フレーム素材にマグネシウムを採用した金属系オールロードバイク、VAAST Bikesの日本での展開が始まった。リーズナブルかつ環境やリサイクルに配慮したサステイナブルなバイクをインプレッションした。



VAAST A/1 VAAST A/1 photo:Makoto AYANO/cyclowired.jp
VAAST Bikes(ヴァーストバイクス)は、アメリカでナイナー(Niner)やハフィ(HUFFY)なども展開するユナイテッドホイールズ社グループの1ブランドとして2019年に設立されたスポーツバイクの総合ブランドだ。

VAAST A/1の大きな特徴はフレーム素材にマグネシウムが使われていること。これはユナイテッドホイールズ社グループ傘下にマグネシウムパイプ製造を手掛けるALLITE(アライト)社があるためで、スポーツバイク用として生産されるSUPER MAG AE81チューブがVAAST Bikesには採用されている。ALLITE社は純度の高いマグネシウムの製法特許を保持しており、その技術がフルに活かされているという。

ヘッドチューブにシンプルなロゴマークが入るヘッドチューブにシンプルなロゴマークが入る ダウンチューブにシンプルなVAASTロゴが入るダウンチューブにシンプルなVAASTロゴが入る


マグネシウムは他の金属素材と比べると、比重においてスチール比で75%、アルミ比で33%、チタン比で50%軽く、衝撃吸収性はアルミの20倍優れる。強度で6061アルミより21%、チタンより56%強いという(Vaast bikes資料より)、実用レベルではもっとも軽量な金属素材と言える。

ALLITE SUPER MAG AE81チューブを使用するALLITE SUPER MAG AE81チューブを使用する リサイクル可能なことをアピールするイラストリサイクル可能なことをアピールするイラスト モデル名のA/1がシートステイに入るモデル名のA/1がシートステイに入る


工業製品ではカメラやスマートフォンのボディ内部シャーシやレースカーのホイールなどにも使用される。スポーツバイクのフレーム素材としてはピナレロが初代DOGMAに採用し、その軽量さと振動吸収性の良さで大ヒット。他にタイムがペダルのボディ素材に採用した前例がある。

太いタイヤが装着可能なオフセットチェーンステイは独特の造形だ太いタイヤが装着可能なオフセットチェーンステイは独特の造形だ 鋳造によるエンド部は独特の造形だ鋳造によるエンド部は独特の造形だ


マグネシウムは高強度で軽量であるが腐食に弱いという面ももつ。しかしALLITE社のSUPER MAG AE81パイプは特殊なプラズマ陽極処理によるセラミックコーティングにより、耐腐食性をアルミと同等レベルまで引き上げることに成功しているという。マグネシウムチューブを電解酸化液に漬け込むことで形成されるセラミックの被膜は、飛び石による傷程度では素材が露出せず、長期に渡って腐食を防ぐという。またチューブを自社グループ内のALITE社で生産するため、低コストで製品を提供できるのがメリット。

BB周りの溶接痕。肉厚チューブであることが伺えるBB周りの溶接痕。肉厚チューブであることが伺える ハンドル&ステムはVAASTオリジナルだハンドル&ステムはVAASTオリジナルだ


ロードバイクやクロスバイク、マウンテンバイクもラインナップするVAAST Bikesだが、アメリカではグラベル/オールロードモデルのA/1シリーズがもっとも人気で、日本での展開も今回紹介するA/1シリーズから本格展開することになった。シマノGRX 2X仕様で31万5000円、スラムRIVAL AXS仕様で47万8000円、フレーム&フォーク単体販売で18万5000円と、他社同等製品に比べればリーズナブルな価格が魅力だ。

フルカーボンフォークにはケージ取付可能なアイレットを装備フルカーボンフォークにはケージ取付可能なアイレットを装備 シートステーはごくオーソドックな構成シートステーはごくオーソドックな構成 オーソドックスな丸径シートクランプによりドロッパーポストもセット可能だオーソドックスな丸径シートクランプによりドロッパーポストもセット可能だ


販売形態はウェブサイトからの直販が可能だが、サイクルショップからVAAST Bikesジャパンを通した注文が薦められる。理由としてはブレーキケーブルルーティングが右:後ろ、左:前となっているため、ショップにおいてその組み換えが必要なケースが多いためだ。そして日本での試乗機会の提供やアフターサービスの面でもショップを通すのが有利とのことだ。なおサイクルショップ向けには販売店価格が設定されている。

再利用可能な結束バンド以外はすべて紙製の梱包だ再利用可能な結束バンド以外はすべて紙製の梱包だ
また、純度が高いSUPER MAG AE81チューブはほぼ100%リサイクル可能な素材であることから、VAAST Bikesは地球環境に配慮したブランドを標榜している。製品を梱包するパッケージなどにはプラスチックなどリサイクルできない素材がほぼ使用されず、VAASTロゴ入りの結束ベルトは後でフレームやサドルにチューブなどを取り付けるバンドとして活用できるようデザインされている。完成車はハンドルやシートポストをセットするだけの9分組み状態で届く。

今回、VAAST Bikesジャパンの発表・試乗会においてRIVAL eTap仕様車をテストライド。そのインプレッションを紹介しよう。



インプレッション

VAAST A/1と筆者。サイズはXSだVAAST A/1と筆者。サイズはXSだ
テストライドに用意してもらったバイクはオールロードモデル A/1のスラムRIVAL eTap仕様車。700C仕様のASTUTOのカーボンホイール(完成車外品)にFタイヤ:WTB RADDLER44C、Rタイヤ:コンチネンタルTERRA TRAIL 40Cを装着したスペックでライドを行った。

短時間のテストライドではなく、VAAST Bikesジャパンが活動拠点とするサイクリングジプシーカフェを発着点に週末ごとに開催されているグラベルフォンド70kmに参加して走った。路面がガレているうえに獲得標高で1,700mに達するほどアップダウンが多い、悪路を約7時間かけて走るハードなグラベルロングライドだ。

VAAST A/1を駆って小田原グラベルの砂利道を走るVAAST A/1を駆って小田原グラベルの砂利道を走る
完成車外品のカーボンホイールに差し替えた状態だが、XSサイズで9㎏(ペダル無の実測)と軽い仕上がりで、まだ軽量化の余地有る完成車スペックでこの重量は優秀だ。カーボンバイクには勝てないまでも、スチールやアルミに対しては明らかに優位が有る。ロードバイクに比べてすべてのパーツが重くなりがちで、荷物や装備品も増え、タイヤも太いことから、どうしても重量がかさんで重くなってしまうグラベルバイクではカーボン一択だと考えていた筆者だが、この重量なら「アリだろう」と感じる範囲。

マグネシウムの振動吸収性の良さを感じ取ろうと、一日じゅう神経を研ぎ澄ませて乗ってみた。ペダリングしていて、アルミのような「カキン」とくる角のある衝撃が無く、素材からくるペダリング中の足当たりの良さは確かに感じる。

アップダウンが繰り返す小田原近郊の林道を走るアップダウンが繰り返す小田原近郊の林道を走る
かつてピナレロDOGMAに採用されていたデダチャイのマグネシウム製パイプを、イタリアのピナレロ本社工場で手にとって触らせてもらった経験があるが、パイプ同士で叩いた音がアルミパイプなら「カシッ」「カキン」といったところが、マグネシウムは「ホコ、ホコ」というような柔らかな音質だったことを思い出す。

傷つきにも強そうな美しい塗装は渋い仕上がり傷つきにも強そうな美しい塗装は渋い仕上がり
変速時のショックの少なさ、静かさはその音から想像できたとおりで、周波数の高い不快音がしない優しいフィーリング。もっとも路面からの振動吸収性についてはエアボリュームの大きなグラベルタイヤが大部分を担って振動を打ち消してしまうため「フレームの振動吸収性が高い」とは言い切れないものの、実際、一日を通してハードコースを走りきっての疲労感は上級カーボンバイクと同様に少なかった。アルミやクロモリフレームのグラベルバイクで終日走ると疲労度は確実に(カーボンより)大きいので、やはりマグネシウムの仕事は十分にあるのだろうと思う。

グラベルでの乗り心地と振動吸収性を確かめるように走ったグラベルでの乗り心地と振動吸収性を確かめるように走った
丸パイプを用いたフレームの造形はシンプルで無駄がなく、しかしエンドやBB周辺の造形は凝っていて、所有欲も満たしてくれる。金属フレームには趣味性を求める人が多いから、これは好印象だ。ウェブサイトではわかりにくいフレームカラーは実物を間近に見ると渋くて深い色合いで、その仕上がりの良さに感心する。

フレームを指で弾いた感じチューブは肉厚で、塗装表面も強くて硬そうだ。塗装の定着性に左右されるような剥離しやすい仕上げではなさそうで、塗装の傷や欠けから腐食が進むことは無さそうだ。シートポスト挿入口から見たパイプ内側はきっちりセラミック皮膜処理されているように見え、内部からの腐食に対しても強いのだろう。

ドロップドチェーンステイにより50Cタイヤも問題なくセット可能だドロップドチェーンステイにより50Cタイヤも問題なくセット可能だ
シートチューブ内側のセラミックコートも丈夫そうだシートチューブ内側のセラミックコートも丈夫そうだ シートピラー径は丸形が採用され、ドロッパーポストを装着可能だ。より荒れたオフロードに入っていく時、ドロッパーでサドルを下げられるのはメリットが大きい(もちろん不要な人も居るだろうが)。丸径ポストや丸フレームのスタンダードな形状は、バッグ類の取り付けにおいても制約が少なく、使いやすいことが多い。

カーボンフォークにはケージやサイドバッグを装着するためのアイレット(ダボ穴)が装備されている。しかしトップチューブ上にはバッグを直付けするアイレットが無い。補給食入れの定番であるトップチューブバッグが直付けできないことには不満が残った。

ケーブルマネジメントは余裕をもった配置で、ハンドリングに無理がなく、フレーム内蔵ながらケーブル交換などのメンテナンスが容易にできるよう配慮されている。

ジオメトリーには癖がなく、太いタイヤをセットしてグラベル寄り、ロードホイールをセットしてオンロード寄りと、いずれの用途にもセットアップしやすそうで、あえて車種を「オールロード」と謳っていることに納得した。聞けば社長がグラベル、シクロクロス好きで、このA/1でシクロクロスレースからグラベルツーリング、ロードライドまですべて一台で乗り倒しているとのこと。その上で煮詰めたスペックなのだと納得した。

マグネシウムという素材に特別なものを見いだせなくても、カーボンに迫る軽量さと価格の手頃さ、パッケージの良さで選んで間違いのないバイクだと思う。

VAAST Bikesジャパン代表の石神学さんVAAST Bikesジャパン代表の石神学さん
なお、VAAST Bikesジャパンは神奈川県小田原市のchapter2ジャパンの関連会社サイクリングジプシーLLCの一部門であり、石神学さんが代表窓口を務める。日常的な試乗会やイベントも、サイクリングジプシーカフェを拠点にchapter2と一緒に展開されている。その点がわかりにくい点ではあるが、今後サイクルモードや各地の試乗会でもchapter2と一緒にブース展開されたりするので、徐々に認知が進むだろう。おなじみマイキーことchapter2ジャパン代表マイケル・ライスさんとともに展開されるコミュニティやグラベルライド講習会なども魅力の一つだ。

VAAST  A/1 VAAST A/1 photo:Makoto AYANO/cyclowired.jp


VAAST A/1 スラムRIVAL AXS 1X(完成車)
47万8000円(税抜)※輸入時には関税がかかります。
サイズ:XS、S、M、L
フレーム:AlliteスーパーマグネシウムAE81
フォーク:フルカーボンフォーク ラック&フェンダー対応
リム:スタンズNOTUBE CREST
コンポーネント:スラムRIVAL AXS 1X
ハンドル:VAAST ALL ROAD PRO
タイヤ:マキシスRAMBLER 47C

問い合わせ:VAAST Bikesジャパン
E-mail : vaastbikesjapan@gmail.com
Tel : 080-2043-1088

text&photo:Makoto AYANO

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