その走りは圧巻の一言。モナコからニースを結ぶ33.7km個人タイムトライアルで争われたツール・ド・フランス最終日で、タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)がステージ6勝をマーク。3年振り3度目の総合優勝と共に、1998年以来となるジロ・デ・イタリアとのダブルツールを達成した。



7月21日(日)第21ステージ
モナコ〜ニース 33.7km(個人タイムトライアル)


第111回ツール・ド・フランスの終着地点となったニース photo:CorVos

第21ステージ モナコ〜ニース 33.7km(個人タイムトライアル) image:A.S.O.

ツール・ド・フランス史上初となる「パリ以外でのフィナーレ」に選ばれたのはヨーロッパ屈指のリゾート地ニース。それもパレード走行を含む平坦ステージではなく、グレッグ・レモン(アメリカ)が総合大逆転を飾った1989年以来となる個人タイムトライアルだ。

33.7kmコースのスタート地点はタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)など多くのスター選手が居を構えるモナコ。序盤の平坦路はわずか3kmで終わり、いきなり2級山岳(距離8km/平均5.8%)を登坂する。短い下りを挟んでからパリ〜ニースでお馴染みのエズ峠(距離1.6km/平均8.1%)を駆け上がり、最後はニースのフィニッシュ地点まで下りと平坦路が続くレイアウトだ。

総合成績が最下位のダヴィデ・バッレリーニ(イタリア、アスタナ・カザクスタン)から1分半の間隔で140名の選手たちがスタート(総合71位以降は2分間隔)。2番目には前日の山岳ステージを制限時間内にフィニッシュし、大粒の涙を流したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザクスタン)が走り出し、大歓声を受けながら最後のツールを走り終えた。

現役最後のツールを走りきったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザクスタン) photo:CorVos

登り区間を進むヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー、ロット・デスティニー) photo:CorVos
今年限りで現役を引退するシモン・ゲシュケ(ドイツ、コフィディス) photo:CorVos


序盤スタート組で好タイムを出したのはレニー・マルティネス(フランス、グルパマFDJ)。マイヨブラン(ヤングライダー賞ジャージ)の候補に挙げられながらも初日から遅れ、なんとか最終日にたどり着いた21歳は得意の登りで飛ばし、48分24秒のトップタイムをマークする。その後は区間3勝&マイヨヴェール(ポイント賞ジャージ)を確定させたビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ)など、今大会を盛り上げた選手たちが続々とフィニッシュした。

マルティネスからホットシートを奪う選手はその後1時間以上現れず、67番手のアロルド・テハダ(コロンビア、アスタナ・カザクスタン)がようやく10秒更新。そのタイムには、手首を骨折しながら完走したニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)やカンタン・パシェ(フランス、グルパマFDJ)も届かない。パリ五輪の個人TT(7月27日)に出場予定のワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)は調子を整えるようなスローペースでフィニッシュし、いよいよ総合上位陣に出番が回ってきた。

2級山岳(距離8km/平均5.8%)頂上に設定された第1中間計測(11.2km)のトップタイムを更新したのは、総合9位のデレク・ジー(カナダ、イスラエル・プレミアテック)。ツールデビューで総合エースを任されたジーは第2中間計測(17.1km)も最速で通過し、テハダのタイムを19秒更新。最終的に区間6位で総合トップ10入り(総合9位)を果たした。

マイヨヴェールを確定させたビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ) photo:CorVos

踏み込むことはせず、パリ五輪に繋げる走りに徹したワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos
マイヨアポワ(山岳賞)と総合敢闘賞に輝いたリチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:CorVos


コーナーで落車しながらも、区間4位に入ったマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

続く総合8位のマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク)はコーナーで落車しながらも素早いリカバリーでジーを上回るタイムをマーク(47分32秒)する。このタイムにはアダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ)やミケル・ランダ(スペイン、スーダル・クイックステップ)など総合上位陣は届かず、またジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)も10秒及ばない。

そして現地時間の午後18時41分、現個人TT世界チャンピオンであるレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)が走り出す。フロント60-44T、リア11-34Tを回すエヴェネプールは第1計測でジーの最速タイムを36秒更新。第2計測では46秒上回り、ベルギー代表としてパリ五輪の個人TTに出場するエヴェネプールは平均スピードを43km/hに乗せる、46分38秒を叩き出した。

しかしフィニッシュ直後に涙を流した世界王者はホットシートに座ることなく、その後スタートした2人によって最速タイムは塗り替えられた。

ステージ3位:レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos

ステージ2位:ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

ステージ1位:タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

総合2位を守るべく序盤から飛したヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)は、フロント56T×リア11-33Tのギアを使い第1計測をエヴェネプールよりも19秒早く通過する。その差は第2計測で27秒まで拡がり、下りコーナーでヒヤッとさせるシーンもありながら世界王者より11秒早い46分27秒でフィニッシュ。だが、このタイムをマイヨジョーヌが圧倒的なタイムで上回った。

最終出走者として走り出したポガチャル(フロント60-46T、リア11-34T)は序盤から力強くペダルを踏み込む。F1のモナコグランプリで知られるオートモービルクラブをスタートしたポガチャルは「最初の登りから調子が良かった」と言う通り、2級山岳の頂上でヴィンゲゴーのタイムを7秒更新。「(パートナーで自転車選手である)ウルシュカ(ジガート)が嫌がるほど何度も試走した」と語るコースで、ポガチャルはヴィンゲゴーとのタイム差を拡げていき大観衆の待つニースに到着。

身体の後ろでピースサインを作り、最終ストレートでは両手を拡げてガッツポーズをする余裕を見せながらトップタイムを1分3秒更新する、45分25秒でフィニッシュ。21日間走り続けてきたとは思えない圧巻の走りで、今大会6勝目を手に入れた。

第1計測地点からトップタイムを出し、区間6勝目を手に入れたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

悠々とフィニッシュ地点にやってきたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

待っていたチームメイトたちとステージ優勝と総合優勝を喜ぶタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

レース直後のインタビューに「ツールで2年に渡る厳しい時期を越え、この結果には言葉がないほど嬉しいよ」と答えたポガチャル。2021年以来となる自身3度目の総合優勝に加え、マルコ・パンターニ(イタリア)が達成した1998年以来となるジロ・デ・イタリアとのダブルツールを達成した。

「ジロですらバッドデイがあったのに、グランツールで初めて全ステージで自信を持って走ることができた。ジロでの総合優勝が”ツールで結果を残せなかった時の保険”だと思った人もいただろう。もちろんツールで勝てなくてもジロだけで十分嬉しいが、連続してツールを勝つのはレベルが違うこと。本当に嬉しいし誇りに思う。この後の目標はアルカンシエルを着ること。(現世界王者である)ファンデルプールを倒すのは難しいだろうが、まだ時間があるのでこれから準備するよ」。

またビッグフォーと呼ばれた今大会の総合争いについて、「総合争いで言えば自転車ロードレース史上、いまが最高の時代だと言うことができる。レムコ(エヴェネプール)とヨナス(ヴィンゲゴー)、プリモシュ(ログリッチ)による争いに若手選手も台頭してきている。本当に素晴らしい時代であると思っている」と語った。

2024年ツール・ド・フランス総合表彰台:2位ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)、1位タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)、3位レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos

区間2位のヴィンゲゴーは総合2位を守り、エヴェネプールはツールデビューながらマイヨブラン(ヤングライダー賞)獲得に加え、ベルギー人として14年振りとなる総合表彰台(総合3位)に上がった。そしてマイヨヴェールはギルマイが獲得し、マイヨアポワ(山岳賞)を手に入れたリチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト)は総合敢闘賞にも選ばれている。

6月29日にイタリア・フィレンツェをスタートしてニースにたどり着いた141名の選手たち。シャンゼリゼではなく、地中海を臨むニースの表彰台で選手たちを称えるセレモニーが行われ、、21日間に及ぶ第111回ツール・ド・フランスの幕が下りた。

21日間に渡る戦いが終わった第111回ツール・ド・フランス photo:CorVos

ツール・ド・フランス2024第21ステージ
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 45:25
2位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) +1:03
3位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) +1:14
4位 マッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) +2:08
5位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +2:18
6位 デレク・ジー(カナダ、イスラエル・プレミアテック) +2:31
7位 ミケル・ランダ(スペイン、スーダル・クイックステップ) +2:41
8位 アロルド・テハダ(コロンビア、アスタナ・カザクスタン) +2:50
9位 サンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア、バーレーン・ヴィクトリアス) +2:53
10位 アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) +2:56
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 83:38:56
2位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) +6:17
3位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) +9:18
4位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +19:03
5位 ミケル・ランダ(スペイン、スーダル・クイックステップ) +20:06
6位 アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) +24:07
7位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +25:04
8位 マッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) +26:34
9位 デレク・ジー(カナダ、イスラエル・プレミアテック) +27:21
10位 サンティアゴ・ブイトラゴ(コロンビア、バーレーン・ヴィクトリアス) +29:03
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ) 387pts
2位 ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) 354pts
3位 ブライアン・コカール(フランス、コフィディス) 208pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 リチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト) 127pts
2位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 102pts
3位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) 70pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) 83:48:14
2位 カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) +15:46
3位 マッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) +17:16
チーム総合成績
1位 UAEチームエミレーツ 251:36:43
2位 ヴィスマ・リースアバイク +31:51
3位 スーダル・クイックステップ +1:33:06
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos, A.S.O.

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