能登路を舞台とするドラマは継続しているのだな、と。
実は私は、石川に行って被災地を目の当たりにする勇気すらなかった。しかし今年も大会を開催すると聞き「これはもう行くしかない」と思った。
試走会に参加して感じたもの
8月初旬の酷暑のさなか、地元サポートライダーが集結しコース試走を行った。雨に降られたり、灼熱の太陽が降り注いだが、サポートカーが付いて、細心の注意を払いつつ行われた。
被災地とサイクリストの思いの板挟みになっているサポートライダーたち。大会開催を決断したツールドのと実行委員会の方々。試走に集まってくださったスタッフの数だけ思いがあった。しかし一つだけ一致していたのは、どんな形であれ大会を継続させたいという強い思いだった。
復興というよりは復旧が急がれる能登。実際に走ってみると、被災箇所の道路は傾き、家屋は全壊し、土地は隆起したり陥没してしまっていた。
反面、能登の美しい景色や大自然、風土という側面からみると、いつもの大好きな能登と何も変わらなかった。実際に走ってみて、やはり今年もたくさんのサイクリストとツール・ド・のとというイベントを共有したい、と改めて感じた。
今年参加される皆様へ
今年のツール・ド・のとはワンデイイベントでの開催となる。往復約150kmのフルコース、約70kmのハーフコースから選べる。コースは平坦な道がほとんどで、スポーツバイクが安全に走れる道をチョイス。お楽しみのなぎさドライブウェイもコースに取り込まれ、綺麗な海岸線や田園風景、古い街並みの中を走れる。また例年通り、各地域に設けられたエイドステーションでのおもてなしが受けられます。
今年参加される方は、アップダウンが少ないぶん、ロードバイクを始めたばかりの方と、ご家族・友人との思い出づくりに。ツール・ド・のとと金沢観光を両方楽しむなど、ぜひ今年しかできない楽しみ方で石川県を満喫して欲しいと思います。そして楽しみながらも能登の置かれている状況に思いを馳せてください。
イベント自体はブラッシュアップを繰り返し、これからも能登の復興と共に歩んでいく。ツール・ド・のとがこれまでと変わらず存在する傍ら、能登復興と共に発展し、変化変容する様も見守り続けたい。
参加者は募集中だが、1日コース(約150km)はすでに定員に達したため、受付を終了。ハーフコースは引き続き参加受付中です。応募締切は8月26日です。ぜひ能登でお会いしましょう。
ツール・ド・のと2023大会映像 (制作:ツールドのと実行委員会)
text : 唐見実世子
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