昨年E3のデジャヴ。ロンドを1週間後に控えた前哨戦ヘント〜ウェヴェルヘムで、クリストフ・ラポルト(フランス)とワウト・ファンアールト(ベルギー)が50kmに及ぶ逃げを決めてフィニッシュ。ラポルトが初優勝を飾った。



スタート地点である戦争記念碑「メニン門」 photo:CorVos

モニュメントの一つであるロンド・ファン・フラーンデレンを1週間後に控えた3月26日(日)、ベルギーのフランドル地方ではヘント〜ウェヴェルヘム(UCIワールドツアー)が開催。1934年にスタートし、ロンドを除いて最も格式高い石畳セミクラシックと呼ばれている。

生活道路や農道を組み合わせたコース全長は昨年よりも12.1km長い260.9kmで、先述したモニュメント以外では最長距離。コース後半は9箇所の急坂と3つの未舗装路が組み込まれており、後半の34kmは平坦路だが、連続する登坂区間で集団が選別されるため大集団によるスプリントに持ち込まれるのは稀。一昨年は7名、昨年は4名によるスプリントをビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)が制した。

冷たい雨の降るイーペルのスタート地点に集ったのは、体調不良で直前で出走を取りやめたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザフスタン)を除く選手たち。その中には前回覇者ギルマイはもちろん、2日前のE3サクソバンク・クラシックを制し勢いに乗るワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)も含まれ、アルノー・デリー(ベルギー、ロット・デスティニー)やマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)などクラシックレーサーよりもスプリンターに近い脚質の選手たちが目立った。

第1次世界大戦の戦地を通過するヘント〜ウェヴェルヘム photo:CorVos

グレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、AG2Rシトロエン)も含む14名が逃げグループを形成 photo:CorVos

イープル市街中心部にある、第一次世界大戦で戦死した兵士を弔う戦争記念碑「メニン門」でスタートが切られ、アクチュアルスタート直後に飛び出したルイス・アスキー(イギリス、グルパマFDJ)が逃げ集団を形成。遅れて2017年大会の優勝者であるグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、AG2Rシトロエン)らが合流し、14名が逃げ体制に持ち込んだ。

それを追うメイン集団はイネオス・グレナディアーズやUAEチームエミレーツがコントロールしたものの、路面を濡らし視界を遮る雨に落車が多発。その中には前回覇者ギルマイも巻き込まれ、同じく落車したミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)やサム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)らがレースを去った。

優勝候補の一人フィリッポ・ガンナ(イタリア、イネオス・グレナディアーズ)も落車でリタイアした photo:CorVos

マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)が先頭集団に合流 photo:CorVos

この日3度登る最大勾配20%のケンメルベルグに入り、プロトンからクリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ)らが飛び出して第2グループを形成する。そしてレース後半の3つの連続する未舗装路区間の直前に、その第2グループからピーダスンがアタック。すぐさま35秒差まで縮まった先頭集団に合流を果たした。

しかし、残り55km地点でスーダル・クイックステップが先導するメイン集団が2つの先行する集団を吸収。そして2度目のケンメルベルグでファンアールトがラポルトを引き連れアタックを仕掛ける。この動きによりプロトンは混乱に陥り、イネオスが懸命に引き戻そうとしたものの、その差は一気に1分まで拡がった。

2度めのケンメルベルグでアタックするワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)と追従したラポルト photo:CorVos

昨年のE3でも同様の独走を披露したラポルトとファンアールトがフィニッシュを目指す photo:CorVos

この日最後の急坂であるケンメルベルグ(但し反対側から登坂する)でファンアールトは先行しつつラポルトを待ち、2人揃って逃げ切りを目指し突き進む。残り4kmを切り、タイム差は縮まるどころか2分差まで拡大。たった2人で強豪勢から逃げ切ることに成功した。

昨年のE3サクソバンク・クラシックも同じく2人でフィニッシュしたファンアールトとラポルト。その時とは反対にファンアールトがラポルトに勝利を譲る形で、ユンボ・ヴィスマの2人がワンツーフィニッシュを決めた。

肩を組み、ワンツーフィニッシュを決めたラポルトとファンアールト photo:CorVos

昨年のE3でのワンツーフィニッシュを再現したファンアールトとラポルト photo:CorVos

昨年大会では僅差で敗れたラポルトが初優勝。「これでクラシックを制したと胸を張って言うことができる。過去の勝利を軽んじるわけではないが、これがキャリア最高の勝利だ。昨年2位の雪辱を果たす優勝はとても嬉しい。ワウトには感謝しており、偉大なチャンピオンが僕を勝利へと導いてくれた。一見簡単そうに見えたかもしれない勝利だが、実際は苦しみの末に掴んだ成果だ。このコンディションが来週に繋がることを願っている」とラポルトは喜び、1週間後に迫ったロンド・ファン・フラーンデレンへの意気込みを語った。

また、ケンメルベルグでワンツーフィニッシュのきっかけを作ったファンアールトは、「信じられないほど嬉しい結果だ。この勝利は普段チームプレイに徹してくれるクリストフにこそふさわしい。彼に勝利を譲ることは何の迷いもない判断だった。数日前、実はクリストフと昨年のE3でのワンツーフィニッシュについて話していたんだ。しかしその時は”あんなことが2度起こることはないだろう”という結論だった。共に掴んだこの勝利は、決して忘れることはないだろう」と語っている。

ヘント〜ウェヴェルヘム2023表彰台:2位ファンアールト、1位ラポルト、3位ファンマルケ photo:CorVos

1分56秒遅れでやってきた集団による3位争いは、セップ・ファンマルケ(ベルギー、イスラエル・プレミアテック)が先着。2010年(2位)と2016年(2位)に続く、自身3度目の表彰台を喜んだ。
ヘント〜ウェヴェルヘム2023結果
1位 クリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ) 5:49:39
2位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)
3位 セップ・ファンマルケ(ベルギー、イスラエル・プレミアテック) +1:56
4位 フレデリック・フリソン(ベルギー、ロット・デスティニー)
5位 マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)
6位 ミッケル・ビョーグ(デンマーク、UAEチームエミレーツ)
7位 アレクシー・ルナール(フランス、コフィディス) +2:04
8位 オラフ・コーイ(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)
9位 ダニー・ファンポッペル(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ)
10位 ダニエル・マクレー(イギリス、アルケア・サムシック)
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos

最新ニュース(全ジャンル)