2022/10/22(土) - 12:04
山梨県南アルプス市を舞台に開催された「サイクルアドベンチャーフェスin南アルプス」。普段は自転車で通行できない夜叉神ゲートを越え、白峰三山のお膝元「広河原」にて山梨グルメと様々なアクティビティを楽しんだ1日をレポート。
自然と人間社会の共生を目的として1976年に開始されたユネスコエコパーク。日本で登録されている9地域のうちの一つが、長野、静岡、そして山梨に跨る「南アルプスユネスコエコパーク」だ。
たとえ二番手であっても価値があることを教えてくれる象徴的な存在として、ここ数年で登山家以外にも一気に知名度を増した、日本で2番目に高い山「北岳」をはじめ多くの山々が連なる南アルプス山脈、そしてその山々から流れ出る河川と深い森。そして、カモシカやライチョウ、ヤマトイワナなどに代表される豊かな生態系が広がっている。
そんな自然豊かな一帯への玄関口となるのが、山梨県の南アルプス市だ。中央道甲府昭和ICから西へ車を走らせ30分ほどで、週末には南アルプスを目指す登山家たちが集う芦安エリアにたどり着く。
一方で、登山客以外にはあまり知られてこなかったのがこのエリアでもある。マイカー規制が敷かれ、峠の向こう側へと抜けられるわけでもないという地理的要因も相まって、知る人ぞ知る秘境として保たれてきた。
今回、そんな南アルプスの魅力を他のアクティビティを通して伝えていこうという試みが山梨県版スポーツコミッションである「やまなしスポーツエンジン」主導の下、始まった。サイクルアドベンチャーフェスin南アルプスはその第一弾となるイベントで、普段走れない林道を自転車で走り、その先の広河原にて自然を体感できるアクティビティを楽しもうという企画だ。
初回となる今年はプレイベントという位置づけで、地元の関係者やメディアに向けたクローズドなイベントとして開催。それでも100名を超える参加者が集まり、このエリアの注目度の高さを感じさせた。
オープニングセレモニーでは、長崎幸太郎山梨県知事が直々に挨拶。この事業、そしてやまなしスポーツエンジンにかける意気込みを窺わせた。そして、新たに誕生した「やまなしサイクルツアーガイド」の認定式も開催。JCGAのカリキュラムの下、しっかりスキルを身に着けたツアーガイドの存在は、地域の魅力を伝えるために心強い存在となるだろう。もちろん今回のイベントでも各グループの先導などを担ってくれる。
さて、それではいよいよお待ちかねのスタートだ。今回のコースは、目的地となる広河原まで、約20km、1,000mアップというヒルクライム。さらに、事前情報ではかなりの悪路で太めのタイヤが推奨されるとのこともあり、グラベルモデルやMTBモデルのE-BIKEの姿が目立った。
かくいう私もトレックのE-MTBであるRAILで参加。しかも到着後にアクティビティがあるため歩きやすい靴が必要とのことで、フラットペダルでの参加である。ちなみに荷物の搬送車があったので、ビンディングで登り、広河原で履き替える、ということも可能なのだが、あえてゆる~い雰囲気を味わってみよう、という魂胆だ。
スタートしてすぐさまかなりの斜度の登坂が始まるが、実際のところE-BIKE組は楽しく登れるくらいの斜度である。もちろんフラットペダルで不満を感じるようなことも無い。なお、20km程度ということもわかっているので、最初から出し惜しみはせずにTURBOモードである(笑)。
荒めの息使いのノーマルバイクの方々をしり目に、ずんずんと標高を稼いでいく。直登区間が終われば、絵に描いたような美しい林間の九十九折れ区間へ。変化に富んだ上り坂は、実際のところ登りをこよなく愛するヒルクライマーにとっても心躍る道行きだろう。
そうしていると、見えてくるのが夜叉神峠。登山家たちはこの駐車場にマイカーを停め、広河原へバスや乗り合いタクシーを利用して向かっていく。普段は閉ざされているゲートだが、この日この時はサイクリストのために開け放たれた。
ここからは地元サイクリストも未体験ゾーンだという。ワクワクしながら登っていくと、早速現れたのが夜叉神トンネル。入口からは出口が見えないほどの長大トンネルで、ところどころ地下水が染み出してきており、水たまりになっている箇所もある。照明もほぼ無いので、明るめのライトは必須だ。
先の見えづらい漆黒の空間を5分ほど走り続けたら、山向こうの白鳳渓谷エリアへ出ることに。ここから先はアップダウンを織り交ぜながら緩やかに標高を上げていくような区間となっている。視界が開ける箇所も多く、向かう先には白峰三山の姿も見える。冷え込みつつある空気に押されるように、だんだんと色づき始めた山々の姿は、ここまで登ってきたからこそ見れる風景だ。
道中にはいくつも細い滝があり、ついつい立ち止まってしまいたくなる。この日は交通規制されており、対向車を気にすることなく走れるのも楽しさを倍増させる。あちこちで、「綺麗ですねー!」という声が聞こえてくる。真っ青な空の下、心地よい風を感じつつ景色を堪能するこの瞬間は、贅沢と呼ぶにふさわしい。
そして、目的地である「広河原」に到着。近年建て替わったという「広河原山荘」、そしてその付近にはテント場とされており、北岳へと挑む登山家たちのベースとなる場所だ。
今回は、そんな広河原の一角をお借りして、私たちのために特別な空間が設えられていた。DJによる広河原の空気になじむ選曲のなか、まずは腹ごしらえ。テントの中に並べられていたのは、山梨が誇るグルメの数々。
甲州豚やワインビーフの厚切り串焼きをはじめ、地元の名店がポップアップし、カレーやミネストローネ、ブランド鱒「富士之介」の燻製、そしてシャインマスカットがたっぷり乗ったタルトなどスイーツも充実。しかもなんと食べ放題と、いくらなんでもおもてなしの度が過ぎる大盤振る舞いだ。
ちなみに私は欲をかいて豚&牛串を頂いたら、これがなかなかのボリューム。危うく完食失敗するところで、この日一番のキツかったシーンであったが、ただ食い意地の張った自分の自業自得である。
さて、一息ついたところで、各アクティビティが待っている。事前に、「テントサウナ」、「ヒーリングヨガ」、「ヒーリングトレイル」という3つから参加したいものを1つ選ぶ方式に。
テントサウナには興味津々だったが、写真が撮りづらそうというなんとも世知辛い理由で第2希望に、ヨガは最近肩が上がらなくなってきているので、万が一筋を痛める可能性があるということで第3希望に。せっかくなので、森林浴で癒されようということで「ヒーリングトレイル」をチョイスした。
ヒーリングトレイルは、旧広河原山荘の近くに巡らされた遊歩道を行く30分程度のトレイルハイク。ガイドの方に、自生する木々の特徴やそのアロマが持つリラックス効果などを教えてもらったのち、森の片隅で深呼吸タイム。しっかり森の空気を体に取り込みつつ、ゆったりペースでランチ会場へと戻るのであった。
ちなみに、テントサウナではすぐ脇を流れる野呂川から引いた水風呂も用意され、しっかり「ととのう」ことも出来たよう。サウナ体験者は、なんだかツヤツヤしていて一目でわかるのが面白い(笑)。
山梨グルメとアクティビティをひとしきり楽しんだら、あとは来た道を下っていく。道は荒れ気味なので、余裕のあるライン取りで下るが吉。下り切ったら、なんとお土産まで用意されていたのだから驚きだ。
「オリンピックのロードレースが通ったこともあり、山梨では自転車にこれまでになく注目が集まっているんです」とは、今回の企画を主導したやまなしスポーツエンジンの加賀美さん。「これまで、登山する方にしか知られていなかったような場所も、違った分野の方に注目されれば、また違った魅力が発見できるのではないか、と思っています」と語ってくれた。
実際、私自身はもちろん、他の参加者も終始笑顔が絶えない1日だった。初対面の方とも、すぐに打ち解けられるような空気感は、決して共通の趣味があるというだけではない、この南アルプスの雄大な自然、美しい景色、澄んだ空気が、人と人の距離感を溶かしてくれたのだと思う。
今回は、プレイベントということで関係者などに限定した開催となったが、このコースの醍醐味はぜひ、みなさんにも味わってほしいところだ。「イベントなのか、ガイドツアーなのか。どういった形になるかはまだわかりませんが、今回のプレイベントのフィードバックを踏まえつつ、皆さんにも体験していただく機会を設けたいと考えています」と加賀美さん。
このロケーションを自分たちだけの体験で終わらせるにはもったいない、近い将来、きっとみんなで走れる日が来ると信じて、筆をおくことにするとしよう。
text&photo:Naoki Yasuoka
自然と人間社会の共生を目的として1976年に開始されたユネスコエコパーク。日本で登録されている9地域のうちの一つが、長野、静岡、そして山梨に跨る「南アルプスユネスコエコパーク」だ。
たとえ二番手であっても価値があることを教えてくれる象徴的な存在として、ここ数年で登山家以外にも一気に知名度を増した、日本で2番目に高い山「北岳」をはじめ多くの山々が連なる南アルプス山脈、そしてその山々から流れ出る河川と深い森。そして、カモシカやライチョウ、ヤマトイワナなどに代表される豊かな生態系が広がっている。
そんな自然豊かな一帯への玄関口となるのが、山梨県の南アルプス市だ。中央道甲府昭和ICから西へ車を走らせ30分ほどで、週末には南アルプスを目指す登山家たちが集う芦安エリアにたどり着く。
一方で、登山客以外にはあまり知られてこなかったのがこのエリアでもある。マイカー規制が敷かれ、峠の向こう側へと抜けられるわけでもないという地理的要因も相まって、知る人ぞ知る秘境として保たれてきた。
今回、そんな南アルプスの魅力を他のアクティビティを通して伝えていこうという試みが山梨県版スポーツコミッションである「やまなしスポーツエンジン」主導の下、始まった。サイクルアドベンチャーフェスin南アルプスはその第一弾となるイベントで、普段走れない林道を自転車で走り、その先の広河原にて自然を体感できるアクティビティを楽しもうという企画だ。
初回となる今年はプレイベントという位置づけで、地元の関係者やメディアに向けたクローズドなイベントとして開催。それでも100名を超える参加者が集まり、このエリアの注目度の高さを感じさせた。
オープニングセレモニーでは、長崎幸太郎山梨県知事が直々に挨拶。この事業、そしてやまなしスポーツエンジンにかける意気込みを窺わせた。そして、新たに誕生した「やまなしサイクルツアーガイド」の認定式も開催。JCGAのカリキュラムの下、しっかりスキルを身に着けたツアーガイドの存在は、地域の魅力を伝えるために心強い存在となるだろう。もちろん今回のイベントでも各グループの先導などを担ってくれる。
さて、それではいよいよお待ちかねのスタートだ。今回のコースは、目的地となる広河原まで、約20km、1,000mアップというヒルクライム。さらに、事前情報ではかなりの悪路で太めのタイヤが推奨されるとのこともあり、グラベルモデルやMTBモデルのE-BIKEの姿が目立った。
かくいう私もトレックのE-MTBであるRAILで参加。しかも到着後にアクティビティがあるため歩きやすい靴が必要とのことで、フラットペダルでの参加である。ちなみに荷物の搬送車があったので、ビンディングで登り、広河原で履き替える、ということも可能なのだが、あえてゆる~い雰囲気を味わってみよう、という魂胆だ。
スタートしてすぐさまかなりの斜度の登坂が始まるが、実際のところE-BIKE組は楽しく登れるくらいの斜度である。もちろんフラットペダルで不満を感じるようなことも無い。なお、20km程度ということもわかっているので、最初から出し惜しみはせずにTURBOモードである(笑)。
荒めの息使いのノーマルバイクの方々をしり目に、ずんずんと標高を稼いでいく。直登区間が終われば、絵に描いたような美しい林間の九十九折れ区間へ。変化に富んだ上り坂は、実際のところ登りをこよなく愛するヒルクライマーにとっても心躍る道行きだろう。
そうしていると、見えてくるのが夜叉神峠。登山家たちはこの駐車場にマイカーを停め、広河原へバスや乗り合いタクシーを利用して向かっていく。普段は閉ざされているゲートだが、この日この時はサイクリストのために開け放たれた。
ここからは地元サイクリストも未体験ゾーンだという。ワクワクしながら登っていくと、早速現れたのが夜叉神トンネル。入口からは出口が見えないほどの長大トンネルで、ところどころ地下水が染み出してきており、水たまりになっている箇所もある。照明もほぼ無いので、明るめのライトは必須だ。
先の見えづらい漆黒の空間を5分ほど走り続けたら、山向こうの白鳳渓谷エリアへ出ることに。ここから先はアップダウンを織り交ぜながら緩やかに標高を上げていくような区間となっている。視界が開ける箇所も多く、向かう先には白峰三山の姿も見える。冷え込みつつある空気に押されるように、だんだんと色づき始めた山々の姿は、ここまで登ってきたからこそ見れる風景だ。
道中にはいくつも細い滝があり、ついつい立ち止まってしまいたくなる。この日は交通規制されており、対向車を気にすることなく走れるのも楽しさを倍増させる。あちこちで、「綺麗ですねー!」という声が聞こえてくる。真っ青な空の下、心地よい風を感じつつ景色を堪能するこの瞬間は、贅沢と呼ぶにふさわしい。
そして、目的地である「広河原」に到着。近年建て替わったという「広河原山荘」、そしてその付近にはテント場とされており、北岳へと挑む登山家たちのベースとなる場所だ。
今回は、そんな広河原の一角をお借りして、私たちのために特別な空間が設えられていた。DJによる広河原の空気になじむ選曲のなか、まずは腹ごしらえ。テントの中に並べられていたのは、山梨が誇るグルメの数々。
甲州豚やワインビーフの厚切り串焼きをはじめ、地元の名店がポップアップし、カレーやミネストローネ、ブランド鱒「富士之介」の燻製、そしてシャインマスカットがたっぷり乗ったタルトなどスイーツも充実。しかもなんと食べ放題と、いくらなんでもおもてなしの度が過ぎる大盤振る舞いだ。
ちなみに私は欲をかいて豚&牛串を頂いたら、これがなかなかのボリューム。危うく完食失敗するところで、この日一番のキツかったシーンであったが、ただ食い意地の張った自分の自業自得である。
さて、一息ついたところで、各アクティビティが待っている。事前に、「テントサウナ」、「ヒーリングヨガ」、「ヒーリングトレイル」という3つから参加したいものを1つ選ぶ方式に。
テントサウナには興味津々だったが、写真が撮りづらそうというなんとも世知辛い理由で第2希望に、ヨガは最近肩が上がらなくなってきているので、万が一筋を痛める可能性があるということで第3希望に。せっかくなので、森林浴で癒されようということで「ヒーリングトレイル」をチョイスした。
ヒーリングトレイルは、旧広河原山荘の近くに巡らされた遊歩道を行く30分程度のトレイルハイク。ガイドの方に、自生する木々の特徴やそのアロマが持つリラックス効果などを教えてもらったのち、森の片隅で深呼吸タイム。しっかり森の空気を体に取り込みつつ、ゆったりペースでランチ会場へと戻るのであった。
ちなみに、テントサウナではすぐ脇を流れる野呂川から引いた水風呂も用意され、しっかり「ととのう」ことも出来たよう。サウナ体験者は、なんだかツヤツヤしていて一目でわかるのが面白い(笑)。
山梨グルメとアクティビティをひとしきり楽しんだら、あとは来た道を下っていく。道は荒れ気味なので、余裕のあるライン取りで下るが吉。下り切ったら、なんとお土産まで用意されていたのだから驚きだ。
「オリンピックのロードレースが通ったこともあり、山梨では自転車にこれまでになく注目が集まっているんです」とは、今回の企画を主導したやまなしスポーツエンジンの加賀美さん。「これまで、登山する方にしか知られていなかったような場所も、違った分野の方に注目されれば、また違った魅力が発見できるのではないか、と思っています」と語ってくれた。
実際、私自身はもちろん、他の参加者も終始笑顔が絶えない1日だった。初対面の方とも、すぐに打ち解けられるような空気感は、決して共通の趣味があるというだけではない、この南アルプスの雄大な自然、美しい景色、澄んだ空気が、人と人の距離感を溶かしてくれたのだと思う。
今回は、プレイベントということで関係者などに限定した開催となったが、このコースの醍醐味はぜひ、みなさんにも味わってほしいところだ。「イベントなのか、ガイドツアーなのか。どういった形になるかはまだわかりませんが、今回のプレイベントのフィードバックを踏まえつつ、皆さんにも体験していただく機会を設けたいと考えています」と加賀美さん。
このロケーションを自分たちだけの体験で終わらせるにはもったいない、近い将来、きっとみんなで走れる日が来ると信じて、筆をおくことにするとしよう。
text&photo:Naoki Yasuoka
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