「冷静にライバルたちの走りを分析できた。すごい緊張感だったけれど、いざレースが始まればいつものレースでした」と、シクロクロス全日本チャンピオンに輝いた織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)は言う。上位勢のコメントをまとめた。



苦手意識を持っていたと言う砂区間を独走する織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:So Isobe

悲願の全日本チャンピオンに輝いた織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:So Isobe

「ついに勝った」という表現が最も正しいだろう。エリートカテゴリー挑戦1年目の一昨年は沢田時との一騎打ちスプリントに敗れ、優勝候補と目されていた昨年は本人も驚く足攣りによって脱落。今季はここまで負けなしの11連勝という、かつてないフィジカルとプレッシャーを背負い、織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)が待望の全日本シクロクロスチャンピオンに輝いた。

「調子は悪くなかったんです。スタートは少し失敗したけれど、それで他の選手たちの走りを冷静に観察し、判断することができた。転んだ後はしっかり考えて、ペース配分もしながら走れていましたね」と新チャンピオンは振り返る。最初の砂区間で前転するものの集中した表情を崩さず復帰し、「砂が圧倒的に速い悠さんを合流させたくなかったし、(沢田)時の前でシケインを飛べば(後続勢に対して)アドバンテージができると思った」と冷静なレース運びでアタック。1時間弱に及ぶ独走中、2番手で追う沢田時(宇都宮ブリッツェン)に対し1周あたり5〜10秒のリードを積み重ねる。そのレース運びは、この全日本という大舞台でも、昨年までとは、そして大雪の2018年U23レースで大きく崩れた時は明らかに違う成熟ぶりを見せていた。

満面の笑顔を見せる織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:So Isobe

フォトグラファーの父、達さんと勝利を喜ぶ photo:So Isobe

「毎年(全日本タイトルを)獲れる獲れると言われていたけれど、ようやく獲れた。いざ走ってみるといつものレースでしたが、半分くらい走ったタイミングで"スタート前の緊張はすごかったな"と思いました」と織田。心拍計を取り付けたものの、本人のブログによれば緊張でログを取り忘れていたという。フィニッシュラインでは待ち構えたフォトグラファーの父・達さんと硬く手を握り、引退した前田公平に迎えられ、表彰式後には弱虫ペダル作者の渡辺航先生に電話で(多忙なスケジュールにより立ち会えなかったという)勝利を報告した。

「(先生は)"ようやく獲ったな"、って言ってくれました。去年は先生の目の前でボロ負けしましたからね。そういうのもあったし、今回の勝利は余計に嬉しい」と言う。代表メンバー入りが決まっているシクロクロス世界選手権(オランダ)に対しても「エリートのチャンピオンとして向こうに行けるので良かった。これからさらに調子を上げていきたい」とも。ライバル勢全員が"今日の聖は強かった"と認める、文句なしのチャンピオン獲得劇だった。

織田の走りを讃える沢田時(宇都宮ブリッツェン) photo:So Isobe

骨折明けというコンディションで臨んだ小坂光(宇都宮ブリッツェン)からの、チーム内チャンピオンリレーを目指していた沢田時は2位。沢田自身も昨年5月のツアー・オブ・ジャパンでの落車で鎖骨と肋骨複数本を折る怪我を負い、さらに夏場の再手術で6週間もトレーニングできない苦しい時期を経ての出場。連覇がかかったMTB全日本選手権はリスクを避けて回避し、競技をシクロクロスに変えて全日本チャンピオンジャージを取り返す予定だった。

「フィジカルレベルを落としてしまい、乗車許可が出た9月からコンディションを上げようとしたけれど、今思うとそれが悔やまれる。でもできることはやったし、選手経験としては良い糧になった」とポジティブな姿勢を崩さない。沢田は残るシクロクロスシーズンをJCXシリーズ蔵王、愛知牧場と連戦し、復活開催されるシクロクロス東京を走った後にロードシーズンに切り替える。待たれるのは新ジャージでの1勝目だ。

本場仕込みのテクニックで観客を沸かせた竹之内悠(Cinelli - Vision) photo:So Isobe

3年前に見舞われた右足の筋膜腫瘍によって思うように走れない、苦しい時期を過ごしてきたのが過去5度の全日本王者である竹之内悠(Cinelli-Vision)だ。本場ベルギー仕込みの圧倒的なテクニックは、砂区間でレースを見守るギャラリーに(そしてライバルに)ため息をつかせたものの、「前日試走を走りすぎたかな。期待したほど砂区間でのアドバンテージは大きくなかったし、思ったほど走れなかったので残念」と3位に。しかしそれでも「今季ここまでのレースと比べれば前の2人との差を縮めることができたし、シーズンを通してパフォーマンスアップできた」と一定の収穫を得たという。

竹之内は長年所属したチームを離れ、今年はメカ作業も含めて個人参戦。大一番である全日本選手権を終え、「それでもスポンサーがついてくれてあんなに素晴らしいバイクを準備してくれた。助けてくれる仲間がいて、こうやってレースを走れた」と周囲に感謝する。今後は自らチームを立ち上げるプランもあるそうだ。

4位に入った横山航太(シマノレーシング) photo:So Isobe

そして横山航太(シマノレーシング)は2年ぶりのシクロクロス全日本選手権、しかも12月のコロナ感染で大きくコンディションを落としながらも2列目からスタートダッシュに成功し、流石の走りで4位にランクイン。「中盤からペースアップした悠さんについていくことができれば表彰台争いに絡めたかな」、とも。今季シクロクロス参戦はこの全日本で終え、メインのロードシーズンに向けて上手く切り替えていきたいと話した。

僅か3週間前の骨折から復帰した小坂光(宇都宮ブリッツェン) photo:So Isobe

ほぼ最後尾から猛然と追い上げる竹内遼(GHISALLO RACING) photo:So Isobe

5位争いのゴールスプリントを繰り広げたのは、1周目に2度に渡る落車に巻き込まれ「あまりにも酷かった。もう何度も止めてやろうかと思いましたが、それでもたくさんの人が応援してくれていたから諦められなかった」と言う竹内遼(GHISALLO RACING)と、「ケガのことはまったく考えずに走り、痛みもそれほど出なかった。思い切って走れた」と言う昨年覇者、小坂光(宇都宮ブリッツェン)の2人。強い気持ちを持ってフィニッシュまで辿り着いた2人の一騎打ちは小坂に軍配が上がった。

プロ選手を相手に、地元の仲間の大声援にプッシュされた千田尚孝(自転車村R_HANGOUT)が8位、加藤健悟(臼杵レーシング)が9位、そしてエリートカテゴリー初参戦の堀川滉太(NEBcycling)が10位と善戦。

1位織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)、2位沢田時(宇都宮ブリッツェン)、3位竹之内悠(Cinelli - Vision) photo:So Isobe

1996年に初めて開催され(その際の勝者は、今回マスターズ50代で勝利した大原満)、今年で28回目を数えるシクロクロス全日本選手権が終わった。全国屈指の砂コースを舞台にした全日本選手権で、織田聖を筆頭に各カテゴリー合計15人のチャンピオンが誕生した。

text&photo:So Isobe

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