2022/11/08(火) - 18:40
「ラファスーパークロス野辺山」の弟分的イベントして2019年に始まった野辺山グラベルチャレンジが10月29・30日、3年ぶりに開催された。今年は2日間開催とパワーアップし、バイクのレースカテゴリーとツーリングカテゴリーだけでなく、ランのカテゴリーも新たに登場。およそ400人が八ヶ岳山麓のグラベルを満喫した。バイクのレース部門のロングコースに参加したライター・浅野真則の実走レポートを交え、2日間のイベントを2回に分けてお伝えする。
2日間にパワーアップした野辺山グラベルチャレンジ。ランニング部門も新設
野辺山グラベルチャレンジは2019年に初開催された、日本国内のグラベルシーンを語る上で欠かせないイベントのひとつだ。2019年はグラインデューロやセルフディスカバリー王滝のグラベル部門も初開催された日本の“グラベル元年”ともいえる年で、その意味では日本のグラベルシーンを牽引してきたイベントであるとも言える。
当初はラファスーパークロス野辺山の弟分的な位置づけとして、同大会の翌日に1日のみ開催された。3年ぶりの開催となった今年は、ラファスーパークロス野辺山と日程を完全に分け、野辺山グラベルチャレンジのみで2日間の開催となった。
前回はバイクのみのイベントだったが、今回は2日目にラン部門が新設されたこともトピックだ。1日目にグラベルライドを楽しみ、2日目にトレイルランを楽しむこともできるようになった。
バイクは大きくレースとツーリングのカテゴリーに分かれ、それぞれ距離別にロングとショートの部門がある。コースはいずれもラファスーパークロス野辺山の会場でもある滝沢牧場発着で、八ヶ岳南麓の未舗装の林道や公道をつないで走る。
コースプロフィールは、1日目のロングが距離75.7km、獲得標高1940m、未舗装率41% (約30.5km)、ショートが距離59.6km、獲得標高1395m、未舗装率27%(約16.3km)。2日目はロング・ショートとも共通の距離44.8km、獲得標高1229m、未舗装率約61%(27.5km)となっている。獲得票高や未舗装率からも分かるように、全体的に上りと下りが多く、ダート率も高く走りごたえのあるチャレンジングなコースだ。(※ルートは普段開放されていない林道や私有地を含むため、上のマップをトレースしても走ることはできない)
レースとツーリングのカテゴリーでコースは共通だが、レースカテゴリーはコース途中の計測区間のタイムを計測し、2日間の合計タイムで成績を争う。とはいえ、足切り時間にさえ間に合えばタイム計測区間以外はシャカリキになって走る必要はないので、スタートからフィニッシュまで頑張り続ける一般的なレースとは違う。そのためか、全体的にロードレースのようなピリピリとした雰囲気はなく、まるでロングライドイベントのような和やかなムードだ。今年は同じ週末に全国各地でサイクルイベントが開催され、参加者が分散したこともあってこの大会も参加者は400人ほどだったが、この規模感だからこそのアットホームな雰囲気がそう感じさせたのかもしれない。
今回はラン部門が新設され、2日目に開催された。ランのロングは18km、ショートは2kmのコースで、ショートには子どもの参加者もいた
Day1スタート! 寒さは地元の真冬並み
10月だというのに最低気温4℃。標高1400m近い野辺山高原の朝は、温暖なエリアで過ごす僕にはかなり寒かった。天気予報を確認すると、初日の土曜日も2日目の日曜日も晴れで予想最高気温は15℃に届かないようだ。おそらく昼過ぎにはフィニッシュできるであろうこと、この日のコースで最も標高が高い地点で1700m近くあることから、初冬向けの装備で挑むことにした。
招集までの時間も寒い。メイン会場では数カ所でたき火が設置されていたので、その周辺で過ごしたり、少しだけアップしたりして暖をとった。
バイクはキャニオンのグレイル。メインコンポーネントはシマノGRXで、フロントシングルの42T、リアは11-42Tという歯数構成だ。足まわりはタイヤをパナレーサー・グラベルキングSS TLCの700×43Cに変更したが、ホイールは前後で1800gを越えるノーマル。サドルバッグに予備チューブ×2と携帯工具、小さなハンドルバーバッグに携帯ポンプと薄手のウインドブレーカーを入れ、ダブルボトル態勢と極力軽装備にした。ジャージのバックポケットはスマホや補給食ぐらいで極力身軽にした。
午前8時、バイク部門のレースカテゴリーのロングコースの選手が年代ごとにスタート。20歳代、30歳代に続いて、僕が出場する40歳代のクラスもスタートした。
しばらくは下りや平坦基調の舗装路を行く。野辺山を走るのは初めてだが、事前にルートのデータが公開されていて、ナビゲーション機能付きのGPSサイクルコンピューターに転送すればナビを頼りに走ることもできる。しかも、主な交差点や迷いやすいポイントには矢印で進行方向を示す看板やスタッフがいるので安心だ。これなら仮に単独で走ることになってもミスルートの心配はほぼないだろう。
5kmほど進んだあたりの下りで、最強ホビーレーサーの高岡亮寛さん(RX BIKE)がスーッと抜いていった。何人かで後を追って高岡さんと同じパックで最初の上りにさしかかった。上りの中盤で高岡さんが涼しい顔で飛び出していく。ツール・ド・おきなわに向けて順調に仕上がっているようだ。僕は無理せずマイペースを保って最初の上りをクリアした。
ガレガレのダートの下りに洗礼を受ける
スタートから12kmほどで最初のグラベル区間に突入。5kmほどで標高400mほど下るのだが、路面がかなりガレていて、サスペンションなしのグラベルバイクだとかなりハードに感じた。普段ロードバイクにばかり乗っていて、地元のグラベルもここまで荒れたコースはないので、余計にそう感じるのかもしれない。43mm幅のタイヤを履いてきて本当によかった。
今回の最大の目標は無事に帰宅することなので、腰をサドルから浮かせて後ろに引き、ひざを柔らかく使って衝撃を逃がし、路面の衝撃でハンドルから手が離れないように小指と薬指をハンドルにしっかりと引っかけ、適宜ブレーキをかけながら慎重に下った。正直「ガレガレの下りよ、早く終われ!」と思っていたのはここだけの話。グラベル区間が終わり、舗装路が見えたときには、ちょっとホッとした。
まだ序盤だというのにブレーキとハンドルを握っていた手はかなり握力が落ちていて、上腕の後ろ側の筋肉が張っていた。軽くレバーを引くだけでしっかりスピードコントロールができる油圧式ディスクブレーキじゃなかったら、たぶん相当つらいはずだ。油圧式ディスクブレーキがこれほどありがたいと思ったこともない。
さらに舗装路区間のインターバルがあって、ダートのアップダウンが5kmほど続いた。路面はほぼ乾いているが、小石が浮いている路面ではダンシングで走るのは難しく、オンロードでダンシングを多用する僕としてはかなり厳しい。オンロードの調子でうっかりダンシングしようとして後輪を空転させてしまうことが何度かあった。しかも下りはやはりガレガレでコントロールに気を遣う。とはいえ、バイクを降りて押したり担いだりするほどの難所はないので、乗車率は100%だ。
再び舗装路に出たところで、チャプター2ジャパンのマイキーことマイケル・ライスさんやRX高岡さんとパックになった。高岡さんに海外のグラベルとこのコースの印象の違いを聞いてみたら、「アンバウンド・グラベルで走ったアメリカのグラベルはフラットな未舗装路が中心。イタリアの世界選手権はシングルトラックみたいなところもあったけれど、ここまでガレていて神経を使う下りが長く続くことはなかった。野辺山の今日のコースのグラベルは下りがハードですね」とのことだった。その言葉を聞いてちょっと安心したのだった。
初日は2つの計測区間。ここだけは本気で踏む
7kmほどの舗装路のリエゾンを経て、第1計測区間が現れた。コース脇にある「レース計測スタート」の立て看板を通過すると、足首に巻いているICチップによってスタート時間が計測され、「レース計測フィニッシュ」の立て看板を通過するとその通過時間が計測されるようになっている。つまりスタートは自分のいいタイミングでできるのだ。
息を整え、加速しながら計測開始のゲートを通過。距離は1.6kmほどだが、平均勾配が8%近くあり、小石が浮いているのでダンシングが封印されて厳しい。後ろの方からカウベルの音が聞こえてきたと思ったら、だんだん近づいてきてあっという間に抜かされた。後で分かったのだが、同じ40歳代クラスで2位になった大倉壮さんだった。
個人的には、グラベルレースは昨年グラインデューロの前座イベント、マッデューロに出場しただけなので、自分のグラベルの実力はほぼ未知数。表彰に絡めるかどうかも分からないが、計測区間は上り基調なので、全力で走ってもケガをするリスクはほとんどない。できる限り全力で追い込んだ。計測区間のタイムは、手元のサイクルコンピューターのラップで9分30秒弱。速いのかどうかも分からない。
計測区間を過ぎると第1エイドがあった。バナナやチョコレート菓子のほか、「当たり前田」でおなじみの前田製菓の「WAY TO GOハイプロテインクッキー」のいろいろな味があり、試作品のオレンジカカオ味もあった。自然の中で休憩し、補給食をとったことでようやくひと心地付いた。慣れないガレガレのオフロードの下りで緊張していたのだろう。
エイドステーションから先はオフロードの下りだったが、やはりガレている区間が多い。だいぶ慣れてきたが、慎重に下る。
再び12kmほどの舗装路と、4kmほどの上り基調のオフロード、2.5kmほどの上りの舗装路とオンロードとオフロードが交互に現れるリエゾン。最後の舗装路の上りは序盤が結構な急勾配の直登で、見た目のインパクトがすごい。坂の途中で振り返ると、道が一直線に伸びていて、とてもダイナミックな光景が広がっている。信州峠手前で右折したところが第2計測区間のスタート地点だった。
第2計測区間は2.5kmほどで第1計測区間より距離が長いが、平均勾配は7%ほどで少し緩い。少し息を整え、突っ込みすぎないように抑え気味に入ったが、パワーが出ないのに呼吸がかなり苦しい。標高1400mを越える高地を走っているのだから当然だ。それでも最後はペースを上げ、フィニッシュを通過。手元のラップタイムで14分30秒弱だった。今回は終始一人旅だったので、速かったのかも遅かったのかも分からない。でも出し切ったからよしとしよう。
計測区間を終え、フィニッシュまで写真を撮りながらのんびりと
第2計測区間で補給をとってひと心地付いたところで再出発。この日のレースは実質終わったので、あとは制限時間内にフィニッシュ地点に戻ればいい。そう考えたら気が楽だ。
とはいえ、エイドから先は下り基調のオフロードが7.5kmほど続く。路面は全般的にガレていた。ブレーキを握る時間が長いのと、オフロードでバイクをコントロールするためにいつも以上に上半身を酷使しているからか、握力が落ちてきている上、腕の後ろ側の筋肉が疲労しているのが実感できた。オンロードで200km走ってもここまでの疲労はないので、「オフロードの疲労感はオンロードの倍ぐらいある」という俗説にも納得だ。
どれぐらいガレガレの道と格闘したか分からないが、目の前にゲートが現れた。いよいよオフロードが終わる。舗装路に出たら地面からの震動から解放されたことにホッとすると同時に、その安楽さに少し物足りなさを感じるようになっていた。こうしていつの間にかオフロードの魅力にはまっていくのだろうな、と思った。
先ほどまで山の中のオフロードを走っていたからか、広大な畑が広がる先に稜線が横たわる抜けのいい風景が懐かしい。景色のいいところでバイクを止め、写真撮影する余裕も出てきた。野辺山グラベルチャレンジは、レースカテゴリーで出場しても計測区間以外は頑張らなくていいので、きっとこれが本来の楽しみ方なのだ。
時々立ち止まって写真を撮ってはまたゆるゆるとスタートする形で八ヶ岳山麓のサイクリングを楽しみ、スタート地点の滝沢牧場へ。片手を上げながらフィニッシュゲートを越えた。ロングライドイベントともロードレースとも違う達成感があった。
初日を終えて予想外の3位! 2日目に向けてやる気に火が付く
バイクを片付けて着替えてからは仕事モードに切り替え。その間にも続々とライダーが帰ってくる。フィニッシュしてくる選手を撮影したり、ブースを回ったりする。撮影しながら話をうかがうと、「下りのガレ具合がエグかった!」なんて多くの人が興奮気味に語ってくれたが、みんな充実した表情だ。
朝は薄曇りだった天気も晴れてきて、日向では暖かさも感じられるようになってきた。ステージ前のテーブル席では、ご飯を食べたりビールを飲んだりしながらくつろぐ人も多かった。最近はやりの“チルタイム”というのはこういう時間のことを指すのだろうな、と思った。
やがてステージでの出展メーカーのプレゼンが始まり、1日目の成績発表があった。なんと僕も年代別クラスで3位に入っていて、表彰台に立った。最終的な表彰は2日間の総合タイムで行われるので、この日は1日目終了時点で入賞圏内にいる選手の顔ぶれの披露のみ。ちなみに40歳代クラスの1位はRXの高岡さん。2位は第1計測値点で僕をぶち抜いていった大倉さんで、2人は全カテゴリーの総合でも1位と2位を占めていた。2人と僕のタイム差は3分ほどあるので、圧倒的な実力差と言っていい。4位の選手との差は1分半ほど。表彰台に立てるチャンスが出てきて、俄然やる気が出てきた。
今回のレポートも年代別3位入賞で表彰台に立ったら話題性が増えるし、何より自転車ライターとして“グラベルも走れる”と箔がつく。いずれにせよ、2日目もベストを尽くそう。
(後編に続く)
text:Masanori ASANO
photo:Makoto AYANO
2日間にパワーアップした野辺山グラベルチャレンジ。ランニング部門も新設
野辺山グラベルチャレンジは2019年に初開催された、日本国内のグラベルシーンを語る上で欠かせないイベントのひとつだ。2019年はグラインデューロやセルフディスカバリー王滝のグラベル部門も初開催された日本の“グラベル元年”ともいえる年で、その意味では日本のグラベルシーンを牽引してきたイベントであるとも言える。
当初はラファスーパークロス野辺山の弟分的な位置づけとして、同大会の翌日に1日のみ開催された。3年ぶりの開催となった今年は、ラファスーパークロス野辺山と日程を完全に分け、野辺山グラベルチャレンジのみで2日間の開催となった。
前回はバイクのみのイベントだったが、今回は2日目にラン部門が新設されたこともトピックだ。1日目にグラベルライドを楽しみ、2日目にトレイルランを楽しむこともできるようになった。
バイクは大きくレースとツーリングのカテゴリーに分かれ、それぞれ距離別にロングとショートの部門がある。コースはいずれもラファスーパークロス野辺山の会場でもある滝沢牧場発着で、八ヶ岳南麓の未舗装の林道や公道をつないで走る。
コースプロフィールは、1日目のロングが距離75.7km、獲得標高1940m、未舗装率41% (約30.5km)、ショートが距離59.6km、獲得標高1395m、未舗装率27%(約16.3km)。2日目はロング・ショートとも共通の距離44.8km、獲得標高1229m、未舗装率約61%(27.5km)となっている。獲得票高や未舗装率からも分かるように、全体的に上りと下りが多く、ダート率も高く走りごたえのあるチャレンジングなコースだ。(※ルートは普段開放されていない林道や私有地を含むため、上のマップをトレースしても走ることはできない)
レースとツーリングのカテゴリーでコースは共通だが、レースカテゴリーはコース途中の計測区間のタイムを計測し、2日間の合計タイムで成績を争う。とはいえ、足切り時間にさえ間に合えばタイム計測区間以外はシャカリキになって走る必要はないので、スタートからフィニッシュまで頑張り続ける一般的なレースとは違う。そのためか、全体的にロードレースのようなピリピリとした雰囲気はなく、まるでロングライドイベントのような和やかなムードだ。今年は同じ週末に全国各地でサイクルイベントが開催され、参加者が分散したこともあってこの大会も参加者は400人ほどだったが、この規模感だからこそのアットホームな雰囲気がそう感じさせたのかもしれない。
今回はラン部門が新設され、2日目に開催された。ランのロングは18km、ショートは2kmのコースで、ショートには子どもの参加者もいた
Day1スタート! 寒さは地元の真冬並み
10月だというのに最低気温4℃。標高1400m近い野辺山高原の朝は、温暖なエリアで過ごす僕にはかなり寒かった。天気予報を確認すると、初日の土曜日も2日目の日曜日も晴れで予想最高気温は15℃に届かないようだ。おそらく昼過ぎにはフィニッシュできるであろうこと、この日のコースで最も標高が高い地点で1700m近くあることから、初冬向けの装備で挑むことにした。
招集までの時間も寒い。メイン会場では数カ所でたき火が設置されていたので、その周辺で過ごしたり、少しだけアップしたりして暖をとった。
バイクはキャニオンのグレイル。メインコンポーネントはシマノGRXで、フロントシングルの42T、リアは11-42Tという歯数構成だ。足まわりはタイヤをパナレーサー・グラベルキングSS TLCの700×43Cに変更したが、ホイールは前後で1800gを越えるノーマル。サドルバッグに予備チューブ×2と携帯工具、小さなハンドルバーバッグに携帯ポンプと薄手のウインドブレーカーを入れ、ダブルボトル態勢と極力軽装備にした。ジャージのバックポケットはスマホや補給食ぐらいで極力身軽にした。
午前8時、バイク部門のレースカテゴリーのロングコースの選手が年代ごとにスタート。20歳代、30歳代に続いて、僕が出場する40歳代のクラスもスタートした。
しばらくは下りや平坦基調の舗装路を行く。野辺山を走るのは初めてだが、事前にルートのデータが公開されていて、ナビゲーション機能付きのGPSサイクルコンピューターに転送すればナビを頼りに走ることもできる。しかも、主な交差点や迷いやすいポイントには矢印で進行方向を示す看板やスタッフがいるので安心だ。これなら仮に単独で走ることになってもミスルートの心配はほぼないだろう。
5kmほど進んだあたりの下りで、最強ホビーレーサーの高岡亮寛さん(RX BIKE)がスーッと抜いていった。何人かで後を追って高岡さんと同じパックで最初の上りにさしかかった。上りの中盤で高岡さんが涼しい顔で飛び出していく。ツール・ド・おきなわに向けて順調に仕上がっているようだ。僕は無理せずマイペースを保って最初の上りをクリアした。
ガレガレのダートの下りに洗礼を受ける
スタートから12kmほどで最初のグラベル区間に突入。5kmほどで標高400mほど下るのだが、路面がかなりガレていて、サスペンションなしのグラベルバイクだとかなりハードに感じた。普段ロードバイクにばかり乗っていて、地元のグラベルもここまで荒れたコースはないので、余計にそう感じるのかもしれない。43mm幅のタイヤを履いてきて本当によかった。
今回の最大の目標は無事に帰宅することなので、腰をサドルから浮かせて後ろに引き、ひざを柔らかく使って衝撃を逃がし、路面の衝撃でハンドルから手が離れないように小指と薬指をハンドルにしっかりと引っかけ、適宜ブレーキをかけながら慎重に下った。正直「ガレガレの下りよ、早く終われ!」と思っていたのはここだけの話。グラベル区間が終わり、舗装路が見えたときには、ちょっとホッとした。
まだ序盤だというのにブレーキとハンドルを握っていた手はかなり握力が落ちていて、上腕の後ろ側の筋肉が張っていた。軽くレバーを引くだけでしっかりスピードコントロールができる油圧式ディスクブレーキじゃなかったら、たぶん相当つらいはずだ。油圧式ディスクブレーキがこれほどありがたいと思ったこともない。
さらに舗装路区間のインターバルがあって、ダートのアップダウンが5kmほど続いた。路面はほぼ乾いているが、小石が浮いている路面ではダンシングで走るのは難しく、オンロードでダンシングを多用する僕としてはかなり厳しい。オンロードの調子でうっかりダンシングしようとして後輪を空転させてしまうことが何度かあった。しかも下りはやはりガレガレでコントロールに気を遣う。とはいえ、バイクを降りて押したり担いだりするほどの難所はないので、乗車率は100%だ。
再び舗装路に出たところで、チャプター2ジャパンのマイキーことマイケル・ライスさんやRX高岡さんとパックになった。高岡さんに海外のグラベルとこのコースの印象の違いを聞いてみたら、「アンバウンド・グラベルで走ったアメリカのグラベルはフラットな未舗装路が中心。イタリアの世界選手権はシングルトラックみたいなところもあったけれど、ここまでガレていて神経を使う下りが長く続くことはなかった。野辺山の今日のコースのグラベルは下りがハードですね」とのことだった。その言葉を聞いてちょっと安心したのだった。
初日は2つの計測区間。ここだけは本気で踏む
7kmほどの舗装路のリエゾンを経て、第1計測区間が現れた。コース脇にある「レース計測スタート」の立て看板を通過すると、足首に巻いているICチップによってスタート時間が計測され、「レース計測フィニッシュ」の立て看板を通過するとその通過時間が計測されるようになっている。つまりスタートは自分のいいタイミングでできるのだ。
息を整え、加速しながら計測開始のゲートを通過。距離は1.6kmほどだが、平均勾配が8%近くあり、小石が浮いているのでダンシングが封印されて厳しい。後ろの方からカウベルの音が聞こえてきたと思ったら、だんだん近づいてきてあっという間に抜かされた。後で分かったのだが、同じ40歳代クラスで2位になった大倉壮さんだった。
個人的には、グラベルレースは昨年グラインデューロの前座イベント、マッデューロに出場しただけなので、自分のグラベルの実力はほぼ未知数。表彰に絡めるかどうかも分からないが、計測区間は上り基調なので、全力で走ってもケガをするリスクはほとんどない。できる限り全力で追い込んだ。計測区間のタイムは、手元のサイクルコンピューターのラップで9分30秒弱。速いのかどうかも分からない。
計測区間を過ぎると第1エイドがあった。バナナやチョコレート菓子のほか、「当たり前田」でおなじみの前田製菓の「WAY TO GOハイプロテインクッキー」のいろいろな味があり、試作品のオレンジカカオ味もあった。自然の中で休憩し、補給食をとったことでようやくひと心地付いた。慣れないガレガレのオフロードの下りで緊張していたのだろう。
エイドステーションから先はオフロードの下りだったが、やはりガレている区間が多い。だいぶ慣れてきたが、慎重に下る。
再び12kmほどの舗装路と、4kmほどの上り基調のオフロード、2.5kmほどの上りの舗装路とオンロードとオフロードが交互に現れるリエゾン。最後の舗装路の上りは序盤が結構な急勾配の直登で、見た目のインパクトがすごい。坂の途中で振り返ると、道が一直線に伸びていて、とてもダイナミックな光景が広がっている。信州峠手前で右折したところが第2計測区間のスタート地点だった。
第2計測区間は2.5kmほどで第1計測区間より距離が長いが、平均勾配は7%ほどで少し緩い。少し息を整え、突っ込みすぎないように抑え気味に入ったが、パワーが出ないのに呼吸がかなり苦しい。標高1400mを越える高地を走っているのだから当然だ。それでも最後はペースを上げ、フィニッシュを通過。手元のラップタイムで14分30秒弱だった。今回は終始一人旅だったので、速かったのかも遅かったのかも分からない。でも出し切ったからよしとしよう。
計測区間を終え、フィニッシュまで写真を撮りながらのんびりと
第2計測区間で補給をとってひと心地付いたところで再出発。この日のレースは実質終わったので、あとは制限時間内にフィニッシュ地点に戻ればいい。そう考えたら気が楽だ。
とはいえ、エイドから先は下り基調のオフロードが7.5kmほど続く。路面は全般的にガレていた。ブレーキを握る時間が長いのと、オフロードでバイクをコントロールするためにいつも以上に上半身を酷使しているからか、握力が落ちてきている上、腕の後ろ側の筋肉が疲労しているのが実感できた。オンロードで200km走ってもここまでの疲労はないので、「オフロードの疲労感はオンロードの倍ぐらいある」という俗説にも納得だ。
どれぐらいガレガレの道と格闘したか分からないが、目の前にゲートが現れた。いよいよオフロードが終わる。舗装路に出たら地面からの震動から解放されたことにホッとすると同時に、その安楽さに少し物足りなさを感じるようになっていた。こうしていつの間にかオフロードの魅力にはまっていくのだろうな、と思った。
先ほどまで山の中のオフロードを走っていたからか、広大な畑が広がる先に稜線が横たわる抜けのいい風景が懐かしい。景色のいいところでバイクを止め、写真撮影する余裕も出てきた。野辺山グラベルチャレンジは、レースカテゴリーで出場しても計測区間以外は頑張らなくていいので、きっとこれが本来の楽しみ方なのだ。
時々立ち止まって写真を撮ってはまたゆるゆるとスタートする形で八ヶ岳山麓のサイクリングを楽しみ、スタート地点の滝沢牧場へ。片手を上げながらフィニッシュゲートを越えた。ロングライドイベントともロードレースとも違う達成感があった。
初日を終えて予想外の3位! 2日目に向けてやる気に火が付く
バイクを片付けて着替えてからは仕事モードに切り替え。その間にも続々とライダーが帰ってくる。フィニッシュしてくる選手を撮影したり、ブースを回ったりする。撮影しながら話をうかがうと、「下りのガレ具合がエグかった!」なんて多くの人が興奮気味に語ってくれたが、みんな充実した表情だ。
朝は薄曇りだった天気も晴れてきて、日向では暖かさも感じられるようになってきた。ステージ前のテーブル席では、ご飯を食べたりビールを飲んだりしながらくつろぐ人も多かった。最近はやりの“チルタイム”というのはこういう時間のことを指すのだろうな、と思った。
やがてステージでの出展メーカーのプレゼンが始まり、1日目の成績発表があった。なんと僕も年代別クラスで3位に入っていて、表彰台に立った。最終的な表彰は2日間の総合タイムで行われるので、この日は1日目終了時点で入賞圏内にいる選手の顔ぶれの披露のみ。ちなみに40歳代クラスの1位はRXの高岡さん。2位は第1計測値点で僕をぶち抜いていった大倉さんで、2人は全カテゴリーの総合でも1位と2位を占めていた。2人と僕のタイム差は3分ほどあるので、圧倒的な実力差と言っていい。4位の選手との差は1分半ほど。表彰台に立てるチャンスが出てきて、俄然やる気が出てきた。
今回のレポートも年代別3位入賞で表彰台に立ったら話題性が増えるし、何より自転車ライターとして“グラベルも走れる”と箔がつく。いずれにせよ、2日目もベストを尽くそう。
(後編に続く)
text:Masanori ASANO
photo:Makoto AYANO
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