2023/05/05(金) - 18:00
最高の一台を見つけたと、新車を買った人は言う。最後の一台にするからと、奥さんに宣言する。しかし、人の気持ちは移ろいやすい。特に毎年のように新機軸が打ち出されていくスポーツ用品の世界において、新鮮さはアッという間に薄れてしまう。それでも、あの日抱いた気持ちを貫きたい。そんなあなたにオススメの「カスタムペイント」へ、すっかりご無沙汰のあの男がチャレンジした。
「正直、ちょっと飽きてきたんだよ。今の自転車に」。コロナ禍に社会も慣れ、サイクリングイベントもほぼ以前と同じように動きだした2023年。なし崩し的に奪い取ったリモートワークの条件として突き付けられた、週イチ出社の日に告げられた言葉である。
誰に、というのは愚問だろう。こんなテイストの記事で、こんなちょっと脈絡のない科白を宣うのはそう、我らがメタボ会長しかいない。読者の皆さんにはとんとご無沙汰しているところだけれど、特に何か重々しい事情があったわけではない。ご心配は無用である。
記事にこそなっていないものの、気まぐれに編集部へ襲来しては無茶苦茶なことを言って去っていく。そんな日々は変わらず続いていた。日常、というものだ。週の大半においてその甚大な被害を受けずに済むリモートワークはまさに天祐であったのだが、その分、編集会議のある出社日が濃厚な1日になるのは仕方のないことである。
それにしても、飽きてきた、ときた。「E-BIKEは最高だ!これに乗らないサイクリストが信じられない!」とまで褒めちぎっていたスペシャライズドのCREO君に何の不満があるというのだろう。実際、私もいくつかのイベント取材で使わせてもらっているけれど、はっきり言って何の不満も無い、というよりも、今ではCREO無しでの実走取材なんて考えられないほどだ。
「CREOに何か不満が出てきたんですか?パーツでも替えてみては?」と少々投げやりに返答すると「いやいや、性能には満足してるんだよ。パーツもグラベルタイヤを履かせたし、サドルも快適仕様にしたしな。だけどずっと同じバイクに乗っていると、どうしても刺激が欲しくなってくるんだよ」と思ったよりも深刻にお悩みの様子。
「なるほど、では新しいE-BIKEを試してみますか?」と提案してみると、「いや〜最近やっと注文してたクルマが納車されたからキャッシュが少なくてな!もうちょっと手ごろに新鮮な気分を味わえる方法はないのか?大体君たちは自転車のプロだろ?最近は自転車の価格も高騰してきてなかなか新しいバイクを買えないと嘆いている人も多いというじゃないか。そういった人の為になる記事を書くべきじゃないのか。とにかく何か考えて、良い感じにしてくれよ。じゃあよろしく頼んだぞ!」と早口でまくしたて去っていくのであった。
「新車でもなく、パーツ交換でもなく、新鮮さを取り戻す方法か……誰か思いつく?」歩く天災が去っていった後、編集部に残されたのは重苦しい沈黙。「あのー、一つ思いついたんですが……」。おずおずといった様子で手を挙げたのは若手のエース、タカギである。「最近、自転車仲間が似たような経緯でフレームをリペイントしたんですが、とても喜んでましたよ。練習に来る頻度も増えて、モチベーションも上がってるみたいです」
「「「それだ!!!」」」
気に入ったバイクを装い新たに塗りなおす。確かにそれなら、新車購入よりはコストも抑えられるし、バイクの性能が変わる心配もない。そうと決まれば、あとは簡単である。早速、バイクのリペイントに定評のあるカーボンドライジャパンさんへ連絡だ。
かくかくしかじかで、E-BIKEの塗装をお願いできますか?という連絡に、「もちろん可能ですよ!」という返事が。なんともありがたいことである。しかし、続く「どんな色にしますか?」という質問に虚を突かれる。いや、正直なんでも良いんだけど……自分のバイクじゃないし……いや、自分のバイクじゃないからこそ、冒険できるのでは?
いっそのことめちゃくちゃ奇抜なカラーにすれば、大事な愛車の行く末を人に丸投げしたことを後悔し、これからは編集部員に無茶振りすることを悔い改めさせることが出来るのではないだろうか。ちょっとした好奇心と、積もりつもった復讐心が一体になり……「めちゃくちゃド派手で目立つ色にしちゃってください。メタリック……ピンク!!そう、ギラギラのメタリックピンクで!!」
「わかりました、ド派手に行きましょう!そういう遊び心がある依頼はやりがいがありますね!」と、こちらのドス黒い感情も露知らずCDJ TOKYOの村田店長は爽やかに請け合ってくれるのであった。こんな人の期待に応えないわけにはいかない。私も誠意をもって応えるべきだろう。「ぜひ、やりたい放題やっちゃってください!金に糸目はつけませんので!あ、請求書は編集部じゃなく、メタボ会長宛でお願いします……」
さて話がまとまったところで、バイクを送ることに。今回はCDJ TOKYOへ完成車状態のまま持ち込み、バラし作業からペイント、再組立てまでをお願いした。ペイント作業だけの時よりも解体/組立工賃が必要となるが、プロの手で作業してもらえるのであれば安心だ。
特に今回はバッテリー内蔵のミッドシップ型E-BIKEということもあり、モーターユニットや配線の取り外しと再組立てが必要となるので、正直なところ素人の手に負える作業ではない。CDJには熟練のスタッフが在籍しており、高難度の作業にも対応している。逆に言えば、普通のスポーツバイクであれば自分でフレームセットの状態にして持ち込むことでコストを抑えることも可能。メカニック作業が好きな人であれば、苦にはならないハズだ。
塗装に要する期間は工場のスケジュール次第。近年はオーダーも多く、時間がかかることもあるとのことで、出来ればオフシーズン中にお願いし気長に待つのが吉。ちなみに、オーダー前の打ち合わせでは塗装のカラーサンプルもしっかり確認できる。実際のカラーを見ればイメージも固まりやすいハズだ。
ちなみに今回はフレームとフォークを全塗装、自転車の解体/再組立、送料など諸々込で約30万円。決して安いとは言えない金額であるが、新車購入に比べれば圧倒的に安価であることは間違いない。ちなみに今回はメッキ調のペイントということで、通常カラーよりもちょっとお高めとのこと。
そして、運命の日はやってきた。「お待たせしました、自転車が出来上がりました!」と村田店長からの連絡を受け、いざ受け取りに。人の愛車を独断でペイントした分際ではあるが、なんだかんだでワクワクしつつCDJ TOKYOへハイエースを走らせる。
そして、店内で待ち受けていたのは、まばゆい輝きを放つ新生CREO君。「いや、普通にカッコいいじゃないですか……」。思わずそんな言葉が漏れてしまうほど、奥行きのあるメタリックピンクがボリューム感のあるCREOの車体に映えている。いや、もうちょっとこう持ち主の品性に相応しい感じの、ドギツいイメージを想像していたのだけれど、悔しいかな、素直に良い感じである。発注者の邪な気持ちを意に介せず、素晴らしい職人技を見せていただきました。脱帽です。
さて、それでは持ち主にお披露目である。ここまで、ダマで進めてきただけに緊張の一瞬だ。「なんてことしてくれたんだ!」とブチのギーレェでもおかしくはない(いや、ある意味それは狙い通りではあるのだが)。「会長、お待たせしました。これが"編集部"の答えです」。さりげなく連帯責任を強調しつつ、CREO君(ver.メタリックピンク)を差し出す。さて、どうなるか。
「おおお、これはスゴイな!これまで黄色か黒のバイクが多かったから、ピンクってのは確かに新鮮だな!しかもこのメタリックが良いじゃないか。まるでアルマイトだな!塗装でこの輝きを出すのは大変だったんじゃないか?」
なんと、予想以上の好反応である。「いえいえ、会長のイメージを"私"なりに考え抜いた結果です」と、功績になりそうな気配を敏感に察知し、個人プレーであることを強調。「したごころあふれ……いや、親しみやすい会長のイメージにこのメタリックピンクはピッタリかと。イベント会場でもこのバイクであればこれまでよりも読者の皆さんが話すきっかけにもなるでしょう」と、深謀遠慮を覗かせる。いやぁ、デキる社員はツライっすわー。
「なるほど、よく考えてくれているじゃないか。ちなみにいくらかかったんだ?」となおも上機嫌。こちらもつられて調子よく「いやぁほんの30万円ですよ、新車を買うのに比べれば激安ですよね!」と返す。
「なるほど、それは確かに安いな!じゃあ、よく考えてくれた礼に半分は俺のポケットマネーで払ってやるよ!残り半分はボーナスで相殺しておくから、安心していいぞ!」
「え……?」あまりの衝撃に目の前が暗くなる。「そ、それはどういう……?」
「何を言っているんだい?事前に相談も稟議も無く、こんな金額を動かす権限がキミにあるわけないだろう?そもそも、色も含めて、途中の経過だってなにも報告しなかったじゃないか。社会人失格ダゾ!まあ、CDJさんのペイントの出来に免じてあんまりうるさいことは言わないが、仕事の進め方としてあり得ないということは肝に銘じておくんだな!次は全額自腹だから気をつけろよ!あ、あとこの案件にかかった時間はキミの有給から消化しておくからな!」
急転直下の事態を飲み込み切れず、ガクリと頽れる私を残し、無慈悲な暴君は輝くバイクに跨り意気揚々と走り去っていくのだった。
「正直、ちょっと飽きてきたんだよ。今の自転車に」。コロナ禍に社会も慣れ、サイクリングイベントもほぼ以前と同じように動きだした2023年。なし崩し的に奪い取ったリモートワークの条件として突き付けられた、週イチ出社の日に告げられた言葉である。
誰に、というのは愚問だろう。こんなテイストの記事で、こんなちょっと脈絡のない科白を宣うのはそう、我らがメタボ会長しかいない。読者の皆さんにはとんとご無沙汰しているところだけれど、特に何か重々しい事情があったわけではない。ご心配は無用である。
記事にこそなっていないものの、気まぐれに編集部へ襲来しては無茶苦茶なことを言って去っていく。そんな日々は変わらず続いていた。日常、というものだ。週の大半においてその甚大な被害を受けずに済むリモートワークはまさに天祐であったのだが、その分、編集会議のある出社日が濃厚な1日になるのは仕方のないことである。
それにしても、飽きてきた、ときた。「E-BIKEは最高だ!これに乗らないサイクリストが信じられない!」とまで褒めちぎっていたスペシャライズドのCREO君に何の不満があるというのだろう。実際、私もいくつかのイベント取材で使わせてもらっているけれど、はっきり言って何の不満も無い、というよりも、今ではCREO無しでの実走取材なんて考えられないほどだ。
「CREOに何か不満が出てきたんですか?パーツでも替えてみては?」と少々投げやりに返答すると「いやいや、性能には満足してるんだよ。パーツもグラベルタイヤを履かせたし、サドルも快適仕様にしたしな。だけどずっと同じバイクに乗っていると、どうしても刺激が欲しくなってくるんだよ」と思ったよりも深刻にお悩みの様子。
「なるほど、では新しいE-BIKEを試してみますか?」と提案してみると、「いや〜最近やっと注文してたクルマが納車されたからキャッシュが少なくてな!もうちょっと手ごろに新鮮な気分を味わえる方法はないのか?大体君たちは自転車のプロだろ?最近は自転車の価格も高騰してきてなかなか新しいバイクを買えないと嘆いている人も多いというじゃないか。そういった人の為になる記事を書くべきじゃないのか。とにかく何か考えて、良い感じにしてくれよ。じゃあよろしく頼んだぞ!」と早口でまくしたて去っていくのであった。
「新車でもなく、パーツ交換でもなく、新鮮さを取り戻す方法か……誰か思いつく?」歩く天災が去っていった後、編集部に残されたのは重苦しい沈黙。「あのー、一つ思いついたんですが……」。おずおずといった様子で手を挙げたのは若手のエース、タカギである。「最近、自転車仲間が似たような経緯でフレームをリペイントしたんですが、とても喜んでましたよ。練習に来る頻度も増えて、モチベーションも上がってるみたいです」
「「「それだ!!!」」」
気に入ったバイクを装い新たに塗りなおす。確かにそれなら、新車購入よりはコストも抑えられるし、バイクの性能が変わる心配もない。そうと決まれば、あとは簡単である。早速、バイクのリペイントに定評のあるカーボンドライジャパンさんへ連絡だ。
かくかくしかじかで、E-BIKEの塗装をお願いできますか?という連絡に、「もちろん可能ですよ!」という返事が。なんともありがたいことである。しかし、続く「どんな色にしますか?」という質問に虚を突かれる。いや、正直なんでも良いんだけど……自分のバイクじゃないし……いや、自分のバイクじゃないからこそ、冒険できるのでは?
いっそのことめちゃくちゃ奇抜なカラーにすれば、大事な愛車の行く末を人に丸投げしたことを後悔し、これからは編集部員に無茶振りすることを悔い改めさせることが出来るのではないだろうか。ちょっとした好奇心と、積もりつもった復讐心が一体になり……「めちゃくちゃド派手で目立つ色にしちゃってください。メタリック……ピンク!!そう、ギラギラのメタリックピンクで!!」
「わかりました、ド派手に行きましょう!そういう遊び心がある依頼はやりがいがありますね!」と、こちらのドス黒い感情も露知らずCDJ TOKYOの村田店長は爽やかに請け合ってくれるのであった。こんな人の期待に応えないわけにはいかない。私も誠意をもって応えるべきだろう。「ぜひ、やりたい放題やっちゃってください!金に糸目はつけませんので!あ、請求書は編集部じゃなく、メタボ会長宛でお願いします……」
さて話がまとまったところで、バイクを送ることに。今回はCDJ TOKYOへ完成車状態のまま持ち込み、バラし作業からペイント、再組立てまでをお願いした。ペイント作業だけの時よりも解体/組立工賃が必要となるが、プロの手で作業してもらえるのであれば安心だ。
特に今回はバッテリー内蔵のミッドシップ型E-BIKEということもあり、モーターユニットや配線の取り外しと再組立てが必要となるので、正直なところ素人の手に負える作業ではない。CDJには熟練のスタッフが在籍しており、高難度の作業にも対応している。逆に言えば、普通のスポーツバイクであれば自分でフレームセットの状態にして持ち込むことでコストを抑えることも可能。メカニック作業が好きな人であれば、苦にはならないハズだ。
塗装に要する期間は工場のスケジュール次第。近年はオーダーも多く、時間がかかることもあるとのことで、出来ればオフシーズン中にお願いし気長に待つのが吉。ちなみに、オーダー前の打ち合わせでは塗装のカラーサンプルもしっかり確認できる。実際のカラーを見ればイメージも固まりやすいハズだ。
ちなみに今回はフレームとフォークを全塗装、自転車の解体/再組立、送料など諸々込で約30万円。決して安いとは言えない金額であるが、新車購入に比べれば圧倒的に安価であることは間違いない。ちなみに今回はメッキ調のペイントということで、通常カラーよりもちょっとお高めとのこと。
そして、運命の日はやってきた。「お待たせしました、自転車が出来上がりました!」と村田店長からの連絡を受け、いざ受け取りに。人の愛車を独断でペイントした分際ではあるが、なんだかんだでワクワクしつつCDJ TOKYOへハイエースを走らせる。
そして、店内で待ち受けていたのは、まばゆい輝きを放つ新生CREO君。「いや、普通にカッコいいじゃないですか……」。思わずそんな言葉が漏れてしまうほど、奥行きのあるメタリックピンクがボリューム感のあるCREOの車体に映えている。いや、もうちょっとこう持ち主の品性に相応しい感じの、ドギツいイメージを想像していたのだけれど、悔しいかな、素直に良い感じである。発注者の邪な気持ちを意に介せず、素晴らしい職人技を見せていただきました。脱帽です。
さて、それでは持ち主にお披露目である。ここまで、ダマで進めてきただけに緊張の一瞬だ。「なんてことしてくれたんだ!」とブチのギーレェでもおかしくはない(いや、ある意味それは狙い通りではあるのだが)。「会長、お待たせしました。これが"編集部"の答えです」。さりげなく連帯責任を強調しつつ、CREO君(ver.メタリックピンク)を差し出す。さて、どうなるか。
「おおお、これはスゴイな!これまで黄色か黒のバイクが多かったから、ピンクってのは確かに新鮮だな!しかもこのメタリックが良いじゃないか。まるでアルマイトだな!塗装でこの輝きを出すのは大変だったんじゃないか?」
なんと、予想以上の好反応である。「いえいえ、会長のイメージを"私"なりに考え抜いた結果です」と、功績になりそうな気配を敏感に察知し、個人プレーであることを強調。「したごころあふれ……いや、親しみやすい会長のイメージにこのメタリックピンクはピッタリかと。イベント会場でもこのバイクであればこれまでよりも読者の皆さんが話すきっかけにもなるでしょう」と、深謀遠慮を覗かせる。いやぁ、デキる社員はツライっすわー。
「なるほど、よく考えてくれているじゃないか。ちなみにいくらかかったんだ?」となおも上機嫌。こちらもつられて調子よく「いやぁほんの30万円ですよ、新車を買うのに比べれば激安ですよね!」と返す。
「なるほど、それは確かに安いな!じゃあ、よく考えてくれた礼に半分は俺のポケットマネーで払ってやるよ!残り半分はボーナスで相殺しておくから、安心していいぞ!」
「え……?」あまりの衝撃に目の前が暗くなる。「そ、それはどういう……?」
「何を言っているんだい?事前に相談も稟議も無く、こんな金額を動かす権限がキミにあるわけないだろう?そもそも、色も含めて、途中の経過だってなにも報告しなかったじゃないか。社会人失格ダゾ!まあ、CDJさんのペイントの出来に免じてあんまりうるさいことは言わないが、仕事の進め方としてあり得ないということは肝に銘じておくんだな!次は全額自腹だから気をつけろよ!あ、あとこの案件にかかった時間はキミの有給から消化しておくからな!」
急転直下の事態を飲み込み切れず、ガクリと頽れる私を残し、無慈悲な暴君は輝くバイクに跨り意気揚々と走り去っていくのだった。
リンク
Amazon.co.jp