第6のモニュメントことストラーデビアンケを、トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)が初制覇。未舗装の下りで差を作り、ラスト23kmを独走した前シクロクロス王者がシエナのカンポ広場に飛び込んだ。



シエナの未舗装路を走るプロトン photo:CorVos

ストラーデビアンケ2023男子 コースプロフィール image:Strade Bianche
コースの1/3を占めるのは白い砂の舞い上がる未舗装路。今年で第17回目と歴史が浅いにもかかわらず、第6のモニュメントと呼び声高いストラーデビアンケが3月4日(土)に開催された。

舞台となるのはイタリア・シエナ南部に広がるトスカーナの丘陵地帯で、ワイン畑を縫うように進む「白い道」は計11ヶ所、全長184kmのうちコースの34%である63kmに及ぶ。昨年はツール・ド・フランス覇者タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が優勝したことからもわかるように、クラシックレーサーのみならずあらゆる脚質にチャンスのある予測不能なレース展開がクラシックレースとしての格式と名声を得ている所以だ。

レース当日の天気は気温13度の晴れ模様。数日降った雨は止み、ポガチャルや2020年覇者ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)を除く173名が、世界遺産の街シエナでスタートを切った。

3名の逃げグループを形成したヴェンエリック・ビーストルム(ノルウェー、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)たち photo:CorVos

プロトンから飛び出したアルベルト・ベッティオル(イタリア、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:CorVos

序盤から未舗装区間でアタックと吸収が繰り返されるハイスピードな展開から、スヴェンエリック・ビーストルム(ノルウェー、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)がプロトンから抜け出すことに成功する。それに36歳のベテラン、アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、ジェイコ・アルウラー)とプロトン最年少19歳のイバン・ロメオ(スペイン、モビスター)が追従し、3名の先頭グループが形成された。

最大6分差のリードを許したプロトンではEFエデュケーション・イージーポストやスーダル・クイックステップなどワールドチームが牽引を担当し、大会を2度制したファビアン・カンチェラーラがオーナーを務めるチューダー・プロサイクリングチームも時折先頭へ。アッティラ・ヴァルテル(ハンガリー、ユンボ・ヴィスマ)やダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAEチームエミレーツ)ら有力選手の落車やメカトラもありながら、メイン集団からセクター8「モンテ・サンテ・マリエ(全長11.5km)」でアルベルト・ベッティオル(イタリア、EFエデュケーション・イージーポスト)が飛び出した。

地元勝利を目指すベッティオルのアタックにはすかさずトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)とアンドレア・バジオーリ(イタリア、スーダル・クイックステップ)が反応し、ピドコックはそのまま未舗装区間の下りで高速ダウンヒルを披露。単独となった前シクロクロス世界王者はその卓越したバイクハンドリングを駆使しながら、ロメオが脱落した先頭2名に合流を果たした。

落車やメカトラにより、徐々にプロトンの人数が減っていく photo:CorVos

単独で逃げグループを追走するトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos

追走集団では2月にシクロクロス世界王者に輝き、これが今季ロード開幕戦のマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)が力強く飛び出したものの、ライバルたちがこれを許さない。直後のアンドレアス・クロン(デンマーク、ロット・デスティニー)やペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)ら3名によるアタックも決まらず、後方ではベッティオルとマグナス・シェフィールド(アメリカ、イネオス・グレナディアーズ)が落車。2人が勝負から脱落した。

30秒リードからの縮小に耐える先頭ではビーストルムが遅れ、ピドコックとデマルキの2人に。一方、ローテーションを回する追走集団からはファンデルプールやバジオーリが遅れ、唯一ユンボ・ヴィスマが複数人(ヴァルテルとティシュ・ベノート)を11名のなかに残した。

アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、ジェイコ・アルウラー)とトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)の2名となったレース先頭 photo:CorVos

この日は精彩を欠いたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos
落車し、途中棄権となったアルベルト・ベッティオル(イタリア、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:CorVos


ピドコックの30秒後方を行く追走集団 photo:CorVos

セクター9「モンテ・アペルティ(全長0.8km)」に突入するとピドコックがデマルキを引き離し、単独走に移行する。その後方ではここまで脚を溜めていた2018年覇者ベノートが幾度となくアタックを試みるものの、マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)やルイ・コスタ(ポルトガル、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)によって潰される。未舗装路でも巧みにトラクションを掛けながら進むピドコックと、20秒差まで詰めた6名の追走集団という形のままレースはシエナの市街地に帰ってきた。

何度もその差が10秒以内に縮まり、「その度に”仕掛けるのが早すぎた”という後悔が頭をよぎった」と語ったピドコックは最大勾配が16%に達するサンタカテリーナ通りの石畳坂をクリア。ドライな石畳コーナーを全く意に介さない圧巻のテクニックを披露したピドコックが、カンポ広場まで独走を貫き勝利した。

大観衆のシエナに単独で戻ってきたトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos

ストラーデビアンケ初制覇を遂げたトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos

2年前の初出場5位を大幅に更新し、英国人として初優勝を飾ったピドコック。「正直、この勝利が現実だと理解するのにしばらく時間を要するだろう。あそこ(セクター8)でアタックする計画はなく、ただライバルのアタックに気をつけようとしていただけ。下りで後方と差が生まれたのでそのまま行ったんだ。今週は調子が良く、今日は僕の日になることは分かっていた。それが現実となり素晴らしい気持ちだよ。近頃のレースでは選手の前にたくさんのモーターバイクがつくのだが、なぜか今日の僕の前には全然いなかった。ずっと待っていたのに(笑)」と、ラスト23kmを独走で走りきったピドコックは語る。

フィニッシュ後にうずくまりながら勝利を噛み締めたピドコックは、2021年に五輪のマウンテンバイク、2022年にシクロクロス世界選手権、そして今年ストラーデビアンケの第17代王者に輝いた。

そしてピドコックから20秒後にフィニッシュラインを通過したのはヴァランタン・マドゥアス(フランス、グルパマFDJ)。ベノートは3位ながらもコスタを抜き、自身2度目となる表彰台に上がっている。

選手たちのコメントや女子レースの模様は後ほどお伝えします。

2位争いはヴァランタン・マドゥアス(フランス、グルパマFDJ)が先着した photo:CorVos

ストラーデビアンケ2023表彰台:2位マドゥアス、1位ピドコック、3位ベノート photo:CorVos

ストラーデビアンケ2023結果
1位 トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) 4:31:41
2位 ヴァランタン・マドゥアス(フランス、グルパマFDJ) +0:20
3位 ティシュ・ベノート (ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) +0:22
4位 ルイ・コスタ(ポルトガル、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ) +0:23
5位 アッティラ・ヴァルテル(ハンガリー、ユンボ・ヴィスマ)
6位 マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) +0:34
7位 ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) +1:04
8位 ロマン・グレゴワール(フランス、グルパマFDJ) +1:18
9位 ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAEチームエミレーツ) +1:23
10位 アンドレアス・クロン(デンマーク、ロット・デスティニー) +1:35
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos

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