アルゴン18待望の新型フラッグシップ・ロードレーサー"SUM PRO"をインプレッション。GALLIUMの軽量性と剛性、NITROGENのエアロ、KRYPTONの快適性全てが一つにまとめられた次世代オールラウンダーの実力に迫ろう。



アルゴン18 SUM PRO

レーシングバイクの素材がカーボンへ移り変わった時代、各社が軽量性と高い剛性の実現に腐心し、一方では造形の自由度を活かしたエアロを追求したバイクが数々開発され、プロトンには多種多様なフレームが溢れかえっていた。剛性と軽量性は高ければ高いほど良いという時代は流れ、性能に寄与する各性能が高次元でバランスよく融合したバイクの開発へシフトしていった。

近年の開発方向性のトレンドは軽量かつエアロ。グランツールに登場するようなヒルクライムでアドバンテージとなるような軽さを身につけながらも、集団からの逃げやスプリントでライダーを助けるエアロ性能を身につけたフレームがプロトンから求められている。カナダを拠点とするレーシングバイクブランドのアルゴン18では軽量バイクはGALLIUMシリーズ、エアロロードはNITROGENシリーズとして展開していたが、時代の要求はその2つを統合したバイクだ。

細身のシートステーが快適性を実現する
ワイドスタンスのフォークはカムテールデザインとされている
ヘッドチューブは短めだが、3Dヘッドパーツによってベアリング位置を自由に上下させられる



それらの開発で得た知見、エンデュランスレーサーKRYPTONの快適性、トラック強豪国オーストラリアやデンマークが採用するELECTRONで成熟しているエアロダイナミクスへのノウハウを用いて、アルゴン18は次世代バイクの開発に着手。2022年に全ての要素を積み重ねた"SUM"のローンチに至った。

SUMの開発にあたりアルゴン18はCFD解析でエアロダイナミクスを可能な限り高める作業を徹底的に行い、エアロロードのNITROGENと同等、GALLIUM PROよりも9%優れた空気抵抗値を実現。新世代のエアロ・オールラウンドレーサーに相応しい空力性能を備えたと言っても過言ではない。

アルゴン18がエアロを高めるために採用したアプローチは、現代のレーシングバイクには必須となったケーブルフル内装は当然のこと、風が真っ先に当たるヘッドチューブの造形を砂時計型とすること。ベアリングが収まる部分のみが張り出し、それ以外の部分を括れさせることで前方投影面積を低減。そしてエアロロードのようにチューブの前後幅が広いデザインが採用された。

SUMに詰め込まれた要素が数式として表現されている
ヘッドチューブ周りはインテグレーテッドデザインとされている


細めのカムテールデザインによって空力性能を向上させた
32mm幅のタイヤを飲み込むクリアランスだ



ダウンチューブの基本デザインはエアロロードの基本となったカムテール(楕円形の後端部を切り落とした"D"のような断面)としながらも、ヘッドチューブと接続する部分は砂時計型チューブが受けた風を乱さないように平面的な造形とされる。フォーククラウンを飲み込むような造形と合わせてエアロ向上に貢献している。

幅広なカムテールデザインかつ外側にフレアするフォークや、扁平形状のトップチューブなどエアロロードに用いられることが多い設計を採用しながらも、他にはないアルゴン18らしい独自の造形が実現されている点も魅力の一つだ。

細身のダウンチューブから滑らかに広がるボトムブラケットシェル
縦幅のあるチェーンステーによって高い剛性を実現する



エアロを煮詰めながらもオールラウンドレーサーとしての設計も忘れられてはおらず、各チューブはピュアなエアロロードと比較するとスリムなデザインが与えられている。そこに自社にラボを持つアルゴン18のカーボンレイアップ研究を反映させることで、エアロ、反応性を備えたまま重量を削ることに成功した。今回テストを行うトップグレードのSUM PROで850g、スタンダードモデルのSUMでも890gという軽量性を獲得している。

アルゴン18はエンデュランスレーサーのKRYPTONシリーズの開発ではクラシックレースに登場する石畳のセクションを再現する試験機を独自に用意するほど快適性の研究開発にも長けている。その知見を活かして設計が行われているため、厚さ10mmのシートステーなどが生み出す快適性、路面追従性はGALLIUM PROよりも30〜35%も進化を遂げた。もちろん推進力に影響する部分の性能はGALLIUM PROと同等に仕上げられているとアルゴン18は説明する。

ボトルケージ台座は3ボルト方式となっている
幅広のタイヤを装着してもエアロの恩恵を受けられる
シートポストもカムテールデザインが採用される



そしてSUMシリーズは2020年ツール・ド・フランスの決戦の場となった山岳「ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ」での走行シミュレーションが行われた。そのテストでは同条件下でGALLIUM PROとのタイム差の比較が行われており、SUMが75秒も早いタイムで先着する結果を得たとアルゴン18は説明する。

エアロ、剛性、軽量性、快適性のバランスが洗練されたアルゴン18の新型フラッグシップモデルSUM PROを、シクロワイアード編集部の磯部と高木がテストする。シミュレーションで素晴らしい結果を叩き出したSUM PROの実力やいかに。



ーインプレッション

「性能のバランスが高次元でまとめられたオールラウンドレーサー」磯部聡

「オールラウンドレーサーとして高いレベルで性能が実現されている」磯部聡(シクロワイアード編集部) photo: Kenta Onoguchi

このバイクをテストするのを楽しみにしていたんです。というのも2022年のジャパンカップに出場したノボノルディスクの選手全員がSUM PROに乗っていて、その時に選手と話した時に「エアロと軽量バイクの中間で、走りも良くなった」と言っていたんです。その当時はSUM PROの試乗車が日本に無くて、情報でしかこのバイクのことを知り得ず、選手からの印象が良いから気になっていました。

試乗車のサイズは自分にとって小さかったけど、それでも良いバイクと伝わるところが沢山ありました。そこで感じたものをまとめるとSUM PROはザ・レーサー、ザ・オールラウンダー。エアロを重視しすぎてない見た目はフレームは今の市場では貴重な存在ですが、その見た目に反して高いスピードを維持する巡航や加速が得意なんですよね。レーサーとしての性能バランスの良さと完成度の高さは乗ってみればすぐに実感できると思いますね。

特に感じられるのはフレーム剛性の高さ。レーシングバイクの中には薄いカーボン板を踏んでいるような感触のものがあったり、ボトムブラケット周辺のウィップを意図的に生み出しているフレームがある中で、フレーム全体が一つの塊のような高い剛性を備えています。だからフレームがウィップすることがなく踏み応えがしっかりとあって、パワーがダイレクトにホイールへと伝わって、ぐぐぐっと加速します。

「大きなパワーをかければバイクがゾーンに入る」磯部聡(シクロワイアード編集部) photo: Kenta Onoguchi

軽いギアで回しても十分に進むし、重いギアをトルクフルに踏み込んでも加速が素晴らしい。実際に乗ってみた感触としては意外とスプリントで活きるマシンだと思います。特にパワーがある人が乗って、パワーをかければかけるだけゾーンに入っていくのがわかります。使いこなすためにはレーサーがいいけど、当然体力が無かろうが、スキルが無かろうがその性能を味わうことはできますが、フレームから力が一切逃げないから考えなしに踏みまくると足が売り切れるまでは少し早いかもしれないです。

振動吸収性についてはリア周りが細かく衝撃をカットしてくれるのは感じられますよ。フレーム重量が850gだけど、セカンドグレードのSUMも890gと重量差が大きすぎないから、SUMの走行性能にも期待が持てますね。

アルゴン18は日本ではまだまだ知名度が上がっていく途上にあるけど、トラックのワールドカップを観てみると強豪国のオーストラリアやデンマークが採用していて、世界新記録も出しています。彼らからアルゴン18に伝えられるフィードバックは間違いなくロードにも良い影響を与えているでしょう。良いものを作っているのは間違いないし、乗ってみるとその性能の高さを感じることはできます。

最近はオールラウンダーでもエアロが加えられたものが続々と登場しているからそちらに目を奪われがちだけど、乗り味に癖がなくてニュートラルなフィーリングはライダーの意のままに操れる良さがある。そういうバイクを求めている人は少なくないから、オーソドックスな走りを求めている人のニーズには応えてくれるでしょう。

「なんでも出来るレーシングバイクとして、高次元の完成度を誇る一台」高木三千成

「なんでも出来るレーシングバイクとして、高次元の完成度を誇る一台」高木三千成(シクロワイアード編集部) photo: Kenta Onoguchi

This is レーシングバイク。といった乗り味で、個人的には非常に気に入りました。なんと言いますか、昔からロードレースをやっている人には特にしっくりくるんじゃないでしょうか。

最近のディスクロードは安定感の高いモデルが多いと感じているのですが、このバイクはハンドリングもクイックで、操作に対して素直に反応してくれます。非常にニュートラルな感覚で乗りこなせる一台ですね。

テストバイクがかなり攻めた組み方で、ハンドル幅も狭くてブラケットも内側に入っている、最近流行りのエアロなセッティングだったんです。バイクの性格も考慮して組まれていたのでしょうが、ダンシングなどは少しやりづらいですよね(笑)。

ただ、バイク自体は先ほども述べたように非常に素直で、ダンシングでバイクを振った時の感覚もニュートラル。変に倒しづらいこともなく、素直に車体が傾いてくれるし、戻ってきてくれます。

踏み込んだ時にはBB周辺が程よくウィップしてくれるのも好みです。剛性自体は高めなのですが、ガチガチに固めた味付けではないので、体重の軽いライダーでも自然にペダルを落としていけるようなスムーズなフィーリングが印象的でした。

「これぞレーシングバイクという乗り味」高木三千成(シクロワイアード編集部) photo: Kenta Onoguchi

適正サイズからはワンサイズ小さいバイクだったのですが、操作性も剛性感も自然に感じられるのは素晴らしいですよね。小さいサイズのバイクだと、どうしても破綻してしまう部分があるメーカーもありますが、その点アルゴン18は非常に上手いですね。

ヘッド剛性を下げずにハンドル位置を上げられる、独自の3Dヘッドの採用などからも察せられるように、ポジションをしっかりと出すことに並々ならぬこだわりがあるブランドなんだろうと思いますね。

登りではどんな踏み方でも応えてくれますし、平坦でももちろん気持ちよくスピードが乗っていきます。特に秀逸だと感じたのは、高速域での伸びですね。40km/hあたりから更にスプリントをかけて行くようなシーンで、思った以上に踏み込んでいける。空力の良さと剛性感の相乗効果が発揮されているのだと思います。

あと、降りてから驚いたのが乗り心地の良さですね。てっきりチューブレスタイヤを履いているのだとばかり思っていて、走り終えてから確認したらチューブドだったという。それくらい快適な乗り味なので、身体へのダメージも抑えてくれますし、路面へのトラクションという面でも優れた性能を発揮してくれるバイクです。

オールラウンドレーサーとして、死角がないバイクで、組み合わせるホイール次第でどんなコースにも対応できるでしょう。個人的には30mmハイトの軽量ホイールで登り重視のセッティングが楽しそうだと思いますが、40mmハイトで万能に組んでも良いですし、平坦が多ければ50~60mmというのも面白いでしょう。

ロードレースはもちろん、ヒルクライムにもぴったりでしょう。エアロ性能も高いので、富士ヒルクライムでゴールドやプラチナを狙う相棒としてももってこいだと思います。一方で、快適性も高いですから、ロングライドにだって連れ出したい。そんな、色んな使い方が出来るオールマイティーな1台でした。
アルゴン18 SUM PRO

アルゴン18 SUM PRO
カラー: CRYSTAL BLACK
サイズ:XXS、XS、S、M、L
フレーム重量:850g(Mサイズ)
ケーブル内装システム:FSA ACR、SMR、Ritchey Switch system、Deda DCR system、FSA SRS、Token S-Box system・Ritchey Logic-E 1,5 system
価格:732,600円(税込)



インプレッションライダーのプロフィール

磯部聡(シクロワイアード編集部)磯部聡(シクロワイアード編集部) 磯部聡(シクロワイアード編集部)

CWスタッフ歴12年、参加した海外ブランド発表会は20回超を数えるテック担当。ロードの、あるいはグラベルのダウンヒルを如何に速く、そしてスマートにこなすかを探求してやまない。ADHXのベースとなったAlpe d’Huezは国際発表会を通して知見を深めた。無類のルートビア好き。



高木三千成(シクロワイアード編集部)高木三千成(シクロワイアード編集部) 高木三千成(シクロワイアード編集部)

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。


text : Gakuto Fujiwara
photo : Kenta Onoguchi
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