5月29日、パリ五輪のトラック種目代表候補選手の記者発表会が、静岡県伊豆市の日本競輪選手養成所で催された。リザーブ2名を含む男女計15名の選手と出場種目が発表され、メダル獲得可能性の高い短距離種目に重点を置く構成が明らかになった。パリ五輪出場枠についての解説とあわせてレポートする。



多くの報道陣が集まった記者発表会 photo:Satoru Kato

7月26日に開幕するパリ五輪に出場するトラック種目の代表候補選手が発表された。記者発表会の会場となった日本競輪選手養成所の講堂には、テレビ局や新聞社など多くの報道機関が集まった。

代表候補となる選手は以下表の通り。短距離種目は東京五輪から世代交代し、BMX代表としてリオデジャネイロ、東京と2大会出場した長迫吉拓以外は五輪初出場。中距離種目では梶原悠未、窪木一茂、橋本英也ら五輪経験者3名が揃う一方、女子は内野艶和、垣田真穂、池田瑞紀ら東京五輪後に力をつけた若手選手が加わり、男子は東京五輪リザーブ選手だった今村駿介が正選手として出場を果たす。

怪我や故障を乗り越えて金メダルを目指すと言う梶原悠未 photo:Satoru Kato
2度目の五輪は3種目に出場する窪木一茂 photo:Satoru Kato


五輪期間中に20歳の誕生日を迎えるという池田瑞紀 photo:Satoru Kato
パリ五輪トラック代表中最年少の19歳で出場する垣田真穂 photo:Satoru Kato


併せて、出場種目も発表された。銀メダリストの梶原が東京五輪に引き続きオムニアムに出場し、マディソンは内野・垣田のペアで出場。窪木は中距離3種目全てに出場する一方、チームパーシュートは、窪木、橋本、今村と、中野慎詞の4名で出場することが発表された。
パリ五輪代表候補選手
氏名(所属) 五輪出場種目
短距離・男子
太田海也(チーム楽天Kドリームス/日本競輪選手会) チームスプリント、ケイリン、スプリント
小原佑太(チーム楽天Kドリームス/日本競輪選手会) チームスプリント、スプリント
長迫吉拓(チームブリヂストンサイクリング) チームスプリント
中野慎詞(チーム楽天Kドリームス/日本競輪選手会) チームパーシュート、ケイリン
短距離・女子
太田りゆ(チームブリヂストンサイクリング/日本競輪選手会) ケイリン、スプリント
佐藤水菜(チーム楽天Kドリームス/日本競輪選手会) ケイリン、スプリント
中距離・男子
今村駿介(チームブリヂストンサイクリング) チームパーシュート
窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング/日本競輪選手会) チームパーシュート、マディソン、オムニアム
橋本英也(チームブリヂストンサイクリング/日本競輪選手会) チームパーシュート、マディソン
中距離・女子
池田瑞紀(チーム楽天Kドリームス/早稲田大学) チームパーシュート
内野艶和(チーム楽天Kドリームス/日本競輪選手会) チームパーシュート、マディソン
垣田真穂(チーム楽天Kドリームス/早稲田大学) チームパーシュート、マディソン
梶原悠未(TEAM Yumi、東京五輪オムニアム代表) チームパーシュート、オムニアム
リザーブ
松田祥位(チームブリヂストンサイクリング)
梅川風子(チーム楽天Kドリームス/日本競輪選手会)
HPCJCテクニカルディレクターのブノワ・べトゥ氏 photo:Satoru Kato

発表会の席上で、トラックのナショナルチームを統括するハイパフォーマンスセンター(HPCJC)テクニカルディレクターのブノワ・べトゥ氏は、「我々のプロジェクトは2016年に始まり、東京五輪を経てパリ五輪に向け高いポテンシャルを持つ選手が集まった。中距離はクレイグ・グリフィン監督から現在のダニエル・ギジガー監督にに代わって次の一歩を踏み出し、短距離はジェイソン・ニブレット監督が新しいチームを創り上げた。中距離も短距離も世界のトップと戦えるだけの力を持っており、私はこのチームを誇りに思う」と述べた。

一方で、チームパーシュートのメンバーが変則的な構成となることについては、「世界的に決められた五輪出場枠のルールに従い、メダル獲得の可能性がある短距離種目を重視した結果」と、理由を説明した。目標とするメダルの色や枚数について具体的言及は避けながらも、「世界ランキングを揺るがす可能性は十分ある」と、発表された代表メンバーについて自信を見せた。



メダルに近いのは短距離種目とは言うが・・・

男子チームパーシュートは、窪木、橋本、今村と、松田祥位、兒島直樹らによってパリ五輪出場枠を勝ち取った。が、今回の発表では松田をリザーブ選手とし、兒島は代表候補から外れ、代わって中野慎詞を加えてパリ五輪本番に臨むとされた。なぜこのような決定となったのか、まずは五輪の出場枠についておさらいしよう。

トラック種目の五輪出場枠は、チームスプリントやチームパーシュートの団体種目の出場権に連動して個人種目の出場枠が与えられる。東京五輪では短距離・中距離共に団体種目の出場枠を獲得出来なかったため、中距離は男女各1名ずつの出場にとどまった。女子オムニアムで梶原が銀メダル獲得という結果を残したものの、パリ五輪では団体種目の出場枠獲得は至上命題とされてきた。

ネイションズカップ第2戦で日本記録を更新した男子チームパシュート photo:JCF

世界選手権やネイションズカップ、アジア選手権を戦った結果、日本は男子チームスプリント、男女チームパーシュートで出場枠を獲得。同時に、短距離は男子のケイリン(2名)とスプリント(2名)、中距離は男女共にマディソン(1チーム2名)とオムニアム(1名)の出場枠を確保することが出来た。(パリ五輪出場枠についてはこちらの記事を参照)

しかし、ここで注意すべき点がある。

ふたつの団体種目出場枠を獲得した男子の出場可能人数は、チームスプリントの3名とチームパーシュートの4名をあわせた最大7名まで。連動して獲得した個人種目分の人数を増やすことは出来ず、団体種目に出場する選手のみが個人種目に出場できる。

加えて、短距離・中距離の選手の組み合わせは出場国の裁量に委ねられており、出場する団体種目に関わらず短距離種目と中距離種目をまたいでの出場が許される。チームパーシュートのメンバーとなった中野慎詞がケイリンに出場可能となるのは、このルールを利用したことによる。

メンバー決定は「苦渋の決断」とJCF選手強化スーパーバイザーの中野浩一氏 photo:Satoru Kato
中距離ヘッドコーチ ダニエル・ギジガー氏 photo:Satoru Kato


中距離ヘッドコーチのダニエル・ギジガー氏は、「チームパーシュートの出場枠を獲得出来たことは嬉しいが、メンバー選定には失望している。ここまで良い成績を出してきたから残念に思うが、このメンバーで頑張るしかない」と、今回の決定に不満を隠さない。

JCF選手強化スーパーバイザーでトラック部会長の中野浩一氏はこの決定について「苦渋の決断」と言う。ヘッドコーチのブノワ・べトゥ氏は「短距離と中距離をあわせて7名しか出場出来ないというルールに他の国も苦しめられている」と、ルールの不備を指摘。「しかしこの問題は東京五輪の時にはなかったことで、強豪国と同じ贅沢な悩みを持てるようになったということだ。中野慎詞が入ることでチームパーシュートのパフォーマンスが落ちるとは考えていない」と、付け加える。

チームパーシュート1走を務めてきた松田祥位はリザーブとして同行する photo:Satoru Kato
リザーブだった東京五輪を経てパリ出場を決めた今村駿介 photo:Satoru Kato


選手はどう思っているのか?チームパーシュートに出場する今村は「短距離の選手を入れて走ることは初めてなので、どうやっていくかはこれから詰めていく」と話し、窪木は「自分の役割は今までと同じで、誰よりも長く先頭を牽いて上位を目指すことに変わりはない。出場できなかった選手達の分もしっかり走りたい」と、一緒に戦ってきたチームメイトを気遣う。

この采配がどのような結果になるのか。答えは2ヶ月後に出る。


text&photo:Satoru Kato

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