オホーツク海に注ぐ常呂川の河口周辺からサロマ湖の一帯にかけて遺された、多くの遺跡群。本州とは全く異なる歴史を辿った人々の歴史に触れる、大人も子供も楽しめるサイクリングツアーをご紹介。



北海道に、弥生時代って無かったんです。

サロマ湖とオホーツク海を一望できる常呂町の高台。サロマ湖とオホーツク海を一望できる常呂町の高台。
打製石器を使った旧石器時代、土器が出現した縄文時代、稲作の始まった弥生時代……と日本史の授業では習ったもの。だけど実は北海道には当てはまらないんだとか。縄文時代までは本州と同じ足跡を辿った北海道の人々には、稲作文化が伝わることは無く、その後も狩猟採集を主とした文化が続いていった。

今でこそ、「ななつぼし」や「ゆめぴりか」といったブランド米で、日本屈指の米どころとなった北海道だが、当時の農耕技術では寒冷な北海道の地で稲作を行うことは不可能だった。結果として、縄文に引き続き、狩猟や採集を中心とした続縄文文化、そして擦文文化へと移行していった。

一方、北海道の中でもオホーツク海に面したエリアには、樺太や千島列島からやってきた人々がもたらしたオホーツク文化が伝播。漁労を中心とし、「海洋の民」と呼ばれた彼らと擦文文化が出会い、後のアイヌ文化へと受け継がれていったのだという。

3つの文化の痕跡が重なり合う、常呂遺跡群へ。

日本最大の汽水湖、そして日本有数のホタテの産地であるサロマ湖。今も、昔も多くの人々の暮らしを支えてきた。日本最大の汽水湖、そして日本有数のホタテの産地であるサロマ湖。今も、昔も多くの人々の暮らしを支えてきた。
擦文文化、オホーツク文化、アイヌ文化。本州とは異なる道を歩んだ北海道の歴史。その痕跡を現代に残す様々な遺跡が、大規模に残されているのが北見市の常呂町だ。現在ではサロマ湖周辺での漁業を中心とした街であり、またカーリングチーム「ロコ・ソラーレ」の本拠地としてご存じの方も多いだろう。

今回紹介するのは、サイクルライフナビゲーターの絹代さんがプロデュースする北海道の歴史を濃縮した常呂町の遺跡群を巡るサイクリング。一口に遺跡といっても、とても広大なエリアに分布しており、歩いて回るのはかなり難しい。とはいえ、クルマで回るのも味気ない……つまり、自転車の出番。

オホーツク海にサロマ湖、常呂川、そして北海道らしい広大な田園地帯。美しい景観を自分のペースで楽しみつつ、古代の暮らしとは切っても切れない地形の変化を自分の脚で感じ取れる自転車は、まさにピッタリの移動手段。道も広く、フレンドリーな常呂は安心してサイクリングを楽しめるし、地元のグルメも盛りだくさん。遺跡をはじめとしたさまざまな情報を集めた公式ページもオープンしているので、ぜひ一度見てみてほしい。

海産物が豊富に獲れる、豊かな自然が今も広がっている。海産物が豊富に獲れる、豊かな自然が今も広がっている。
海鮮ゴロゴロシーフードカレー!魚介の旨味がルーに溶け出してほんとに絶品海鮮ゴロゴロシーフードカレー!魚介の旨味がルーに溶け出してほんとに絶品 分厚いホタテにイクラがたっぷりのった海鮮丼分厚いホタテにイクラがたっぷりのった海鮮丼


基本的にはセルフガイドで楽しめるように、コースマップや各スポットに置かれたQRコードを読み取ったオンラインダイスで楽しむ「常呂すごろく」、年代問わずにわかりやすい解説漫画も準備中。誰もが楽しめるような企画として、ちょっとしたゲーム要素を取り入れ、サイクリングを楽しみながらアカデミックな刺激を受けるような企画として進行中の「ところ遺跡ライド」なのだ。

今回のモニターツアーでは、残念ながらゲーミフィケーション要素は間に合わなかったものの、絹代さんがガイドを務めてくれることに。この企画自体、常呂遺跡について興味を持って調べ始めた絹代さんが、思ったよりもその魅力の沼にハマってしまい、どうにか皆さんにその面白さを伝えたい、という思いから始まったのだとか。忙しい合間を縫って、様々な文献にあたり、シンポジウムに参加して、というのだからその熱量にはシャッポを脱ぐしかない。

いざ、常呂遺跡を巡るサイクリングに出発。レンタルバイクも充実!

常呂バスターミナルに集合常呂バスターミナルに集合
高品質なレンタルバイクを使えるのは嬉しいポイント。良い自転車って、乗ってるだけ楽しいですよね高品質なレンタルバイクを使えるのは嬉しいポイント。良い自転車って、乗ってるだけ楽しいですよね
本州よりも一足早く冬の足音が聞こえつつある中、常呂町の拠点となる常呂バスターミナルに集合。北見や網走からバス路線もあり、駐車場も完備したこの場所の近くには、レンタサイクルの貸出を行う「サイクルショップいとう」もあり、手ぶらでも参加可能なのだ。今回も皆さんレンタルバイクでの参加で、大人にはBESVのE-BIKE、子供にはライトウェイのZITシリーズやシェファード20、ジャイアントやLivのバイクが用意され、体力に自信のない方でも親子で楽しめるように配慮されている。

常呂バスターミナルをスタートし、まず向かうのは常呂川河口遺跡を見晴らせる高台。ちなみに距離としては、スタートしてわずか3分ほどと、本当に目と鼻の先、といったところ。オホーツク海に注ぐ寸前、大きく左に蛇行する常呂川に囲まれるような一帯が、全て遺跡なのだという。

常呂川の河口付近の鬱蒼とした林、あれが全部遺跡なのだとか常呂川の河口付近の鬱蒼とした林、あれが全部遺跡なのだとか
北海道の歴史についてレクチャーしてくれる絹代さん北海道の歴史についてレクチャーしてくれる絹代さん あそこがねぇ…という雰囲気を背中で醸しだす子供たちあそこがねぇ…という雰囲気を背中で醸しだす子供たち


絹代さんが準備した資料をもとに、この一帯には縄文時代からアイヌ文化に至るまで長い期間を通じて人々が住み続けていたということをレクチャーしてくれる。今となっては鬱蒼とした森だが、その中からは当時の住居後や墓地、土器や石器などが出土したのだとか。中にはなんと125㎡の巨大な住居跡もあるのだそう。

子供たちも興味深そうに聞いているが、どちらかというと大人の方が、なるほどなるほどと楽しそうなのは気のせいではない。学校に通わなくなってからの方が、こういう知識の面白さに気づきますよね、わかります。

常呂川の河川敷常呂川の河川敷 チャシは高台にあるので、登っていく必要があります。E-BIKEなら安心ですねチャシは高台にあるので、登っていく必要があります。E-BIKEなら安心ですね


この窪地が住居跡。時代によって形が違うのだ。この窪地が住居跡。時代によって形が違うのだ。
さて、そのまま常呂川の河川敷を走り対岸へ。次なる目的地はアイヌ時代の遺跡となる「トコロチャシ跡」。チャシとは、アイヌ語で「柵」や「囲い」を意味する言葉で、戦いの際の砦や見張り台、あるいは祭儀場、狩猟拠点として用いられていたとされるもの。多くは高台に築かれており、このトコロチャシ跡も一段登った丘の上に位置している。つまり、少し登るということなのだが、そこはE-BIKEの本領発揮、あっという間にチャシル(チャシへの登り口)を登りきり、トコロチャシへと到着。

常呂川河口遺跡と同様、トコロチャシ跡からもより古い時代、オホーツク文化期や縄文時代の遺物も見つかっており、この一帯の文化の変遷を示す重要な遺跡に位置づけられている。現在、トコロチャシ跡は整備が進み、当時の濠と巡らされた柵を復元し、チャシや住居跡をわかりやすく見せる予定なのだとか。整えられた園路からは、チャシ跡やオホーツク文化の住居跡がはっきりと見える。ちなみに、擦文時代の竪穴住居は正方形、オホーツク文化の住居は五角形または六角形なので跡地から時代が判別可能なのだとか。これはテストに出ます。

道路脇のなんてことはない丘。これが貝塚なんて、言われないとわからない。道路脇のなんてことはない丘。これが貝塚なんて、言われないとわからない。
牡蠣殻が大量に埋まっています。牡蠣殻が大量に埋まっています。
チャシ跡を後にし、再び常呂川を少し上流側へ。今度は、なんということはない、知らなければ絶対気づかないような川沿いの丘の前でストップ。誰かがメカトラブルかな?と思いきや、こちらも遺跡なのだという。

現在は農地となっているため、普通に見ていると絶対に気づかないのだが、実はこの辺りは縄文時代の「貝塚」なのだ。南北には110m、東西に60mほどの範囲に広がる道東最大規模の貝塚で、道路脇から貝層の断面を見ることが出来る。積み重ねられた貝殻はほぼ全て牡蠣のもの。当時は生牡蠣も食べたのだろうか、ノロウィルスは無かったのだろうか……でも、今もサロマ湖の牡蠣はノロウィルスいないというし大丈夫だったのかも?なんて、往時の人々に想いを馳せる。

常呂の人気店、スィーツせぞん常呂の人気店、スィーツせぞん
スィーツせぞんのシュークリームスィーツせぞんのシュークリーム いろんなスィーツをいただけましたいろんなスィーツをいただけました


ここからは、いったん常呂町の市街地へ。少し冷えてきたこともあり、人気のパティスリー、スィーツせぞんでおやつを買い込み、北海道といえば、のセイコーマートで暖かい飲み物と合わせていただき、ホッと一息。

休憩をはさんだのち、サロマ湖方面へ。目的地はサロマ湖に面する「ところ遺跡の森」。実はこの辺り、何度も走っているのだけれど、ここに来るのは初めて。多くの方はサロマ湖に気を取られてしまって、その背後にこんな場所があるなんてことに気づかないのではないのだろうか。

サロマ湖畔のところ遺跡の森へサロマ湖畔のところ遺跡の森へ
時代ごとの住居が再現されるところ遺跡の森時代ごとの住居が再現されるところ遺跡の森
そんな穴場スポットのところ遺跡の森、何があるのかと言えば、その名の通り森の中にこれでもか!と言わんばかりに遺跡が残されているのだ。しかも、当時の竪穴住居が復元されており、実際にその中に入ってみることも。

当時の住居跡の上に木の骨組みと藁で葺かれた屋根を設え、内部にはそれぞれの時代、文化特有となる囲炉裏やかまどなどを再現。時代時代の人々がどのように暮らしていたのかを実感できる貴重な展示となっている。これには子供たちも大盛り上がり。でも、中はとっても暗いので、怖がる子も。

なかは真っ暗。ここで暮らしていたんですね。なかは真っ暗。ここで暮らしていたんですね。
森の中には大小さまざまな窪地があり、それぞれが家の跡だという。エリアごとに、窪地の形も異なり、ここは四角いから擦文時代、六角形だからオホーツク文化、というように見分けることができるのだとか。ちょっとした考古学者気分である。

今回は時間が無かったので立ち寄れなかったが、場内には「ところ遺跡の館」として、出土した品々を展示する博物館もある。かなり興味が湧いてきたので、次回はぜひ展示をじっくり見て回りたいところである。

こちらは栄浦第2遺跡。一帯の森のなかにあるたくさんの窪地、全て住居跡なのだとかこちらは栄浦第2遺跡。一帯の森のなかにあるたくさんの窪地、全て住居跡なのだとか
そして、常呂バスターミナルへと戻る途中にも、もう一つの遺跡群へ立ち寄ることに。約60年ほど前に、サロマ湖の東側、オホーツク海に面する砂丘上に広がる林の中で見つかった栄浦第2遺跡だ。今は広葉樹生い茂る原生林となっているが、この一帯からは2000基を超える古代の住居跡が見つかったのだという。

一歩踏み込むとなるほど、確かに住居跡だらけである。そう、ここまでの体験で既に窪地=古代住居跡、という考えがしみ込んでいるため、全ての窪地が竪穴住居に見えるようになっているのだ。その密集度合いはもはや古代の集合住宅である。オホーツク海とサロマ湖にも近い、豊かな森というロケーションは、多くの人々が生活するのに十分な食料を生み出せたのだろう。

そして、今もそれは変わることなく、この常呂町からはホタテや牡蠣といった海産物が全国へと送り出されている。自然が生み出す恵みを源にした、人の営みは古来から連綿と続いているのだ。そして、この先も。今回のショートサイクリングを通して過去、そして未来に思いを馳せるのだった。

広すぎる常呂遺跡と自然、食を自転車で編み上げる サイクリング企画始動

今回レポートしたライドは、これから多くの人に常呂の隠された魅力を知ってもらう企画の一部。冒頭にも述べたが、あまりにも広域に所在する常呂の遺跡群を繋ぎ、巡るためには地形や植生といった自然を自分の脚で体験できる自転車がもってこいということで、遺跡×サイクリングというちょっとアカデミックで知的好奇心を刺激するパッケージの準備が進んでいる。

子どもから大人まで、興味を持って楽しめるように、デジタルマップやオンラインサイコロを用いた常呂遺跡すごろくといったミニゲーム、そして常呂遺跡をより理解できるように、町中に広がる主要スポットには、スマホで読める解説マンガが置かれるなど、様々なコンテンツが準備中。

また、グリーンシーズンだけでなく、冬季はスパイクタイヤを履いたファットバイク、E-ファットバイクを使い、スノーライドを楽しみながら遺跡スポットをめぐるツアーの企画も進行中。その一環として、2月上~中旬ごろにはモニター価格でのレンタファットバイク付きライドツアーも計画されているのだとか。これらの情報は公式ページにて随時更新予定。もちろんシクロワイアード上でもインフォメーションしていく予定だ。興味がある方はぜひ、チェックしてみては?

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