2023/07/19(水) - 08:35
ツール第16ステージはマイヨジョーヌの行方を左右する22.4kmの個人TT。ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)がタデイ・ポガチャルを1分38秒の大差で下し、区間優勝と共に総合リードを大幅に拡大させた。
最後の休息日を終えた選手たちは、引き続きアルプス山脈を駆け巡る。大会唯一の個人タイムトライアルは22.4kmと短く(昨年は13.2km&40.7km)、コース断面図ではラストの登りが緩やかに見えるが、実際はTTバイクからノーマルバイクに乗り換えるほどの登坂TTだ。
パシーを出発した選手たちは約2kmの平坦路を進み、5つの鋭角コーナーを越えながら斜面を登っていく。その後はなだらかな下りを経て7.1km地点の第1中間計測地点を通過し、しばしの平坦路でスピードに乗った後、第2中間計測(16.1km地点)から2級山岳ドマンシー(距離2.5km/平均9.4%)に突入する。序盤から7.5%に達する登りはその1/3を過ぎて11%に跳ね上がり、その後も10%の勾配が続いていく。しかしその登りが終わってもそこは第3計測地点であり、フィニッシュ地点は1kmの平坦路を挟んで2km先の丘の上(勾配約6%)にある。
マイヨジョーヌの行方を大きく左右するであろうこの日は、左太もも負傷によりマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、モビスター)が棄権。気温が31度を超える暑さに加え、日本のような高い湿度のなか、総合順位が最下位のミケル・モルコフ(デンマーク、スーダル・クイックステップ)から順に156名がスタートを切った。
ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、DSM・フィルメニッヒ)など複数の選手が1つ目のコーナーで落車するなか、前日に今季限りでの引退を発表したドリース・デヴェナインス(ベルギー、スーダル・クイックステップ)が暫定トップタイムでフィニッシュ。それをチームメイトかつ下りで果敢に攻めたフランスTT王者レミ・カヴァニャ(スーダル・クイックステップ)が35分42秒で最速タイムを更新し、長らくホットシートに腰掛けた。
カヴァニャの走行時に見えた雨粒は姿を消し、出場選手の中でも少ないTTスペシャリストのシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)がスタートを切る。決して得意ではない山岳TTということもあり、キュングは2級山岳ドマンシーの麓でノーマルバイクに変え(グルパマFDJは全員がバイクチェンジを行った)登りで秒差を稼いだものの、カヴァニャには52秒及ばない。
そしてステージ優勝や総合優勝とは別軸で争われたのが、マイヨアポワ(山岳賞ジャージ)を巡る戦い。2級山岳ドマンシーの登坂タイムが良い順に山岳ポイント(最大5pts)が与えられるため、同ポイントで2位のニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)は平坦区間を捨てたノーマルバイク+ディスクホイールというセッティングでスタート。しかし登坂タイムは7分24秒と振るわず、その後スタートしたジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック)が総合上位勢よりも早い6分44秒のトップタイムで駆け上がり、マイヨアポワ保持に成功した。
1時間以上ホットシートに座っていたカヴァニャのタイムを最初に上回ったのは、ここまでトップ3に3度入りながらも勝利のないワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)。チームがサーヴェロと導き出した、塗装のない軽量TTバイクのまま(バイク交換をせずに)フィニッシュまで行く戦略を取った結果、カヴァニャのタイムを15秒上回る35分27秒で暫定トップに躍り出た。
そして気温が35度に達するなか、1分間隔が2分間隔になる総合トップ15名が続々とスタートを切る。昨年のジロ・デ・イタリアで個人TTで区間優勝を挙げているサイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー)が好タイムでフィニッシュし、その直後にスタートしたペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)もファンアールトに4秒まで迫る快走を披露。そしていよいよ、10秒差で総合2位につけるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)がスタートを切った。
心配されていた雨もなく、真っ白なマイヨブラン(ヤングライダー賞ジャージ)を纏うポガチャルは第1計測地点(7.1km)でトップタイムを25秒更新。しかし、2分遅れでスタートした最終出走者のヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)はそれを16秒上回るロケットスタートを見せた。
コンパクトなフォームで淡々と脚を回すポガチャルに対し、力いっぱいに踏み込みコーナーを果敢に攻めるヴィンゲゴー。2級山岳ドマンシーの麓にある第2計測(16.1km)でもその差は変わらないどころか31秒差まで拡大し、約10秒を要してノーマルバイクへと乗り換えたポガチャルが大観衆の登りを駆け上がる。
2分先にスタートした総合3位カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)の姿を捉えたポガチャルは「後半区間はイマイチだった」と語りながらも、ファンアールトを1分13秒上回る34分14秒でフィニッシュ。しかし、この記録をヴィンゲゴーが驚異的な走りによって更新した。
チームメイトのファンアールトと同じくTTバイクのまま登坂に入ったヴィンゲゴーは、本人も「ガーミン(サイクルコンピュータ)が壊れているのではないか?と疑うほど良い数値を表していた」と語るほど力強いペダリングで登坂。ドマンシーの頂上にある第3計測地点(18.9km)でポガチャルとの差を1分5秒まで拡げ、最終的に1分38秒の差をつけたヴィンゲゴーが、32分36秒という圧巻のタイムでフィニッシュした。
22.4kmのコースを平均時速39.2km/hのハイスピードで駆け抜けたポガチャルに対し、41.2km/hという別格な走りを披露したヴィンゲゴー。「素晴らしい気持ちと共に、驚いている自分もいる。平坦区間とコース序盤の登りを最速で駆け抜けたかった。その後は下りで脚を休め、最後の山岳でオールアウトするのが作戦だった。過去最高のタイムトライアルとなったよ。全てがこれ以上なく上手くいった結果だ」と区間優勝を果たしたヴィンゲゴーはそうレースを振り返り、また「僕を勝利へと導いてくれたチームに心からの感謝を伝えたい」と笑顔を見せた。
この結果、第2週目の終了時で10秒だったヴィンゲゴーとポガチャルの差は1分48秒まで拡大。超級山岳ラ・ロズ峠(距離28.1km/平均6%)が登場する翌日のクイーンステージについてヴィンゲゴーは「明日に向けて良い計画を立て、マイヨジョーヌを着る僕へのアタックに備えなければならない」と意気込みを語った。
一方のポガチャルは「タイム差を縮めることはもちろん、今日はマイヨジョーヌを着用することすら考えていた。だがこれが力を尽くした結果。明日のステージは何が起きても不思議ではないので、チーム一丸となり戦い続ける」とコメントしている。
また総合ではアダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ)が3分31秒遅れの区間9位に入り、ロドリゲスを逆転して総合3位に上がっている。
最後の休息日を終えた選手たちは、引き続きアルプス山脈を駆け巡る。大会唯一の個人タイムトライアルは22.4kmと短く(昨年は13.2km&40.7km)、コース断面図ではラストの登りが緩やかに見えるが、実際はTTバイクからノーマルバイクに乗り換えるほどの登坂TTだ。
パシーを出発した選手たちは約2kmの平坦路を進み、5つの鋭角コーナーを越えながら斜面を登っていく。その後はなだらかな下りを経て7.1km地点の第1中間計測地点を通過し、しばしの平坦路でスピードに乗った後、第2中間計測(16.1km地点)から2級山岳ドマンシー(距離2.5km/平均9.4%)に突入する。序盤から7.5%に達する登りはその1/3を過ぎて11%に跳ね上がり、その後も10%の勾配が続いていく。しかしその登りが終わってもそこは第3計測地点であり、フィニッシュ地点は1kmの平坦路を挟んで2km先の丘の上(勾配約6%)にある。
マイヨジョーヌの行方を大きく左右するであろうこの日は、左太もも負傷によりマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、モビスター)が棄権。気温が31度を超える暑さに加え、日本のような高い湿度のなか、総合順位が最下位のミケル・モルコフ(デンマーク、スーダル・クイックステップ)から順に156名がスタートを切った。
ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、DSM・フィルメニッヒ)など複数の選手が1つ目のコーナーで落車するなか、前日に今季限りでの引退を発表したドリース・デヴェナインス(ベルギー、スーダル・クイックステップ)が暫定トップタイムでフィニッシュ。それをチームメイトかつ下りで果敢に攻めたフランスTT王者レミ・カヴァニャ(スーダル・クイックステップ)が35分42秒で最速タイムを更新し、長らくホットシートに腰掛けた。
カヴァニャの走行時に見えた雨粒は姿を消し、出場選手の中でも少ないTTスペシャリストのシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)がスタートを切る。決して得意ではない山岳TTということもあり、キュングは2級山岳ドマンシーの麓でノーマルバイクに変え(グルパマFDJは全員がバイクチェンジを行った)登りで秒差を稼いだものの、カヴァニャには52秒及ばない。
そしてステージ優勝や総合優勝とは別軸で争われたのが、マイヨアポワ(山岳賞ジャージ)を巡る戦い。2級山岳ドマンシーの登坂タイムが良い順に山岳ポイント(最大5pts)が与えられるため、同ポイントで2位のニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)は平坦区間を捨てたノーマルバイク+ディスクホイールというセッティングでスタート。しかし登坂タイムは7分24秒と振るわず、その後スタートしたジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック)が総合上位勢よりも早い6分44秒のトップタイムで駆け上がり、マイヨアポワ保持に成功した。
1時間以上ホットシートに座っていたカヴァニャのタイムを最初に上回ったのは、ここまでトップ3に3度入りながらも勝利のないワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)。チームがサーヴェロと導き出した、塗装のない軽量TTバイクのまま(バイク交換をせずに)フィニッシュまで行く戦略を取った結果、カヴァニャのタイムを15秒上回る35分27秒で暫定トップに躍り出た。
そして気温が35度に達するなか、1分間隔が2分間隔になる総合トップ15名が続々とスタートを切る。昨年のジロ・デ・イタリアで個人TTで区間優勝を挙げているサイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー)が好タイムでフィニッシュし、その直後にスタートしたペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)もファンアールトに4秒まで迫る快走を披露。そしていよいよ、10秒差で総合2位につけるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)がスタートを切った。
心配されていた雨もなく、真っ白なマイヨブラン(ヤングライダー賞ジャージ)を纏うポガチャルは第1計測地点(7.1km)でトップタイムを25秒更新。しかし、2分遅れでスタートした最終出走者のヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)はそれを16秒上回るロケットスタートを見せた。
コンパクトなフォームで淡々と脚を回すポガチャルに対し、力いっぱいに踏み込みコーナーを果敢に攻めるヴィンゲゴー。2級山岳ドマンシーの麓にある第2計測(16.1km)でもその差は変わらないどころか31秒差まで拡大し、約10秒を要してノーマルバイクへと乗り換えたポガチャルが大観衆の登りを駆け上がる。
2分先にスタートした総合3位カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)の姿を捉えたポガチャルは「後半区間はイマイチだった」と語りながらも、ファンアールトを1分13秒上回る34分14秒でフィニッシュ。しかし、この記録をヴィンゲゴーが驚異的な走りによって更新した。
チームメイトのファンアールトと同じくTTバイクのまま登坂に入ったヴィンゲゴーは、本人も「ガーミン(サイクルコンピュータ)が壊れているのではないか?と疑うほど良い数値を表していた」と語るほど力強いペダリングで登坂。ドマンシーの頂上にある第3計測地点(18.9km)でポガチャルとの差を1分5秒まで拡げ、最終的に1分38秒の差をつけたヴィンゲゴーが、32分36秒という圧巻のタイムでフィニッシュした。
22.4kmのコースを平均時速39.2km/hのハイスピードで駆け抜けたポガチャルに対し、41.2km/hという別格な走りを披露したヴィンゲゴー。「素晴らしい気持ちと共に、驚いている自分もいる。平坦区間とコース序盤の登りを最速で駆け抜けたかった。その後は下りで脚を休め、最後の山岳でオールアウトするのが作戦だった。過去最高のタイムトライアルとなったよ。全てがこれ以上なく上手くいった結果だ」と区間優勝を果たしたヴィンゲゴーはそうレースを振り返り、また「僕を勝利へと導いてくれたチームに心からの感謝を伝えたい」と笑顔を見せた。
この結果、第2週目の終了時で10秒だったヴィンゲゴーとポガチャルの差は1分48秒まで拡大。超級山岳ラ・ロズ峠(距離28.1km/平均6%)が登場する翌日のクイーンステージについてヴィンゲゴーは「明日に向けて良い計画を立て、マイヨジョーヌを着る僕へのアタックに備えなければならない」と意気込みを語った。
一方のポガチャルは「タイム差を縮めることはもちろん、今日はマイヨジョーヌを着用することすら考えていた。だがこれが力を尽くした結果。明日のステージは何が起きても不思議ではないので、チーム一丸となり戦い続ける」とコメントしている。
また総合ではアダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ)が3分31秒遅れの区間9位に入り、ロドリゲスを逆転して総合3位に上がっている。
ツール・ド・フランス2023第16ステージ
1位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | 0:32:36 |
2位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | +1:38 |
3位 | ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) | +2:51 |
4位 | ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) | +2:55 |
5位 | サイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー) | +2:58 |
6位 | レミ・カヴァニャ(フランス、スーダル・クイックステップ) | +3:06 |
7位 | アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) | +3:12 |
8位 | マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) | +3:21 |
9位 | マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック) | +3:31 |
10位 | ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) |
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | 63:06:53 |
2位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | +1:48 |
3位 | アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) | +8:52 |
4位 | カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) | +8:57 |
5位 | ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) | +11:15 |
6位 | セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) | +12:56 |
7位 | ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) | +13:06 |
8位 | サイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー) | +13:46 |
9位 | ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) | +17:38 |
10位 | フェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン) | +18:19 |
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 | ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) | 323pts |
2位 | マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック) | 179pts |
3位 | ブライアン・コカール(フランス、コフィディス) | 178pts |
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 | ジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック) | 63pts |
2位 | ニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) | 58pts |
3位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | 57pts |
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | 63:08:41 |
2位 | カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) | +7:09 |
3位 | フェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン) | +16:31 |
チーム総合成績
1位 | ユンボ・ヴィスマ | 190:06:22 |
2位 | イネオス・グレナディアーズ | +9:42 |
3位 | UAEチームエミレーツ | +11:36 |
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos, A.S.O.
photo:CorVos, A.S.O.
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